課題名

B-54 アジア太平洋地域おける温暖化対策統合モデル(AIM)の適用と改良に関する途上国等共同研究

課題代表者名

森田 恒幸 (環境庁国立環境研究所地球環境研究グループ温暖化対策研究チーム)

研究期間

平成9年−11年

合計予算額

261,629千円(11年度 86,929千円)

研究体制

(1)AIMモデルを用いた政策評価に関する途上国等共同研究(国立環境研究所、京都大学)

(2)AIMモデルの更新と普及のための改良に関する途上国等共同研究

(国立環境研究所、京都大学)

(3)AIMモデルの拡張と比較に関する国際共同研究

(国立環境研究所、京都大学、システム総合研究所)

(海外から参加している共同研究機関:中国エネルギー研究所・インド経営大学院・韓国エネルギー経済研究院・韓国サンミュン大学・インドネシア環境省・中国自然資源総合考察委員会・インドインディラガンジー開発研究所・国際応用システム分析研究所・米国国立太平洋北西研究所・米国エネルギー・モデリング・フォーラム)

研究概要

1.序

 地球温暖化はアジア太平洋地域の社会経済に著しい影響を及ぼすとともに、温暖化防止の対策はこの地域に大きな経済的負担を強いるものと予想されている。しかも、アジア太平洋地域からの温室効果ガス排出量は今後急速に増加すると予想され、この地域での対策が地球温暖化問題の解決の鍵を握っている。このため、平成3年度から「アジア太平洋地域における温暖化対策統合評価モデル(AIM)」の開発に着手し、平成6年度から3年間の途上国等との共同研究を経て、モデルの主要部分が概ね完成するに至っている。この間、アジア太平洋地域の主要国からAIMモデルの活用要請があるとともに、気候変動枠組条約に基づいた交渉過程の進展に伴って、AIMモデルの活用のニーズが高まりつつある。このようなニーズを背景として、AIMモデルを活用してこの地域の具体的な対応策を総合的に評価するとともに、新しいニーズに対応してモデルの更新、改良、拡張に関する研究を進めることが必要不可欠となってきている。

 

2.目 的

 本研究は、現在、地球環境研究の総合化の手段として注目を集めている「統合評価モデル」の開発と活用に関する研究である。この統合評価モデルは、広範囲に分散した科学的知見を大規模計算機モデルをプラットホームとして統合し、これらの知見を政策決定の過程に適正かつ体系的に反映しようとするものであり、地球温暖化対策の検討にとって不可欠のツールとして認識されるようになってきた。本研究で用いるAIMモデルは、わが国の代表的な統合評価モデルであり、世界的にもアジア太平洋地域に焦点をあてた唯一のモデルとして既に高い評価を得ている。AIMモデルは、過去6年間かけて開発してきたものであり、AIMモデルを適用して、アジア太平洋地域における温暖化対策の必要性とその効果を総合的に評価するとともに、新たな政策ニーズに対応するためにモデルの更新、改良及び拡張を図ることを目的とする。

 

3.研究の内容・成果

 この研究では、具体的な政策展開に伴う研究ニーズや国際機関から要請される研究課題を十分に反映した形で、研究計画を立案している。これらの研究ニーズは近年、急速に高まりつつあるが、その主なものをあげると、気候変動枠組条約に基づく議定書に関係する研究ニーズ、発展途上国が地球温暖化への対応方策を検討する際に生じる研究ニーズ、IPCCが国際的な研究推進のうえから要請する特別な学術研究、国連環境計画や国際エネルギー機関等の国際機関がそれぞれの国際プロジェクトを進める上で必要となる学術研究、その他、エコ・アジア等の政策会議やNGOの活動を支える学術研究、などである。これらの研究ニーズの中から慎重に優先順位をつけたうえ、アジア地域の9つの共同研究機関及び欧米の2つの共同研究機関と協議して、具体的な作業計画を作成した。

 これらの作業計画は、大きく3つの分野に分かれる。第一は、開発したAIMモデルを用いてこれらの具体的な研究ニーズに応えるシミュレーション分析を実施することであり、第二は、ニーズにより的確に応えるためにAIMモデルの改良や更新を進めること、さらに、第三に、モデルの国際比較や共同開発を通じて、AIMモデルの国際的貢献や発展途上国への普及を進めることである。

