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水素基本戦略

ポイント!

水素基本戦略とは、CO2排出量の削減目標を達成するために、水素社会の実現に向けて進んでいくという日本の行政方針のこと。2023年に改定がなされ、エコなエネルギー源である水素の普及に向けて、水素の生産から消費までを総合的に発展させていく具体的な計画も発表されています。

水素は燃焼時に CO2を排出しないクリーンなエネルギーで、燃料電池にも使えるほか、原料として使用できる可能性があるとして大きな注目を集めています。再生可能エネルギーを含むさまざまな方法で生産が可能であることも特徴です。保存しやすいエネルギー源なので、余剰なエネルギーから生成した水素を貯蔵して、必要なときに取り出すことが出来ます。

水素基本戦略とは、2017年に日本政府が発表した、2050年までに水素を主なエネルギー源とする社会をつくっていくという意思表明です。なぜ「2050年」なのか? 理由は、日本全体でCO2の排出量と吸収量が差し引きゼロとなるカーボンニュートラルの実現目標の年だからです。この目標の達成には、水素の活用が不可欠です。

水素を普及させるためには、他のエネルギーと同様に「作る」・「運ぶ」・「使う」という流れ、つまりサプライチェーンの整備が第一歩となります。水素は水の電気分解や、バイオガス・廃プラスチックから生成され、配管を通したり液化されたりして運ばれますが、そのための施設や技術はまだ足りておらず、国は水素の供給・輸送の技術に投資を行っています

「使う」ことにおいても、一般の人が水素をエネルギーとして気軽に活用できているかというと、現状はまだまだです。日本が世界に先駆けて実現した燃料電池自動車のような、身近な場面での水素の消費方法を普及させられれば、大量供給・大量消費のサイクルがつくられ、水素の価格はどんどん安くなっていきます。水素基本戦略によれば、よく使われる燃料である液化天然ガスの価格を水素供給コストに換算すると1立方メートルあたり24円※1。対して水素の価格は100円※2です。政府はこれを、2030年までに30円へ、さらに2050年までに20円へ引き下げる目標を掲げています「※1 水素基本戦略(令和5年6月6日改定)より」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisei_energy/pdf/hydrogen_basic_strategy_kaitei.pdf
「※2 再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議(第4回 令和5年6月6日) 議事次第 資料1-1より」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/saisei_energy/kaigi_dai4/siryou1-1.pdf

水素基本戦略

水素基本戦略は2023年6月6日に改定され、2040年までに年間で1200万トンの水素を導入するという具体的な目標が掲げられました。また、水素から生成されるメタンやアンモニアなどの合成燃料も脱炭素に必要なエネルギーであるとして、水素と並行して研究を進められることに。2017年で示された家庭での利用に加え、今回の改定によって、工場や機械、陸・海・空の輸送手段などの産業面でも水素の消費を拡大していく意向が示されました

環境省では地方自治体と連携して、再生可能エネルギーなどの地域資源を活用した、地域密着型の水素サプライチェーンの構築に取り組んでいます。例えば、北海道の鹿追町と帯広市では酪農・畜産が活発な土地柄を活かし、家畜のふん尿から水素を生成する「しかおい水素ファーム」を2017年に開所しました。作った水素は水素ステーションや近隣施設に運ばれ、燃料電池を使った魚の養殖設備や自動車に利用されるなど、市民や企業もかかわる形で生産から消費までの水素サプライチェーン構築の実証に成功しています。現在も、しかおい水素ファーム近くの水素ステーションにて、ファームの生成した水素が販売されています。

燃料電池

一方、宮城県富谷市では、太陽光発電を利用して生成した水素を持ち運びできるようにした「水素吸蔵合金カセット」を使った水素サプライチェーンを実証しました。水素吸蔵合金とは、水素を取り込むことができる合金であり、固体状態で水素を運ぶことができます。水素を充填したカセットは、みやぎ生協の物流網を活用しながら一般家庭や公共施設、店舗に運ばれます。それを燃料電池にセットすることで、電気と熱が供給される仕組みです。

水素吸蔵合金カセット

ここで紹介した取り組み以外にも、水素を体験できる施設や燃料電池バスなど、私たちが日々の暮らしの中で水素を活用した取り組みに触れる機会は、少しずつ増えてきています。そうした情報は、環境省のポータルサイト「脱炭素化に向けた水素サプライチェーン・プラットフォーム」で見ることができます。これから大いに活用が期待される次世代のエネルギー「水素」について、こうしたサイトを活用して理解を深めていきましょう。

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