第3章
 日本で、そして世界へ

 本章では、第1章で考察した「環境のわざ」と第2章で考察した「環境の心」を適切に融合させることにより可能となる、より質の高いくらしについて見ていきます。環境のわざと心を日本中に広げ、世界へ発信していくことは、環境を良くすることが経済を発展させ、経済の活性化が環境を改善するという環境と経済の好循環を、日本で、そして世界で生み出していくことにつながります。

 第1節 くらしの環境革命から始まる環境と経済の好循環

 環境保全の取組を支える環境情報の役割と「環境の心」が社会の中で育まれていくことを見ていきます。

1 くらしの環境革命を目指して

 近年、心豊かで質の高いくらしを求め、くらしを見直すいくつもの芽を見ることができます。

(1)自然とのふれあいを求めて
 人工物に囲まれた生活を送る人が多い現在、多くの人がもっと自然とふれあうことを求めています。世論調査で「自然とふれあう機会をもっと増やしたいと思うか」という問いに対し、「増やしたいと思う」と答えた人は、全体の72.8%でした(図3-1-1)。
 「自然保護が必要な理由」として「自然は人間の心にやすらぎやうるおいを与えてくれるから」と考える人や、「子供たちの健全な成長や自然を学ぶ場として大切だから」と考える人が多いという結果が出ています(図3-1-2)。
 現在住んでいるところより、生活が便利なところを望んでいるか、自然環境に恵まれたところを望んでいるかという調査結果では、自然環境に恵まれたところを望む人(43.7%)が、生活が便利になることを望んでいる人(35.5%)より多く、前回調査(平成6年)より増加しています(図3-1-3)。
 自然に囲まれて、景色の美しさ、木々や花の香り、鳥や風の音、森の静けさなどを感じることは、都会の便利さより魅力的に考える人もいるでしょう。今後、情報通信を活用した在宅勤務等が普及することにより、都会から離れても不便さを感じずに、田舎で仕事に取り組めるようになることも期待されます。

自然とふれあう機会をもっと増やしたいと思うか

生活が便利なところか自然の豊かなところに住みたいか
自然保護が必要な理由

(2)環境の心とわざとの融合による相乗効果
 第1章で見てきた優れた「環境のわざ」を活用することにより、これまでの生活の質(便利さ、快適さ)は維持しながら、環境に配慮する可能性が開けてきます。また、一人ひとりが第2章で見てきた「環境の心」を持ち、積極的に環境に配慮することで、物量の多さ、便利さや快適さのみを無制限に追求するくらしから脱却することができます。そして、「環境のわざ」と「環境の心」が結びつくことにより、より相乗的な環境保全効果が期待できる新しいライフスタイルが生まれます。
 第2章で見てきたように、「日常生活が環境に及ぼす影響」についての関心は高く、多くの人が「日常生活が環境に及ぼす影響」の情報を求めています。これらの情報が「わざ」と「心」の橋渡しをして、日常生活での環境配慮に役立ちます。
 例えば、家電製品の「環境のわざ」が進展しても、消費者が「環境の心」を持ってこのわざを使わなければ、環境保全効果は期待できません。そこで、家庭での使用電力量から環境負荷を表示することにより環境保全行動を促すシステムがあります。しかし、このシステムだけでは時間が経過するにつれて、環境保全効果が薄れてくる傾向にあります。そのため、消し忘れを防止したり、普段の生活習慣に合わせて電源等を自動的に制御することにより省エネルギーと快適性を同時に追求するシステムが開発されています。

コラム
 情報が省エネをもたらす

@省エネナビ
 省エネナビは、家庭での使用電力から省エネ効果が一目でわかるように金額に換算して表示する機器システムのことで、測定器と表示器から構成されています。測定器から1分ごとに送信される消費電力データを料金に換算して表示し、各家庭で決めた目標に対する使用量の割合を知らせます。目標を超えると省エネ度インジケーターや警報ブザーで知らせてくれます。家庭用以外にも、オフィス用の省エネナビもあります。(財)省エネルギーセンターの家庭用のモニターでは、1年平均で約13%の低減効果がありました。