 これらの3つの分野について、それぞれ課題のサブテーマをたて、研究を開始した。下表には、それぞれの研究ニーズと各サブテーマの研究内容との対応を示した。

 

表 研究内容のまとめ

サブテーマ分類

研究ニーズ

シナリオ/政策評価

(サブテーマ1)

モデル改良

(サブテーマ2)

国際比較/技術移転等

(サブテーマ3)

IPCC対応

・新排出シナリオ

・安定化シナリオ

・京都議定書の帰結

 

 

 

長期的排出シナリオ

温室効果ガス対策シナリオ

炭素リーケッジ

エネルギー輸出国/途上国

 経済への影響

数値目標の効果分析

 

新統合排出モデル開発

(エネルギー/土地利用)

世界経済モデル開発

 

 

気候変動簡易推計モデル

 開発

 

IPCC比較研究

(森田がコーディネーター)

 

 

 

他の国際機関等への対応

IIASA

UNEP(GEO)

 

 

IEA

・エコアジア

WWF

 

温暖化の農業影響分析

自然植生影響分析

水資源影響分析

統合政策評価分析

炭素隔離の効果分析

アジア環境変化の見直し

対策シナリオの分析

 

 

植生影響モデル開発

水資源モデルの改良

 

経済影響モデル開発

 

 

農業影響モデル共同開発

 

 

 

 

日本政府対応

CO2削減可能性

・地方公共団体適用

・排出量取引/CDM

  効果分析

・外務省開発援助

 

CO2削減シナリオ

地域別CO2削減シナリオ

排出量取引/CDM

 効果の推計

京都夏識竪勿効果分析

 

エネルギー技術モデル開発

普及版排出モデル開発

世界経済モデル開発

 

中国都市モデル開発

 

IEA比較研究

 

OECD比較研究

スタンフォードEMF

 比較研究

途上国政府対応

・中国対応

・インド対応

・韓国対応

・国際共同政策デザイン

 

中国排出削減シナリオ

インド排出削減シナリオ

韓国排出削減シナリオ

温暖化対策の国際共同

 デザイン

 

各国モデルの開発

 

 

 

 

トレーニングWS

トレーニングWS

 

国際ワークショップ

 

 以下に研究成果をとりまとめる。

 

(1)AIMモデルを用いた政策評価に関する途上国等共同研究

 過去6年間をかけて開発してきたアジア太平洋統合評価(AIM)モデルを適用して、温暖化防止政策の必要性やその効果を明らかにし、種々の政策ニーズや国際機関のニーズに応えるための研究を実施した。まず、IPCCの新しい排出シナリオについては、社会経済の発展シナリオが異なる複数の前提条件のもとで、エネルギー、土地利用及び工業プロセス起源の温室効果ガスについて、総合的かつ長期的な排出シナリオを定量化した。さらに、これらの「標準シナリオ」をベースにして「対策シナリオ」を作成し、標準シナリオの違いによる政策への感度を詳しく分析した。AIMモデルの結果はIPCCのレファレンスシナリオとして活用されている。同じくIPCCの要請により京都議定書がエネルギー輸出国及び途上国に及ぼす経済的影響について、シミュレーション分析を実施した。その他、UNEPやエコアジア等の国際機関の要請に基づいて、温暖化対策の波及効果分析やアジア地域の環境変化の見通しの推計などを実施した。

 一方、日本政府が京都議定書に対応するために必要となる種々の分析、とりわけ、日本の数値目標達成の可能性について最新のデータを基に分析するとともに、地方公共団体における二酸化炭素排出削減シナリオについて普及版AIMを用いて検討した。さらにコスト削減の方策として国際排出量取引やクリーン開発メカニズムを導入した場合の効果を分析し、コスト削減効果を定量的に示した。

 京都議定書では、発展途上国の温室効果ガス削減は義務づけられなかったが、途上国の対策の必要性は益々増大し、今後の排出見通しと削減可能性に大きな関心が集まっている。このためアジア太平洋地域の主要途上国(中国、インド、韓国等)を対象において、温室効果ガスの排出量の伸びを押さえるため、どのような対策シナリオがありうるかについて、シミュレーション分析を実施するとともに、アジア地域の温暖化対策の基本政策について、中国、インド、韓国、インドネシア等の研究機関と共同して検討した。

