海洋生物多様性保全戦略


環境省保全戦略トップ海洋生物多様性保全戦略目次第4章 海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用の基本的視点  > 4.地域の知恵や技術を生かした効果的な取組

第4章 海洋生物多様性の保全及び持続可能な利用の基本的視点

4.地域の知恵や技術を生かした効果的な取組

 四方を海に囲まれた我が国は、その歴史を通じて、各地の産業や文化の形成・発展に必要な物資や人間の輸送の場として、あるいは我が国の食生活の重要な構成要素となっている水産物の確保の場として、積極的に海洋を利用してきた。

 このような歴史的な背景から、特に沿岸域においては、様々な主体が関係して海を利用し、また管理してきている。こうした多様な利用・管理主体の取組も踏まえ、効果的な海洋の生物多様性の保全及び持続可能な利用を推進することが重要である。海洋の生物多様性を保全しつつ持続可能なかたちで利用することは、海洋を利用する者の責任でもある。
我が国の沿岸域での漁業の歴史は極めて古いが、江戸時代には漁具や漁法も発達し、現行の漁業権や入漁権の原型といえる漁場を排他的に利用する権利関係の秩序が形成された。沿岸の漁村集落がその地先水面を独占利用する権利が認められ、言い換えれば、地先水面の管理は、地域の漁業者及びその集落の責任で行われる体制が形成されたといえる。このような歴史的な経緯を踏まえて、我が国では現在も、漁業資源を地域において厳しく管理している事例が見られる。例えば、漁業協同組合などで自主的に行う漁業管理として、漁場環境の保全、魚礁の設置、禁漁区の設置、操業水域の制限などが実施されることが多い。20

 海氷形成の影響を受けて特異な海洋生態系を有するとともに、海洋と陸域の生態系の相互関係が顕著であるとして世界自然遺産に登録された知床では、2007年に多利用型統合的海域管理計画を策定し、順応的管理の考え方のもとに漁業者の自主規制を基本として漁業資源の維持を図りながら海域の生物多様性の保全を目指している。

 地域の人々が自主的に行うこれらの取組は、関係者による柔軟できめ細かな管理が期待できるなど、法律に基づく規制以上に生物多様性の保全・管理を効果的に行う有効な手段となる場合もある。近年では、人間の暮らしと自然の営みが密接な沿岸域において、自然生態系と調和しつつ人手を加えることにより、高い生産性と生物多様性の保全が図られている海は「里海」として認識されるようになってきており、地域で培われてきた海と人間との関わり方の知識、技術、体制を活かして、適切な保全と利用を進めることが重要である。
広大で多様な主体が関係している海洋の生物多様性を維持していくためには、多様な主体間のより一層の連携とそのための仕組みづくりも欠かせない。先に挙げた知床世界遺産地域における取組では、関連する科学委員会や地域連絡会議などにおいて、地域住民、産業界、有識者、行政等の多様な主体の連携の仕組みが形成されたことも重要な点である。
このような連携の仕組みは、長期にわたるモニタリングの継続及びその成果に基づく沿岸域の保全や再生、順応的な管理のためにも重要である。


202008年の漁業センサスによれば、全国で1,738の組織が自主的な漁業管理を実施しているとされている。
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