課題名

G-1 砂漠化防止対策の適用効果の評価手法の開発に関する研究

課題代表者名

福原 道一(農林水産省農業環境技術研究所環境管理部)

研究期間

平成7−9年度

合計予算額

162,5809年度 52,924)千円

研究体制

(1) 砂漠化防止対策効果の環境立地的評価手法の開発に関する研究

(農林水産省農業環境技術研究所)

(2) 砂漠化地域総合開発モデル計画の作成とその投入産出効果に関する研究

(農林水産省総合研究所)

(3) 砂漠化防止及び再生技術の検索・評価に関する研究

〆叔化防止及び再生技術の総合検索・評価(農林水産省農業環境技術研究所)

日本における砂漠化防止及び再生技術の検索・評価(農林水産省農業環境技術研究所)

 

研究概要

1.序(研究背景等)

 1994617日に砂漠化防止条約が採択され、砂漠化防止が緊急課題となっている。砂漠化は地球の陸地面積の1/4、世界人口の1/6に影響を与え、来世紀には食糧問題を含めた深刻な環境問題となることが予想されている。しかし、砂漠化問題は気候的要因と人為的要因に加えて社会経済的要因も絡まって、その解決を難しくしている。重要なことは砂漠化問題の生じている地域で生活する人々に一定水準の生活を将来的にも保証することである。このため、砂漠化を防止し、砂漠化した土地を再生させるためには、当該地域の自然的条件を十分把握し、砂漠化危険地域の環境容量に基づいた適正な土地管理計画の策定と技術的対策が不可欠である。今後は、砂漠化防止対策の適用効果を客観的に評価する手法の開発が必要である。また、当該地域の社会的、経済的諸条件の現状を掌握するとともに、今後の社会的、経済的発展方向に即して当該地域を総合的、一体的な開発計画を策定することが必要である。さらに、砂漠化問題の解決のためには、技.術先進国のわが国として国際的な協調体制の中で応分の役割をはたす必要がある。わが国では、近年、砂漠化地域に対する新しい要素技術の開発がなされてきた。これらの要素技術を組み合わせたシステムの導入により、土地の環境容量内での資源利用を図り砂漠化防止に寄与することが期待される。砂漠化再生に関する要素技術の実証および開発について共同研究を行うことにより、新たな再生技術の開発と砂漠化地域の再生への国際的な体制確立に資する。

 

2.研究目的

 砂漠化危険地域の適正な土地管理計画と総合的開発計画の策定のために、砂漠化防止対策の環境立地的、社会・経済的な適用効果を客観的に評価する手法を開発する。そのため、中国北部を対象として砂漠化防止対策効果の環境立地的評価手法の開発、砂漠化地域総合開発モデル計画の作成とその投入産出効果に関する研究を行うとともに、わが国で開発された砂漠化防止及び再生技術の検索・評価に関する検討を西オーストラリアで行う。

(1)砂漠化防止対策効果の環境立地的評価手法の開発に関する研究においては、中国北部を対象に、砂漠化防止の対策技術選択と土地利用配置を適正に行うために、植生・土壌・社会経済条件に関する現地調査、放牧・植生回復試験及び衛星データ解析によって、地域の砂漠化インパクトに対する許容量(環境容量)を明らかにしたうえで、砂漠化防止対策の適用効果を環境立地的視点から評価する。

(2)砂漠化地域総合開発モデル計画の作成とその投入産出効果に関する研究においては、中国北部を対象に、砂漠化地域総合開発モデル計画の作成とその投入産出効果の計測手法の開発を行い、費用総額の算出とその費用分担の内容の解明を行う。

(3)砂漠化防止及び再生技術の検索・評価に関ナる研究においては、砂漠化防止及び再生技術の検索と評価を行い、新たな再生技術の開発と今後の国際的な砂漠化地域の再生の取り組み体制の確立に資する。そのため、‘本及びオーストラリアの砂漠化防止と再生に関する要素技術の総合検索と評価およびその実証試験を行うとともに、日本において開発された砂漠化防止及び再生技術の検索を行い、西オーストラリアヘの適用可能性の評価を行う。

 

3.研究の内容・成果

(1)砂漠化防止対策効果の環境立地的評価手法の開発に関する研究

 中国内モンゴル自治区奈曼旗を対象として、砂漠化防止の対策技術選択と土地利用配置を適正に行うために、地域の砂漠化インパクトに対する許容量(環境容量)を明らかにし、砂漠化防止対策の適用効果を環境立地的視点から評価した。

 1)植生、土壌、地形は相互に関連しており、砂漠化進行の様式や程度の違いを植生や土壌を指標として把握することができた。

 2)放牧試験により、対象地域の放牧草地においては、緬羊4頭以下が適正な放牧圧であることがわかった。しかし環境容量を上回る放牧圧が継続して加わると、低飼料価草種の割合が次第に増加し、緬羊の体重も減少していく。したがって、禁牧を含めたローテーション利用も同時に取り入れていくことが、砂漠化防止及び生産性維持の両面からみて望ましい。