A家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS)
 HEMSは、家庭内における電化製品を最適制御することにより、省エネルギーと快適性を追求した住環境制御システムです。具体的には、人感センサーによって消し忘れを防ぎ、システムに学習能力を付与することにより家庭内の使用状況に応じた最適の電源や温度設定の制御等を行うものです。現在、導入に向けた研究が進められています。またIT技術を活用することによりネットワークで結び、省エネナビ同様にエネルギー使用量を表示することで、意識啓発につなげることもできます。地球温暖化大綱においては、2010年までに全家庭の30%以上にHEMSを導入することを目標にしています。また、業務用ビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS)もあります。


2 「環境ビジネス」と「環境誘発型ビジネス」

 近年、環境に関連したビジネスが活発になっています。環境省は、環境保全を考えた消費者の行動が、環境に配慮した機器やサービスの需要や市場を誘発する事業を広い範囲で捉え、これらを「環境誘発型ビジネス」とする分類体系に基づき、市場・雇用規模の予測を行いました。これは、経済協力開発機構(OECD)の分類の「環境ビジネス」を含み、これより広い範囲の事業を指すものです(図3-1-4)。

環境誘発型ビジネスの概念図


(1)環境ビジネス
 まず、OECDの分類に基づいた環境ビジネスを見てみましょう。環境省は、この環境ビジネスの市場規模が、2000年の29兆9千億円から、2010年には47兆2千億円に、2020年には58兆4千億円になると推計しました。また、雇用規模については、2000年の76万9千人から、2010年には111万9千人に、2020年には123万6千人になると推計しました(表3-1-1)。

日本の環境ビジネスの市場規模及び雇用規模の現状と将来予測についての推計


 2000年及び2020年時点の市場規模及び雇用規模の大きなビジネス分野としては、廃棄物処理が挙げられます。その他、今後、市場規模及び雇用規模が顕著に拡大すると見込まれるビジネス分野としては、大気汚染防止用装置の開発、教育・研修・情報サービスの提供、環境負荷低減及び省資源型技術の開発等が挙げられます。

(2)環境誘発型ビジネス
 さらに、環境省では、環境保全を考えた消費者の行動が環境に配慮した機器やサービスの需要や市場を誘発する「環境誘発型ビジネス」の市場を試算してみました。例えば、省エネ型家電製品の開発・販売は、従来型の家電製品より省エネ型の製品を購入しようとする環境を保全する志向が需要や市場を拡大する一例です。このような観点から試算を行った結果、2000年現在の市場規模の約41兆円から、2025年に約103兆円となり、雇用規模は、現状の約106万人から、2025年の約222万人になると予測されます(表3-1-2)。

環境誘発型ビジネスの市場規模及び雇用規模の現状と将来予測についての推計


 これらの市場が消費者の支持を受けて拡大するにつれて、事業者も将来性のある環境に関連したビジネスに一層投資を行うことにより環境に関連したビジネスの一層の発展につながり、さらに環境が改善されることが期待されます。

3 環境と経済の関係についての検討

 平成15年6月、環境大臣主催の「環境と経済活動に関する懇談会」が「環境と経済の好循環を目指して」という報告を取りまとめました。報告は、環境を良くすることが経済を発展させ、経済の活性化が環境を改善するという環境と経済の好循環を生み出すことにより実現される、環境と経済が一体となって向上する社会(「環境と経済の統合」)を21世紀の社会のあるべき姿としました。そして、環境と経済の好循環の実現に向けて、国民、事業者、行政が一体となって取り組んでいくため、中長期的視点に立った明確でわかりやすい将来像(ビジョン)を示す必要があることを指摘しました。
 これを受けて、中央環境審議会総合政策部会「環境と経済の好循環専門委員会」は、平成16年4月「環境と経済の好循環を目指したビジョン」を取りまとめました(図3-1-5)。

環境と経済の好循環ビジョン〜健やかで美しく豊かな環境先進国へ向けて〜(平成16年4月中央環境審議会総合政策部会「環境と経済の好循環専門委員会」報告)