 

(2)AIMモデルの更新と普及のための改良に関する途上国等共同研究

 アジア太平洋地域において排出される温室効果ガスを予測し、その影響及び抑制方策を評価するための温暖化統合評価モデル(AIM)を改良、拡張するとともに、普及のための簡略AIMモデルを開発する研究を進めた。まず、IPCCの長期的な排出シナリオの定量化のために、今までに開発したエネルギーや土地利用に関する種々の排出モデルを統合して、新しい世界規模の排出モデルを開発した。特に、長期的排出シナリオ作成作業において、将来のエネルギー利用や工業プロセスだけではなく、土地利用変化に関するシナリオが求められ、エネルギー、工業プロセス及び土地利用から排出される二酸化炭素、メタンガス、亜酸化窒素、二酸化硫黄などの推計が必要になったため、逐次均衡型一般均衡モデルをベースに土地利用を合わせて評価するモデルを開発し、IPCC新シナリオのストーリーラインに基づく土地利用変化とそれに伴う各種温室効果ガス排出量の推計を行った。また、大気中の温室効果ガス濃度増大に伴った気候変動、影響、対策などを広範囲な視点から総合的に評価するために簡易気候モデルを開発した。温暖化影響モデルについては、植生への影響評価モデル及び水資源への影響評価モデルを開発した。

 国別排出モデルについては、個別対策技術の導入、炭素税、補助金などの政策手段の組み合わせ効果の予測が行えるようモデルを改良するとともに、ライフスタイルの改善によるエネルギーサービス量の削減や地域レベルでの詳細な削減計画の効果分析が行えるよう普及版AIMモデルを開発した。本モデルを地方公共団体に適用するとともに、韓国に適用した。発展途上国における普及版としても今後活用が期待されている。

 排出量取引やクリーン開発メカニズムの効果を分析するため、一般均衡タイプの世界経済モデルの開発を進めるとともに、国際マーケットを通じた発展途上国やOECD諸国への影響を分析できるようモデルを改良した。さらに、発展途上国に適用している排出モデルについても、最新のデータをもとにパラメータ等を更新した。

 

(3)AIMモデルの拡張と比較に関する国際共同研究

 AIMモデルを国際機関等と共同して改良・拡張するとともに、IPCCの対策シナリオの作成、米国エネルギー・モデリング・フォーラム(EMF)の京都シナリオによる炭素リーケッジ、途上国への経済影響、技術シナリオの比較・分析に参加して、AIMモデルの予測結果を他の統合モデルと比較評価した。比較プロジェクトに参加したモデルは、AIMの他、国立応用システム分析研究所(IIASA)のMESSAGEモデル、オランダ国立公衆衛生環境保護研究所(RIVM)のIMAGEモデル、米国ICFコーポレーションのASFモデルなどの統合評価モデルである。まず、温暖化防止の政策を導入しない標準ケースを対象にして、4つの社会経済発展シナリオを前提としたシミュレーション結果を比較した。次に標準シナリオのそれぞれを前提にして、今後100年から200年の間に大気中の二酸化炭素濃度を450750ppmvに安定化させることを目指して、世界の主要なモデル開発チームが対策シナリオを定量化したシナリオを比較した。各シナリオにおける減少率の違いは、導入される温暖化対策の強度にも大きな影響を与え、各モデルにおける対策オプションの比較を通じて、より頑健性のある温暖化対策のあり方を検討した。また、温室効果ガスの排出シナリオについて、IPCCの安定化シナリオを始めとして500以上のシナリオを収集してデータベース化を図った。

 一方、IIASAで開発された世界農業モデルをべースとして、農業生態地域プロジェクト(AEZ)の拡張や農業モデルを含む一般均衡モデルの開発を行うとともに、土地利用の状況や農業生産に関する分析を中国を対象として実施した。気候による作物成長速度と土壌による作物栽培適正について詳細に取り扱うことで従来の食料生産関数の改良を行い、その食料生産関数を用いて算定した気候変動による農産物の生産性の変化を、国際貿易モデルの入力とすることで、気候変動が農産物並びにその他の製品の国際市場に及ぼす影響を評価した。

