第2章
 大気環境の保全(地球規模の大気環境を除く)


 第1節 大気環境の現状

1 酸性雨

(1)問題の概要
 酸性雨により、湖沼や河川の酸性化による魚類等への影響、土壌の酸性化による森林への影響、建造物や文化財への影響等が懸念されています。酸性雨が早くから問題となっている欧米では、酸性雨によると考えられる湖沼の酸性化や森林の衰退等が報告されています。
 酸性雨は、原因物質の発生源から数千kmも離れた地域にも影響を及ぼす性質があり、国境を越えた広域的な現象です。欧米諸国では酸性雨による影響を防止するため、1979年に「長距離越境大気汚染条約」を締結し、関係国が共同で酸性雨のモニタリングを行うとともに、硫黄酸化物、窒素酸化物等の酸性雨原因物質の削減を進めています。また、2002年のヨハネスブルグ・サミットで採択された実施計画においても、国際的、地域的、国家的レベルでの協力の強化が求められています。

(2)酸性雨対策調査結果
 日本では、昭和58年度から平成12年度まで、第1次から第4次にわたる酸性雨対策調査を実施してきました。その結果は、おおむね次のとおりです。
① 全国48か所の酸性雨測定所において、年平均pH4.72~4.90(第4次調査:平成10年度~12年度)と、欧米とほぼ同程度の酸性雨が継続的に観測されている(図2-1-1)。

降水中のpH分布図

② 日本海側で、冬季に硫酸イオン、硝酸イオンの沈着量が増加する傾向が認められ、大陸からの影響が示唆されている。
③ 平成12年8月以降、関東及び中部地方の一部で、三宅島雄山の噴火の影響と考えられる硫酸イオンの沈着量が増加する傾向が見られた。
④ 酸性雨との関連性が明確に示唆される土壌や湖沼の酸性化は生じていないと考えられたが、一部の森林では原因不明の樹木衰退が見られた。
 このように、日本における酸性雨による影響は現時点では明らかになっていませんが、一般に酸性雨による影響は長い期間を経て現れると考えられているため、現在のような酸性雨が今後も降り続ければ、将来、酸性雨による影響が顕在化するおそれがあります。

2 光化学オキシダント

(1)問題の概要
 光化学オキシダントは、工場・事業場や自動車から排出される窒素酸化物(NOx)や揮発性有機化合物(VOC)を主体とする一次汚染物質が太陽光線の照射を受けて光化学反応により二次的に生成されるオゾンなどの総称で、いわゆる光化学スモッグの原因となっている物質です。強い酸化力を持ち、高濃度では眼やのどへの刺激や呼吸器に影響を及ぼし、農作物などにも影響を与えます。

(2)光化学オキシダントによる大気汚染の状況
ア 環境基準の達成状況
 平成14年度の光化学オキシダントの測定局は、一般環境大気測定局(以下「一般局」という。)は663市町村、1,160局で、自動車排出ガス測定局(以下「自排局」という。)は23市町村、29局です。
 光化学オキシダントに係る環境基準(1時間値が0.06ppm以下であること)の達成状況は、極めて低く、一般局と自排局を合わせて、昼間(午前5時~午後8時)に環境基準を達成した測定局及び1時間値の最高値が0.12ppm(光化学オキシダント注意報レベル)未満であった測定局数は、図2-1-2のとおりです。
光化学オキシダント濃度レベル毎の測定局数の推移(一般局と自排局の合計)(平成10年度~平成14年度)

イ 光化学オキシダント注意報等の発令状況等
 平成15年の光化学オキシダント注意報の発令延べ日数(都道府県を一つの単位として注意報等の発令日数を集計したもの)は108日(19都府県)で、14年の184日(23都府県)と比べ、約41%減少しました(図2-1-3)。その発令延日数を月別にみると、8月が最も多く47日、次いで6月が各24日でした。また、光化学大気汚染によると思われる被害届出人数(自覚症状による自主的な届出による。)は254人でした。
 地域ブロック別に注意報の発令延日数をみると、関東ブロック(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都及び神奈川県)で68日となっており、全体の約63%を占めています(図2-1-4)。


注意報等発令延べ日数、被害届出人数の推移(平成6年~平成15年)
平成15年の各都道府県の注意報等発令延べ日数

ウ 非メタン炭化水素の測定結果
 昭和51年8月中央公害対策審議会から「光化学オキシダントの生成防止のための大気中の炭化水素濃度の指針について」が答申され、炭化水素の測定については非メタン炭化水素を測定することとし、光化学オキシダントの環境基準である1時間値の0.06ppmに対応する非メタン炭化水素の濃度は、午前6~9時の3時間平均値が0.20~0.31ppmC(成分ごとに炭素原子数をかけて合算したppm値に相当)の範囲にあるとされています。
 平成14年度の非メタン炭化水素の有効測定局は、249市町村344の一般局と、131市町村185の自排局でした。昭和53年度から継続して測定を行っている6一般局と、52年から継続して測定を行っている8自排局の午前6~9時における年平均値の経年変化は図2-1-5のとおりです。
継続測定局における非メタン炭化水素の午前6~9時における年平均値の経年変化(平成8年度~平成14年度)

3 窒素酸化物

(1)問題の概要
 一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)等の窒素酸化物(NOx)は、主に物の燃焼に伴って発生し、その主な発生源には工場等の固定発生源と自動車等の移動発生源があります。NOxは光化学オキシダント、浮遊粒子状物質、酸性雨の原因物質となり、特にNO2は高濃度で呼吸器を刺激し、好ましくない影響を及ぼすおそれがあります。

(2)二酸化窒素による大気汚染の状況
 平成14年度の二酸化窒素に係る有効測定局(年間測定時間が6,000時間以上の測定局をいう。以下同じ。)は、一般局733市町村1,460測定局、自排局252市町村413測定局です。年平均値の平均値は、一般局0.016ppm、自排局0.029ppmで、図2-1-6に推移を示したとおり一般局はほぼ横這いの傾向が続いており、自排局は緩やかな改善傾向にあります。
 環境基準の達成状況の推移は、図2-1-7のとおりで14年度は、一般局99.1%、自排局83.5%で、前年度と比較すると、一般局で横ばい、自排局で改善傾向が見られました。
二酸化窒素濃度の年平均値の推移(昭和45年度~平成14年度)

