課題名

A-2 臭化メチル等の環境中挙動の把握と削減・代替技術の開発に関する研究

課題代表者名

鷲田 伸明 (環境庁国立環境研究所大気圏環境部)

研究期間

平成8−10年度

合計予算額

302,981千円 (うち10年度 86,647千円)

研究体制

(1) 臭化メチルの環境中挙動の把握に関する研究

   臭化メチルの起源、大気中の分布・反応に関する研究(環境庁国立環境研究所)

  放射性炭素同位体比測定による、臭化メチルの起源に関する研究(環境庁国立環境研究所)

(2) 臭化メチル等の削減・代替技術の開発と評価に関する研究

   臭化メチルの使用実態調査と回収・破壊技術の開発・評価

(環境庁国立環境研究所、横浜国立大学)

  農耕地で土壌燻蒸に使用される臭化メチルの大気中への放出量の推定と放出抑制技術の開発研究(農林水産省農業環境技術研究所)

   土壌消毒用臭化メチルの代替技術の開発に関する研究(農林水産省農業研究センター)

  臭素系化合物等分解技術の開発と評価に関する研究(通商産業省資源環境技術総合研究所)

  臭化メチル等の吸着回収技術に関する研究(通商産業省資源環境技術総合研究所)

 Α 高性能ハロン代替物質の分子設計及び基礎性能評価に関する研究

(通商産業省名古屋工業技術研究所)

 А 臭化メチル及び代替物質の人への暴露実態と影響評価に関する研究

(環境庁国立環境研究所、高知医科大学)

研究概要

1.序

 近年南極のオゾンホールは相変わらず規模の大きなものが観測されており、北極においてもオゾンホールに近いものが毎年観測されている。さらに南北中緯度間の平均オゾンカラム量は1992-1994年にピナツボ火山噴火の影響もあり1975年以前に比ベ-6%の減少を示した後も依然-4-5%の減少量を維持している。そのような背景のもと、CFC、ハロン、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロエタン、HBFC1996年をもって全廃された。またHCFCについては2004年から漸次削減を開始し先進国においては2020年、途上国も2040年をもって全廃することが決定されている。

 一般的な農作物の病害虫の除去や雑草種子の不活性化等に有効で、土壌燻蒸や検疫燻蒸に広く利用されている臭化メチルは、同時に主要な発生源として海洋等の自然発生源を有すると考えられており、その対流圏大気中の濃度はあらゆる臭素化合物の中で最も濃度が高く、大気中の全臭素のおよそ50%を占めている。大気中の臭素量は塩素量の10-3とはるかに濃度は低いが、それが問題となるのはオゾン破壊効率の良さに基づいている。モデル計算によると、原子1個当たりで考えた場合、ClOXサイクルにBrOXサイクルが加わると1-2桁効率よくオゾン分解に寄与すると指摘されている。そのような背景により、19979月に行われたモントリオール議定書第9回締約国会合において臭化メチルに関しては1999年から漸次削減を開始し先進国においては検疫・出荷前処理のための用途及びクリティカルユースを除いて2005年に、途上国においても2015年に全廃することが決定している。なおCFC、ハロンに関しては今後回収、再利用や処理・分解技術の開発が必要であり、環境庁においても平成7年にオゾン層保護対策推進会議において「CFC等の回収、再利用、破壊の推進方策について」の取りまとめを行い、平成8年にはCFC破壊処理のガイドラインの作成を行ってきている。また臭化メチルに関しては大気、土壌、海洋間の動態に未だ不明な点が多々あるままで、土壌燻蒸剤としての臭化メチルの代替品が使用され始めている。

 

