第1章
 くらしを彩る「環境のわざ」

 現在、社会の隅々で、環境保全を目的としたさまざまな工夫が行われています。例えば、技術開発を通じて環境配慮型製品や環境配慮の事業形態が生み出されてきました。これらに見られる環境保全のための技術や、環境に配慮するための方法や仕組みを、本白書では「環境のわざ」と名付けました。この章では、「住まいと仕事場」、「余暇」、「ものづくり」という3つの場面について、さまざまな「環境のわざ」を紹介し、その効果を考察するとともに、環境に配慮した管理手法や事業形態について紹介します。

 第1節 技術で開く環境の世紀

1 住まいや仕事場での「環境のわざ」の例

 二酸化炭素排出量の推移をみると、生活の質の向上、OA機器の増加等によるエネルギー消費の増大に伴い、「家庭部門」と「業務その他部門」からの排出が、1990年度から2002年度までにそれぞれ28.8%、36.7%増加しており(図序-1-7参照)、住まいや仕事場からの環境負荷の低減が必要となっています。

(1)住宅・事業所の断熱・遮熱
 日本の建築物は、これまで、風通しのよさに重点をおいて設計され、北海道などの寒冷地を除き、建築物の断熱対策はあまり進んでいませんでした。例えば、日本の複層ガラス(2枚のガラスの間に乾燥空気等を封入して断熱効果を高めたもの)の普及率は、欧州各国と比較すると低くなっています(図1-1-1)。

 冬の暖房時に流出する熱の58%、夏の冷房時に流入する熱の73%が窓や扉などの開口部を経ているとされています。このため、開口部に複層ガラスや断熱性能に優れたサッシなどを用いることは冷暖房に使うエネルギーの削減に有効です。また、壁などに用いられる断熱材の性能を向上させることも、建築物の断熱性能を向上させます(図1-1-2図1-1-3)。
欧州各国の複層ガラス普及状況

開口部からの熱の流出入割合
ガラスの種類別の熱貫流率の比較

複層ガラスや樹脂サッシの図

ブラインドの効果

遮熱複層ガラスの効果


 さらに、夏期の日射が強い時期には、夏の太陽光の熱を建物の外部で遮り、室内にその熱を入れないようにすることが、涼しく快適な居住空間を創出します。例えば、窓の外に庇や軒をつくり、庭に木を植え日陰をつくることや、ブラインド、カーテン等の活用、日射の多い南側の窓等への遮熱複層ガラスなどの採用がその対策です(図1-1-4図1-1-5)。
 住宅等の省エネルギー対策については、省エネ法に基づき、建築主に対し建築物の断熱構造化等について一定の努力義務が課されるとともに、建築主の判断の基準(以下「省エネルギー基準」という。)が定められています。平成11年3月の見直し(次世代省エネルギー基準)では、住宅については平成4年基準と比較して冷暖房用のエネルギー消費量の約20%削減に、建築物(非住宅)については平成5年基準と比較してエネルギー消費量の約10%削減にそれぞれ見合うことになるよう、基準が強化されました。また、一定以上の規模を持つ住宅以外の建築物については、省エネ法に基づき、省エネルギー計画の届出義務等が課せられています。さらに、住宅金融公庫融資において、次世代省エネルギー基準に適合する住宅については、金利の優遇や割増融資等が行われています。
 次世代省エネルギー基準に適合した住宅は、冷暖房で図1-1-6のようなエネルギー削減効果があると推計されます。

(2)エネルギー供給・管理
 家庭や事業所におけるエネルギー供給や使用のあり方も、大きく変化しています。
 家庭用の太陽光発電設備の出荷量が増加しており、市場の拡大とともに価格も低下しています(図1-1-7)。
 また、家庭用の燃料電池は、平成17年の市場への導入が見込まれています。家庭でのエネルギーの使用の合理化に関しては、省エネナビや家庭用エネルギーマネジメントシステム(HEMS)などの利用も効果があるものとして挙げられます。(詳細は、第3章第1節参照。)
 事業所でも、太陽光発電施設やコージェネレーション設備が設置されています。また、エネルギーの使用の合理化のための手法としては、ESCOが注目されています。ESCOとは、Energy Service Companyの略称で、ビルや工場の省エネ化に必要な技術、設備、人材、資金などを包括的に提供するサービスです。省エネ効果をESCO事業者が顧客に対して保証するとともに、省エネルギー改修に要した投資、金利返済、ESCOの費用等の経費は、省エネルギーによる顧客の経費削減分から賄われます。

