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里なび

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活動レポート

里なび研修会 in 石川
外来種から里地里山の生態系を守るには

日時 2008年12月13日 (土) 集合10:00 解散16:00
会場 金沢大学・角間の里、周辺の里地里山 (石川県金沢市)
活動団体 ザリガニゲット北陸ネットワーク

今回の里なび研修会のテーマは、侵略的外来種です。
わが国の里地里山には、生物多様性上重要な生態系があります。しかし、管理の衰退による危機に加え、近年では、オオクチバス(いわゆるブラックバス)やアライグマなどの侵略的な外来種が国内で繁殖し、在来の生物を駆逐し、生態系を変えてしまうことが大きな問題になっています。特に、未侵入地域への外来種の新たな侵入は、現存の生物多様性に大きな影響を与えることが懸念されます。
里地里山環境の中では、田んぼや水路、ため池といった身近な水辺環境において、アメリカザリガニやオオクチバスが侵入し問題になっています。その駆除は容易ではない上に、侵入後の駆除対策が生態系に別の悪影響を及ぼしてしまうこともあります。
アメリカザリガニは、外来生物法の特定外来生物には指定されていませんが、要注意外来生物リストには掲載されており、里地里山の生態系に影響を与え、被害をおよぼしていることが指摘されています。
そこで、里地里山の生態系を脅かす侵略的な外来種やその対策について研究、活動を行っている方々によって、この問題の把握と、拡大防止等の対応に関する研修会を実施しました。

角間の里にて研修会
角間の里にて研修会

「石川県における里地里山の現状」として、金沢大学教授の中村浩二さんが基調報告を行いました。中村さんは、「里地里山の水辺環境は絶滅危惧種の宝庫ですが、過疎化、高齢化などによる耕作放棄地や農業生産の低下が起こり、ため池などが使われなくなったことで荒れています。さらに、オオクチバス、アメリカザリガニ、ウシガエルなどがそこに入り、状況を悪化させています。ある特定の生物や特定のため池の保全といった対応だけでなく、地域の全体状況を変える視点が必要です。農業環境を整備するほ場整備における水路などの環境配慮についても取り組みには科学的な評価が必要です。農業などの生業との関係を大切にしながら、希少生物やトキ、コウノトリといった生物との共生を図る必要があり、ビオトープ作りなども、目的と管理、評価が必要になる」と、里地里山の生物多様性保全における総体的な議論の視点を提示しました。

中村浩二さん
中村浩二さん

この基調報告を受けて、各地の報告が行われました。

「石川県における水辺の外来種問題」として、石川県ふれあい昆虫館より富沢章さんが現状やふれあい昆虫館における取り組みを報告しました。
石川県内にいる水辺の外来動物として、特定外来動物のアライグマ、ウシガエル、オオクチバス、コクチバス、ブルーギル、要注意外来動物のミシシッピアカミミガメ、アメリカザリガニがいます。
金沢市では環境基本計画で外来魚対策を行い、ため池での駆除活動や放流禁止などの啓蒙、パトロール活動を行っています。
また、ゲンゴロウ類などの保全を目的として研究者による調査研究と行政への働きかけによる石川県能登北部でのオオクチバスの駆除実施、講演等の啓蒙活動を実施している事例、加賀市内で、「親子での魚とり大会」をため池で行い、オオクチバス、ブルーギルの駆除とフナ、コイの増加例があります。
アメリカザリガニは、雑食性であり、小動物、水生植物を食べて生態系を大きく変えること、駆除が困難であり、また、日本人には身近な存在として、1980年代まで教材などに使われ、ペットとしても人気があることから、外来動物としての認識が欠如し、駆除作業がほとんど行われていません。
また、石川県ふれあい昆虫館でも、みどり池に開館当初植栽した水草とともにアメリカザリガニが侵入しました。70平方メートルの池では約400匹を駆除、1200平方メートルの池では水抜きをしても完全に乾燥しないため完全な駆除には至っていません。これらの結果、トンボ目をはじめ、カメムシ目、コウチュウ目など水生昆虫の種類が減少し、デンジソウ、ヒシ、ヒルムシロ、ウキクサなどの水生植物が全滅しました。アメリカザリガニの生態系への影響力の大きさと駆除の難しさが浮き彫りになりました。