 また、事業者の自主的、積極的な環境配慮の取組が重要との観点から、中央環境審議会に設置された「環境に配慮した事業活動の促進に関する小委員会」は、平成16年2月にその検討結果を「環境に配慮した事業活動の促進方策の在り方について(意見具申)」としてとりまとめました。
 経済産業省では、「産業構造審議会環境部会産業と環境小委員会」における、民間事業者の自主的な取組による環境に配慮した経営の促進のために必要な施策等に関する検討(15年6月に「環境立国宣言〜環境と両立した企業経営と環境ビジネスのあり方〜」としてとりまとめ)等を通じて、環境対策への取組において、技術革新や経済界の創意工夫を活かすことによって、経済活性化や雇用創出などにもつながるようにするという「環境と経済の両立」を達成すべく議論を深めています。

 第2節 環境で育む心、心が守る環境−環境教育の推進−

 くらしの環境革命の第一歩は、意識革命です。すなわち、人間と環境との関わりについての理解と認識を深め、自ら環境に配慮した生活や責任ある行動を取ることです。また、人工物に囲まれがちな現在のくらしの中で、自然と親しみ美しい環境を五感で感じることは、子どもの心を育み、大人の心を癒す上で大変重要な役割を果たします。環境問題が一人ひとりのくらしや社会から起きていることを理解し、これを自らの手で解決していく努力も求められています。そのためには、環境に対する豊かな感受性や見識を持つ人づくりが重要で、環境教育がその役割を担っています。
 環境教育については、「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」(平成15年法律第130号)が平成15年7月に成立し、同年10月に一部施行されました。今後、16年10月の完全施行に向けて、基本方針の作成などを進め、法律を踏まえた施策を積極的に実施していく必要があります。また、17年から始まる「国連持続可能な開発のための教育の10年」に向けて、持続可能な開発のための教育の概念の整理、長期的な推進計画等の検討が官民で進められています。こうした環境教育を巡る施策を推進するため、16年2月の副大臣会議で今後の環境教育の充実強化について取りまとめられるなど、環境教育の推進が政府全体での課題となっています。

1 子どもから高齢者まであらゆる世代での環境教育の重要性

 小学校低学年において、自然への感性や環境を大切に思う心を、恵み豊かな自然の中で培っていくことは健やかな心身の発達のために重要と考えられます。小学校高学年、中学校では、環境にかかわる事象を具体的に認識し、因果関係や相互関係の把握力、問題解決能力を育成させることが望まれます。高等学校では、環境問題が総合的な問題であることを理解し、さまざまな自然や社会の出来事の中から環境の状況の変化を捉え、人間の行動が環境に与える影響を予測し、その結果を適正に判断するなどの能力の育成が求められています。また、環境保全のためのライフスタイルを実践したり、社会的活動においても環境に配慮した活動を実践する能力と考え方を身に付けていくことも求められています。大学においては、環境問題を専攻する学生が増加しており(図3-2-1)、将来の環境ビジネスや環境施策を担う人材として期待されています。また、学校教育だけでなく、子どもに対する環境教育を家庭、地域社会が自らの問題として認識していく必要があります。 環境系学部の大学生数

 調査によると「次の世代を担う子どもが環境保全について理解を深めるための教育が必要だ」と回答した割合は、平成14年度調査で92.2%と高く、次代を担う子どもに対する環境教育の必要性が国民に高く認識されています。
 しかし、環境教育が必要なのは、子どもだけではありません。成人に対しても、最近活発化している企業による環境教育や消費者教育等の生涯学習の場を通じて、環境配慮型のライフスタイルの形成が求められています。
 さらに、高齢者層に対しては、その経験や生活の知恵に裏付けられたライフスタイル、すなわち物を大切にするという伝統的なライフスタイルを若い世代に伝える指導者としての役割が期待できます。このため、高齢者層が若い世代に経験や生活の知恵を伝えられるような場を設定することも重要です。

2 環境教育の推進に向けた具体的な方策

(1)専門家の育成
 環境教育の推進を図る上で、専門家の育成が重要です。専門家には環境に関する知識だけでなく、社会に関する幅広い知識、現場での経験、問題解決に当たってのリーダーシップや異なる主体間の調整を行うコーディネート能力も必要です。こうした専門家を短期間で育成することは難しく計画的な育成システムの開発が求められるところであり、環境カウンセラー登録制度など既存の人材制度を改善・充実することが必要です。さらに民間で行われている人材育成・認定事業の信頼性を向上するため、「環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律」に基づき、人材認定等事業を登録する制度を整備し、円滑に運用していくことが求められます。なお、学校の教職員については、養成課程の中で環境教育に関する講座や実習への参加を奨励するほか、採用後の研修においても環境教育が十分に配慮される必要があります。