太陽光発電設備の価格の推移
次世代省エネルギー基準に適合した住宅における冷暖房時のエネルギー消費削減効果

(3)家電製品
 序章で紹介した電気冷蔵庫以外にも、テレビ、空調機器や照明機器等、省エネ化が進んでいるものがあります。省エネ法では、現在商品化されている製品のうちエネルギー消費効率が最も優れているものの性能、技術開発の見通し等を勘案して基準を定めるトップランナー方式を採用することで、一層の省エネ技術開発を促進しています。
 例えば、テレビでは、ロスの少ないトランスや回路設計などにより、消費電力の低減を図っています。さらに、待機時に不動作部への電源供給遮断やマイコンの消費電力の改善などにより、待機時の消費電力の低減化が図られています(図1-1-8)。また、ブラウン管より消費電力が少ない液晶テレビも急速に広がっています(図1-1-9)。
 照明に要する電力消費量は、家庭における電力消費量の約16%を占めています。近年、生活の夜型化が進んでおり、照明機器の省エネ化を図ることの意義は大きくなっています。照明の省エネ化の代表的な製品は、電球型蛍光ランプです。電球型蛍光ランプは同じ明るさの白熱灯に比べ電力消費が約3分の1に、寿命が約6倍になります。
 エアコンで冷暖房に使用されるエネルギーは、家庭で使用される電力の約25%を占め、最大のエネルギー使用機器となっています。エアコンも省エネ化が進んでおり、同程度の出力のものであれば、5年前のものに比べ、消費電力は約2割少なくなりました(図1-1-10)。コンプレッサー駆動モーターの改善や熱交換機の高効率化、インバータ制御化などの技術の進展が、省エネ化を実現しています。
ブラウン管、液晶テレビ、プラズマテレビの1インチ当たりの消費電力比較

テレビの消費電力の推移
エアコンの年間消費電力の推移

コラム
 燃料電池とナノテクノロジー

 ナノテクノロジーは、ナノスケール(10-9m)レベルで制御する技術のことで、環境分野でも、省エネルギー化、省資源化等を目的とした研究開発が進められています。
 特に燃料電池では、電極や電極間に挿入する膜にナノテクノロジーを活用した技術を取り入れることにより、効率の高い発電が可能となるといわれています。


2 余暇での「環境のわざ」の例

 「環境のわざ」は普段の生活だけではなく、余暇という場面でも発揮されています。

(1)エコツーリズム
 エコツーリズムの定義は人によりさまざまですが、環境省では、以下の3つの要素を含み、かつこれらの融合と永続的な達成を目指すものとしています。
①地域固有の自然的・文化的資源を理解しながら、その魅力を享受できる教育的・解説的要素を含んだ観光が成立している
②資源が持続的に利用できるよう環境への負荷軽減の配慮と保護・保全策がなされている
③地域経済や地域社会の活性化に資する
 「旅行者動向2003」((財)日本交通公社)によると、エコツアーの経験率はまだ少ないものの、一度エコツアーを体験した人の再訪意欲は、「是非参加したい」「参加したい」を合わせると、93.1%と非常に高いという結果が出ています(図1-1-11図1-1-12)。

エコツアーの認知度と経験率
エコツアーの今後の参加意向

 エコツーリズムは、観光を受け入れる側と観光する側が協働して創りあげていく観光のあり方でもあります。地域住民は地域の自然や文化の価値を再認識し、またエコツアー参加者との交流により、地域に活力をもたらすことが期待されます。旅行者は、森の香り、水の冷たさ、土の暖かみ、あるいは暗闇の恐怖など、本物の自然を体験することができます。また登山やトレッキングなどの愛好者は、知的探求心をさらに満足させることができます。次に、いくつかの例をみてみましょう。