富沢章さん
富沢章さん

「水草にとっても大脅威! アメリカザリガニの影響」として、株式会社環境アセスメントセンターの関岡裕明さんが水草への影響と対策を報告しました。
保全していた水路の水草がアメリカザリガニの食害によって2年で失われたことから、アメリカザリガニによる水草の食害実験を行いました。その結果、トチカガミなどやわらかい草質の水草を好み、約1週間で自分の体重以上の重さの水草を食べること、サンカクイなどのかたい草質の水草はあまり食べず、食べても完食はしないことなどが明らかになりました。食害例としては、イヌタタキモ、ミズアオイ、ヒツジグサ、ヒメビシ、ミズニラ、トチカガミなどがあります。
分布には道路を歩くなど陸上での拡大もあります。
対策としては、小さな池では完全に干し上げること、侵入抑止するならば波板などで保全したいエリアを完全に閉鎖すること、捕獲するならば、タモ網が効率的であり、カゴ罠などの組み合わせが考えられること、啓蒙活動が欠かせないことを上げました。

関岡裕明さん
関岡裕明さん

「アメリカザリガニの侵入による水生昆虫への影響と保全対策」として、東京大学大学院の西原昇吾さんが、アメリカザリガニについての知見の現状、影響などについて報告しました。
アメリカザリガニが生態系に大きな影響を与える要因として、アメリカザリガニが水田、用水路、ため池などの浅い場所に生息し、水質汚濁にも強いこと、陸上での移動や巣穴を深く掘る行動などの特徴、さらに、雑食性であり、国内では大型肉食性魚類等による捕食圧が小さいことなどがあります。
一方、身近なペットや理科教材に使用されてきたことなどから、現在でも学校で飼育している例もあり、侵略的な外来生物としての認識がないことから拡散の要因になっていることが考えられます。
アメリカザリガニが絶滅危惧種をはじめとする生物に影響した例として全国で調査報告されているいくつかの事例の紹介があり、アメリカザリガニの実態調査として、捕獲調査をしたところ、1平方メートルあたり12匹の生息が確認されています。調査地は、アメリカザリガニが侵入していない周囲に対し、動物、植物とも種類、個体数とも少ないことが確認されています。
ゲンゴロウ類などの水生昆虫に対する影響は大きいですが、同じ水生昆虫、水性生物でも姿を消す種と、共存できる種があります。ただし、共存については、見かけ上の可能性もあり、調査が必要です。
駆除事例としては、ゲンゴロウ類が生息するため池などで、アナゴカゴによるトラップ設置、タモ網などがあり、早期に集中して行うことでの対処が必要です。
基本的には、「入れない、捨てない、広げない」ことです。

西原昇吾さん
西原昇吾さん

「河北潟の外来種問題とその対策」として、NPO法人河北潟湖沼研究所の高橋久さんが、河北潟の取り組みを報告しました。
河北潟干拓地ビオトープが1998年に造成された後、2000年にアメリカザリガニが侵入し、2001年には植物の3分の2が消失しました。アサザの減少が各地で確認されています。
別の外来種の状況として、ホテイアオイおよびチクゴスズメノヒエ増殖事例が紹介されました。
侵略的外来種の除去について、植物の場合、重機による除去は効果的でも、取り残しが起き、爆発的に増殖が起きることにつながりかねない点に注意が必要です。
ホテイアオイについては、越冬株が成長する前に除去することが望ましく、拡大してしまった後の除去は大変困難になります。除去活動は、最初は少数ではじめていても、実際に環境回復の成果や活動を周囲に見せていくことや啓蒙活動を行うことによって地域での参加が期待でき、多様な主体の参加での活動が展開できるます。また、小学生がホテイアオイ増殖の報道を受けて除去活動を自主的に行うなど、正しい情報発信も必要です。
除去活動の場合、「活用」の面も考え、現在は回収した植物のたい肥化、農業への活用なども行っています。