2.研究目的

 2005年に先進国での使用全廃することが決まっている臭化メチルに関しては海洋を中心とする自然起源と燻蒸、・検疫を中心とする人為起源があり、大気中の濃度も増加傾向にないことから未だ多くの不明点をかかえたままである。例えば臭化メチルのODP値はかつて0.7であったものが1996年には0.6に修正され、1998年のオゾンパネルでは0.4に修正された。その主な理由は臭化メチルの対流圏寿命が不確実であること、すなわち特に海洋からの放出量、土壌や海洋でのシンク量の見積もりに大きな不確実性を残していることに起因する。従って本研究においては、1.臭化メチルの大気中の濃度の分布測定、2.放射性14C測定による大気中の臭化メチル起源の決定、3.土壌燃蒸による臭化メチルの大気中への放出量の測定の研究を行い、臭化メチルの大気中での分布や起源についての知見を深めるとともに、今後必要な対策技術の開発研究として、4.臭化メチルの放出抑制技術の開発、5.代替技術の開発、6.代替品の大気中での反応の研究、7.人への暴露実態と健康影響の評価が行われた。またCFC、ハロン、HCFC等については、1.使用実態調査、2.回収技術、3.分解破壊技術の開発、4.ハロン代替物質の開発研究が行われた。を行う。全体としては臭化メチルおよびCFC等に関する科学技術的知見を総合的に集約する目的で、2つのサブテーマと9つのサブサブテーマからなる総合的研究が遂行された。

 

3.研究の内容・成果

(1)臭化メチルの環境中挙動の把握に関する研究

 ―化メチルの起源、大気中の分布・反応に関する研究

 (1)船舶調査によって大気中臭化メチルのグローバルな緯度分布を観測した結果、)免承紊汎酥承紊諒振冉仕挌1.2-1.3、中緯度から高緯度にかけての緩やかな濃度減少、G帯の島周辺における高濃度、などの特徴が明らかとなった。これらの観測データとモデル計算による人為起源臭化メチルの分布を基に自然起源臭化メチルの分布を評価した。その際、南半球における人為起源臭化メチル濃度が南極氷床中の最近の増加分と合うように、臭化メチルの総寿命の最適推定値を1.3年とした。人為起源臭化メチルの寄与は北・南半球でそれぞれ40%25%となり、使用廃止によって成層圏へ持ち込まれる臭素は約30%が減少すると予測された。また、自然起源臭化メチルに関しては熱帯域にやや高いピークをもつ南北両半球にほぼ対称の分布が得られ、熱帯域が臭化メチルの大きな発生源であることが示唆された。(2)臭化メチルの代替品の一つで国内での使用量が最近増大しているクロロピクリンに関し、その大気光酸化過程とその光化学オゾンヘの影響を光化学反応チャンバーを用いて調べた。その結果、クロロピクリンは大気中では光分解によって消失する事、光化学反応によりホスゲンが収率1で生成する事、クロロピクリンの放出が光化学オゾン濃度を増大させ得る事が明らかとなった。他の代替品の一つであるMITCや今後土壌燻蒸に用いられる可能性のあるプロバルジルブロマイドの大気寿命に関しても調べた。

 ∧射性炭素同位対比測定による臭化メチルの起源に関する研究

 オゾン層破壊因子である臭化メチルの主な起源を明らかにするために、1)大量の大気中の臭化メチル捕集装置の開発、2)捕集された様々な共存物質中の臭化メチルの分離・精製手法の開発、3)10μgレベルの微量炭素試料の加速器質量分析法による14C測定法の開発、の3つのテーマを掲げて、装置・手法開発を進めた。大型コンプレッサによる据置型とハイボリュームサンプラポンプを利用した小型可搬式の2種類の臭化メチル捕集装置を試作してその評価を行った。また、小型可搬装置を海外に運び、試料採取を試みた。精製には、冷却試料大量注入装置と組み合わせた分取キャピラリーガスクロマトグラフ(PCGC)を用い、モデル試料で精製条件の検討を進めるとともに、揮発性の高い臭化メチル等のガス試料の取り扱いを可能にするための改良を進めた。また、微量試料の14C測定を目指して、従来確立された手法である1mgレベルの試料処理システムを用いて100μgまでの試料処理実験を行って問題点とその解決法を明らかにした。さらに、その経験を生かして新たな微量試料用グラファイト化装置を作成し、その性能評価を行った。