 3)ランドサットTMデータの赤バンド(TM3)と草地の現存量の間には高い相関があり、奈曼旗全体の草地の現存量が推定できた。また、現存量と家畜に食べられる草の割合(負荷率)から放牧圧を求めたところ、中部〜北部の多くの地区(郷鎮)で4/ha以上の放牧圧がかかっていることがわかった。

 4)対象地域の草地改良には、窒素肥料の施肥が有効であることがわかった。また、禁牧による効果も大きいことが明らかになった。また、砂丘固定を中心とした対策技術がある程度有効であることが明らかになったが、流動砂丘を効率的に固定し、植生回復を促進するためには、砂丘の地形的位置に応じて対策技術を複合的に適用していくことが望ましい。

 5)2つの村を対象に、舎飼導入にともなう放牧圧の軽減可能性を検証した結果、舎飼畜産の導入・拡大を前提にした土地利用の適正化によって、砂漠化の防止と農家経済の改善とは両立することが明らかとなった。

 6)奈曼旗における自然・社会・経済条件による砂漠化プロセス、砂漠化防止・回復技術の効果の違いをとりまとめた。

 

(2)砂漠化地域総合開発モデル計画の作成とその投入産出効果に関する研究

 内蒙古自治区奈曼旗の興隆召地区では、砂漠化を防止し、砂漠化した土地を再生させるため、第1期総合開発計画で地区内の防風林体系を整備し、第2期計画で地区内での営農や定住のための条件整備を重点的に推進することを計画した。しかし、計画開始後1年を経ずして、その投資額を一挙に第2期計画の7倍に増大させた第3期計画が樹立された。その意図は、奈曼旗政府が上位政府機関等から同地区への投入資金を多額に引き出そうとしたことであるが、こうした行為は計画の妥当性や実現可能性に対する信頼度を失わせている。

 他方、こうした行為が生ずる背景には、中国ではまだ我が国のように一定の要件を満たせば上位政府機関等からその計画が認定され、計画実施に必要な補助や融資が確実に与えられる補助・融資制度が確立していないという事情がある。制度が確立していない場合は、個別計画ごとに特異性や新規性が求められる。こうした状況の中では実態に則したモデル計画の作成は困難であり、また、それに対する需要は少ない。

 以上のような状況にあるため、総合開発計画の策定に際しての投入産出効果の計測も恣意的に行われている。つまり、その算定方法が統一されていないのである。例えば、直接的経済効果だけしか算定していない場合などである。しかしながら、砂漠化防止に対する投資効果を直接的経済効果だけで算定すると低きに失する。そうなると、限られた投資資金の中では砂漠化防止に対する投資のプライオリティも低くなってしまう。社会効果、生態効果も投資効果に算入して砂漠化防止に対する投資効果の高さをアピールすることが必要となる。このためには砂漠化防止投資に対する投入産出効果の全国共通の算定方式を早期に確立することが必要である。

 また、最近の経済発展の結果、労賃や資材が高騰しており、このため、砂漠化防止のための費用は従来の計画額の59倍に増嵩している一方、従来の砂漠化防止計画の根幹となっていた農民負担(無償労働力の提供を含む)中心の考え方では計画の推進が困難な状況となっている。

 

(3)砂漠化防止及び再生技術の検索・評価に関する研究

〆叔化防止及び再生技術の検索・評価

 砂漠化の進行が著しい砂漠化前線地域では、その進行をくい止め安定な環境を作り出すことが急務である。近年、我が国では砂漠化防止に利用可能な新しい要素技術の開発がなされてきた。これらの要素技術を組み合わせたシステムの導入により、砂漠化防止に寄与し、持続的な農業環境を創出することが期待される。そこで、「要素技術の検索・評価」を目的とした今回のプロジェクトでは、検索の結果、以下のような要素技術を評価の対象として挙げた。

a. 太陽エネルギーを利用した淡水化技術

b. 砂漠ストレスに耐性を持つ植物の検索及び利用

c. 保水材等の土壌改良資材を用いた砂漠化土壌の改良

 これらの要素技術の検証を西オーストラリア州における現地圃場で行い、以下の結果を得た。

1) 太陽熱を利用した淡水化装置を圃場内で運転し、夏季には3L/m2/dayの淡水が得られた。

2) 植物の選抜を発芽試験、育苗場での播種・育苗、圃場への定植を通して行い、植生回復に有効な植物数種を選抜した。

3) 潅水管理等の問題から一部の樹種に限られたが、要素技術によって活着後の初期生育を促進させる効果が見られた。要素技術による生育促進は移植による定着後に認められ、定着そのものを高めるわけではなかった。灌水量の増加、定植時期の選定など適切な移植計画が重要であった。

日本における砂漠化防止及び再生技術の検索・評価

 砂漠化は、乾燥地や半乾燥地における最も深刻な地球環境問題の一つであり、早急な対応が必要とされる。西オーストラリアは砂漠化の影響を受ける地域の一つであり、政府は多年にわたり砂漠化防止の研究と対策に多大な努力を払い、多くの成果を収めてきた。最近、砂漠化防止のためのいくつかの新しい技術が日本で開発されている。砂漠化防止に関する研究者に会い、最先端の技術を調査し、西オーストラリアにおける現地実証試験の可能性と適応性を評価した。