高橋久さん
高橋久さん

「福井県の事例 ザリガニゲット大作戦およびオオクチバスの駆除後にアメリカザリガニとウシガエルが増えた事例」として、福井県自然保護課の松村俊幸さんが報告しました。
福井県で、トチカガミ、デンジソウやハグロトンボ、ゲンゴロウ、オオコオイムシといった水辺の生きものの宝庫だった湿地にアメリカザリガニが侵入し、水草が消え、生態系に大きな影響を与えました。
福井県では、里地里山の保全活用戦略を「人とメダカの元気な里地づくりビジョン」として策定し、メダカに象徴されるような身近な生物、希少野生生物が生息し、人が生業や生活の中で生き生きとなるための取り組みを推進しています。そのひとつとして、希少野生生物保全指導員を養成し、2年間で64名となっています。生息環境の維持管理や保全活動、モニタリング調査などを指導員が行っています。また、小学校での環境教育支援、環境保全型エコツーリズムの実施などを行っています。
アメリカザリガニが侵入した越前市のため池では、ザリガニゲット大作戦を実施し、子ども達をはじめ多くの人がいっせいにザリガニ駆除をイベントとして行いました。
福井県では、侵略的外来魚については、駆除と啓発活動によって、漁場から撲滅することを目指しています。県内のあるため池で、ブラックバス、ブルーギルを一斉駆除したところ、2年の調査でそれまで捕食圧のため増えていなかったアメリカザリガニやウシガエルがため池に近い水路から侵入していました。在来種のドジョウ、ニホンアカガエル、ツチガエル、ヨコエビ、イモリなども確認されています。ため池などにおける侵略的な外来種としては、ブルーギル、オオクチバス、ウシガエル、アメリカザリガニの場合、ブルーギルが入ると他のオオクチバス、ウシガエル、アメリカザリガニの数を抑え、ブルーギルがいない場合、オオクチバスが、ウシガエル、アメリカザリガニの数を抑えるようです。数が抑えられても、ウシガエル、アメリカザリガニがいなくなるわけではなく、ブルーギルやオオクチバスを駆除することで、アメリカザリガニが数を増やすなどの状況が起きることもあります。

松村俊幸さん
松村俊幸さん

「金沢市におけるバス駆除、ザリ駆除とトンボ相の関係」として、金沢市夕日寺健民自然園園長の村上貢さんから、取り組みの報告がありました。
夕日寺健民自然園は、1980年に里山の身近な自然環境を保全し、多様な生きものにふれあえる場として開設され、さまざまな環境教育等の活動が行われています。ここには、1993年にビオトープとして7つの池が造成され、「トンボサンクチュアリー」として、多くのトンボ類が生息していましたが、ブラックバス、アメリカザリガニによりその数を減らしています。
調査によると、造成後数年は、トンボの種類が増加したものの2001年頃から種類が減っています。ブラックバスを駆除した池ではアメリカザリガニが急増しました。アメリカザリガニの増加により、水草が壊滅し、水質が悪化する、ヨシが増えるなどの環境の変化がみられます。
現在、ブラックバス、アメリカザリガニの採取を来園者に勧めており、外来種としての影響のPRを行っています。
アメリカザリガニの捕獲記録を2002年より続けており、6、7月の捕獲がもっとも多くなっています。外来種問題としてザリガニ釣りのプログラムを実施するほか、「ザリガニ釣り」をレジャーとして楽しみに訪れる団体や親子などが増えています。
捕獲の継続とともに普及啓発活動を行うことが必要です。

村上貢さん
村上貢さん

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これらの報告を踏まえ、「外来種から里地里山の生態系を守るための行動計画と科学的検証方法」 として、発表者、参加者で、計画策定や検証方法を確立する上での方針などについての意見交換を行いました。

会場も交えてのディスカッション
会場も交えてのディスカッション

その後、実際にアメリカザリガニが侵入し、生態系に影響を与えているため池を訪れ、タモ網等による駆除作業を実習し、オスメスの違い、成長段階における大きさや駆除方法、在来種の確認などを行いました。

ザリガニ駆除研修
ザリガニ駆除研修
冬季でもたくさんのザリガニが
冬季でもたくさんのザリガニが

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