(2)臭化メチル等の削減・代替技術の開発と評価に関する研究

 ―化メチルの使用実態調査と回収・破壊技術開発・評価

 検疫用途の臭化メチルの使用・排出実態を明らかにするため、ヒアリング・アンケート調査を行い、臭化メチルを回収・破壊する場合の条件を詳細に検討した。サイロおよび倉庫による検疫くん蒸について1回当たりの使用量、燻蒸後の排ガス濃度、排気ブロワの風量、排気時間などの回収・破壊技術を考える上で重要な排出実態が明らかとなった。さらに、調査結果をもとに削減可能量の推算を行った。また、各種の回収技術および破壊技術に関する調査を行い、回収・破壊効率、作業性、経済性などの点から評価を行った。回収技術として、実験により4種類の活性炭の臭化メチル吸着性能の評価を行い、回収システムと回収装置の基本設計を行った。また、臭化メチルの高温分解による破壊技術の基礎として、室内での分解実験を行い、その分解特性を調べ、さらに、産業廃棄物焼却処理施設による破壊実験を行い、臭化メチルの破壊技術として実用可能であることを確認した。

 農耕地で土壌燻蒸に使用される臭化メチルの大気中への放出量の推定と放出抑制技術の開発研究

 オゾン層破壊物質に指定された臭化メチルの発生源には、天然起源と人為起源がある。人為起源のうち、土壌燻蒸で使用される臭化メチル(47Gg/1996年)の大気への放出量評価は、全使用量の58%(不確実性の範囲:3085%)と見積もられている。土壌燻蒸からの大気放出量評価における大きな不確実性の解消と放出抑制技術の開発のため、臭化メチル土壌燻蒸を行い、臭化メチルの放出変動機構を明らかにした。臭化メチルの大気への放出速度は、気温、日射量に大きく影響され、気温が高く、日射量が大きくなるに従い大きくなり、日内変動は13倍に達した。従来のポリエチレンや塩化ビニルフィルム被覆資材を用いた場合、冬季には被覆期間中に臭化メチル処理量(30g/m2)の32.8%、被覆資材除去後11.0%、全体で43.8%が大気へ放出した。夏季には、被覆期間中54.0%、被覆資材除去後9.8%、全体で63.8%が大気へ放出した。これらのことを考慮して従来の評価を再解析した結果、放出量評価は40.6%(不確実性の範囲:2853%)と推定された。

  ガスバリアー性フィルムを用いて土壌燻蒸を行うことで、大気放出量は、被覆期間中7.6%と抑制され、被覆資材撤去後に25.4%、全体で33%となった。また、従来の被覆資材を用いた場合にも、積極的に遮光することで夏季、冬季のいずれにおいても、投薬初期の大気放出を抑制することができ、従来法に比較して日中で約50%の放出速度の抑制効果があった。被覆期間中の放出抑制効果は、夏季約25%、冬季約42%であった。平均気温の低い春先での抑制効果が大きく、被覆資材撤去後まで加味すると夏季12%、冬季22%の放出抑制効果があった。バリアー性被覆資材に、光触媒を担持して臭化メチル分解除去機能を付与し、実証試験を行った結果、大気への放出量は1%以下にまで抑制できた。

 バリアー性被覆資材を用いた場合における臭化メチル燻蒸効果は、自然生息土壌病原菌の観察結果から、投薬量を30g/m2から20g/m2に削減しても防除効果の低下は認められず、施用量は従来の3分の2程度まで削減可能であると考えられた。