二酸化窒素の環境基準達成状況の推移(平成10年度~平成14年度)

 また、平成14年度に環境基準が達成されなかった測定局の分布をみると、一般局については、東京都、神奈川県及び大阪府の3都府県に、自排局については、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、三重県、大阪府及び兵庫県からなる「自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」(平成4年法律第70号。以下「自動車NOx・PM法」という。)の対策地域を有する都府県に加え、京都府、福岡県、長崎県の3府県にも分布しています(図2-1-8)。
 自動車NOx・PM法に基づく対策地域全体における環境基準達成局の割合は、平成10年度から14年度まで43.1~69.3%(自排局)と低い水準で推移しています(図2-1-9)。また、年平均値は近年ほぼ横ばいの状況にあります(図2-1-10)。
対策地域における二酸化窒素の環境基準達成状況の推移(自排局)(平成5年度~平成14年度)

平成14年度二酸化窒素の環境基準達成状況
対策地域における二酸化窒素濃度の年平均値の推移(平成4年度~平成14年度)


4 粒子状物質

(1)問題の概要
 大気中の粒子状物質は「降下ばいじん」と「浮遊粉じん」に大別され、さらに浮遊粉じんは、環境基準の設定されている浮遊粒子状物質とそれ以外に区別されます。浮遊粒子状物質は微小なため大気中に長時間滞留し、肺や気管等に沈着して高濃度で呼吸器に悪影響を及ぼします。浮遊粒子状物質には、発生源から直接大気中に放出される一次粒子と、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)等のガス状物質が大気中で粒子状物質に変化する二次生成粒子があります。一次粒子の発生源には、工場等から排出されるばいじんやディーゼル排気粒子(DEP)等の人為的発生源と、黄砂や土壌の巻き上げ等の自然発生源があります。

(2)浮遊粒子状物質による大気汚染の状況
 平成14年度の浮遊粒子状物質に係る有効測定局数は、一般局731市町村1,538測定局、自排局225市町村359測定局でした。年平均値の平均値は、一般局0.027mg/m3、自排局0.035mg/m3で、図2-1-11に推移を示したとおり前年度に比べて改善し、近年ほぼ横ばいからゆるやかな減少傾向がみられます。
 長期的評価に基づく浮遊粒子状物質に係る環境基準の達成率の推移は図2-1-12のとおりであり、平成14年度は、一般局52.5%、自排局34.3%と前年度に比べていずれも低下しています。環境基準を達成していない測定局は全国42都府県に分布しています。
浮遊粒子状物質濃度の年平均値の推移(昭和49年度~平成14年度)

浮遊粒子状物質の環境基準達成状況の推移(平成10年度~平成14年度)

5 硫黄酸化物

 平成14年度の二酸化硫黄(SO2)に係る有効測定局数は、一般局665市町村1,468測定局、自排局81市町村97測定局でした。年平均値の平均値は、一般局では0.004ppm、自排局では0.005ppmで、図2-1-13に推移を示したとおり近年横ばい傾向にあります。
 長期的評価に基づく二酸化硫黄に係る環境基準の達成率の推移は表2-1-1のとおりで、平成14年度は、一般局99.8%、自排局99.0%と近年良好な状態が続いています。

二酸化硫黄濃度の年平均値の推移(昭和45年度~平成14年度)
二酸化硫黄の環境基準達成状況(長期評価)(平成10年度~平成14年度)

6 一酸化炭素

 平成14年度の一酸化炭素(CO)に係る有効測定局数は、一般局111市町村126測定局、自排局204市町村309測定局でした。年平均値の推移は図2-1-14のとおりであり、一般局0.4ppm、自排局0.7ppmと近年漸減傾向にあります。
 平成14年度においては、前年度に引き続き、一般局、自排局ともすべての測定局において環境基準を達成しています。
一酸化炭素濃度の年平均値の推移(昭和45年度~平成14年度)

7 有害大気汚染物質

 近年、低濃度ながら、多様な化学物質が大気中から検出されていることから、これらの有害大気汚染物質の長期暴露による健康影響が懸念されています。
 平成14年度に環境省及び地方公共団体等が実施した有害大気汚染物質のモニタリング結果によると、環境基準の設定されている物質(ベンゼン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン及びジクロロメタン)に係る測定結果は表2-1-2のとおりでした(ダイオキシン類に係る測定結果については第5章参照)。
有害大気汚染物質のうち環境基準の設定されている物質の調査結果

 また、環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値(指針値)が設定されている物質のうち、ニッケル化合物については、大気環境中濃度が指針値(25ngNi/m3)を超過した測定地点の割合は2.9%で、全測定点での平均濃度は低下傾向でした。また、アクリロニトリル、塩化ビニルモノマー、水銀及びその化合物については、すべての地点で指針値(それぞれ、2μg/m3、10μg/m3、及び40 ngHg/m3)を下回っていました。

8 騒音・振動

 騒音に係る環境基準(平成10年環境庁告示)は、地域の類型及び時間の区分ごとに設定されており、類型指定は、平成14年度末現在、47都道府県の661市、1,030町、113村、23特別区において行われています。また環境基準達成状況の評価は、「個別の住居等が影響を受ける騒音レベルによることを基本」とされ、一般地域(地点)と道路に面する地域(住居等)別に行うこととされています。
 また、航空機・鉄道の騒音・振動については、その特性に応じて、別途環境基準又は指針が設定されています。航空機騒音・新幹線鉄道騒音に係る環境基準については、地域の類型ごとに設定されており、平成15年度末現在で、航空機騒音については33都道府県、63飛行場周辺において、新幹線鉄道騒音については25都府県において類型の指定が行われています。また、新幹線鉄道振動については、「環境保全上緊急を要する新幹線鉄道振動対策について」(昭和51年3月)において、振動対策指針値を70デシベルとしています。