(2)活動の場の提供
 環境教育は、知識の習得にとどまらず、体験が重視されるべきです。具体的な地域の自然体験や社会体験を行うことによって、環境問題を自らの課題として考え、問題解決の能力や態度を身に付け実践するというプロセスが重要であり、こどもエコクラブ等の地域における活動の場の提供が必要です。ハード・ソフト両面における方策として、例えば、エコスクールの充実・普及とそれを通じた住民を含めた環境学習の展開が必要です。
 また、学校教育等において環境教育を受けた生徒・学生が、社会に出た時、引き続き地域社会の環境に関する取組に参画できるような活動の場を提供できるよう、各関係機関が連携し、環境教育の成果が継続していく仕組をつくることが必要です。

(3)家庭、学校、民間団体、事業者、行政の課題
 環境保全を行った子どものきっかけについて調査すると、母親の発言や行動を挙げる回答が最も多く(図3-2-2)、子どもに対する家族の役割が重要です。また、小中学校は身近な地域単位ごとにあることから、各地域における環境教育学習の拠点となることが期待されます。環境保全活動を実施している民間団体も、民間団体の役割として環境教育や環境学習を重視しており(図3-2-3)、その充実が求められます。

環境保全活動の契機
民間団体の役割として一般的に重要と考える事項

 企業も環境教育を行っています。平成14年度で約4分の3の企業が従業員に対する環境教育を実施しています(図3-2-4)。地域の代表的な企業などでは民間団体と協力して地域の子どもたちなどの環境教育に取り組んでいる例もあり、今後、活発になることが期待されます。
 行政には、学校、事業者、民間団体などが行う環境教育に対しての人的、技術的、財政的な支援の拡充のほか、国内外の先進的な事例の把握、環境教育に関する実態調査などが求められています。また、行政自らも環境保全活動の主体として職員を教育し、環境保全活動に取り組むことが求められています。また、こうした各関係者間のパートナーシップの構築が重要です。
従業員に対する環境教育

3 地域で取り組まれている環境教育

(1)自然体験型の環境教育
 財団法人キープ協会(山梨県高根町)では、小学生、家族、指導者を対象にしたプログラムや自然体験型環境教育の事業を実施しています。プログラムのメニューでは、自然科学を楽しむ「かがくの寺子屋」、家族で楽しめる日帰り型プログラム「家族のための自然あそび」など、幅広い年齢層を対象としたプログラムを数多く主催しています。
例えば、「家族のための自然あそび」は、連休期間や夏休み、週末を中心として開催されています。同協会のレンジャーと森の中を散歩し、木の実や枝などの材料を集め、その材料を組み合わせて昆虫や動物などの作品を作る半日のプログラムなどを実施するものです。
 こうした自然体験型環境教育の事業を通じて、「主体的な関わりから、問題解決に挑む人づくり」を目指しています。((財)キープ協会のホームページ http://www.keep.or.jp/
(財)キープ協会の活動風景

(2)消費者教育
 環境教育は、消費者教育の視点を併せもつものでもあります。エコライフやグリーンコンシューマー活動を積極的に行っている市民団体である沖縄リサイクル運動市民の会(沖縄県那覇市)では、平成11年より環境教育プロジェクトを立ち上げ、一般や児童を対象に、「買い物ゲーム」を行っています。この環境に配慮した買い物の模擬体験を通して、商品に付随する容器包装ごみに関する情報に関心を持ち、分別やごみ減量の工夫など、自ら考えて行動することを推進しています。
(「沖縄リサイクル運動市民の会」のホームページ http://www.ryucom.ne.jp/users/kuru2/
3章2節 沖縄リサイクル運動