ア 豊かな自然の中での取組
 鹿児島県の屋久島では、豊かで多様な自然環境を舞台にして、登山、森歩き、カヤック・カヌー、沢登り、スキューバダイビング等、多様なエコツアーが実施されています。エコツアーガイドは、地元の観光協会に登録しているだけでも、団体会員28団体、個人会員20名です。平成5年に屋久島が世界遺産登録されたこともあり、ガイドはここ数年で急速に増加しています。「平成13年度共生と循環の地域社会づくりモデル事業(屋久島地域)」(環境省)によると、ガイド業の粗生産額は約2億円以上と推定しており、屋久島の観光を考える上でエコツーリズムは重要な存在になっています。
 このような地域では、原生的な自然を活用したエコツアーが多いことから、特定の地域が過剰利用とならないよう、特に国立公園などでは保護すべきエリアの徹底管理に加えて、資源調査に基づき利用エリアを分散させることが必要です。
1章1節2エコツアーの写真1屋久島

イ 多くの来訪者が訪れる観光地での取組
 長野県軽井沢町では、20名の野生動植物の専門スタッフを抱える企業が、エコツアー事業や環境教育に取り組んでいます。この企業は、平成5年から自然解説イベントを有料で毎日開催し、現在では、自然解説・体験イベント、野生動植物の調査研究、野生動物の保護管理活動を行っています。その年間利用者数は1万人以上です。この企業の特徴は、環境教育を実施するだけでなく、自らが地域の野生動植物を調査し、その保全に関わっていることです。
 ここでは、地元の町からツキノワグマの被害防除と保護管理のための調査、対策事業の委託を受けて、クマに発信器をつけて追跡を続けるほか、小型カメラを装着した巣箱を設け、野鳥の産卵や雛を育てる様子の観察等を行っています。参加者に野生動植物への科学的な理解を深めるとともに、エンターテイメント的要素も盛り込んで、自然の中の野生動植物に共感や感動を抱くエコツアーと環境教育を目指しています。また、宿泊施設としても「ゼロエミッション」を目標におき、廃棄物量の大幅な削減に取り組んでいます。
1章1節2エコツアーの写真2軽井沢

ウ 里地の身近な自然、地域の産業や生活文化を活用した取組
 千葉県和田町では、東京のNPO法人ネイチャースクール緑土塾と連携して、町が主催しNPOと協働で運営するという体制で、自然を学ぶネイチャースクールが始まりました。少子化のため廃校となった小学校跡を利用し、体験交流の拠点として町営の施設自然の宿「くすの木」を整備しました。NPOが和田町でネイチャースクールを始めた理由としては、自然が残っていること、東京から近いこと、人情が素朴であること等が挙げられています。
 スクールでは、平成12年度から年に5~8回の1泊2日で講座を開設し、「和田学」「くじら学」「海辺の町の森林学」「田舎の料理学」等の和田町地域独自の講座を設けています。地元住民との交流をネイチャースクールの目的としており、都会と農村の心の交流を深めています。
(ネイチャースクールわくわくWADAのホームページ http://home.e03.itscom.net/npo-ns/
1章1節2エコツアーの写真3和田町

(2)環境に配慮した宿泊施設
 ホテルや旅館でも、環境配慮が行われています。
 例えば東京都新宿区のあるホテルでは、排出される生ごみの堆肥化やプラスチック、ガラス、紙などのリサイクルを行っており、ごみの分別等について従業員教育に力を入れています。植木の水やりやトイレの水洗には、水道水を一度使用した後の中水を利用しています。
 ある全国的なホテルチェーンでは「環境実践ホテル」を宣言して、歯ブラシ、かみそりは客室に置かず、顧客に持参を呼びかけています。部分補修が可能なタイルカーペット、節水タイプのトイレなども導入し、「親子エコロジースクール」の開催などを行っています。
 三重県鳥羽市のある旅館では、毎日大量に使用する天ぷら油を旅館内の施設でディーゼル代替燃料に加工し、お客の送迎に使うバスの燃料にしています。生ごみは堆肥化し、自家発電の排熱は館内の給湯に利用しています。オフシーズンのプールには雨水を溜め、散水や洗車に使っています。