(1)問題の概要
 騒音・振動の苦情件数は、公害に関する苦情件数のうちの多くを占めています。騒音苦情の件数はここ数年徐々に増加しており、平成14年度は15,461件でした(図2-1-15)。発生源別にみると、苦情の総数の4割近くを占める工場・事業場騒音に係る苦情の割合が減少しているのに対して、建設作業騒音に係る苦情が増加しています。また、近年では、低周波音も大きな問題となっています。
 また、振動の苦情件数も、騒音同様徐々に増加する傾向にあり、平成14年度は2,614件でした。発生源別にみると、建設作業振動に対する苦情件数が最も多く、工場・事業場振動に係るものがそれに次いでおり、苦情原因として依然大きな割合を占めています。
騒音・振動・悪臭に係る苦情件数の推移(昭和49年度~平成14年度)

(2)騒音・振動の状況
 平成14年度の一般地域における騒音の環境基準の達成状況は、地域の騒音状況を代表する地点で74.1%、騒音に係る問題を生じやすい地点等で72.5%となっています。
 平成14年度の道路に面する地域における騒音の環境基準の達成状況は、自動車騒音の常時監視結果によると、全国1,934千戸の住居等を対象に行った評価では、昼夜とも環境基準を達成したのは1,549千戸(80.1%)でした(図2-1-16)。このうち、幹線交通を担う道路に近接する空間にある781千戸のうち環境基準を達成した住居等は537千戸(68.7%)でした。

平成14年度自動車騒音に係る環境基準の達成状況

 航空機騒音問題については、民間空港2港及び防衛施設5飛行場において、夜間の発着禁止、損害賠償等を求める訴訟が提起されています。航空機騒音に係る環境基準の達成状況は、全般的に改善の傾向にあるものの、ここ数年は横ばいとなっており、平成13年度においては測定地点の約74%の地点で達成しました(図2-1-17)。
 新幹線鉄道騒音については、平成14年度までに、東海道・山陽新幹線及び東北・上越新幹線沿線については、主に住居地域を中心におおむね75デシベル以下が達成されましたが、一部の地域で75デシベルを達成していない地域が残されています。
 また、平成9年度開業した北陸新幹線高崎・長野間については、測定地点の46%の地点、14年度延伸開業した東北新幹線盛岡・八戸間については、測定地点の78%の地点で環境基準が達成されました。新幹線鉄道振動については、振動対策指針値はおおむね達成されています。
航空機騒音に係る環境基準の達成状況(平成9年度~平成13年度)

9 悪臭

 悪臭苦情の件数は昭和47年度をピークにおおむね減少傾向にありましたが、ここ数年は増加傾向にあります。平成14年度の悪臭苦情件数は23,519件であり、過去最高の苦情件数であった13年度に次ぐ苦情件数となりました(図2-1-15)。発生源別にみると、畜産農業や化学工場など、かつて問題となっていた業種に係る苦情件数は近年横ばいで推移していますが、9年度以降、野外焼却に係る苦情が急激に増加しています。また、サービス業や個人住宅に係る苦情の割合も増加する傾向にあります。

10 その他の大気に係る生活環境の現状

(1)ヒートアイランド現象
 都市部の気温が郊外に比べて高くなるヒートアイランド現象が大都市を中心に起こっています(図2-1-18)。この現象により、夏季においては、熱帯夜の出現日数が増加していることに加え、冷房等による排熱が気温を上昇させることにより、さらなる冷房のためのエネルギー消費が生ずるという悪循環が発生しています。また、夏季の光化学オキシダントや冬季の窒素酸化物(NOx)による大気汚染の助長との関連性も指摘されています。

東京地域の高温域の分布(1981年、1999年)

(2)光害(ひかりがい)
 不適切な夜間照明の使用から生じる光は、人間の諸活動や動植物の生育に悪影響を及ぼすことがあります。また、夜間の屋外照明は安全確保や防犯のために不可欠ですが、過度の屋外照明はエネルギーの浪費であり、地球温暖化の原因にもなります。

 第2節 酸性雨の防止に関する国際的枠組みの下での取組と新たな国際的枠組みづくり

 東アジア地域においては、近年のめざましい経済成長やそれに伴うエネルギー消費の増加により、酸性雨原因物質の排出量が今後さらに増加することが予測されていることから、近い将来、酸性雨による影響が深刻なものとなることが懸念されています。
 このため、東アジア地域における酸性雨の現状やその影響を解明するとともに、酸性雨問題に関する地域の協力体制を確立することを目的として、平成13年1月から、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)が本格稼働を開始しています(図2-2-1)。EANETの参加国は、当初、中国、インドネシア、日本、韓国、マレーシア、モンゴル、フィリピン、ロシア、タイ及びベトナムの10か国でしたが、その後カンボジア、ラオスが新たに参加し、現在の参加国は12か国となっています。

EANET測定地点における年平均pH

 平成15年11月に開催された、EANETに関する第5回政府間会合では、今後のEANET活動の財政基盤の強化の観点から、17年からすべての参加国が自主的な資金貢献を果たすことを目指して、資金分担の目標について合意がなされました。

 第3節 酸性雨・黄砂に係る対策

1 酸性雨対策

 日本では、酸性雨による影響の早期把握、酸性雨原因物質の長距離越境輸送や長期トレンドの把握、また、将来の酸性雨の影響の予測を目的とした、酸性雨長期モニタリングを実施しています。具体的には、酸性雨測定所等における湿性・乾性沈着モニタリング、湖沼等を対象とした陸水モニタリング、土壌・植生モニタリングを行っています。

2 黄砂対策

 近年、中国、モンゴルからの黄砂の飛来が大規模化しており、中国、韓国、日本等でその対策が共通の関心事となっています。従来、黄砂は自然現象と考えられていましたが、近年の現象については、過放牧や耕地の拡大等の人為的な要因も影響しているとの指摘もあります。
 このため、日本における黄砂の飛来実態を把握するための調査を全国8か所で行うとともに、黄砂のモニタリング体制を整備するため、黄砂観測装置(ライダー装置)を富山県内に設置しました。
 また、アジア開発銀行(ADB)及び地球環境ファシリティー(GEF)からの資金支援を受けて、中国、モンゴル、韓国及び日本、さらにはUNEP等の国際機関が共同で、将来的に推進すべき効果的な黄砂対策についての調査研究を行うプロジェクト(ADB-GEF黄砂対策プロジェクト)が、平成15年4月から開始されました。

