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活動レポート

里なび研修会 in 東京
里地里山の保全・活用行動計画を考える

日時 2010年2月4日(木) 10:00~15:30
場所 東京農業大学 図書館4階視聴覚ホール

 里なび研修会を東京にて開催しました。今回の研修は、里地里山を保全活用するための条例や計画を元に施策を行っている自治体の手法を事例として学ぶとともに、進士五十八東京農業大学教授に、里地里山保全や活用、計画づくりに必要な考え方、視点等についての講演をいただきました。

■事例1 千葉県の里山条例と県民参加
千葉県農林水産部森林課森林政策室副主幹 西野文智

西野文智氏

 千葉県は平成15年5月18日に千葉県里山条例(千葉県里山の整備、保全及び活動の促進に関する条例)を施行しました。森林や農地の減少や放棄、産業廃棄物等の不法投棄などを背景として、県の若手職員が政策法務研修において里山保全条例の提言をまとめ、県庁内ワーキング、パブリックコメント、市町村との意見交換等を含めて条例化しました。目的は里山の保全、整備及び活用を促進による里山の多面的機能の持続的な発揮です。
 事業は、「里山活動協定認定制度」が柱です。土地所有者と里山活動団体が里山活動協定を締結し、県が認定、活動支援を行っています。現在の認定数は112件で、私有林が中心です。あわせて、条例に基づき千葉県里山基本計画を策定し、活動支援組織として「ちば里山センター」を設立しました。運営は里山活動団体が主体で、行政は側面支援。2010年4月よりNPO法人としてスタートする予定です。里山公開講座なども開催し、テキスト化しています。「里山の日」を5月18日に設置し、啓発活動として里山シンポジウムや里山活動体験行事を行い、県民参加による里山活動の促進をしています。里山シンポジウムでは、県は主体に入らず、財政的支援のみで、活動団体の自主的な取り組みとなっています。「みどりのサポーター」育成として、リーダーを養成し、地域団体の立ち上げができるように取り組んでいます。また、活動が盛んになり、自立する団体も増えており、里山活動から本格的な森林整備活動に進化した団体もあります。
 千葉県の課題としては、森林荒廃、谷津田等の耕作放棄地が増えており、都市地域の活動団体がそこまで整備範囲を広げられないこと、イノシシによる獣害被害や放置竹林の拡大が負のスパイラルを招いていることなどがあげられます。法人の森制度、森林整備に伴う二酸化炭素吸収の認証、生物多様性ちば戦略、千葉の里山・森づくりプロジェクトなど、多様な主体による参画や協働を推進し、施策連携により取組みの幅を広げていくことが大切です。

■事例2 神奈川県の里地里山条例と保全地域の選定
神奈川県湘南地域県政総合センター農政部農地課主任技師 林祐一郎

林祐一郎氏

 「神奈川県里地里山の保全、再生及び活用の促進に関する条例」を平成19年12月に制定、施行は平成20年4月1日です。目的は、里地里山の多面的機能の発揮と次世代への継承ですが、対象としては、「里地里山」を「現に管理・利用され、またはかつて管理利用されていた場所と人が日常生活を営む場所が一体となっている地域」と定義しました。
 仕組みとしては、里地里山保全等地域の選定(市町村が申出、県が認定)→里地里山活動協定の認定(選定地域の中での活動団体、地権者との協定を認定)→活動の支援(県の支援)の流れです。
 財政的には、里地里山保全等促進事業費として、里地里山情報発信事業(啓発事業)、里地里山保全等市町村支援事業(市町村への助成)、認定協定活動団体支援事業(団体への補助)で成り立っています。
 スタートしたばかりですが、平成20年から施行で2年度目、8地域(6市、1町)を選定。面積で、5334ヘクタール、里地里山活動協定認定が7協定(7団体、5市、6地域)で、85852平方メートル(0.1%)です(2009年10月27日現在)。
 地域の選定が終わっても、協定認定ができていないところもあります。
 団体の要件のひとつに、選定地域に住んでいる住民が過半数を超えているということとしています。地域の実態に即した活動を支援することがねらいです。
 「かながわ里地里山保全等促進指針」を策定し、平成25年までに、16地域、協定認定は20団体を目標としています。
 神奈川県の里地里山条例は相対的に面積が少ない農地エリアに重点が置かれています。そこでは、農地法などとの整合性等、相続税などの問題があります。
 神奈川県には、水源税制度もあり、水源の森林づくりを別途進めており、活動団体にはこの水源税施策で支援を受けて活動している団体もあります。
 今後も、国、県、市町村の事業を組み合わせながら事業を進めていきたいと考えます。

