課題名

H-2 開発途上国における人口増加と地球環境問題の相互連関に関する基礎的研究

課題代表者名

大江 守之(国立社会保障・人口問題研究所 現:慶応義塾大学総合政策学部)

研究期間

平成6−8年度

合計予算額

45,1268年度 14,479)千円

研究体制

(1) アジア地域における人口動態変化と地球環境への影響に関する研究

(厚生省国立社会保障・人口問題研究所)

(2) 人口と地球環境に関する包括的モデル構築に関する研究(厚生省国立公衆衛生院)

 

研究概要

 本研究は、アジア地域の国あるいは都市・地域レベルで、将来の人口規模を規定する人口転換がどのように進んできたのかを、地球環境問題に関連する諸要素との関係において捉えるとともに、この分析結果からアジア地域の人口転換のシナリオを作成し、温暖化における人口要因を解明することを目的とする。

 中国とタイのケーススタディを通して都市および農村における人口動態変化と都市−農村人口移動のメカニズムと影響を分析するとともに、都市化が地球温暖化に与える影響を把握するため、都市化シナリオを組み込んだ地球温暖化モデルによるシミュレーションをおこなった。また、包括的モデル構築に関する研究の一環として、中国の二酸化炭素排出総量に対する人口増加の影響をBongaarts法を用いて分析した。

 

研究成果

1.中国の農村の出生率は1970年代に急速に低下したが、一人っ子政策が導入された1980年代以降も、農村では第2子の出生条件が厳しくなかったため、いまだに置き換え水準までは低下していない。一方、死亡率は1970年までに低下し、1970年以降の自然増加率は1%台前半で推移している。改革開放政策のもとで、農村の潜在的過剰人口は大量の流動人口として、都市へ移動しつつある。中国の都市−農村間の人口移動は収入の地域間格差で説明が可能であり、その意味で今日の第3世界の一般的な人口移動と同様の傾向をもつ。流動人口の流入が最も顕在化している上海での人口移動調査によると、移動人口はなおも増加する傾向にあるとともに、滞在期間も長期化している。また、農民の都市への移動は、都市近郊農村では農地の転用、遠隔地では耕地放棄が増加することで、作付け面積、耕地面積の減少をもたらしている。

 

2.タイに関しては1980年代の二酸化炭素排出量増加の過程をエネルギー消費の変化と森林面積の変化から分析した。エネルギー消費の伸びは生活水準の上昇と産業活動の発達の両者によって引き起こされていること、森林面積の減少は二酸化炭素固定能力の低下を招き、現在の動向を延長すると、来世紀初頭には化石燃料からの二酸化炭素排出量が残存する森林の二酸化炭素固定能力を凌駕することが予測できる。

 

3.DHS(人口保健調査)データを利用したアジア6力国の分析から、都市への移動は移動者の出生・健康・死亡へ直接的、間接的な悪影響を及ぼすことを見いだした。

 

4.温暖化モデルに関しては、都市化を考慮してEdmonds-Reillyモデルを改良して二酸化炭素排出量の予測をおこなった。その結果、元のモデルによる予測値よりも、GNP予測値、二酸化炭素排出量予測値が小さくなり、さらに単位エネルギー当たりの排出量のとくに大きい石炭の消費が抑えられたことによって、2050年における世界全体の二酸化炭素排出量予測値は22%小さくなることを明らかにした。

 

5.包括的モデル構築に関する研究の一環として、1982年から90年までの中国の二酸化炭素排出総量に対する人口増加の影響をBongaarts法を用いて分析、した結果、人口増加の影響が21%、一人当たり二酸化炭素排出量の影響が70%であることが明らかになった。1992年から2010年までに二酸化炭素排出量は74%増加すると予測されており、排出量の安定化のためには内陸部と大都市の人口動向、産業構造の転換およびエネルギー転換とそれにともなう技術的な対応がカギをにぎる。