第7節 野生生物の保護管理


1 絶滅のおそれのある野生動植物の保全

(1)レッドリスト・レッドデータブックの作成
 絶滅のおそれのある野生動植物について、各分類群についてそれぞれレッドリストを公表し、これに基づき平成17年1月までに、「爬虫類・両生類」、「植物I(維管束植物)」、「植物II(維管束植物以外)」、「哺乳類」、「鳥類」及び「汽水・淡水魚類」について、改訂版レッドデータブックを公表しました。また、これらのレッドリストを見直すための検討を行っています。

(2)絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律に基づく取組
 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号。以下「種の保存法」という。)では、日本に生息・生育する絶滅のおそれのある種を国内希少野生動植物種に、また、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(以下「ワシントン条約」という。)及び二国間の渡り鳥等保護条約等に基づき国際的に協力して保存を図るべき絶滅のおそれのある種を国際希少野生動植物種に指定し、個体や器官・加工品の譲渡し等を規制しています。国内希少野生動植物種については、譲渡し等の規制のほか、捕獲の規制や必要に応じ、その生息・生育地を生息地等保護区として指定し、各種の行為を規制しています。また、個体の繁殖の促進や生息・生育環境の整備等を内容とする保護増殖事業計画を策定し、保護増殖のための事業を推進することとしています。
 平成16年度末現在、国内希少野生動植物種として、哺乳類4種、鳥類39種、爬虫類1種、両生類1種、汽水・淡水魚類4種、昆虫類5種、植物19種の計73種を指定しており、国際希少野生動植物種として、約650分類群を指定しています。また、8か所の生息地等保護区を指定しており、保護区内の国内希少野生動植物の生息・生育状況調査、巡視等を行いました。
 保護増殖事業計画については、ツシマヤマネコ、シマフクロウ等34の計画が策定されています。平成16年度は、ヤンバルクイナ、アマミノクロウサギ、及び小笠原諸島に生育する希少植物など合計13種について、保護増殖事業計画を策定しました。また、絶滅のおそれのある野生動植物の保護増殖事業や調査研究、普及啓発を推進するための拠点となる野生生物保護センターが、16年度末現在8か所に設置されています。主な事業、調査等は表6-7-1のとおりです。


表6-7-1 保護増殖事業等の概要


 日本でのコウノトリの最後の繁殖地があった豊岡市では,兵庫県と文化庁が中心となり、兵庫県立コウノトリの郷公園で野生復帰に向けた事業を取り組んでいます。コウノトリの郷公園では、平成17年度から試験放鳥を開始する計画で、野生での生活に必要な能力を高めるための飼育個体への馴化訓練、生息地となる周辺環境の整備等について、地域住民等と連携して実施しています。

(3)猛禽類保護への対応
 絶滅のおそれがある猛禽類のうち、イヌワシ、クマタカ及びオオタカについて、生息状況のモニタリング、好適な生息環境の創出のための実証モデル調査等を実施しました。また、これまでの調査で得られた知見の取りまとめを行い、全国の推定個体数(イヌワシでは400〜650羽、クマタカでは最低でも1,800羽)や全国分布等を公表しました。

(4)海棲動物の保護と管理
 北海道沿岸に回遊又は生息するアザラシ類については、地元関係者等の協力を得つつ、生息状況や漁業被害等について調査を実施しました。
 平成15年度に引き続き、沖縄本島周辺海域に生息するジュゴンの全般的な保護方策を検討するため、ジュゴンや海草藻場の分布等を調査しました。また、ジュゴンのレスキュー技術の確立と普及に関する調査を行いました。

2 野生鳥獣の保護管理

(1)鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律の施行
 改正された鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号。以下「鳥獣保護法」という。)が平成15年4月に施行されました。この改正では、鳥獣の保護を通じた生物多様性の確保の方向性が示されたほか、鳥獣の保護に支障を及ぼすおそれのある猟法による鳥獣の捕獲について、区域を定めて規制する「指定猟法禁止区域」制度の導入や、狩猟等に使用される鉛製銃弾による鳥獣の鉛中毒の防止等を図るために捕獲した山野への鳥獣の放置を禁止する規定等が新たに盛り込まれています。

(2)鳥獣保護事業及び鳥獣に関する調査研究等の推進
 長期的ビジョンに立った鳥獣の科学的・計画的な保護管理を促し、鳥獣保護行政の全般的ガイドラインとしてより詳細かつ具体的な内容とした鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針(平成15年4月16日〜19年3月31日)に基づき、鳥獣保護区の指定、有害鳥獣捕獲及びその体制の整備、違法捕獲の防止等の対策を総合的に推進しました。
 また、渡り鳥の生息状況等に関する調査として、「鳥類観測ステーション」における鳥類標識調査、ガンカモ科鳥類の生息調査、シギ・チドリ類の定点調査等を実施しました。
 また、野生生物保護についての普及啓発を推進するため、愛鳥週間行事の一環として山口県において第58回「全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、野生生物保護の実践活動を発表する「全国野生生物保護実績発表大会」等を開催しました。

(3)適正な狩猟と鳥獣管理
 狩猟者人口は、昭和45年度の約53万人が平成13年度には約21万人にまで減少しており、しかも高齢化がかなり進んでいるため、有害鳥獣の捕獲に当たる従事者の確保が困難な地域も見受けられます(表6-7-2)。