(3) シニア環境大学
 環境教育は、あらゆる世代に対して行われる必要があります。大阪府吹田市では、行政・民間団体・事業者等が連携し、シニア層を対象にした「すいたシニア環境大学」を開催しています。シニア環境大学では、環境問題全般にわたる講義、環境に係る民間団体の活動紹介、先進的な取組をしている企業による講義、学校での教育実習等の実践的な内容のプログラム(年間約20回)を用意し、修了生が地域の環境保全リーダーとして活動できるよう、環境教育の人材を育成する事業を行っています。
(すいたシニア環境大学のホームページ http://www.city.suita.osaka.jp/kobo/chikyu/page/004086.shtml
大阪吹田市

コラム
 緑のカーテン

 つる性植物を利用した緑のカーテンは、熱エネルギーの遮断効果、葉の気孔からの水分蒸散により、日差しを和らげてくれるだけではなく室温の上昇も抑えるほか、騒音の低減効果などもあるといわれています。
 緑のカーテン作りは、学校でも取り組まれており、子どもたちが植物に親しみながら、緑のもたらす涼しさを体感することができることから、環境教育を実践する場としても注目されています。


板橋区第7小学校


 第3節 日本発の環境関連の国際標準を目指して

 日本の優れた「環境のわざ」を広めていくためには、日本が国際標準を策定する場に積極的に関与し、貢献していくことが必要です。

1 国際標準を巡る動き

 国際標準とは、経済のグローバル化に対応し、製品の構造、性能等の規格を国際的に整合させるものです。国際標準には、国際標準化機構(ISO)、国際電気標準会議(IEC)などの国際標準化機関にて、各国関係者が合意したデジュール標準と、市場で事実上認められたデファクト標準があります。
 国際標準となった技術は、その市場拡大が期待されるだけでなく、さらに高度な後続製品の開発にも優位に立つことができます。欧州では、多くの企業が国際標準化活動を重視し、自らの規格をデジュール標準化することにより、競争上優位に立とうとする戦略を取っています。日本の企業においても、自社の規格を市場競争でデファクト標準にしようとするだけでなく、国際的に合意されたデジュール標準の中に盛り込むことが重要となってきました。
 この理由としては、1995年に発効したWTO/TBT協定に基づき、ISO、IEC等の国際規格を各国の任意規格の基礎として用いることが加盟国に義務づけられたことが挙げられます。
 環境マネジメントの分野では、ISO14001を中心とした標準化の体系が構築され、その認証と相まって組織の意識を高め、環境配慮活動に取り組む姿勢を強める効果をもたらしています(第1章第2節参照)。
 欧州は、歴史的に国際標準化活動の主導的役割を果たしてきました。近年では、特に欧州統合の流れの中で域内規格の統合を進め、これを国際規格化する動きが顕著となっています。米国では、自国の市場規模が大きく、かつ「市場メカニズム」尊重の考えから、従来はデファクト標準を重視する傾向がありました。しかし、近年はISO/IECにおける活動を積極的に進めています。

2 日本発の国際標準を作る動き

 日本としてもISO/IEC等への対応として、幅広い分野での取組を進めています。中でも環境分野において、積極的に進めているものがあります。
 具体的には、日本の標準化機関である日本工業標準調査会(JISC)が、「環境JISの策定促進のアクションプログラム」に基づき、環境JISの策定を進めるとともに、ISO、IEC等への国際規格提案に積極的に取り組んでいます。
 これらの環境関連の分野の例を見てみましょう。

(1)光触媒空気浄化性能試験
 平成4年にファインセラミックスに関する国際標準化を目的としたISOの専門委員会が設立され、日本が幹事国となりました。ファインセラミックスは、光触媒技術にも利用されており、平成15年10月に「光触媒空気浄化性能試験方法の国際標準化活動に着手すべき」との日本提案が委員会で採択されました。これは、光触媒材料上に既知濃度の窒素酸化物(NOx)混入空気を流し、NOxがどのくらい除去されるかを測定する試験方法を規定したものです。
 また、国際標準化活動と並行して日本工業規格(JIS)「ファインセラミックス―光触媒材料の空気浄化性能試験方法―第1部:窒素酸化物の除去性能」が平成16年1月に制定されました。

