第8節 国土の空間特性・土地利用に応じた施策


1 森林・農地

(1)森林
 森林の多面的機能を持続的に発揮させるため、重視すべき機能に応じた森林の区分である「水土保全林」、「森林と人との共生林」、「資源の循環利用林」ごとに多様な森林づくりを推進しました。また、持続可能な森林経営の推進、地域森林計画の樹立等に必要な基礎資料を得るため、森林資源モニタリング調査を引き続き実施しています。
 森林の保全を図るため、特に公益的機能の発揮が必要な森林を保安林に指定し、伐採等の規制を行うとともに、山地災害の防止を図るため荒廃地等の復旧整備を行う治山事業の実施と、松くい虫等の森林病害虫や野生鳥獣に対する各種防除措置等を総合的に実施しました。また、森林の保全管理水準の維持・向上のため、森林保全推進員等による森林パトロールの実施や啓発活動等を推進しました。
 さらに、森林を社会全体で支えるという国民意識の醸成を図るため、森林ボランティア活動等広範な国民による森林づくり活動を支援しました。
 国有林野については、公益的機能の維持増進を旨とする管理経営の方針の下で、林木だけでなく動物相、表土の保全等森林生態系全般に着目した多様な森林整備を行いました。 身近な里山林や都市近郊林については、森林と人との共生林の整備に向けた条件整備や、森林を活用した健康づくりを行う「健康と癒しの森」推進モデル事業を実施しました。

(2)農地
 農業農村整備事業では、原則として調査、計画の段階から環境との調和へ配慮しつつ実施しました。ため池等の周辺において生態系空間(ビオトープ)を保全する事業や生活環境の整備等を生態系の保全に配慮しながら総合的に行う事業等に助成し、農業の有する多面的機能の発揮や魅力ある田園空間の形成を促進しました。農村地域の生物情報の調査・データベース化、農地、水路、樹林等の生息・生育地の生態系ネットワーク化や水路における生き物の環境評価手法の開発を進めました。農業生産活動と調和した自然環境の保全・再生活動の普及・啓発のため、「田園自然再生活動コンクール」を実施しました。
 棚田での農業生産活動により生ずる国土保全、水源かん養等の多面的機能を持続的に発揮していくため、棚田等の保全・利活用を推進したほか、農村の景観や環境を整備、管理していくために、地域住民、地元企業、地方公共団体等が一体となって行う地域の環境改善活動(グラウンドワーク)を推進しました。また、健全で豊かな自然環境の保全・再生と活力ある農業が調和した美しいむらづくりに向け、地域住民や民間団体等による保全活動と連携した生態系保全型の農地、土地改良施設の整備等を進めました。
 農業生産活動に伴う環境負荷の低減と物質循環の促進を図る観点から、持続性の高い農業生産方式の導入の促進に関する法律(平成11年法律第110号)に基づき、たい肥等による土づくりと化学肥料・化学合成農薬の使用低減に一体的に取り組む農業者(エコファーマー)の育成等を図るとともに、平成16年11月の家畜排せつ物法の本格施行を踏まえ、たい肥化施設等に係る補助事業等の拡充、金融・税制上の措置を講じたほか、食品残さ等未利用資源の飼料化施設等の整備に取り組みました。都市部の農地においては、緑地としての機能の維持と都市住民の交流の場としての活用を図るため、市民農園の整備を推進しました。

2 都市・公園緑地・道路

(1)都市公園の整備等
 都市における緑とオープンスペースを確保し、水・緑豊かで美しい都市生活空間等の形成を実現するため、「都市公園整備事業」の推進を図りました。また、都市公園の整備、緑地の保全、民有緑地の公開に必要な施設整備を総合的に支援する「緑地環境整備総合支援事業」を実施しました。がけ崩れ対策では、貴重な緑の空間である斜面環境・景観を保全しつつ安全度を向上するため、既存樹木を活用した緑の斜面工法による斜面整備を推進しました。土砂災害に対する安全性を高め緑豊かな都市環境と景観を創出するため、市街地に隣接する山麓斜面に一連の樹林帯の形成等を実施し、無秩序な市街化の防止や都市周辺に広がる緑のビオトープ空間の創出に寄与しました。

(2)緑地保全等の推進
 都市における緑地の保全及び緑化の推進並びに都市公園の整備を一層推進し、緑豊かで良好な都市環境の形成を図るため、都市緑地保全法を都市緑地法に改正し、平成16年12月に施行されました。同法に基づき緑地保全地区の指定を推進するとともに、地方公共団体等による土地の買入れ等を推進しました。また、首都圏近郊緑地保全法(昭和41年法律第101号)及び近畿圏の保全区域の整備に関する法律(昭和42年法律第103号)に基づき指定された近郊緑地保全区域において、地方公共団体等による土地の買入れ等を推進しました。さらに、風致に富むまちづくり推進の観点から、風致地区指定の推進を図りました。

(3)国民公園及び戦没者墓苑
 千鳥ケ淵戦没者墓苑および旧皇室苑地として広く一般に利用され親しまれている国民公園(皇居外苑、新宿御苑、京都御苑)では、その環境を維持するため、施設の改修、園内の清掃、芝生、樹木の手入れ等を行いました。