 E攵躱弾罵兔化メチルの代替技術の開発に関する研究

 臭化メチルの代替農薬を探索するため、ショウガ根茎腐敗病に対する数種土壌燻蒸剤の防除効果を検討した。その結果、無処理区の発病が90%を超えるような甚発生条件下での代替燻蒸剤の防除効果は、臭化メチルと比較すると必ずしも十分ではなかった。また、低透過性被覆資材(オルガロフィルム)の使用によって臭化メチルの減量が可能であることが示された。現地圃場での数種土壌燻蒸剤の防除効果をみると、クロルピクリン錠剤の各処理、CPテープの埋込み処理及びキルパー液剤の散布混合処理が臭化メチルとほぼ同程度であった。メロン黒点根腐病に対しては、クロルピクリンまたはCPテープ処理が臭化メチルにはやや劣るもののある程度の防除効果が期待できるのに対し、キルパー錠剤の散布処理では十分な防除効果が得られなかった。ピーマンモザイクウイルス(PMMV)感染ピーマン栽培圃場の土壌では、少なくとも30cmの深さまでPMMVが存在しており、罹病性品種を継続して栽培しない条件下では土壌中のPMMV量は比較的速やかに減少すると推察された。キルパー液剤による土壌燻蒸はPMMVの土壌伝染には効果的ではなく、前作の残漬の分解が不十分な状態での燻蒸は、土壌伝染を助長する可能性が示唆された。トマト根腐萎凋病に対する熱水注入土壌消毒の効果は、臭化メチルとほぼ同等であった。メロン黒点根腐病に対する熱水注入処理は、耕土の下に難透水性の硬い層のある場合や多量のかん水で固まる圃場では効果が劣ると考えられた。

 スイカ黒点根腐病に対する臭化メチル代替薬剤及び熱水土壌消毒の防除効果を検討した結果、クロルピクリン錠剤の効果が高く、熱水処理とキルパー液剤(10倍希釈液を土壌表面散布)はやや劣った。しかし、キルパー液剤の原液点注処理及び100倍希釈液の散水処理は臭化メチルよりは劣るが実用的な防除効果を示した。

 ネコブセンチュウに対する熱水土壌消毒の効果を天敵出芽細菌パスツーリア菌で補完する可能性を検討するため、熱水処理が細菌胞子に与える影響を検討した。その結果、地表下20cm以下では増殖能カヘの熱水(最高到達温度65℃)の影響はほとんどなかった。65℃では大部分のネコブセンチュウが死滅するため天敵細菌と熱水処理を組み合わせたネコブセンチュウ防除が可能である。

 熱水土壌消毒法において、熱水温度ならびに処理量の違いがトマト萎凋病の防除効果に及ぼす影響について検討した結果、より高温かつ多量の熱水処理によって温度上昇が速まると防除効果が高かった。主要土壌病原菌の熱死滅条件を検討したところ、供試菌中ではFusarium oxysporumが最も耐熱性が高かった。このことから、Fusarium菌の熱死滅条件に沿った熱処理により他の主要土壌病原糸状菌による被害は回避できると考えられた。ナス半身萎凋病を防除するために必要な殺菌深度は地表下30cm以深であることが判明した。

 そ素化合物等分解技術の開発と評価に関する研究

 発生源で使用可能な臭化メチル等分解技術を確立するため、触媒分解法、プラズマ分解法、光分解法について触媒開発、分解条件の最適化等の研究を行った。1)触媒分解では、臭化メチルの完全酸化分解を目的として触媒探索を行い、銅を担持したWO3/Al2O3ZrO2触媒が高い分解率及びCO2選択率を与えることを見いだした。2)プラズマ分解では、バックグラウンドガス中の酸素濃度の影響について精査し、酸素が2%程度含まれていると、臭化メチル分解率を高く維持しつつ有機副生成物とNOXの副生を抑制できることを明らかにした。さらに実用化をねらったセミベンチスケールの分解実験も行い、臭化メチル含有、大容量排ガスの分解処理に非平衡プラズマが有効な手法であることを確認した。3)光触媒分解では、循環式光触媒反応装置による触媒評価を行い、本研究で調製したTiO2薄膜光触媒は市販の光触媒と同等以上の性能を有すること、触媒存在下ではCO2までの酸化分解が起こることを見いだした。

 ソ化メチル等の吸着回収技術に関する研究

 オゾン層を破壊する物質である臭化メチル等の効果的な回収技術に資するために、臭化メチル等の回収用活性炭素繊維の製造技術に関する研究並びに吸着ガスの脱着にマイクロ波を利用した吸着回収システムの開発に関する研究を行い、次のような結論を得た。