■事例3 一社一村しずおか運動と活動内容の広がり
静岡県建設部農地局農地保全室農村環境スタッフ副主任 佐藤一樹

佐藤一樹氏

 静岡県では、耕作放棄率が全国平均よりも高く、農業者だけでは農地や土地改良施設の維持管理が困難な現状にあります。
 県の農地局として、水・土・里の資産を次世代に継承するために、韓国の「農村愛一社一村運動」を参考に、施策を組み立てました。
 里地里山側の課題とともに、企業、都市側は、農業農村に対する関心が高まり、農村地域における対等な協働関係の可能性があると判断したからです。
 実際に韓国で全体的な仕組みの調査、成功事例の実施調査を行い、静岡県内外の企業1000社にアンケート調査を実施した結果、回答した418社のうち82社が関心を示し、そのうち6社はすでに同様の活動を行っていました。
 活動内容としては、森林保全活動、農村地域イベント、農業生産活動、ビジネス提携などが希望として上げられ、企業参加のポイントとして、市町、県やコーディネート機関による支援が求められていました。
 これらを踏まえ、県が農村集落と企業をつなぐ制度として平成18年度に開始しました。
 認定基準は、双方にメリットがあること、地域活性化、3年以上の継続性です。
 企業・団体は、部署単位、事業所単位、商工会等、大学、NPO等など様々で、受ける集落範囲は、自治会等、営農組合、農業法人等のグループも可能としています。
 コーディネートはホームページを活用しています。4年目で20件を認定し、件数は増えつつあります。
 具体的な例では、浜松市北区引佐町渋川地区で、地元の体験交流施設を運営するNPO法人があり、県内の旅行会社が社会貢献として、ホームページを通じて応募してきました。
 まず、平成19年3月に、県がバスを仕立てて興味のある企業を集め、取り組みたい農村地域を回って交流、認定に至るようマッチングさせるマッチングツアーに企業が参加し、活動を開始、20年9月に認定しました。活動開始から1年ほどかかっていますが、県では継続性があるようお見合い期間をもうけています。すでに、里山管理活動だけでなく、祭り準備への社員の参加や社員の親睦の場などとして地域との交流を深めています。
 このほか、地域と大学の研究室、地域と大学のボランティア団体、農水省の農地・水・環境保全向上対策事業を担う地域団体と企業の連携、農商工連携として、認定した農村地域で栽培された古代米を使った焼酎を作り、その売り上げの一部を酒造会社・卸業者・小売酒販組合が地域へ寄付するなどの広がりもあります。
 県として財政的な支援はなく、認定によって企業側、地域側に取り組みやすい状況をつくることに徹しています。

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■講演 環境市民のライフスタイル
東京農業大学教授 進士五十八

進士五十八

 里地里山条例や企業との連携などは評価できますが、あくまで点と点の活動であり、県や国の施策としては、最終的に国土の4割を占める里地里山を面として保全再生することを考える必要があり、そのための条例や行動計画という視点が必要です。
 とりわけ、里地里山は地域的な問題であり、自治体が政策を立案し、それを実行する能力が必要です。そこには、事務系だけではだめで、現場に出ている技術系の知恵も合わせる必要があります。
 「ランドスケープ(Landscape)」という言葉があります。「景観」と訳されますが、実は「土地や自然」を「全体として、総合して」見るという意味です。ですから、建物や橋、地形、植生などだけでなく、そこに歩く人もランドスケープに含まれます。
 土地や気候条件などにより植生ができ、そこに人が暮らしやすいように手を入れてきた過程があり、そこに住む人柄や文化が生まれています。里地里山の地域的な問題とは、その人間の多様性を大切にして取り組むということです。
 人間も生物も風土に依拠して多様化しています。種や遺伝子の多様性だけでなく、人間の多様性も考えましょう。
 そこから、里地里山の保全活用や計画づくりの基本は、次の3つです。

  1. 楽しくあるべき。楽しいことが大事。
  2. 多様であることが大事。里山保全のやりかたはこれが正しい、と決めつけない。
  3. 都市的主体で考える。実は、里地里山はこれまで農業的土地利用でしたたが、今後は都市的土地利用に変える時代です。国民の8割が都市市民であり、農的な利用をすべきですが、保全活用の意識には、都市の人たちの活動のフィールドとなることを考えるときです。

 現代の都市社会には、様々な人の負の課題があります。その負の部分を補い、都市社会の問題を解決できるのが里地里山です。都市が里地里山に学んだとき、環境共生社会が生まれます。それは3つの共生の社会です。

  • 自然共生 生物的自然との共生
  • 環境共生 資源・エネルギーなどの持続性
  • 地域共生 都市と農村の共生、先進国と発展途上国の共生等。

 都市と農村などの地域は、いずれも必要であり、すべての国家が同じ経済や社会状況になる必要はなく、常に多様で、お互いを認めることが大切です。
 里地里山の保全活用を含む「エコ」の先には、アメニティがあります。快適さです。快適さは、多様性、多層性が大事です。いろんな人、いろんな世代がそれぞれに意味を持ちます。言い換えると、「楽しく豊かな環境福祉」です。いい環境でいい時間をいい仲間たちと過ごす、その国民的な環境福祉における、社会資本が里地里山です。
 そこでは、仕事も遊びも境界を失います。今は、遊びと仕事が明確に分けられていますが、かつての社会では遊びでも仕事でもある「遊び仕事」がありました。農業などはまさに遊び仕事の積み重ねです。里地里山保全活動や計画は、「遊び仕事」のような視点、多様性、多層性を活かした、「ほどほどの規範」で、楽しくできるような発想からつくってください。

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