ページトップ
環境省自然環境・生物多様性里なび活動レポート > 研修会・シンポジウム報告

里なび

ここから本文

活動レポート

里なび研修会 in 北海道
里地里山保全再生計画策定研修
苅澗川周辺の里地里山一体的保全活用

日時 2008年12月4日 (木) 5日 (金)
集合場所 大沼国際セミナーハウス (北海道七飯町)
活動団体 NPO法人ねおす

今回の研修は、北海道・駒ヶ岳の火山活動によって形成された堰止湖である七飯町「大沼」周辺、とりわけ苅澗川周辺をモデルに里地里山保全再生計画策定手法の研修会を実施しました。
大沼は、大沼国定公園として指定され、年間を通じて多くの観光客が訪れます。最近では、海外からの観光客も多いようです。この地域は、北方系と南方系の植生が混生しています。湿地も多いため、かつては水田稲作が盛んでしたが、近年は水田が減少し、草地やヨシ原となっているところも多いようです。
今回の活動団体、NPO法人ねおすは、北海道各地で、エコツアーや、自然学校、子どもたちの体験学習などのプログラムや人材育成プログラムを企画・実行している団体です。
大沼周辺でのエコツアーの方向性を考える上からも、今回の研修会を行いました。

研修は、「里地里山保全再生計画策定の手引き」(環境省)を元に、まず、計画策定の考え方や取り組み方法について、里地ネットワーク・事務局長の竹田純一が講義しました。
この「手引き」は、平成16年度から19年度にかけて環境省が実施した里地里山保全再生モデル事業での検討、取り組みをふまえて作成したものです。
まず、里地里山保全は、農地や林地なども対象エリアとなることや地域における取り組み、参加が欠かせないことから、全体の調整を行うコーディネーターの資質、役割が重要です。
次に、現状の里地里山の生物、自然状況を把握することと、その地域の社会状況の調査が必要です。自然状況の把握には、植生や動物相、水がどこからどこに流れているのかといった基本的な情報です。社会状況の調査は、人口や産業などの基礎データもありますが、その地域で、現在や過去において何を食べ、どこで遊び、地域の資源をどのように活用していたのかといった生活文化、農林水産業などの生業に関わる情報が必要になります。
これらの情報は、計画策定者が得るだけでなく、その地域に暮らす人達が情報として共有することが欠かせません。そこで、「里地里山たんけん隊」といった名称で、地域の人達、外部からの参加者が一緒に歩き、調べていく調査活動を行います。

今回の研修では、参加者が「コーディネーターになる」ことを想定して、地権者、活動団体などの役割を念頭に置きつつ、この調査活動を実施しました。
まず、白地図を用意し、七飯町の大沼湖畔にある流山温泉付近の昔水田であった場所を起点に、大沼に流れ込む苅澗川などの河川や水路に色を付けて水のゆくえを把握します。その上で、いくつかの班に分かれ、集水域の上流部まで行って、そこから大沼湖畔までの一体を調査しました。植生の把握、景観、特徴的な土地利用、そのほか生活や生業で気がついたことなどを写真に撮り、地図に書き入れながら調査します。
その後、地域のことに詳しい方々に、それらの資料についての聞き取り調査を行いました。

地図の作成
地図の作成
フィールドワーク風景
フィールドワーク風景
調査風景(流山地形)
調査風景(流山地形)
調査風景(薪を積む)
調査風景(薪を積む)
調査風景(畑に集まるハクチョウ)
調査風景(畑に集まるハクチョウ)
調査風景(いたるところに湿地が)
調査風景(いたるところに湿地が)

また、平行して、北海道開拓記念館の学芸員・堀繁久さんを中心に「生きもの調査隊」を組織し、あらかじめ把握した生きものが多いと見られる場所で現況の生物調査を行いました。12月の北海道でしたが、幸いなことに、研修の両日とも日中は摂氏10度近くまで気温が上がったため、屋外での調査を行うことが可能でした。

生物調査(チョウの越冬観察)
生物調査(チョウの越冬観察)
生物調査(ジョウザンミドリシジミ越冬卵)
生物調査(ジョウザンミドリシジミ越冬卵)
生物調査(オオヒメゲンゴロウ)
生物調査(オオヒメゲンゴロウ)
生物調査(マツモムシ)
生物調査(マツモムシ)

ページトップへ

これらの生物調査結果、写真と聞き取りによる資源カード作成、地図の作成の研修を行った上で、計画策定に向けた意見交換会や検討会などを模擬的に実施しました。
参加者は、フィールドワークを行っていく過程で、この地域のことについて情報の共有と特徴の把握ができていることで、計画策定についての議論が具体的かつ建設的に行われることを学びます。
この検討会でも、地域からの参加者を地権者と位置づけ、外部からの参加者とともに、里地里山保全のために「やりたいこと」「課題だと思うこと」「将来の方向性」について議論していきました。

フィールドワーク結果の共有
フィールドワーク結果の共有

研修会を通じて、昆虫が専門の堀繁久さんは、「まず、今どんな生きものがいるかを調べることです。それから、周囲の環境がどのようになっているかを調べることです。その上で、保全作業をします。周囲の環境が生物にとって望ましいものであれば、たとえばビオトープ整備などを1カ所、少しだけ行うと、そこに回りから生きものが集まってきます。その際、生きものの生態として、水の流れ、日光がどのように当たるか、その場所の植生、水場の底の土質などを考えることが必要です」と、アドバイスしています。
参加者からは、「網を持って水辺に入る生物調査は、それだけでも大人も子どもも十分に楽しめるプログラムになるのでは?」との提案があり、堀さんも、「人間は、何かを捕まえるという行為自体に狩猟的な喜びを感じます。捕まえたあと、基本的には持ち帰らない、持ち帰らせるとしても、必ず飼育方法を教え、最後まで責任を持って飼育することや、遺伝子をかく乱させないよう他の場所に放さないことを教えることです」と話しました。

北海道開拓記念館学芸員・堀繁久さん
北海道開拓記念館学芸員・堀繁久さん

NPO法人ねおす理事長の高木晴光さんは、「この地域は、谷地、湿地であるのに、子どもの頃、どこでも遊んでもよかったという話を聞きました。それは、危険な場所が少ないということです。エコツーリズムを行う上でも、活動できるフィールドがたくさんあると考えられます」と語り、専務理事の宮本英樹さんは、「この地域は、北海道内の人からは、東北など本州やイメージとしての伝統的な“日本”を感じさせる風景、景観があります。一方、北海道外の人には十分に“北海道らしい”風景、景観です。トドマツの南限でありながら、トドマツが目立つのは人が移植して活用しているからでしょう。ヨシ葺き屋根の家の中に、薪ストーブがあるといった和洋折衷も感じます。この風景や生活の魅力を感じました」と話します。
参加者からは、火山活動の結果、周辺に点在する「流山」と呼ばれる丘陵地形や、ヨシ原などを地域の特徴としてとらえ、これらも里地里山保全に役立つ地域資源ではないかといった話も出ていました。

里地ネットワーク・竹田事務局長
里地ネットワーク・竹田事務局長

ページトップへ

研修会は、2日間の間に、自然調査、社会調査、フィールドワーク、試行・計画策定に向けた検討方法など、計画策定やコーディネーターとして必要な手法を一通り行いました。
参加者の中でも、とりわけ行政関係者、保全活動団体、実際に里地里山保全を検討している企業担当者等が今後手法を活用したいとしています。

NPO法人ねおす [外部サイト]

里地里山保全再生計画作成の手引き

ページトップへ