 第4節 光化学オキシダント対策

1 光化学オキシダント緊急時対策

 全国19か所の地方気象台などにおいて光化学オキシダントの発生しやすい気象条件の解析と予報を行い、地方公共団体に通報するとともに、必要に応じスモッグ気象情報を発表して国民への周知を図っています。地方公共団体では、この情報と大気環境測定局のデータを基に、光化学オキシダント緊急時対策要綱等により注意報等を発令すると同時に、ばい煙排出者に対する大気汚染物質排出量の削減及び自動車使用者に対する自動車の走行の自主的制限を要請するほか、住民に対する広報活動と保健対策を実施しています。
 また、「大気汚染物質広域監視システム(愛称:そらまめ君)」により、都道府県等が測定している全国の大気環境データや光化学オキシダント注意報等発令情報をリアルタイムで収集し、光化学オキシダントによる被害を未然防止するため、これらのデータを広域地図情報等に加工し、インターネット等で一般に公開しています。

2 炭化水素類排出抑制対策

 光化学オキシダントによる大気汚染は、原因物質である窒素酸化物及び揮発性有機化合物(VOC)の排出削減により、その改善が期待できます。自動車から排出される炭化水素については、「大気汚染防止法」(昭和43年法律第97号)に基づく排出ガス規制が昭和48年から実施されており、その後、逐次規制の強化が行われているほか、 VOC排出抑制のため「大気汚染防止法の一部を改正する法律案」を第159回国会に提出しました。

 第5節 大都市圏等への負荷の集積による問題への対策

1 固定発生源対策

(1)ばい煙発生施設
 大気汚染防止法では窒素酸化物、硫黄酸化物、ばいじん等のばい煙を発生する施設について排出規制等を行っています。平成13年度末現在におけるばい煙発生施設の総数は約215千施設で、種類別にみると、ボイラーが137千施設(64%)と最も多く、次いでディーゼル機関が 27千施設(12%)です(図2-5-1)。ばい煙発生施設に対し、平成13年度には、改善命令が4件行われました。
種類別ばい煙発生施設数(平成13年度末現在)

(2)窒素酸化物対策
 大気汚染防止法では、ばい煙発生施設の種類及び規模ごとに排出規制がなされており、昭和48年以降、逐次、排出基準の強化・規制対象の追加等の見直しが行われています。
 さらに、工場・事業場が集合し、施設ごとの排出規制では二酸化窒素に係る環境基準の確保が困難であると認められる地域(本章第1節3(2)参照)においては、都道府県知事が作成する総量削減計画に基づき工場単位で規制する総量規制が実施されています。
 平成11年度における固定発生源からの窒素酸化物総排出量は、年間408百万m3N(837千t)でした(図2-5-2)。これら、固定発生源から排出される窒素酸化物については、低NOx燃焼技術(2段燃焼法、排ガス再循環法、低NOxバーナー等)や排煙脱硝技術等による対策が講じられています。13年度末現在における排煙脱硝装置の設置基数は1,478基、処理能力は376百万m3N/hでした(図2-5-3)。
平成11年度窒素酸化物排出量内訳(固定発生源)

年度別排煙脱硝装置設置状況(昭和47年度~平成13年度)

 また、大気汚染防止法で規定するばい煙発生施設に該当しない業務用小型ボイラー等の小規模燃焼機器についても、特に大都市地域ではこれらから排出される窒素酸化物の量が無視できないことから、優良品推奨水準としての窒素酸化物排出濃度に係るガイドライン値を定め、これに適合する低NOx型燃焼機器の普及に努めています。

(3)粒子状物質対策
 大気汚染防止法では、固定発生源から排出される粒子状物質について、ばいじん粉じんに区別しており、粉じんはさらに一般粉じんと、特定粉じん(石綿)(本章第6節2参照)に分けられています。
 ばいじんについては、ばい煙発生施設の種類及び規模ごとに排出基準が定められており、さらに、施設が密集し、汚染の著しい地域における新増設施設には、より厳しい特別排出基準が定められています。平成11年度における固定発生源からのばいじんの年間総排出量は、75千tでした(図2-5-4)。ばいじん対策としては、適切な燃焼管理や集じん装置の設置等の対策が講じられています。
 一般粉じんを発生する一般粉じん発生施設に対しては、構造、使用及び管理に関する基準が定められています。平成13年度末現在における一般粉じん発生施設の総数は約64千施設で、種類別にみると、コンベアが最も多く37千施設(58%)です(表2-5-1)。


平成11年度ばいじん排出量内訳(固定発生源) 
種類別一般粉じん発生施設数(平成13年度現在)

 浮遊粒子状物質(本章第1節第4参照)は、工場等から排出されるばいじん、自動車から排出される粒子状物質などのほか、工場、自動車等から排出される窒素酸化物、揮発性有機化合物(VOC)等のガス状物質が大気中での光化学反応等によって粒子化するものもあることから、原因物質の排出実態、二次粒子生成機構等を盛り込んだ大気汚染予測モデル等を通じて、環境基準の達成に向けた総合的対策について検討しています。
 平成16年2月には、中央環境審議会において「揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制のあり方について」(意見具申)が取りまとめられ、これを踏まえ、浮遊粒子状物質及び光化学オキシダント対策として、「大気汚染防止法の一部を改正する法律案」を第159回国会に提出しました。

(4)硫黄酸化物対策
 硫黄酸化物については、大気汚染防止法において、K値規制による施設単位の排出規制に加え、国が指定する24地域において、都道府県知事が作成する総量削減計画に基づき、工場単位の総量規制が実施されています。
 平成11年度における、固定発生源からの硫黄酸化物の年間総排出量は、220百万m3N(629千t)でした(図2-5-5)。これら固定発生源から排出される硫黄酸化物については、重油の脱硫や排煙脱硫装置の設置等の対策が講じられており、13年度末現在における排煙脱硫装置の設置基数は1,908基、総処理能力は221百万m3N/hです(図2-5-6)。
平成11年度硫黄酸化物排出量内訳(固定発生源)