(4)緑化推進運動への取組
 緑化推進連絡会議を中心に国土の緑化に関し、全国的な幅広い緑化推進運動の展開を図りました。運動の一層の展開と定着化を図るため、「平成16年度緑化推進運動の実施計画」に基づき、以下のような施策を実施しました。
1) 全国植樹祭等を開催する事業、森林ボランティアなどの森林づくりを促進する事業等に助成し、その普及・啓発を推進しました。また、巨樹・巨木林や里山林等身近な森林・樹木の適切な保全・管理のために必要な技術開発と普及啓発を促進しました。さらに、「みどりの日」、「みどりの週間」を中心に緑化活動等の全国的な展開を推進しました。
2) 都市緑化の推進については、「春季における都市緑化推進運動」期間(4〜6月)、「都市緑化月間」(10月)を中心に、その普及啓発に係る活動を実施しました。

3 河川

(1)河川とダム
 河川やダム湖等における生物の生息・生育状況の調査を行う「河川水辺の国勢調査」を実施し、結果を河川環境データベース(http://www.mlit.go.jp/river/IDC/)として公表しています。また、河川環境に関する専門的知識を有する地域の方々の参加を得て、きめ細かな河川環境の管理に資する「河川環境保全モニター制度」を行いました。また、世界最大規模の実験河川を有する自然共生研究センターにおいて、河川や湖沼の自然環境保全・復元のための研究を行いました。加えて、生態学観点より川のあるべき姿を探るために、河川生態学研究を実施しました。
 地域住民と連携しながら、生物の良好な生息・生育環境を有する自然河川や、乾燥化傾向にある湿地や干潟などの再生を進めました。また、治水上の安全性を確保しつつ多様な河川環境が保全されるように行う「多自然型川づくり」、魚道の設置等により魚類の遡上環境の改善を行う「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」等を実施しました。さらに、「美しい山河を守る災害復旧基本方針」に基づき、河川環境に配慮した災害復旧を実施しました。
 ダム貯水池においては、整地や緑化対策等を行い、ダム湖の活用や親水性の向上を図る「ダム湖活用環境整備事業」を実施するとともに、ダム下流の河川環境の回復を目的とした「ダム水環境改善事業」を実施しました。

(2)砂防設備周辺等
 土砂災害の防止の実施に当たり、生物の良好な生息・生育環境を有する渓流・里山の環境等を保全・再生するため、NPO等と連携した山腹工などにより、自然共生型の砂防事業を推進しました。また、良好な渓流環境の再生や、砂防設備の活用を踏まえた自然環境整備などの砂防事業を展開しました。さらに、山麓斜面が市街地に隣接する都市においては、山麓斜面にグリーンベルトとして一連の樹林帯の形成等を実施し、無秩序な市街化の防止や緑のビオトープ空間の創出に寄与しました。
 がけ崩れ対策においては、貴重な緑の空間である斜面環境・景観を保全しつつ安全度を向上するため、既存樹木を活用した緑の斜面工法による斜面整備や崩壊土砂を捕捉する緩衝樹林帯整備を推進しました。

(3)総合的な土砂災害
 河川環境等の面から、山地部から海岸までの土砂の動きを「流砂系」という概念で捉え、土砂管理上の問題が顕在化している流砂系において、砂防、ダム、河川、海岸の各領域が連携を図り、土砂の量と質に関するモニタリング等の取組を実施しました。

4 海岸・港湾・海洋

(1)港湾及び漁港・漁場における環境の整備
 漁港漁場整備長期計画に基づき、昭和50年代初頭の沿岸域の漁場環境を回復させることを目標として、「水産基盤整備事業」にて藻場・干潟の保全・創造等を行い、資源生産及び生息の場づくりを進めました。加えて、海洋の環境を改善するため漁港区域内の汚泥・ヘドロの除去覆砂等の整備を行う水域環境保全対策等を全国5地区で実施したほか、藻場・干潟の整備保全事業を支援するための地方財政措置を講じました。また、磯焼け海域における藻場の回復のモデル事業を17都道府県で実施しました。
 また、海水交換機能を有する防波堤等の整備、水産動植物の生息、繁殖が可能な護岸等の整備等を総合的に行う「自然調和活用型漁港漁場づくり推進事業」を全国47地区で実施しました。漁村の生活排水対策として漁業集落排水施設整備を全国121地区で実施するとともに、水産資源の回復に資する漁港施設整備について調査を行いました。
 環境と共生する港湾(エコポート)の形成を目標に、水質・底質を改善する汚泥しゅんせつや覆砂、干潟の創出、緑地の整備などを推進しました。平成16年度では、港湾における快適な親水空間を創出するため、横浜港等116港で緑地等を整備、尾道糸崎港等16港で干潟等の整備を行いました。また、歴史的港湾施設の保存、活用を図り周辺環境の整備を一体的に進める「歴史的港湾環境創造事業」や良好な港湾景観の形成を推進する「港湾景観形成モデル事業」を実施しました。なお、13年12月に都市再生プロジェクトとして決定された「臨海部における緑の拠点の形成」に位置付けられた、東京港中央防波堤内側、大阪湾堺臨海部、同尼崎臨海部での大規模緑地について、尼崎臨海部、堺臨海部で緑地の整備を、東京湾で大規模緑地開発に関する調査を行いました。さらに、自然環境の保全と調和を図りつつ快適な環境を創造する観点から、マリーナ等の整備を推進しています。

(2)海岸における環境の整備
 多様な海洋性レクリエーション需要の増大に伴う海浜利用の進展に対処するとともに、快適で潤いのある海岸環境の保全と創出を図るため、砂浜の保全・復元により生物の生育・生息地を確保しつつ、景観上もすぐれた人と海の自然のふれあいの場を整備する「海岸環境整備事業」を平成16年度は、全国176か所において実施しました。


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