(3)環境にやさしい移動手段
 旅の移動手段として何を選択するかによって、環境への負荷は大きく異なります。例えば二酸化炭素の排出量を例にとると、鉄道を利用した場合、自家用乗用車の約8%の排出で済みます(図1-1-13)。
移動手段別の二酸化炭素排出原単位

コラム
 鉄道の省エネルギー化

 鉄道の省エネルギー化は、近年大きく進んでいます。ある鉄道会社の「社会環境報告書」によると、同社の最新型電車は、従来型の電車の半分以下のエネルギーで走行することができます。さらに、ディーゼルカーの省エネと排ガス対策のため、ハイブリッドシステム(ディーゼルエンジンとブレーキをかけた時に発生するエネルギーで発電を行うもの)を搭載した車両も試験的に開発されています。将来的には、燃料電池を組み込むことも考えられています。


1章1節3(コラム)ハイブリッドディーゼルカーの写真

3 ものづくりでの「環境のわざ」の例

 私たちが普段使用する製品にも、使用している際の環境負荷を下げるだけではなく、製造段階から廃棄に至るまでの製品のライフサイクル全般で環境配慮が行われているものがあります。
 例えば、ある自動車メーカーでは、車体の溶接時に出る火花の削減(「スパッタレス化」)を徹底するため、対策プロジェクトを設置し、工場全体で努力しました。その結果、生産効率が向上するとともに、省エネや廃棄物(鉄の飛散くず)が大幅に削減されました。また、EUのRoHS指令などの規制が強まっていることから、はんだづけの際に鉛を含まないはんだを採用する動きが広がっています。
 製品を廃棄する段階でも、なるべく廃棄する量を少なく、かつ、再利用を容易にするための取組が行われています。例えば、あるパソコンメーカーでは、解体のしやすさを配慮して、10年前に比べて、ネジの数を約10分の1に減らしました。これにより解体時間が短くなるとともに、部品のコストも相対的に下げることができたといわれています。
 また、ある製鉄会社は、鉄鉱石を銑鉄に還元する過程で必要な原料炭の一部に代えて、使用済みプラスチックを高炉に吹き込むことで原料炭の使用を減らしています。これと並行して、使用済みプラスチックを原料として再資源化した建築資材を製造・販売するとともに、その使用後の資材を再回収し、最終的に高炉原料として利用することによって、資源を有効に活用しています。
 自動車やパソコンなどを買う時、このような情報があると、より環境によい事業者を支援する消費行動をとることができます。地域のリサイクルを考える時も、このような情報が役立ちます。第2節で述べる「環境マネジメントシステム」は事業者の排出削減に役立ち、「環境報告書」はこれらの努力を生活者に伝える上で役立ちます。

 第2節 環境に配慮した事業活動の進展

 「環境のわざ」は、管理手法や事業形態にも及んでいます。環境マネジメントシステムや環境報告書は大企業の多くに普及し、金融部門でも環境に配慮した取組が始まっています。

1 環境マネジメントシステム

 事業者が自主的に環境保全に関する取組を進めるに当たり、環境に関する方針や目標等を自ら設定し、これらの達成に向けて取り組んでいくことを「環境管理」又は「環境マネジメント」と呼びます。また、このための工場や事業所内の体制・手続等を「環境マネジメントシステム」と呼びます。
 環境マネジメントシステムの代表的な国際規格が、国際標準化機構(以下「ISO」という。)が定めたISO14001です。ISO14001は、計画、実施、点検、見直しを継続的に実施することにより環境配慮の取組の改善を図っていくものです。
 日本では、ISO14001の審査登録件数は一貫して伸びており、平成16年2月末現在、14,309件の審査登録が行われています(図1-2-1)。ISO14001認証取得は、経営者に環境保全の取組について考える機会を提供するものであり、組織全体の意識改革を進める契機となります。「平成14年度環境にやさしい企業行動調査」(環境省。以下「企業行動調査」という。)によると、ISO14001の認証取得の効果として、「コスト削減」や「対外的な信用向上」を挙げる事業者もあり、環境面だけに止まらず企業経営上有益に働く場合もあります。さらに、原料や部品の調達先にISO14001の認証取得を求める事業者も現れています。