 

4.考察

 砂漠化を引き起こす原因は人間インパクトであり、過放牧、過耕作、過伐採、地下水の不適切な管理など多岐にわたる。また、その現象も風食、水食、塩類集積など様々である。そして、砂漠化現象は温暖化のように広範囲に連続しておきる現象とは異なり、数百メートルないしは数キロ単位という比較的狭い範囲から発生する。さらに、砂漠化の現象解明や防止対策の確立については自然条件だけではなく、社会経済条件も加わって複雑なものとなっている。冒頭に掲げたUNEPはじめ一般的にいわれている砂漠化の面積と影響に関するデータは必ずしも計測されたものではなく、ただ世界の広範囲で「砂漠化」現象が惹起していると考えた方が良い。

 したがって、砂漠化問題やその解決法を見いだすには、現地での実証的研究が求められるとともに、世界を同時に取り扱うのではなく、地域ごとあるいは現象ごとに取り扱う必要性がある。また、日本で開発された先進技術の導入によって、我が国が砂漠化対策に貢献する場合、先進国対応と発展途上国対応との二つに分けて考える必要がある。すなわち、発展途上国ではその技術の導入が可能であっても、それを保持し、維持することは経済的、技術的に無理がある。一方、先進国では導入しさらに開発途上国にも適用できる技術を共同開発できる経済基盤がある。

 中国東部地域は、国土の約半分の面積に90%の人口が含まれ、その強い人間インパクトによりさまざまな現象の砂漠化が広く分布している。先の「人間活動が土地資源及ぼす影響に関する研究(平46)」において、この地域の代表3地区の調査を行い、砂漠化は一方的に進行するのではなく、対策を施すことにより回復している地域があることを明らかにした。この研究では、中国北部の過放牧による砂漠化に焦点をあて実施してきた。その結果、砂漠化と対策がそれぞれもたらす植生・土壌への影響と対策の適用効果を明らかにし、衛星データから過放牧に関する環境容量を評価できることを明らかにした。

 この研究から、適用効果のある防止対策を施した地域では、農耕地等の新たな土地利用が拡がることが示唆され、防止対策に取り組む砂漠化地域における持続的土地利用計画手法の研究に取り組むことが重要であると認識した。

 一方、中国では砂漠化防止総合計画を推進する上部機関による融資等の経済的基盤が確立していないため、実態に則したモデル計画の作成は困難であり、その投入産出効果をモデルから算出できないことを事例を通して明らかにした。

 また、オーストラリアにおける日本で開発された技術導入の可能性の検討は、この技術を実証する試験地の造成に時間を要し、装置の性能確認や有用植物の選定に止まり、所期の成果を得たとはいえない。そこで、これまでの研究蓄積を基に、研究の完成(オーストラリア)をめざして新たな発展をはかる必要があろう。

 

研究者略歴

課題代表者:福原道一

1940年生まれ、東北大学大学院修士課程修了、農学博士、現在農業環境技術研究所

環境管理部長

主要論文:Estimation of Available Moisture Holding Capacity of Upland Soils Using Lands at TM Data, Soi1 Sci. Plant Nutr. 41 (3), 577-586 (1995)

多時期ランドサットTMデータによる十勝平野の作付図の作成、システム農学、9(2), 82-91(1993)

地球環境変動に伴う農業生態系に係わる土壌変動、粘土科学、32 (1), 8-15 (1992)

 

サブテーマ代表者

(1) 今川俊明

1953年生まれ、北海道大学大学院環境科学研究科博士課程修了、学術博士、東京都立大学

理学部助手、現在農林水産省農業環境技術研究所環境立地研究室長

主要論文:宇宙から観た中国東部の砂漠化、土壌の物理性、74, 29-38 (1997)

A Monitoring Method of Land Cover/Land Use Change in Naiman, Inner Mongo1ia Autonomous Region, China using Landsat Data Japan Agricultura1 Research Quarterly, 31 (3), 163-169 (1997)

Inter-Annual Variations of Land Cover in around Mouroua, Cameroon.

Geogr. Rep. Tokyo Metropo1. Univ., 30, 106-116 (1995)

 

(2) 白石和良

1942年生まれ、東京大学法学部卒業,現在農業総合研究所海外部長

主要論文:中国の農業・農村の再組織化と双層経営体制、農業総合研究、48, 4, 1-73 (1994)

中国農村危機論の虚妄、諸君、27 (5), 124-132, 文芸春秋社(1995

中国の食糧需給における構造的変化の要因に関する一考察、日本現代中国学会「現代中国」、71, 22-35 (1997)

 

(3) 谷山一郎

1953年生まれ、北海道大学農学部卒業現在農業環境技術研究所土壌保全研究室長

主要論文:耕作放棄棚田における土壌特性の経年変化、土壌の物理性、73, 3-10 (1996)

電気探査比抵抗法による礫層分布の把握、土肥誌、67, 71-72 (1996)

土壌侵食に伴う土地荒廃の営農的防止対策、国際農林業協力、20, 2-10 (1997)