年度別排煙脱硫装置設置状況(昭和45年度~平成13年度)

2 移動発生源対策

(1)自動車排出ガス対策
 大都市地域では、自動車保有台数の増加に伴う走行量の大幅な伸びなどにより、自動車排出ガスに起因する二酸化窒素、浮遊粒子状物質等による大気汚染は依然として厳しい状況であり、自動車排出ガス対策が求められています。
ア 自動車単体対策と燃料対策
 新車の排出ガスについては、昭和48年以降、大気汚染防止法に基づく規制を逐次強化し、自動車からの大気汚染物質の排出量を大幅に削減してきています(図2-5-7図2-5-8)。また、自動車の燃料の品質を確保することは、自動車側の対策と同様、自動車排出ガスによる大気汚染防止に必要な対策の一つであり、大気汚染防止法に基づき燃料中の硫黄分を大幅に低減させる等、逐次規制を強化してきています(図2-5-9)。

ガソリン・LPG乗用車規制強化の推移
ディーゼル重量車(車両総重量2.5t超)規制強化の推移

 特に、平成8年5月以降は、中央環境審議会で今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について継続的に審議が行われてきており、15年6月には二輪車及び特殊自動車の規制強化に関する第六次答申が、15年7月には燃料品質規制の強化に関する第七次答申が取りまとめられました(表2-5-2表2-5-3図2-5-10)。
 これら答申を踏まえ、平成15年8月には自動車排出ガスの悪化を防止する観点からガソリン中の含酸素率を燃料規制項目に追加する(表2-5-4)など、順次必要な制度を整備しています。

中央環境審議会での審議状況 
軽油中の硫黄分規制強化の推移

燃料品質項目への追加とその許容限度設定目標値

新たな排出ガス低減目標値

規制値の各国比較図

 また、大気環境の改善には使用過程車の排出ガス低減も重要であることから、事業者や地方公共団体によるディーゼル微粒子除去装置(DPF・酸化触媒)の装着について補助を行い、普及を促進しています。
 なお、第七次答申で取りまとめられた平成19年から軽油中の硫黄分の10ppm化が図られることを前提に、平成17年に実施される新長期規制以降の排出ガス低減目標値及びその達成時期について、技術的な評価を踏まえ可能な限り早期に結論を得るべく検討が開始されています。
イ 大都市地域における自動車排出ガス対策
 自動車交通量が多く交通渋滞が著しい大都市地域を中心とした、厳しい大気汚染状況に対応するため、関係省庁が連携して総合的な取組を行っています。なかでも平成13年6月に改正された自動車NOx・PM法(図2-5-11)に基づいて、15年7月から16年3月にかけて、関係8都府県により総量削減計画が策定されました。また、14年10月から開始された、同法による車種規制の円滑な施行を図るため、自動車取得税等の軽減措置の拡充や、担保要件の緩和を含む政府系金融機関による低利融資等の普及支援策を講じています。

自動車NOx・PM法の概要

(2)低公害車の普及促進
 平成13年7月に策定された「低公害車開発普及アクションプラン」に基づき、電気自動車、天然ガス自動車、メタノール自動車、ハイブリッド自動車及び低燃費かつ低排出ガス認定車を実用段階にある低公害車として位置付け、22年度までのできるだけ早い時期に1,000万台以上の普及を目指すこととしています。15年9月末現在での低公害車(軽自動車等を除く)の普及台数は、全国で約575万台です。
 また、次世代低公害車の本命と目される燃料電池自動車については、平成14年5月に、経済産業省、国土交通省及び環境省の副大臣で組織する「副大臣会議燃料電池プロジェクトチーム」が報告書を公表し、その中で、燃料電池自動車の実用化・普及を加速化させるため、戦略的技術開発、規制の再点検等の施策の強化・拡充等の提言を行いました。また、14年12月には、市販第1号となる燃料電池自動車を政府公用車として5台導入し、15年12月現在で8台導入しています。
ア 普及促進のための補助施策等
 自動車税のグリーン化、低公害車の取得に関する自動車取得税の軽減措置、所得税・法人税についての特別償却又は税額控除措置を講じています。また、地方公共団体や民間事業者による低公害車導入に対し、各種補助を行っています。
 また、低公害車普及のためのインフラ整備については、国による設置費用の一部補助と燃料等供給設備に係る固定資産税等の軽減措置を実施しており、平成14年度末までに258か所の燃料等供給施設(エコ・ステーション)が設置されています。
イ 政府による低公害車の導入
 国の各機関においても「国等による環境物品等の調達の推進等に関する法律」(平成12年法律第100号。以下「グリーン購入法」という。)に基づき、一般公用車への低公害車の導入が進められており、平成15年3月末現在で、3,147台(一般公用車のうち45%)が低公害車に切り替えられています。計画では、16年度末までにすべての一般公用車を低公害車に切り替える予定です。

(3)交通流対策
ア 交通流の分散・円滑化施策
 バイパス、環状道路をはじめとする道路網の体系的整備、交差点及び踏切道の改良を推進しました。平成15年度には、ETCの整備・普及を促進し、主に料金所の渋滞解消並びに料金所周辺の環境改善を図りました。また、VICSの情報提供エリアのさらなる拡大及び道路交通情報提供の内容・精度の改善・充実に努めたほか、信号機の高度化、公共車両優先システム(PTPS)の整備、総合的な駐車対策等により、環境改善を図りました。環境ロードプライシング施策を試行し、住宅地域の沿道環境の改善を図りました。
イ 交通量の抑制・低減施策
 「新総合物流施策大綱」等に基づき、共同輸配送の推進や物流拠点の整備等を行いました。都市における公共交通機関の整備やサービス・利便性の向上、さらに約180箇所の交通結節点の整備を進め、公共交通機関の利用促進を図りました。交通需要マネジメント施策の推進を図り、地域における自動車交通の調整、交通サービスの改善等を行う実証実験に対して、渋滞緩和・環境対策上等の有効性等が見込まれるものについては認定し、事業費の一部を補助しました。

