第3節 持続可能な社会の姿


1 持続可能なまちづくり

ここまで持続可能な社会づくりに向けた取組を紹介してきましたが、ここではこのような取組を含む持続可能なまちの姿を分かりやすく示すことにします(図2-3-1)。

図2-3-1	持続可能なまちの姿

中心市街地では、お城や宿場町が歴史的まちなみとして保存され、ここをまちの中心として路面電車が整備されており、駅などの主要地点ごとに自転車の貸出が行われています。また、住宅地などの周辺部にはコミュニティバスが運行され、鉄道との相互の乗り継ぎもスムーズに行われるなど、高齢者でも歩いて暮らせるまちづくりが実現しています。
また、住宅地域に目を移すと、ここでは地域の木材を利用した低層の家が景観に配慮して建ち並び、太陽光発電など新エネ・省エネルギー設備が導入されています。また、住宅地域がコンパクトにまとまることにより地域冷暖房施設が配備され、効率的なエネルギー供給が行われています。室内では、家族が団らんしてコミュニケーションが取られ、また、電力消費の少ない省エネ家電が導入されるなど、省エネで快適な生活が営まれています。
このような都市部には緑があふれ、大規模な緑地が各地に整備され、河川などの水辺が人々の憩いの場となり、地域に潤いと涼しさを提供しています。また、都市内の建築物の配置は工夫され、緑や水辺からの涼しい風をうまく取り込むことで、汚染物質が拡散され、適度な熱環境が保たれています。
一方、里地里山地域に目を転じると、地域の様々な主体の創造力を活かしながら、棚田や二次林などの環境が大切に守られており、環境保全型農業や適切な森林整備・保全とともに農林産物の地産地消が行われるなど、人と自然との共生が図られています。野生鳥獣も奥山の豊かな自然環境に生息し、また自然資源としても活用がなされています。さらに、バイオマスや風力、水力など地の利を生かした地域自立型のエネルギー供給も実現しています。
このような取組の結果、都市と里地里山地域は食・住の地産地消といった物の交流だけでなく、エコツーリズムなど人の交流も増えており、地域のコミュニティも活性化しています。また、経験豊富な高齢者による若者への環境教育や、発展途上国への技術協力など、世代や海を超えた交流も盛んになっています。

2 持続可能な社会づくりのために必要なこと

以上のような持続可能なまち、持続可能な社会は、決して簡単に構築されるものではなく、現段階では構想に過ぎません。この実現のために社会の仕組みを改め、同時に、私たちのライフスタイルを変えていかなければなりませんが、多様な取組がうまく組み合わさり、互いに支え合い強め合えば、急速に具体化されていく可能性があります。そして、行政をはじめとした各主体の果たすべき役割はますます大きいものとなってきます。
今後、持続可能な社会づくりのためには、
1)将来の環境の状況を予測し、それに対応するための社会の姿を示した上で、バックキャスティングの考えに基づき、今どのような取組を行っていく必要があるかをビジョンとして提示すること、
2) さらに、さまざまな取組がどのような影響を及ぼすのかを総合的に評価し、あるべき社会の取組の方法を提示すること、
3) そして、持続可能なライフスタイルの実現のため、環境にプラスの効果がある取組や製品などを積極的に評価し、それらが進んで取り入れられるため、インセンティブを与える仕組みを構築していくこと
が求められます。
例えば、東京大学では、東京から排出される温室効果ガスを半分に削減することを目標に技術的な可能性を追求した「THPプロジェクト (Tokyo Half Project)」が実施され、家庭における省エネルギー設計などの建築、太陽電池などの分散エネルギー供給、ロードプライシングなどの交通、そして都市構造の変化などの各取組を連携して導入した場合の都市全体の効果について、対策相互の相殺効果や電力供給との相互作用を考慮に入れた評価を行っています。
また、環境省では、製品の製造・流通から廃棄に至る各ライフサイクルにおける環境評価の検討を実施しており、各ライフサイクルでの環境負荷削減の情報を提供することにより、企業においてはより環境負荷の少ない製品の開発を行い、また、消費者においてはより環境負荷の少ない製品やサービスの選択できるよう取組を進めています。
さらに、(独)国立環境研究所とも連携して、2050年までに脱温暖化を実現するための将来予測とバックキャスティングに基づいた対策を検討する「脱温暖化2050プロジェクト」を実施しており、また、同じく2050年といった超長期の将来展望やそれを踏まえた現在から超長期にわたる対応策やライフスタイルや社会システムの見直しのあり方を明らかにすることを目指した「環境政策の超長期ビジョン」の検討を開始しました。
持続可能な社会のためのさまざまな取組を促進し、その効果を最大化するためには、以上のような長期的視野に立った政策をさらに進めていくことが重要です。


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