表6-7-2 狩猟免状の交付及び狩猟による鳥獣の捕獲数


 適正な管理下での狩猟は、鳥獣を適正な生息数にコントロールする手段として一定の役割を果たすことから、都道府県及び関係狩猟者団体に対し、事故及び違法行為の防止を徹底し、適正な狩猟を推進するための助言をしました。
 なお、管理された狩猟や狩猟を行い得る場を指定している猟区は、放鳥獣などにより積極的に狩猟鳥獣の保護繁殖を図る一方で、入猟日、入猟者数等を制限することにより、秩序ある管理された狩猟を実現するための制度です。

(4)農林漁業被害の防止対策
 特定鳥獣保護管理計画の策定及び実施の推進を目的として、「野生鳥獣管理適正化事業」等に要する経費を地方公共団体に補助しました。また、将来にわたる鳥獣管理体制の構築及び担い手の育成を目的として、「野生鳥獣保護管理技術者育成事業」を実施しました。
 鳥獣を適正に管理し、農林業被害を軽減する農林生態系の管理技術の開発等の試験研究、防護柵等の被害防止施設の設置、効果的な被害防止システムの整備等の対策を推進するとともに、新たに農業被害防止に必要な知識の普及を図り、鳥獣との共生にも配慮した多様な森林の整備等を実施しました。
 また、近年、トドによる漁業被害が増大しており、トドの資源に悪影響を及ぼすことなく、被害を防ぐための対策として、被害を受ける定置網の強度強化を促進しました。

(5)鳥獣の生息環境の整備
 国指定藤前干潟鳥獣保護区の周辺において、渡り鳥の渡来地である干潟の保全と環境学習などへの活用のための拠点施設の整備を実施しました。
 渡り鳥の保護対策としては、生息状況調査を実施したほか、出水平野に集中的に飛来するナベヅル、マナヅルについて、その生息環境を改善し、周辺への農業被害を軽減するために遊休地の確保等の事業を実施しました。また、ツル類について、集中して越冬することで生じる伝染病などの発生による種の絶滅の危惧や農業被害を軽減するために、調査を実施し、分散化などについてまとめた報告書に基づき具体策を検討しました。

(6)高病原性鳥インフルエンザ対策
 高病原性鳥インフルエンザと渡り鳥等の野鳥との関係について、渡り鳥を含む野鳥のウイルス保有調査等を実施しました。

3 水産資源の保護管理の推進

 水産資源の保護・管理については、漁業法(昭和24年法律第267号)及び水産資源保護法(昭和26年法律第313号)に基づく採捕制限等の規制や、海洋生物資源の保存及び管理に関する法律(平成8年法律第77号)に基づき、海洋生物資源の採捕量の管理に加え、新たに漁獲努力量に着目した管理を行ったほか、1)保護水面の管理、調査等、2)資源管理型漁業の推進、3)「資源回復計画」の作成・実施、4)魚類の遡上を円滑にした地域用水環境の整備、増殖管理手法の確立、外来魚の駆除等、5)シロナガスクジラ等の生態、資源量、回遊等調査、6)ウミガメ(2種)、鯨類(シロナガスクジラ、ホッキョククジラ、スナメリ)及びジュゴンの原則採捕禁止等、7)混獲防止技術等の開発等を実施しました。

4 外来生物等への対応

(1)外来生物対策
 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号。以下「外来生物法」という。)が平成16年6月に公布され、17年6月1日に施行されました。外来生物法は、特定外来生物の輸入、飼養等を規制するとともに、防除を促進することで生態系、人の生命もしくは身体、農林水産業に係る被害を防止することを目的としています。16年10月には、被害の防止に関する基本構想等を盛り込んだ特定外来生物被害防止基本方針が策定されました。これに基づき、37種類の生物が特定外来生物に選定されるなど、具体的な対策を進めています(表6-7-3)。


表6-7-3 外来生物法に基づく特定外来生物のリスト


 また、鹿児島県の奄美大島、沖縄やんばる地域において希少動物に影響を及ぼしているマングースの排除のための事業、沖縄県の西表島において生態系に影響を及ぼすおそれのあるオオヒキガエルの監視のための事業を進めました。
 河川においては、平成15年6月に、全国の取組事例を「河川における外来種対策の考え方とその事例」として取りまとめ、現地における適正な外来種対策に活用されています。
(2)遺伝子組換え生物対策
 遺伝子組換え生物については、生物の多様性に悪影響を及ぼす可能性が懸念されるため、遺伝子組換え生物の輸出入に関する国際的な枠組みを定めたカルタヘナ議定書が平成12年1月に採択され、15年9月に発効しました。この議定書を締結するための国内制度として、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)を15年6月に公布し、16年2月に全面施行しました。17年3月現在、同法に基づき26件の遺伝子組換え生物の環境中での使用について承認が行われています。また、日本版バイオセーフティクリアリングハウスhttp://www.bch.biodic.go.jp/)を立ち上げ、法律の枠組みや承認された遺伝子組換え生物に関する情報提供などを行っています。


前ページ目次 次ページ