日本のISO14001審査登録件数の推移


 しかし、ISO14001の認証取得には、人材面、費用面からの負担が大きいため、中小企業にとって必ずしも取り組みやすいことではありません。そこで環境省は、中小企業も含めたあらゆる事業者の自主的な環境への取組を促進するため、中小企業向けの環境配慮のプログラムであるエコアクション21を平成8年に策定しました。平成15年度には、参加登録事業者数が1,000事業者を超え、大手企業が取引先等に導入を求めるなど、多くの成果を上げています。さらに、平成16年度には、エコアクション21を改訂し、従来の参加登録制度に代えて、対外的な評価を得ることができる認証登録制度を導入します。これにより中小企業における環境配慮の取組が一層促進されることが期待されます。
 また、地方公共団体・各種事業者団体等においても、簡易な環境マネジメントシステムへの取組や環境への取組状況を認証する諸制度を整備するなど、中小企業向けの仕組みが運用されています(表1-2-1)。
地方公共団体等における環境マネジメントシステムの事例

2 環境報告書

 環境報告書は、企業等の事業者が、自ら行う環境保全に関する方針・目標・計画、環境マネジメントに関する状況(環境マネジメントシステム、法規制遵守、環境技術の研究開発等)、環境負荷の低減に向けた取組の状況(二酸化炭素排出量の削減、廃棄物の排出抑制等)などの環境情報を総合的に取りまとめ、一般に公表するものです。
 その意義としてまず挙げられるのは、事業者と社会をつなぐ環境コミュニケーションの重要な手段ということです。株主、金融機関、取引先、消費者などの利害関係者は、事業者が環境問題に対し、どう考えどう行動しているか、環境報告書によって知ることができます。環境報告書はまた、作成事業者が事業活動を通じてどのような環境負荷を発生させ、これをどのように低減しようとしているのか、どのように環境保全への取組を行っているのかなどについて、外部の利害関係者に対して明らかにするための有効な情報提供の手段です。さらに、環境報告書の作成・公表は、事業者自身の環境配慮に関する方針、目標、行動計画等の策定や見直しを行うためのきっかけとなります。自社の取組内容を従業員に理解させ、その環境意識を高めるためにも、環境報告書は有益な手段です。
 消費者、取引先、投資家や求職者等が、環境報告書に記載された情報を判断材料として、事業者や製品・サービスを選択するようにすれば、積極的な環境配慮の取組が社会や市場で高く評価されるようになり、これが社会全体として一層の環境配慮を促すことにつながります。
 環境報告書を作成・公表する企業数は、着実に増加しています(図1-2-2)。企業行動調査によると、21.9%の企業が環境報告書を既に公表していると回答しています。上場企業では平成14年度に34%の企業が、非上場企業では12.2%の企業が環境報告書を公表しています(図1-2-3)。

地方公共団体等における環境マネジメントシステムの事例
上場・非上場企業別の環境報告書への取組状況

 環境報告書の普及促進のため、さまざまな取組が行われています。国では、環境報告書作成のためのガイドラインを策定し、公表しているほか、環境報告書のデータベース運営、シンポジウムの開催等を行っています。民間では、環境報告書ネットワークの活動や環境レポート大賞等の取組が行われています(表1-2-2)。
 また、国際的には、民間レベルで環境報告書の記載内容等に関するさまざまなガイドラインが発行されています。環境情報開示に関する制度化の動きもみられます。例えば、デンマークやオランダなどでは、法律等により、環境報告書の作成・公表が行われています。このほか、フランスやノルウェーなどでは、環境面の取組を財務に関する年次報告書へ記載することが制度化されています。
日本における環境報告書に関する取組

 規制改革推進3か年計画(再改定)(平成15年3月閣議決定)は、環境報告書や環境会計の普及促進及び信頼性確保を課題として挙げました。信頼性を確保するため、近年、第三者審査を受ける報告書が増えています。企業行動調査によると、「環境報告書を作成している。」と回答した650社のうち、第三者審査を既に受けている企業数は131社、今後受けることを検討している企業数は190社にのぼっています(図1-2-4)。また、第三者審査に関するガイドラインの作成や検討が、国内外のいくつかの機関で行われています。
 近年、企業の社会的責任に関する議論の高まりを背景として、従来の環境面に加えて、社会的な側面を加えた「持続可能性報告書」や「CSR(企業の社会的責任)報告書」等を作成する事業者が増えてきています。企業行動調査によると、環境報告書を作成・公表している事業者のうち、「持続可能性報告書を作成・公表している」又は「社会・経済的側面についても可能な範囲で記載している」と回答した事業者の割合は、4分の1を超えています(図1-2-5)。