 活性炭素繊維の製造技術の開発については、ポリ塩化ビニリデン、フェノール樹脂、石炭ピッチ等から製造した繊維を不活性ガス中で炭化後、水蒸気あるいは二酸化炭素を用いて反応律速条件下で均一な賦活することによって、市販の活性炭よりも臭化メチルの吸着能力の優れた活性炭素繊維を製造できることを明らかにした。そして、賦活時の炭素のバーンオフには最適値があること、吸着処理すべき臭化メチルの濃度によりこの最適値が変化することなどがわかった。

 臭化メチルの吸着システムについては、マイクロ波を照射しながら吸着ガスの脱離挙動の検討を行い、以下の結果を得た。1)マイクロ波を脱着に利用するに当たっては、火花発生を防止するために吸着剤の形状、使用方法等に留意しなければならない。2)マイクロ波の照射方法を適切に設定することにより局所過熱を防止し、均一な加熱を行うことができる。したがって、マイクロ波を利用した臭化メチルの脱離技術は臭化メチルの吸着回収に有効であることがわかった。

 高性能ハロン代替物質の分子設計及び基礎性能評価に関する研究

 臭素を含まない、高性能のハロン代替物質の開発に関する基礎的な研究を目的として、ペルフルオロカーボン骨格中にヘテロ原子として窒素、酸素や硫黄を導入することにより、ペルフルオロアルキルラジカル発生の機能を付与させたポリフルオロアミン、ペルフルオロエーテルやペルフルオロ硫黄化合物などの消火性能評価を、層流燃焼速度や消炎濃度を測定することにより行った。その結果、それらの中ではアミン系化合物が最も高い消火能力を示した。ペルフルオロエーテルやペルフルオロ硫黄化合物などは、アミン系化合物には及ばないものの、代替ハロンとして実用化されているFM200HFC227ea、分子式:CF3CHFCF3)やHFC23(分子式:CF3H)よりは、高い消火性能を示すことが分かった。また、理論計算により、ペルフルオロアルキルラジカル(CF3・及びC2F5・)の種類による消火性能の違いを検討した。その結果、水素原子や水酸基ラジカルとの反応から見た限りでは、トリフルオロメチルラジカルより、ペンタフルオロエチルラジカルの方が高い消火性能を持つという結果が得られた。

 Ы化メチルおよび代替物質の人への暴露実態と影響評価に関する研究

 臭化メチル燻蒸を頻繁に実施するハウス農業および花卉栽培における臭化メチル燻蒸時の環境モニタリング、個人暴露測定、生物学的モニタリング、アンケート調査を実施し、臭化メチル燻蒸に伴う農業者への健康影響を検討した。ハウス全面薫蒸時の環境モニタリングによれば、ハウス解放時の臭化メチル濃度は1000ppmと急性中毒を引き起こすほど高く、解放時の個人暴露濃度も平均で57ppmと高いことがわかり、燻蒸時の臭化メチル中毒の発生が懸念された。ハウス部分燻蒸時の臭化メチル汚染は最小限にとどまるが、燻蒸剤を散布する時とビニールを剥ぐ時に、臭化メチルによる環境汚染と人の暴露が引き起こされる。

 吸入された臭化メチルは強力なメチル化作用を示し、体内で脱メチル化され、残留する臭素イオンは尿中に排泄される。動物へのモデル実験においては、尿中臭素排泄は暴露後急激に上昇し、68時間後ピークを示した後徐々に低下したが、48時間後も排泄が観察された。臭化メチルは食品中に残留しているため、暴露評価にはバックグラウンド値の把握が欠かせない。臭化メチル使用時の作業者の個人暴露調査でも、暴露後尿中臭素イオンは増加し、排泄は12時間以降も観察された。

