課題名

F-5 サンゴ礁における生物多様性構造の解明とその保全に関する研究

課題代表者名

澁野 拓郎 (水産庁西海区水産研究所石垣支所亜熱帯生態系研究室)

研究期間

平成9−11年度

合計予算額

122,512千円(11年度 38,707千円)

研究体制

(1) サンゴ礁生態系の生物多様性構造の解明に関する研究

  .汽鵐款粍茲砲ける生物群集多様性構造の解明に関する研究(西海区水産研究所)

 ◆‖ぞ魅汽鵐慣化犬梁人誉構造の解明に関する研究(中央水産研究所)

  サンゴの遺伝的多様性の解明に関する研究(琉球大学)

(2) 環境変化がサンゴ礁生物多様性に与える影響に関する研究

  .汽鵐款粍茲砲ける水質環境変化が生物多様性に与える影響に関する研究

(海中公園センター)

 ◆.汽鵐款明己群集の多様性の減少とそれに伴う群集の代謝の変化に関する研究

(地質調査所)

(3) サンゴ礁生物多様性モニタリング手法の開発に関する研究

   ̄卆渦菫によるサンゴ礁の変遷過程の解明に関する研究(中央水産研究所)

 ◆.妊ジタル空中画像によるサンゴ礁生物多様性の解明(海中公園センター)

  水中画像アーカイブによるサンゴ礁の生物多様性維持機構の解明に関する研究

(国立環境研究所)

研究概要

1.序

 サンゴ礁は熱帯域の栄養塩の乏しい海の中のオアシスのような存在であるとよく例えられる。ここでは、造礁サンゴ群集を中心にして様々な生物が複雑に関係を持ちながら極めて高い生産性と生物多様性を保持している。このようなサンゴ礁は、人々にとって食糧を生産する場というだけでなく、観光、レクリエーション、癒しの場でもあり、また海岸線の保護に果たす役割も大きい。しかし、サンゴ礁生態系は微妙なバランスの上に成り立っていて、傷つき易く一度壊れると回復には長い期間がかかると言われている。近年、世界のサンゴ礁は、暴風、天敵による食害、水温の変化などの自然現象に加えて、人為的影響による富栄養化や有害物質による汚染、破壊的漁法による生物資源採取、埋め立て、乱獲および観光事業による過度の開発、沿岸陸域の土地利用計画および管理の不備などによる土砂の堆積、海域の汚濁などが主要な要因となり衰退・劣化の一途をたどっている。サンゴ礁を有する国のほとんどは開発途上国である。サンゴ礁の減少は特に浅海域の人工密集地域で著しく、人口の増加とそれに伴なう汚染の増大および無秩序な資源の利用がサンゴ礁生態系の劣化を加速させている。こうした中、サンゴ礁の保全は国際的にも重要な緊急課題となった。世界の中でも数少ない自国にサンゴ礁域を持つ我が国は、米国、オーストラリア等8か国と協力しながら国際的な枠組みの中でサンゴ礁の保全のために取り組みをはじめた。

 

2.研究目的

 サンゴ礁生態系を保全するためには、サンゴ礁の生物多様性の論理を明らかにするだけでなく、人間活動がサンゴ礁生態系に与える影響を明かにすること、その地域の生態系の状態と傾向について的確に把握し記録しておくためのモニタリング手法の開発が必要となる。そこで、我々は(1)サンゴ礁生態系の生物多様性構造の解明、(2)環境変化がサンゴ礁生物多様性に与える影響解明、(3)サンゴ礁生物多様性モニタリング手法の開発の3つの大課題を建て、メインのフィールドを沖縄県石垣島のサンゴ礁に置き、生態学、個体群生態学、遺伝学、地球化学、分類学、衛星海洋学、システム工学等、幅広い学問分野が一緒になり一つの海域についていろいろな角度から総合的に調査研究を進めた。

 