環境報告書の第三者審査の受審状況
社会・経済的側面の記載状況

 ここまで見てきたように、環境報告書は、利害関係者に対する有力な情報開示手段となっています。そこで、環境報告書等による環境情報の開示を進めるとともに、その情報が社会全体として積極的に活用されるよう促すため、「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律案」が閣議決定され、第159回国会に提出されました。この法律案は、国による環境配慮等の状況の公表、特定事業者による環境報告書の公表、民間の大企業による環境報告書等の自主的な公表、環境情報の利用の促進等を内容としています(図1-2-6)。

「環境情報の提供の促進等による特定事業者等の環境に配慮した事業活動の促進に関する法律案」の概要


3 金融での環境配慮

(1)金融機関の環境への関心
 近年、金融機関の環境への関心が高まっています。平成15年10月、東京で国連環境計画・金融イニシアティブの会議が開かれました。今回の会議は、30以上の国の約100の金融機関から約500名が参加して開催されました。そしてその議論の集大成として、①環境に配慮した投融資対象の選定、②環境に資する金融商品の開発、③最適な環境ガバナンス体制整備、④ステークホルダーとの対話を内容とする、環境に配慮した金融機関の今後の活動のあり方を示した「持続可能な社会の実現に向けての東京原則」が発表されました。
金融機関の環境への関心には、以下のような背景があります。
①環境問題は、金融機関の経営そのものに影響を及ぼす可能性があります。例えば融資対象企業が土壌汚染・地下水汚染の判明を契機としてその対策に予想外の支出を強いられたり、土地取引に伴う損害賠償の支払い義務が生じることにより資金繰りに窮し、返済が滞るリスク(信用リスク)があります。これに関連して、担保設定した土地が汚染されていたために期待した水準の回収が困難となる等、担保リスクの問題もあります。
②金融機関にとって、環境問題への対応が新たな事業機会になることがあります。これは、リスク管理を中心として活動してきた伝統的な金融事業とは異なる、新たな動きです。
③金融機関は紙の使用や電力等のエネルギーの使用により環境に対して負荷を与えており、他の事業と同様ISO14001の取得が増えてきています(「銀行・信託業」及び「保険業」で50件(平成16年1月現在。(財)日本規格協会(環境管理規格審議委員会事務局)調べ))。

(2)金融関係の環境の取組
 金融機関は、事業者への資金の再配分を通じて間接的に環境に大きな影響を及ぼしており、環境問題に対する関心が事業経営に織り込まれるよう融資対象企業等に働きかけることができます。金融機関のこのような機能について、いくつかの取組が行われてきました。
 例えば、バーゼル銀行監督委員会の「自己資本に関する新しいバーゼル合意」の市中協議案には、環境リスク管理体制の整備の必要性が挙げられています。
 国内では、平成8年11月に(社)日本損害保険業協会が「損害保険業界の環境保全に関する行動計画」を策定したほか、全国銀行協会が、平成13年9月、地球温暖化対策や循環型社会の構築などに向けて、(社)日本経済団体連合会の環境自主行動計画に参加し、環境問題に関する以下のような行動計画を決定しました。
 ① 省資源・省エネルギー対策の推進による資源の効率的利用
 ② リサイクルを推進することによる循環型社会構築への取組
 ③ 環境面に着目した金融商品の開発・提供等、お客様の環境意識の高まりに対応した業務展開