 アンケート調査では、農業者の燻蒸作業の使用量がかなり多く、ハウス開放までの日数も短かった。そのために、燻蒸後の自覚症状をみると、26%程度に眼がしみるや喉が痛い、気分が悪い等の急性暴露の症状が認められる反面、健康障害を防止するための保護具の使用状況は低かった。このような状況を改善するために、燻蒸作業において作業方法の改善実施に伴う環境モニタリングと個人暴露測定を行った結果、高濃度暴露を防げることができた。さらに、労働安全衛生教育を実施した結果、保護具の使用状況等の比率が上昇した。

 以上の結果、現状では大量の臭化メチルを使用して、農業者の健康影響という観点からも問題のある燻蒸作業ではあるが、臭化メチルの適切な使用量への削減及び適切な保護具や安全な作業方法による農業者への高濃度暴露の防止が可能となり、使用量の削減による環境への負荷低減も期待できることが判明した。

 

4.考察

 本研究における全体の構成とその成果は以下に示す。

 

 

 

 

 

 

 

 2005年に全廃することが決定しているにもかかわらず、19985月のオゾンパネルでも指摘されたように臭化メチルに関しては不確実要素があまりにも多い。その理由はソース、シンクが未だ明らかでない点にある。ちなみに大気中の濃度はここ10年間で北半球、南半球でともに殆ど変化していない((1)− 法自然起源と人為起源の比も人為起源が20-30%程度とされているが、相変わらず定まっていない。特にその比を決定するために重要である大気中の寿命の推定値がどんどん短くなってきている(1998年のオゾンパネルでは0.4年に修正)。本研究において横内は臭化メチルの総寿命の最適推定値として1.3年を提唱しているが、これが一般的に受入れられるかどうか、問題提起として注目したい。自然起源と人為起源の比は14C比による決定が森田により提案され、本研究において取り上げられている((1)−◆砲、加速器質量分析計の手法開発までは進んだが、3年間の研究で結果を得るに至らなかった。

 不確実要素の原因は多々あるが、土壌燻蒸による放出量一つをとっても、一寸した使用の仕方の工夫で大気中への放出量は5-10倍程度変化し得る(削減できる)ことが明らかになっている((2)−◆法しかしながら使用実態はかなりでたらめであり、燻蒸後一週間は放置する様に指導されているにもかかわらず実態調査では3日で開放するケースが最も多いことが判明した((2)−А法C戮に帰した感はあるが、燻蒸に極めて有効な臭化メチルはその使用法をもっと工夫していれば、その使用量は1/10程度に押さえられたのではないかと考える。

 代替技術、代替品は多くのものが出ており、今後は多種の薬剤の併用が行われる((2)−)と思うが、土壌環境汚染、人への健康への配慮はもちろん大気質への影響も十分に研究されなければならない。クロロピクリンの場合、大気中での光酸化でホスゲンの生成や光化学オゾンヘの影響が判明している((1)− 法

 21世紀の循環型社会を迎えるにあたって、回収・再利用のための技術開発は重要である((2)−,よび(2)−ァ法と同時に種々の枝術を駆使した破壊技術((2)− ◆複押法櫚ぁ砲粒発を行っていく必要がある。これらの回収・破壊技術は実験室レベルでの最適化や評価が行われヱいるところである。

 消火剤としてのハロンの代替品としてペルフルオロジメチルエーテル、トリフルオロメタンスルホニルフルオリドの消火能テスト((2)−Α砲任肋嘆佛修世韻任覆、臭気等の副次作用が調べられている。

 以上、3年間にわたり臭化メチルに関する総合的な研究が行われた。臭化メチルとその規制に関する多くの知見と問題提起がなされたものと思う。

 

5.研究者略歴

課題代表者:鷲田伸明

1940年生まれ、東京工業大学理工学部卒業、同大学院博土課程修了、理学博士、

現在、国立環境研究所大気圏環境部長

主要論文:3

R. Zils, S. Inomata, Y. Okunuki, and N. Washida, "Direct observation of the equilibrium between cyclohexenyl radicals, O2, and cyclohexenylperoxy radicals.", Chem. Phys., 231, 303-313 (1998).