3.研究の内容・成果

(1)サンゴ礁生態系の生物多様性構造の解明

 サンゴ礁がなぜこれほど多くの生物を育む事ができるのか、サンゴも含めた生物群集の相互関係・相互作用からみてみると、サンゴ礁を構成する主要な造礁サンゴでは、総種数や平均被度は沿岸から沖合に向かって増加し、礁縁部で極大値に達した後、礁斜面を下るにつれ減少することがわかった。また、サンゴの種類は場所毎に異なり、礁原部内側ではハマサンゴ属やコモンサンゴ属、礁原部外側ではミドリイシ属、礁斜面中部ではウミバラ科が優占していた。サンゴの種多様度指数は外側礁原部から礁斜面中部で最も高い値を示した。サンゴ礁では、サンゴの成長によって、また死んだサンゴでも多毛類、貝類などの穿孔性生物の活動によって多様な空間が創出されることが、そこに住む底棲生物群集の多様性を高めていた。また、サンゴ礁ではマングローブ域、アマモ場域、礁池、礁原、礁斜面といった各環境間で魚類群集組成が異なっていた。さらに、アマモ場域に限っても、そこに住む魚類群集は種間で、成長過程で、葉の上面、底の砂地等の微小な生息空間と餌生物をめぐってすみ分け、食い分けを行い高い多様性を保っていることがわかった。

 7種のサンゴを対象に、遺伝子配列の解析がサンゴの系統関係を調べるのに有効であることを明らかにした。次に、1つのサンゴ群体が複数の遺伝子型の褐虫藻を含み、光条件により褐虫藻の組成も変化すること、褐虫藻の系統は宿主のサンゴの系統関係を反映せず同地域のサンゴは遺伝的に似た褐虫藻を共生させており、このようなサンゴ−共生藻共生体が遺伝的な面でも多様性を作り出していることがわかった。

 

(2)環境変化がサンゴ礁生物多様性に与える影響解明

 サンゴ礁の礁池内の砂底中には多くの小型多毛類が生息しており、採集場所毎に強い種選好性があることが認められた。これら砂中小型多毛類相は、季節的に安定していること、水質環境により種構成が相違することが示唆され、水質環境の指標生物として有効であることがわかった。一般に使用できる砂中小型多毛類の検索表を作成することで、サンゴ礁の水質環境の健全度が容易に判定できるようになると期待される。

 陸源物質のサンゴ礁への流入・循環について、礁池内の水温・塩分の面的調査と流速観測を組み合わせた簡易流況観測法により解析した。河川水や湧水等の陸水が礁池の塩分を広範囲に低下させるほか、生物群集が基礎生産を行う際に同化する炭素/リン比と比べて著しく大きい溶存態の無機炭素をサンゴ礁にもたらし、特殊な環境を創成していることがわかった。

 

(3)サンゴ礁生物多様性モニタリング手法の開発

 人工衛星からの画像データを使用し、広範囲のサンゴ礁域の長期変動を抽出した。画像データはマッチング、雲/欠測データ/陸域等の除去、太陽照度/潮位変動による輝度変化の軽減、水深の影響の除去等の処理後、特徴的な時系列を抽出したところ、平成10年のサンゴ白化現象に対応したシグナルを得た。これらの結果と実際の潜水調査結果は良く似ており、サンゴ白化現象のシグナルをサンゴ礁域全体で抽出することができた。

 次に、模型ヘリコプターに付けたディジタルカメラで空撮した画像を使用し、特定のサンゴ礁域に関しての情報の解析を試みた。3原色ごとに濃度値を算出し、標準偏差の濃度値に対する比を求めたところ、標準偏差比とサンゴ群集の潜水調査で得られたサンゴ被度と相関があることがわかった。

 最後に、2台のスチールカメラまたはビデオを用いてサンゴの立体画像を系統的に取得・保存しておき、後でコンピュータ上で再生して3次元的計測を行う手法を開発した。時系列的に作成された水中立体画像アーカイブには、サンゴの成長の他、平成10年夏のサンゴ白化現象、平成11年冬の寒波によるサンゴの弊死等の事柄が記述・保存できた。

 