(2)燃料電池
 平成15年に米国は「水素経済のための国際パートナーシップ(IPHE)」の設立を発表し、水素・燃料電池に係る技術開発に力を入れている国・機関に参加を呼びかけました。IPHEは、水素・燃料電池に係る技術開発、基準・標準化、情報交換等を促進するための国際協力枠組みの構築を目指すものです。平成15年11月に米国で開催された閣僚会議では、IPHEの枠組文書を発行するとともに、同枠組みの下に設置された2つの委員会のうち、全体の企画運営を担当する運営委員会の副議長を日本が務めることとなりました。今後、日本は、燃料電池に関する優れた技術力を活かし、産官学の連携により戦略的に研究開発等を進めると同時に、積極的に燃料電池の基準・標準化の検討に関与していくことが必要です。

(3)今後の環境分野における国際標準化の取組
 総合科学技術会議は、平成15年6月に「知的財産戦略について―研究開発・知的戦略・標準化戦略の一体的推進及び大学等の知的財産活動の活性化のために―(意見)」を提言しました。特に産学官による戦略的な国際標準化活動の強化を進めることが重要であると提言しました。
 また、(社)日本経済団体連合会では、平成16年1月に「戦略的な国際標準化の推進に関する提言」を公表しました。官民一体となった国際標準化への取組が急務であると提言しています。その他、企業の果たすべき役割、重点分野における戦略的国際標準化活動の推進についても考え方を示しており、環境の重要分野の例として、燃料電池等を挙げています。
 環境面での日本の技術水準は、世界でも最先端のものが多くあります。今後、産業界、行政、大学等が協力して、日本発の環境標準を提案し、国際合意の形成に能動的に関与し、貢献していく必要があります。こうした国際標準の策定の場に、日本が戦略的に人的資源を投入することは、日本発で環境と経済が好循環する世界市場を作り出すためにも重要です。

 第4節 世界へ広げる環境のわざ−国際環境協力−

 日本で作られた優れた「環境のわざ」は、政府、地方公共団体、企業、NGO等を通じて、世界に広がっており、地球規模の環境問題等の解決に大きく貢献しています。

1 政府の国際環境協力

 近年、ますます深刻化する地球環境問題に対処するため、日本は条約・議定書等に関する国際交渉への積極的参加、二国間の枠組を通じた協力など、様々な方策を実施しています。また国際機関の活動や開発途上国への支援なども行っており、例えば日本に事務所を置く国連環境計画(UNEP)国際環境技術センター(IETC)に対する支援を推進しています。
 特に、政府開発援助(ODA)は、日本の国際社会への貢献として、開発途上国に対する支援政策の根幹をなしています。その基本文書である政府開発援助大綱は、平成4年に策定され、国内外の情勢の変化等を踏まえ、平成15年8月に改定されました。新しい大綱の中でも、地球的規模の問題である環境問題に対する援助や、援助を行う際の環境と開発の両立は、引き続き重要視されています。
 また、この大綱は「我が国の経験と知見の活用」を基本方針の一つとしています。政府としてもさまざまな主体との協力・連携の下、専門家の派遣や研修員の受入、機材の供与など、日本が積み上げてきた経験や知見、技術を活用しつつ国際環境協力を行っています。

2 地方公共団体の国際環境協力

 地方公共団体が行う国際環境協力には、姉妹都市関係などにより直接海外の自治体に対して行うものや、日本が各国から要請を受け、ODA事業として援助をすることを確定した案件について、実施機関である国際協力機構(JICA)が実施するODA事業に参加する形で行うものなどがあります。環境省が平成14年度に行った調査によれば、都道府県の87%、政令指定都市の100%、中核市の21%が国際環境協力を行っています。地方公共団体が行っている153の国際環境協力の事業内容としては、最も多いのが「水環境保全」(30事業)、次いで「人材育成」(27事業)となっています。
 例えば、兵庫県は、モンゴル国の森林火災を契機として、技術者の派遣等により同国の緑化の支援を行っています。同時に、緑化によるCDM事業の実施の可能性について先導的な民間企業や団体とともに取りまとめることを通じて、県内企業等に同国の緑化事業への参加を促す試みを実施しています。
 北九州市は、公害克服の経験を通じて培われた技術・人材などを活用し、市民などとの協力の下、研修員受入れ、専門家派遣をはじめとした国際環境協力に取り組んでいます。特に、国際協力機構との協力のもと行われている中国大連市への環境協力事業は、日本の地方公共団体が他国の一工業都市の環境保全計画の策定に携わった例として、国内外から高い評価を受けています。