N. Washida, S. Inomata, and M. Furubayashi, "Laser-induced fluorescence of methyl substituted vinoxy radicals and reactions of oxygen atoms with olefins.", J. Phys. Chem. A, 102, 7924-7930 (1998).

S. Inomata and N. Washida, "Rate constants for the reactions of NH2 and HNO with atomic oxygen at temperatures between 242 and 473K", J. Phys. Chem. A, 103, 5023-5031 (1999).

 

サブテーマ代表者

(1) РF睛杙

1951年生まれ、大阪大学理学部卒業、

現在、国立環境研究所化学環境部計測技術研究室、主任研究員

主要論文:3

Y. Yokouchi and Y. Ambe, "Aerosols formed from the chemical reaction of monoterpenes and ozone.", Atmos. Environ., 19, 1271-1276 (1985).

Y. Yokouchi, H. Akimoto, L. A. Barrie, J. W, Bottenheim, K. Anlaf, and B. T. Jobson, "Serial GC/MS measurements of some volatile organic compounds in the Arctic atmosphere during the Polar Sunrise Experiment of 1992", J. Geophys. Res., 99(D12), 25379-25389 (1994).

Y. Yokouchi, H. Mukai, H. Akimoto, A, Otsuki, C. Saitoh, and Y. Nojiri, "Distribution of methyl iodide bromoform, and dibromomethane over the ocean (east and southeast Asian and the western Pacific)", J. Geophys. Res., 102(D7), 8805-8809 (1997).

 

◆Э硬直刺

1944年生まれ、東京大学理学部卒業、同大学院工学系研究科博士課程修了、

東京都衛生研究所を経て現在、国立環境研究所地域環境研究グループ統括研究官

主要論文:3

Y. Shibata, H. Kume, A. Tanaka, M. Yoneda, Y. Kumamoto, T. Uehiro, and M. Morita, "A preliminary report on the characteristics of a CO2 gas ion source MGF-SNICS at NIES-TERRA"

H. Kume, Y. Shibata, A. Tanaka, M. Yoneda, Y. Kumamoto, T. Uehiro, and M. Morita, "The AMS Facility at the National Instutute for Environmental Studies (NIES), Japan, "

Y. Kumamoto, M. Yoneda, Y. Shibata, H. Knme, A. Tanaka, T. Uehiro, M. Morita, and K. Shitashima, "Direct observation of the rapid turnover of the Japan Sea bottom water by means of AMS radiocarbon measurement."

 

(2) П彩邱品

1942年生まれ、東京工業大学大学院修了工学博士、

現在、横浜国立大学工学部教授

主要論文:3

浦野紘平、木村ちづの、加藤みか、小林剛:「臭化メナルによる検疫くん蒸の実態と排ガス回収・分解技術の必要条件」、大気環境学会誌、33(5)322-334 (1998)

浦野紘平、加藤みか、田崎智宏、木村ちづの:「ロータリーキルン式産業廃棄物焼却施設によるフロン類の分解処理技術」、廃棄物学会論文誌、8(5)225-234 (1997)

浦野紘平、加藤みか、木村ちづの、田崎智宏:「各種フロンの産業廃棄物焼却施設での分解」、大気環境学会誌、32(5)331-340 (1997)

 

◆Ю舒羚雄

1942年生まれ、兵庫農科大農学部卒業、学術博士

現在、農林水産省農業環境技術研究所資材動態部農薬動態科農薬管理研究室長

主要論文:3

Y. Ishii, T. Sakamoto, K. Asakura, N. Adachi, and J. Taniguchi, "Cleanup Procedure for Determination of Pesticide Residues in Crops Using Charcoal-Florisil Minicolumn", J. Pesticide Sci., 15, 205-209 (1990).

Y. Ishii, N. Adachi, J. Taniguchi, and T. Sakamoto, "Cleanup Procedure for Determination of Pesticide Residues by Automated Gel Permeation Chromatography", J. Pasticide Sci., 15, 225-230 (1990).

Y. Ishii, J. Taniguchi, and T. Sakamoto, "Residue Analysis of Organochlorine Pasticides by Gas Chromatography Equipped with a Hall Electrolytic Conductivity Detector (Halogen Mode)", J. Pas1icide Sci., 15, 231-236 (1990).