4.まとめ

 サンゴ礁生態系における生物多様性構造について、主にフィールドでの調査を中心にサンゴ自体も含めた生物群集の相互関係・相互作用とサンゴの遺伝的多様性から明らかにした。サンゴ礁水質環境の健全度を判定する生物指標の探索を行うとともに、サンゴ礁池内の物質循環と水質環境特性を明らかにした。そして、サンゴ礁の変動について、評価する規模に合わせて的確な判定が行えるモニタリング手法を開発するとともに、水中においてサンゴの立体構造を記録できるシステムを作成し経年的な立体構造の変化を記録・解析した。

 最後に、本課題を実行するに当たりお世話になった環境庁地球環境部、地球環境研究センターをはじめ農林水産技術会議事務局、水産庁研究指導課の方々、研究を担当していただいた方々、また、検討委員として研究結果を評価していただいた名桜大学山里清先生、さらに地球環境研究等企画委員会第3分科会の小野勇一先生をはじめとする研究分科会検討委員の先生方に深謝の意を表する。末筆ではあるが、本課題の枠組み作りに尽力をいただいた梅沢敏氏にこの場を借りてお礼申し上げる。

 

5.研究者略歴

課題代表者:澁野 拓郎

1957年生まれ、広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程中退、現在、西海区水産研究所石垣支所亜熱帯生態系研究室長

主要論文:

Shibuno, Takuro, Hiroaki Hashimoto and Kenji Gushima.  1994.  Changes with growth in feeding habits and gravel turning behavior of the wrasse, Coris gaimard. Japan. J. Ichtyol., 41 : 301-306.

Montgomery, W. L. , T. Umino, H. Nakagawa, I. Vaughn and T. Shibuno. 1999. Lipid storage and composition in tropical surgeonfishes (Teleostei : Acanthuridae). Marine Biology, 133 (l) : 137-144.

Shibuno T, Hashimoto K, Abe O, Takada Y. , 1999. Short-term changes in the structure of a fish community following coral bleaching at Ishigaki Island, Japan. Galaxea, JCRS, 1 : 51-58.

 

サブ・サブ・テーマ代表者

(1) Э絽遊式

1949年生まれ、北海道大学大学院修了、遠洋水産研究所北洋資源部北洋底魚研究室長、

現在、西海区水産研究所石垣支所沿岸資源研究室長

主要論文:

Mito, K. 1990. 11.  Estimation of consumption number by cannibalism of pollock in the eastern Bering Sea under assumption of multi-stocks.  International North Pacific Fisheries Commission Bulletin.

水戸啓一、1977.12. ベーリング海底魚群集における食物関係−機〃化弦渋さ擇啜種の分布パターンについて、北海道大学北洋水産研究施設業績集。

水戸啓一、1995.4. ベーリング海生態系モデル、シンポジウム漁業生態系モデル−水産資源評価における諸問題−、月刊海洋。

 

   ◆藤岡義三

1956年生まれ、広島大学大学院理学研究科修了、現在、中央水産研究所黒潮研究部生物生産研究室主任研究官

主要論文:

Fujioka, Y. 1985. Seasonal aberrant radular formation in Thais bronni and T. clavigera. Journal of Experimental Marine Biology and Ecology.

Fujioka, Y. 1985. Population ecological aspects of the eulimid gastropod, Vitreobalcis temnopleuricola.  Malacologia, International Journal of Malacology.

Fujioka, Y. 1985. Systematic evaluation of radular characters in Thaidinae (Gastropoda : Muricidae).  Jounal of Science of the Hiroshima University.

   :日高道雄

1951年生まれ、東京大学大学院理学系研究科修了、現在、琉球大学理学部教授

主要論文:

Hidaka, M. and S. Shirasaka. 1992. Mechanism of phototropism in young corallites of the coral Galaxea fascicularis. J. Exp. Mar. Biol. Ecol. 157 : 69-77.

Hidaka, M. 1993. Mechanism of nematocyst discharge and its cellular control. Advances in Comparative and Environmental Physiology 15 : 45-76.