(4)微小粒子状物質に関する検討
 近年、SPMの中でも微小粒子状物質(PM2.5)と健康影響との関連が懸念されつつあることから、PM2.5の測定法について調査・検討を実施しました。さらに、PM2.5の健康影響の評価を進めるため疫学調査や実測調査、動物実験等を含む微小粒子状物質等暴露影響調査を実施しました。また、ディーゼル排気粒子(DEP)については引き続き実測調査を実施しました。さらに、粒径がおおむね50nm以下の極微小粒子(環境ナノ粒子)についても生体影響が懸念されていることから、動物実験等の調査を開始しました。

(5)船舶・航空機・建設機械の排出ガス対策
 船舶からの排出ガスについては、国際的動向を踏まえ、排出削減技術の動向等を把握して排出削減手法等を検討しており、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律の一部を改正する法律案」を第159回国会に提出したところです。
 航空機からの排出ガスについては、国際民間航空機関(ICAO)の排出基準を踏まえ、「航空法」(昭和27年法律第231号)により、炭化水素、一酸化炭素、窒素酸化物等について基準が定められ規制されていますが、平成20年以降に開発されるエンジンについては、日本も参加しているICAO航空機環境保全委員会(CAEP)において窒素酸化物の排出基準の強化を図ることが合意されました。こうした国際的動向を踏まえつつ、空港周辺の環境保全のための対策について調査検討を行っているところです。
 建設工事に伴う排出ガスについては、公共事業を中心に窒素酸化物等を低減している排出ガス対策型建設機械の使用を推進するとともに、排出ガスをさらに低減した建設機械の開発を促進しています。

 第6節 多様な有害物質による健康影響の防止

1 有害大気汚染物質対策

 有害大気汚染物質対策については、大気汚染防止法に基づき、ベンゼン、トリクロロエチレン及びテトラクロロエチレンを指定物質に指定し、指定物質排出施設を定めるとともに、指定物質抑制基準を設定し、排出抑制を図っています。また、有害大気汚染物質の排出抑制に係る事業者の自主管理の取組を促進しており、平成9年度~11年度の第一期の自主管理計画の成果を踏まえ、13年度~15年度における個別業界団体の自主管理計画及びベンゼンに係る地域自主管理計画に基づく取組を行っています。
 平成15年度は、自主管理計画に基づく14年度の実績報告を受け、産業構造審議会及び中央環境審議会において、自主管理に関する取組状況及びその実績等についてチェックアンドレビューが実施されました。
 報告された74団体(36自主管理計画)の対象12物質の総排出量は、単純加算で基準年(11年度)の約3.8万トンから平成14年度約1.9万トンと、総量で約1.9万トン、削減率で49%と大幅な減少となりました。また、ベンゼンに係る地域自主管理計画については、報告された対象5地域の総排出量は、単純加算で基準年(11年度)の約1,047トンから14年度約216トンと、総量で約831トン、削減率で約79%と大幅な減少となりました。
また、平成15年9月にアクリロニトリル、塩化ビニルモノマー、水銀、ニッケル化合物について、環境中の有害大気汚染物質による健康リスクの低減を図るための指針となる数値(指針値)を設定しました。

2 石綿対策

 石綿(アスベスト)は耐熱性等にすぐれているため多くの製品に使用されてきましたが、発がん性等の健康影響を有するため、種類によっては、製造・使用が禁止されています。大気汚染防止法では、石綿製品等を製造する施設について排出規制等を行っています。平成13年度末現在における特定粉じん発生施設の総数は1,236施設でした。また、吹き付け石綿を使用する建築物の解体等作業には作業基準等が定められています。

 第7節 地域の生活環境に係る問題への対策

1 騒音・振動対策

(1)騒音規制法及び振動規制法による規制の実施
 騒音・振動対策については、主に「騒音規制法」(昭和43年法律第98号)及び「振動規制法」(昭和51年法律第64号)に基づき、規制等を実施しています。騒音規制法及び振動規制法では、騒音・振動を防止することにより生活環境を保全すべき地域を都道府県知事(指定都市・中核市・特例市にあってはその長)が指定し、この指定地域内にある、法で定める工場・事業場及び建設作業の騒音・振動を規制するとともに、自動車から発生する騒音の許容限度を環境大臣が定め、市町村長が都道府県の公安委員会に対して「道路交通法」(昭和35年法律第105号)の規定による措置を要請することができる要請限度制度が定められています。
 
(2)工場・事業場及び建設作業による騒音・振動対策
 騒音規制法及び振動規制法では、指定地域内にあって金属加工機械等の政令で定める特定施設を設置している工場・事業場(以下「特定工場等」という。)と、指定地域内においてくい打ち作業等の政令で定める特定建設作業を伴う建設工事が規制の対象となります。指定地域内の特定工場等の総数は平成14年度末現在でそれぞれ騒音規制法は208,389、振動規制法は120,916で、14年度には、騒音規制法及び振動規制法に基づく改善勧告がそれぞれ5件、1件、苦情に基づく行政指導がそれぞれ905件、136件行われました。14年度に行われた特定建設作業に係る実施の届出件数はそれぞれ64,694件、28,139件でした。14年度には、騒音規制法及び振動規制法に基づく改善勧告及び改善命令は行われませんでしたが、苦情に基づく行政指導がそれぞれ1,312件、495件行われました。建設作業の騒音・振動については、適切な規制のあり方を検討するため、建設作業場から発生する騒音・振動について実態調査を行いました。

(3)自動車交通騒音・振動対策
 自動車交通騒音・振動問題を抜本的に解決するため、自動車単体の構造の改善による騒音の低減等の発生源対策、交通流対策、道路構造対策、沿道対策等の諸施策を総合的に推進しています(表2-7-1)。

道路交通騒音対策の状況

 自動車単体から発生する騒音を減らすため加速走行騒音、定常走行騒音、近接排気騒音の3種類について規制を実施しています。また、暴走族による深夜の爆音暴走を防ぐため、消音器不備、空ぶかし運転等に対する取締りや初日の出暴走など不正改造車両の取締りを強化し、関係省庁が連携して暴走族対策に取り組んでいます。
 しかし、幹線道路の沿道地域を中心に環境基準の達成率は依然として低く、一層の騒音低減が必要なため、平成15年度から自動車単体騒音対策検討・調査を開始しました。