 

:藤澤一郎

1943年生まれ、名古屋大学大学院農学研究科卒業、農学博士、

現在、農業研究センター病虫防除部長

主要論文:3

"Intracllular appearance of cauliflower mosaic virus particles", Phytopathology, 57, 1130-1132 (1967).

「東南アジアに発生する野菜のウイルス病」、植物防疫、43535-539 (1989).

「アブラムシおよびオンシツコナシラミの天敵糸状菌Verticillium lecanii (Zimm.) Viegasの分離」、日本植物病理学会報、59574-581 (1984)

 

ぁЩ惱部〇

1947年生まれ、東京大学工学部卒業、同大学院博士課程修了、工学博士、

現在、資源環境技術総合研究所大気圏環境保全部長

主要論文:3

N. Negishi, K. Takeuchi, and T. Ibusuki, "The surface structure of titanium dioxide thin film photocatalyst", Appl. Surf. Sci., 121/122, 417-420 (1997).

H. Hori, F. P. A. Johnson, K. Koike, K. Takeuchi, T. Ibusuki, and O. Ishitani, "Photochemistry of [Re(bipy)(CO)3(PPh3)] + (bipy=2,2'-bipyhdine) in the presence of triethanolamine associated with photoreductive fixation of carbon dioxide: participation of a chain mechanism", J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1019-1023 (1997)

K. Takeuchi, N. Negishi, S. Kutsuna and T. Ibusuki, "Development of photoassisted catalysis technologies for environment purification and remediation", Proceedings of Symposium on the U.S.-Japan Civil Indnstlial Technologies Arrangement, 12-1 - 12-13 (1998).

 

ァ北川浩

1941年生まれ、名古屋大学工学部卒業、

現在、資源環境技術総合研究所熱エネルギー利用技術部、主任研究官

主要論文:3

北川ほか:「石炭を原料とする球形活性炭の製造に関する研究」、工業化学雑誌、722260 (1969).

H. Kitagawa et al., "Adsorptive properties of carbon molecular sieve from Saran", Carbon, 19, 470 (1981)

北川浩:「活性炭素繊維の製造とそのガス吸着特性に関する研究」、資源環境対策、33139 (1997)

 

ΑОど隆

1942年生まれ、山形大学工学部卒業、

現在、名古屋工業技術研究所化学部フッ素化学研究室長

主要論文:3

T. Abe, H. Baba, E. Hayashi, and S. Nagase, "Synthesis of perfluorobicyclic ethers [1]. The eledrochemical fluorination of cycloalkyl-substituted carboxylic acid", J. Fluorine Chem., 23, 123 (1983).

T. Abe, R. Hayashi, H. Baba, and H. Fukaya, "The electrochemical fluorination of nitrogen-containing carboxylic acids. Fluorination of dimethylamido-or diethylamido-substituted carboxylic acid derivatives", J. Fluorine Chem., 48, 257 (1990).

H. Fukaya, T. Ono, and T. Abe, "New fire suppression mechanism of perfluoroamines", J. Chem. Soc., Chem. Commn., 1207 (1995).

 

А平野靖史朗

1957年生まれ、早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了、医学博士

現在、国立環境研究所地域環境研究グループ、主任研究官

主要論文:3

S. Hirano, "Kinetics and migratory responses of lung vascular-associated polymorphonuclear leukocytes following inteaperitoneal and intratracheal sdminidtration of lipopolysaccharide in mice", Am. J. Physiol, 270, L836-L845 (1996).

S. Hirano and M.Ando, "Fluoride media1es apoptosis in osteosarcoma UMR 106 and its cytotoxicity depends on the pH", Arch. Toxicol, 72, 52-58 (1997).

S. Hirano, "Nitric oxide-mediated cytotoxic effects of alveolar macrophages on transformed lung epithelial cells are independent of the β 2 inlegrin-mediated intercellular adhesion", Immunology, 93, 102-108 (1998).