(3)投融資・保険の新しい動き 
 欧米においては、投資対象企業の社会、環境、倫理的側面に配慮した「社会的責任投資(SRI:Socially Responsible Investment)」が増加してきています。これは、投資対象企業の短期的な財務パフォーマンスだけではなく、社会、環境、倫理的側面からの価値判断も加えて意思決定を行う投資行動です。その例として、エコファンドと総称される環境経営度の高い企業を投資対象とする投資信託があります。
 また、日本政策投資銀行は、平成16年度から「環境配慮型経営促進事業」という新しい融資制度を開始することとしています。この制度は、対象企業の環境リスクや持続可能性への取組を評価した環境格付けを行って、環境に配慮した経営を行う企業を選定し、融資に適用される金利を変えるなど、企業の環境への取組を融資の判断基準等に加えるものです。
 さらに、土壌汚染によるリスク管理をサポートするためのリスク評価がビジネスとなってきています。土壌汚染に係る対策費用等の負担に対するリスクについては、それらをカバーする保険の開発などが行われています。
 その他、例えば低公害車の購入について、銀行の中には低金利の融資を行っているところがあります。保険会社の中には、保険料率を割り引く「エコカー割引」を行っているところもあります。

4 環境保護で築く信頼感

 事業者は、環境保全のための新たな技術の開発や、環境に配慮した製品の開発など、環境負荷の低減にも寄与することができる立場にあります。グローバル化によって事業者の活動領域が広がる中、事業活動が環境に与える影響も、地球規模で拡大しています。
 また、国民の環境保全意識も高まっており、企業に求める役割も変化しています。内閣府の「国民生活モニター調査」(平成13年9月)によると、企業の社会的役割として、回答者の66%が「環境保護」を挙げており、また、今後企業が社会的信用を得るために力を入れるべきものとして、回答者の71%が「環境保護」を挙げています。
 加えて、近年「企業の社会的責任(CSR)」という考え方も注目されるようになっています。「企業の社会的責任」とは、企業が利潤を上げ経済的な責任を果たすだけではなく、法令の遵守、環境保護、人権擁護、消費者保護などの社会的側面にも責任を有するという考え方です。積極的に社会的責任を果たすことが消費者や投資家の信頼を集めることとなり、業績の向上や株価の上昇による資金調達の容易化をもたらすことができるという考え方も、広がりつつあります。
 企業が社会から期待される役割がこのように変化している中で、環境保全に関してより積極的な対応をしていると社会から評価されることが、事業者にとって重要となってきます。このような評価を確立するため、各事業者は、第1節で紹介した「環境のわざ」が盛り込まれた製品やサービスを市場に提供することに加え、環境報告書など事業者が持つコミュニケーションのツールを活用してきました。最近は、いわゆる「業界トップ」や「地域の顔」といった企業のみならず、今後市場拡大を目指す事業者や地場産品・農産物の高付加価値化を狙う地域にも、このような動きが拡大しています。

コラム
 企業の社会的責任(CSR)をめぐるさまざまな動き

 CSRについて、EU理事会は、平成14年7月、「企業の社会的責任:持続的な発展への企業貢献」という報告を出しました。この報告では、EUがあらゆる側面でCSRに取り組んでいくことを表明し、企業のCSRに関わる情報公開や監査等についての具体的指針を示しました。
 ISOは、平成14年に、消費者政策委員会でCSRの国際規格化について検討し、第1世代のマネジメントを「品質」(ISO9000)、第2世代のマネジメントを「環境」(ISO14001)、第3世代のマネジメントを「企業の社会的責任」と位置づけました。消費者政策委員会の勧告に基づき、技術管理評議会の下の高等諮問委員会でCSRが議論され、平成16年4月に報告書の最終案が技術管理評議会に報告されました。
 国内でも、CSRに関してさまざまな議論が行われています。(社)日本経済団体連合会では、CSRの推進には積極的に取り組むものの、CSRは民間の自主的取組で進めるべきとして、CSRの規格化や法制化に反対する一方、「企業行動憲章」等をCSRの観点から見直し、CSR指針として世界に発信していくこととしています。
 平成16年1月、環境省は、環境報告書ネットワーク、日本経済新聞社、(財)地球・人間環境フォーラムとの共催で、「CSRと信頼性確保」をテーマとするシンポジウムを開催し、環境報告書や持続可能性報告書、CSRの考え方について議論を深めました。経済産業省では、平成14年に「CSR標準委員会」を設け、国際的な動向を調べるとともに、国際標準化のあり方について議論しています。