また、政府では、道路交通環境が厳しい地域を対象として、警察庁、経済産業省、国土交通省及び環境省で構成される道路交通環境対策関係省庁連絡会議において対策が検討されていますが、この会議において取りまとめた「道路交通騒音の深刻な地域における対策の実施方針」(平成7年12月)に沿って、道路構造対策、交通流対策、沿道対策等の各種対策の総合的実施を図っています。また、この実施方針を受け、現在までにほとんどの都道府県等で関係行政機関の参加による道路交通騒音対策のための協議会等が開催され、対策が検討されています。
 なお、要請限度制度に基づき、自動車騒音について、平成14年度に地方公共団体が苦情を受け測定を実施した199地点のうち、要請限度値を超過したのは30地点で、同様に、道路交通振動については、測定を実施した121地点のうち、要請限度値を超過したのは3地点でした。また、自動車騒音に関して、市町村長が道路管理者に対して意見陳述を行った件数は、平成14年度は7件でした(表2-7-2)。
「騒音規制法」に基づく自動車騒音に係る要請及び意見陳述の状況(平成9年度~平成14年度)

(4)航空機騒音対策
 一定の基準以上の騒音を発生する航空機の運航を禁止する耐空証明(旧騒音基準適合証明)制度については、逐次規制の強化が行われ、昭和53年に強化された騒音基準に適合しない航空機については、平成14年4月1日以降運航を禁止しています。また、緊急時等を除き、新東京国際空港については午後11時から午前6時までの間、大阪国際空港については午後10時から午前7時までの間、航空機の発着を禁止しています。さらに、大阪国際空港においては、午後9時以降定期便のダイヤを設定しないこととしています。
 発生源対策を実施してもなお航空機騒音の影響が及ぶ地域については、「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」(昭和42年法律第110号)等に基づき空港周辺対策を行っています。同法に基づく対策を実施する特定飛行場は、東京国際、大阪国際、福岡等15空港であり、これらの空港周辺において、学校、病院、住宅等の防音工事及び共同利用施設整備の助成、移転補償、緩衝緑地帯の整備、テレビ受信料の助成等を行っています(表2-7-3)。
空港周辺対策事業一覧表(平成13年度~平成15年度)

 また、大阪国際空港及び福岡空港については、周辺地域が市街化されているため、同法により計画的周辺整備が必要である周辺整備空港に指定されており、国及び関係地方公共団体の共同出資で設立された空港周辺整備機構が関係府県知事の策定した空港周辺整備計画に基づき、上記施策に加えて、再開発整備事業、代替地造成事業等を実施しています。
 コミューター空港、ヘリポート等については、環境基準が適用されない小規模なものが多く、平成2年9月に制定したこれらの騒音問題の発生の未然防止を図るために必要な環境保全上の指針を踏まえて、諸施策を実施しています。
 自衛隊及び在日米軍の使用する飛行場周辺の航空機騒音については、消音装置の設置・使用、飛行方法の規制等についての配慮が中心となっています。在日米軍における音源対策、運航対策については、日米合同委員会等の場を通じて協力を要請しており、厚木、横田、嘉手納及び普天間の各飛行場における航空機の騒音規制措置が合意されています。
 自衛隊等の使用する飛行場に係る周辺対策としては、「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(昭和49年法律第101号)を中心に、学校、病院、住宅等の防音工事の助成、移転補償、緑地帯等の整備、テレビ受信料の助成等の各種施策が実施されています(表2-7-4)。
 なお、平成15年度末現在29飛行場周辺について同法に基づく区域指定がされており、住宅防音工事の助成等が実施されています。
防衛施設周辺騒音対策関係事業一覧表(平成13年度~平成15年度)

(5)鉄道騒音・振動対策
 東海道・山陽・東北及び上越新幹線については、「国鉄改革後における新幹線鉄道騒音対策の推進について」(昭和62年3月閣議了解)及び環境庁長官の勧告等に基づく運輸大臣の通達を受けて、鉄道事業者が対策を実施しました。具体的には、音源対策として、防音壁の嵩上げ、改良型防音壁の設置、レール削正の深度化、バラストマットの敷設、低騒音型車両の開発等各種の騒音・振動対策を実施してきました。
 障害防止対策として、騒音レベルが75デシベルを超える区域に所在する住宅及び70デシベルを超える区域に所在する学校、病院等に対し防音工事の助成等を実施し、振動においても、振動レベルが70デシベルを超える区域に所在する住宅等の防振工事の助成及び移転補償等を実施し、いずれも申出のあった対象家屋についてはすべて対策を講じています。さらに、有効な騒音・振動防止対策の開発等を推進しています。
 新幹線以外のいわゆる在来鉄道については、新設又は高架化等のように環境が急変する場合の騒音問題を未然に防止する必要があるとの観点から、「在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針」(平成7年12月)(表2-7-5)を踏まえ、騒音対策の適切かつ円滑な実施に努めています。
在来鉄道の新設又は大規模改良に際しての騒音対策の指針

(6)近隣騒音対策(良好な音環境の保全)
 近年、営業騒音、拡声機騒音、生活騒音等のいわゆる近隣騒音は、騒音に係る苦情全体の約1/4を占めています。近隣騒音対策は、各人のマナーやモラルに期待するところが大きいといえますが、各地方公共団体においても取組が進められ、平成14年度末現在、深夜営業騒音については50都道府県及び政令市で、拡声機騒音については54都道府県及び政令市で条例が制定され規制が行われています。

(7)低周波音対策
 人の耳には聞き取りにくい低い周波数の音がガラス窓や戸、障子等を振動させたり、頭痛、めまい、気分のイライラを引き起こすといった苦情は、平成14年度は地方公共団体において全国で91件受け付けられました。このような低周波音問題の改善を図るため、低周波音の感じ方や不快感に関する調査を行うとともに、低周波音問題に対応する際の注意すべき項目について検討しました。