3 企業の国際環境協力

 日本の企業も、さまざまな形で国際環境協力を行っています。例えば、ある自動車会社は、環境改善や保全に向けた活動を助成する制度を作り、「持続可能な発展のための社会的投資」を基本テーマとして、環境技術と環境学習の2つの分野で地域に根ざした実践型プロジェクトに対して支援を行っています。
 環境面での技術水準と意識の高い日本企業の海外直接投資が、開発途上国の環境保全に重要な役割を果たしている例も見られます。直接投資の場合、単に製品を輸出するのではなく、環境に配慮した企業の運営、環境効率の向上を含む生産設備の維持管理システム等のノウハウも、併せて供与されます。これは環境技術の効率的な移転につながり、開発途上国の人材育成にも役立っています。
環境教育の風景

4 NGO等の国際環境協力

 開発途上国で活躍するNGO等の民間団体のきめ細かな対応は、環境分野をはじめとする日本の国際協力において極めて重要であると認識されてきています。また、その活動の場の多様性や迅速性、地域に根ざしたアイデアも注目されるところです。
 例えば、NPO法人「緑の地球ネットワーク」では、中国の黄土高原で保水や土壌の浸食防止と改善のためにマツや灌木を植林したり、貧しい村の小学校にアンズやリンゴなどの付属果樹園を造り、その収益の一部を教育条件の改善に充てる活動を行っています。このNPOは、植物園、実験林場等を造り、造林樹種の多様化や技術改善、人材育成にも取り組んでいます。
3章4節 中国黄土高原

 むすび 環境のわざと心で地球環境保全

 くらしの中で「環境のわざ」と「環境の心」を活かすことにより、変革が始まります。家電の省エネ率、自動車の燃費をはじめ、環境に資する日本の技術には世界最高水準のものがあり、このような「環境のわざ」が日本で、そして世界に広がれば、地球環境の保全に貢献することができるでしょう。また、古来自然を敬ってきた日本人の心は、美しい自然を味わいつつ健やかに豊かに暮らす持続可能なライフスタイルを生み出せる可能性があり、これを日本人全体に、そして他国の人々にも魅力的に提示できれば、世界の持続可能な発展に貢献することができるでしょう。
 一人ひとりが環境のわざと心を活かして行動しなければ、環境は保全できません。一方、一人だけの行動では、改善できる環境は小さなものかもしれません。だからこそ、個人、事業者、NGO、行政等の人々が家庭で、地域で、国全体で、また国境を越えて連携し、これらの協力の中でよりよい環境に向けた行動を進めることが望まれます。
 そのためにまず大切なことは、人々の関係を結ぶ情報です。例えば、環境に配慮した製品やサービスについて、環境の保全効果に関する情報が事業者、行政等から消費者に伝わることが、グリーン購入や環境配慮の投資等を進め、志のある事業者が作り出す「環境のわざ」を支援します。また、環境教育や自然とふれあう体験が「環境の心」を育み、それが事業者の作り出す「環境のわざ」を支えます。
 情報を共有し、さまざまな人々が支え合うことにより、お互いの信頼関係が生まれます。環境を良くするための誰かの行為が多くの人々に支持されることが、さらに多くの人の環境保全のための行動につながります。環境を守るくらしをみんなで築いていくことが社会経済に、環境を良くすることが経済を発展させ、経済の活性化が環境を改善するという環境と経済の好循環をもたらします。行政がさまざまな主体と連携し、環境を保全する行動を支援するとともに、環境に配慮した行動が利益につながるシステムを構築することも重要です。
 このような信頼と連携の中で、「環境のわざ」と「環境の心」を結びつけ、広めることにより、環境保全をバネにした新しい社会経済への発展、すなわち「環境革命」が始まると考えます。21世紀の世界が新しい発展を遂げるよう、「環境のわざと心」を、日本から生み出し、広げていこうではありませんか。