 さらにAIMモデルの普及のため、中国およびインドにおいてトレーニング・ワークショップを実施した。このワークショップには、アジア太平洋ネットワーク(APN)の支援を受けて、それぞれ40名以上の専門家が出席し、統合評価モデルについてのトレーニングが行われた。

 

4.考察

 IPCCの要請に基づいて気候安定化シナリオを作成するとともに、UNEP、エコアジアやIEA等の国際機関の要請に基づいて、アジア地域の環境変化の見通しの推計や温暖化政策の効果を分析した。また、日本の京都議定書の数値目標の達成の可能性についての分析、国際排出量取引やクリーン開発メカニズムの効果分析を実施した。さらに、アジア太平洋地域の主要途上国の研究者と共同で、温室効果ガスの排出量の伸びを抑えるための対策シナリオについて検討した。海外との共同研究期間の強力な支援のもとで、予定より早いペースで研究活動が進んだ。特に、中国とインドの研究機関の貢献が大きく、両国で開催したトレーニング・ワークショップなどを通じてAIMモデルがアジア地域の公共財として政策評価の現場で使われるようになってきた。中国や韓国では、AIMの分析結果は、政府の政策決定に参照されるまでになってきている。また、IPCCIEA、エコアジア等の国際機関の研究ニーズに基づく研究要請が次第に大きくなりつつあり、日本のリーダーシップが期待されているところである。

 気候変動枠組条約の目標である気候安定化を達成するためには、先進国のみならず発展途上国を含めて、今後一層の温室効果ガス削減対策が求められている。このため、長期的な経済発展を維持し、国内の各種環境問題を解決しながら、気候安定化をいかに総合的に達成していくかが、気候安定化政策推進の大きな鍵となってきている。このようなニーズに対応するため、新たなモデル開発を進めるとともに、開発したモデルを用いて気候安定化と経済発展政策を統合した対策の可能性について、海外の共同研究機関との密接な連携を維持しながら、アジア各国で検討することにより、気候変動枠組条約やIPCCなどの要請に応えられる質の高い研究成果をだしていきたいと考えている。

 

5.研究者略歴

課題代表者:森田 恒幸

1950年生まれ、東京工業大学工学部卒業、工学博士、

現在、国立環境研究所社会環境システム部部長

主要論文:Morita, T., P. R. Shukla and O. Cameron (1998) Epistemological Gaps between Integrated Assessment Models and Developing Countries. in Climate Change and Integrated Assessment Model-Bridging the Gaps, IPCC Workshop Proceedings, 125-138. Morita, T. (1997) An Economic Evaluation of Japan's Response to Air Pollution. In "Japan's Experience in the Battle against Air Pollution", pp76-93, The Pollution Related Health Damage Compensation and Prevention Association., Morita, T., Y. Matsuoka and M. Kainuma (1995) Carbon Emission Scenarios and Nuclear Energy. Progress in Nuclear Energy, Vol. 29, 107-114.

 

サブテーマ代表者

(1):森田 恒幸(課題代表者に同じ)

 

(2):甲斐沼 美紀子

1950年生まれ、京都大学工学部卒業、工学博士、現在、国立環境研究所地球環境研究グループ温暖化影響対策研究チーム総合研究官

主要論文:Kainuma, M., Y. Matsuoka, T. Morita and G. Hibino (1999) Development of an End-Use Model for Analyzing Policy Options to Reduce Greenhouse gas emissions. IEEE Trans, Sys. Man and Cybern, Vol. 29, No. 3, 317-324. Kainuma, M., Y. Matsuoka and T. Morita (1999) Analysis of Post-Kyoto Scenarios : the Asian-Pacific Integrated Model. Special Issue of The Energy Journal, 207-220. Kainuma, M., Y. Matsuoka and T. Morita (2000) Estimation of Embodied CO2 Emissions by General Equilibrium Model. Feature Issue of EJOR on Advances in Modeling: Paradigms, Methods and Applications, No. 122, 392-404.

 

(3):森田 恒幸(課題代表者に同じ)