2 悪臭対策

(1)悪臭防止法による規制の実施
 悪臭対策については、「悪臭防止法」(昭和46年法律第91号)に基づき、工場・事業場から排出される悪臭原因物の規制等を実施しています。同法では、都道府県知事(指定都市、中核市、特例市及び特別区においてはその長)が規制地域の指定及び規制基準の設定を行うこととしており、平成14年度末現在、全国の55.8%に当たる1,804市区町村(639市、1,007町、135村、23特別区)で規制地域が指定されています。14年度は、同法に基づき、改善勧告が9件、改善命令が1件行われました。このほか、規制地域内の悪臭発生事業場に対して10,968件の行政指導が行われました。同法は、複合臭問題等への対策強化を目的として、人間の嗅覚に基づいた臭気指数規制を導入しており、15年度は、地方公共団体職員を対象とした講習会、嗅覚測定技術の研修等、地方公共団体における臭気指数規制の一層の導入促進に向けた取組を行いました。また、臭気指数等の測定を行う臭気測定業務従事者についての国家資格を認定する臭気判定士試験を実施しました。
 さらに、悪臭苦情の発生実態とその要因についての解析調査を行い、近年の苦情傾向に対応した効果的な対策のあり方を検討しています。

(2)悪臭防止技術の普及推進
 近年特に臭気対策の必要性が高まっている中小規模の事業場が導入可能な脱臭技術の開発・普及を促進するため、比較的安価で省スペース、かつ維持管理の容易な脱臭技術を募集し、その情報を紹介した「ひと目で分かる『脱臭装置』選択ガイド《2003飲食店版》」を作成しました。

(3)嗅覚測定法に関する海外動向調査
 国際的な嗅覚測定法の標準規格化の動きに対応するため、欧州と日本の測定法の比較検討調査や、諸外国における悪臭に関する法制度や臭気測定技術についての論文集の作成を行ったほか、諸外国の専門家との情報交換を目的とした「嗅覚測定法に関する国際シンポジウム」を開催しました。

(4)快適なにおい環境の創造
 身のまわりの不快なにおいを低減し、快適なにおい環境を創造しようとする地域の取組を支援するため、平成13年度に全国の優れたかおり風景として「かおり風景100選」を選定しました。15年度には、大分県別府市において「2003かおり風景フォーラムin別府」を開催し、認定地団体や市民等が参加しました。

3 ヒートアイランド対策

 内閣官房、警察庁、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省及び環境省で構成されるヒートアイランド対策関係府省連絡会議は、平成16年3月に、人工排熱の低減、地表面被覆の改善、都市形態の改善、ライフスタイルの改善の4つを対策の柱とするヒートアイランド対策大綱を取りまとめました。
 また、ヒートアイランド現象の緩和に向けた取組としては、都市環境気候図、数値シミュレーション等の熱の管理に必要な手法の検討結果を取りまとめました。同現象による環境影響に関する調査を行うとともに、関東圏において広域測定を開始しました。

4 光害(ひかりがい)対策等

 光害については、光害対策ガイドライン、地域照明環境計画策定マニュアル及び光害防止制度に係るガイドブック等を活用して、地方公共団体における良好な照明環境の実現を図る取組を支援しました。また、肉眼や双眼鏡等を使った身近な方法による星空観察を通じ、参加者に大気汚染や光害など大気環境問題への関心を高めてもらうことを目的とした全国星空継続観察(スターウォッチング・ネットワーク)事業や、良好な大気環境・光環境の保全等を目的とした「星空の街・あおぞらの街」全国大会を実施しています。

 第8節 大気環境の監視・観測体制の整備

1 国設大気測定網

 大気汚染の状況を全国的な視野で把握するとともに、大気保全施策の推進等に必要な基礎資料を得る目的で、国設大気環境測定所及び国設自動車排出ガス測定所が設置されています。国設大気環境測定所は、①地方公共団体が設置する大気環境常時監視測定局の基準局、②大気環境の常時監視に係る試験局、③国として測定すべき物質等(有害大気汚染物質、酸性雨)の測定局、④大気汚染物質のバックグラウンド測定局、⑤環境教育の場、としての役割を果たすことを目的に設置されています。また、国設自動車排出ガス測定所は現在、10か所に設置されています。
 昭和58年度から平成12年度までの4次にわたる酸性雨対策調査の成果を踏まえ、東アジア地域の酸性雨問題に注意を払いつつ、国内における酸性雨の長期的な影響を把握することを目的として、平成14年3月に「酸性雨長期モニタリング計画」を策定し、15年度からこの計画に基づく酸性雨モニタリングを実施しています。これに合わせ、国設大気環境測定所における酸性雨測定も含めると全国49か所あった国設酸性雨測定所を、31か所に再編する等の見直しを行いました。

2 地方公共団体大気汚染監視体制

 地方公共団体においては、大気汚染防止法に基づき、都道府県及び政令市が一般局及び自排局を設置し、大気の汚染状況を常時監視しているほか、その他の地方公共団体においても監視測定しています。また、大気汚染物質を排出する発生源における二酸化硫黄濃度、燃料使用量等の常時監視を行い、その測定結果を中央監視センターに伝送するテレメーター装置等の整備も進められています。
 国は都道府県及び政令市が行うこれらの監視測定に必要な測定機器等の整備に対して補助を行い、測定技術の高度化、効率化に対応した監視測定体制の計画的、重点的整備を行っています。有害大気汚染物質やダイオキシン類についても同様に、都道府県及び政令市が行うモニタリング調査や測定機器等の整備に対して補助を行っています。
 また、都道府県が測定している大気常時監視データ(速報値)は、「大気汚染物質広域監視システム(愛称:そらまめ君)」により、リアルタイムで収集され、インターネット等で一般に公開されています。平成14年度には携帯電話への情報提供を開始しました。

3 環境放射性物質の監視・測定

 環境省では、国設酸性雨測定所のうち離島等の12か所に放射線自動連続モニタリング装置を設置し、空間γ線線量率並びに大気浮遊じんの全α放射能濃度及び全β放射能濃度を測定しており、測定データをオンラインで収集・表示する監視システムを用いて常時監視しています。また、バックグラウンドレベルの放射能の調査の一環として、大気浮遊じん、降下物(雨水等)及び周辺の土壌、陸水中に含まれる放射性核種の分析を行っています。