Hidaka, M., K. Yurugi, S. Sunagawa, and R. A. Kinzie III. 1997. Contact reactions between young colonies of the coral Pocillopora damicornis. Coral Reefs 16 : 13-20.

 

(2) 内田絃臣

1944年生まれ、北海道大学大学院理学研究科修了、現在、(財)海中公園センター錆浦海中公園研究所所長代理、(株)串本海中公園センター取締役館長

主要論文:

内田絃臣 他、1990-1992.サンゴ礁生態系の維持及び安定化機構に関する研究、海中公園センター。

内田絃臣 他、1993-1995.サンゴ礁生態系の復元手法に関する研究、海中公園センター。

Uchida, H. 1997. Abundance and species diversity of coral communities of temperate non-reefal region in Japan. Proc. 2nd Conf. Natn. Parks and Prot. Areas of East Asia, pp. 249-258.

   ◆鈴木 淳

1965年生まれ、東北大学大学院理学研究科中退、現在、工業技術院地質調査所海洋地質部海洋資源環境研究室主任研究官

主要論文:

Krains, S. B. , Suzuki, A. , Yanagi, T. , Isobe, M. , Guo, X. and Komiyama, H. 1999. Rapid water exchange between the lagoon and open ocean at Majuro Atoll due to wind, waves and tide. J. Geophys. Res., 104, 15635-15653.

Suzuki, A., Yukino, I. and Kawahata, H. 1999. Temperature-skeletal δ18O relationship of Porites australiensis from Ishigaki Island, the Ryukyus, Jap an. Geochem. J. 33, 419-428.

Suzuki, A. and Kawahata, H. 1999. Partial pressure of carbon dioxide in coral reef lagoon waters : Comparative study of atolls and barrier reefs in the Indo-Pacific Oceans. J. Oceanogr., 55, 731-745.

 

(3) Ю邵蝓\

1955年生まれ、東京大学大学院理学系研究科博士課程中退、遠洋水産研究所海洋・南大洋部高緯度域研究室長、現在、中央水産研究所海洋生産部変動機構研究室長

主要論文:

Kawasaki, K. 1996. Sea water optical characteristics near the Ryukyu Islands in Japan. Proceedings of Ocean Optics VIII.

Kishino, K., J. Ishizaka, H. Saitoh, K. Kusaka, S. Saitoh, T. Miyoi and K. Kawasaki. 1996. Optical characteristics of seawater in the north Pacific Ocean. Proceedings of Ocean Optics VIII.

Kawasaki, K., 1996. Radiometer Round-Robin, Japan. 6th Joint US/Japan Working Group on Ocean Color Report.

   ◆藤原秀一

1950年生まれ、東海大学海洋学部卒、現在、財団法人海中公園センター研究員

主要論文:

Satoh, F. and S. Fujiwara. 1996. Status of coral community at outer reef of Tubbataha Reefs, Philippines.  The Report of the Project for resources survey and conservation of Tubbataha Reefs National Marine Park.

藤原秀一 他、1995.サンゴ群集の種数−面積曲線、第42回日本生態学会

藤原秀一、1994.サンゴ礁海域調査結果の解析、第4回自然環境保全基礎調査

海域生物環境調査報告書(干潟、藻場、サンゴ礁調査)第3巻サンゴ礁。

   :原島 省

1950年生まれ、京都大学大学院理学研究課博士課程修了、現在、国立環境研究所地球環境研究グループ海洋研究チーム総合研究官

主要論文:

原島省(1994):「海洋汚染−概説」不和敬一郎(編)地球環境ハンドブック第7章、286-289.朝倉書店

Harashima, A. et al. 1997. Monitoring algal blooms and related biogeochemical changes with a flow-through system deployed on ferries in the adjacent seas of Japan, in M. Kahru and C.

Brown (Eds.) "Monitoring Algal Blooms - New Techniques for Detecting Large - Scale.

原島省・功刀正行(1997):「海の働きと海洋汚染」裳華房ポピュラーサイエンス、181.