課題名

E-3 熱帯林の環境形成作用の解明に関する研究

課題代表者名

谷 誠(農林水産省林野庁森林総合研究所森林環境部気象研究室)

研究期間

平成5−7年度

合計予算額

100,3997年度 30,280)千円

研究体制

(1) 熱帯林の微気候形成作用の解明に関する研究

(農林水産省森林総合研究所、環境庁国立環境研究所)

(2) 熱帯林の水流出特性に関する研究(農林水産省森林総合研究所)

(3) 土壌環境形成における動物の役割に関する研究(環境庁国立環境研究所、京都大学農学部)

 

研究概要

 熱帯林は地球規模の気候に影響を及ぼすといわれており、すでに大気大循環モデルによる予測がなされている。しかし、この気候形成作用の根拠である、熱帯林と大気間のエネルギーや水・二酸化炭素のやりとり、それをささえる土壌を含む生態系での水や物質の移動のメカニズムの理解が不十分という問題点がある。このような環境形成の基礎過程は、地域における気象環境や洪水防止・水資源保全にかかわる熱帯林の役割を評価する上でも重要であり、その物理的基礎を解明することが必要になっている。そこで、本課題では、熱帯林における大気との交換過程、水流出過程、土壌形成過程の機構解明と熱帯林の役割評価のため、半島マレーシアにおいて、現地観測研究を実施した。

 

研究成果

1 気候形成作用にかかわる、森林の微気象要素、森林−大気間のエネルギー・水・二酸化炭素などの交換量について、マレーシアのPasoh森林保護区に設置されたタワーにおいて観測を行った。(1)複雑な樹冠構造をもつ熱帯雨林の気温、湿度、風速の鉛直分布特性、アルベドの季節変化やそれに対する太陽高度の影響などが明らかになった。(2)地上高の高い熱帯林群落では、エネルギー収支において群落内貯熱量の推定が不可欠と考えられたので、気温・湿度の鉛直分布の観測値からこれを推定するとともに、群落上での気温・湿度変化から簡単に群落内貯熱量を推定できる実験式を作成した。(3)顕熱、水蒸気潜熱へのエネルギーの配分について検討し、潜熱成分の割合が大きい傾向があるが、無降雨日が続くと配分割合が60%程度に低下すること、降雨があると放射エネルギーに顕熱が蒸発潜熱のエネルギー供給源になることがわかった。

(4)乱流変動観測を行って、エネルギー等の交換をもたらす乱流の特性について検討した。乱流変動法による直接的な交換量把握が難しいことがわかり、補正を加える必要があったが、この補正によって日中の下向きの二酸化炭素の輸送量を推定することができた。

2 熱帯林における水流出特性を明らかにすることを目的とし、マレーシァのBukit Tarek森林水文試験地において、水文観測、解析を行った。斜面上の土層の厚さ、土壌物理性、土壌中の雨水浸透形態などの調査の結果次のことがわかった。(1)表土層厚は斜面位置によって大きな差がなかったのに対し、風化土層厚は大きく異なっていた。(2)飽和透水係数は他の熱帯・亜熱帯地域の測定結果より大きい値を示し、強い強度で降る雨水もほとんどが地中に浸透することが推定された。(3)白色ペイントで雨水の浸透形態を追跡したところ、B層では選択的な流出が生じ、特にターマイト(シロアリ)による腐朽根に集中する傾向が見られた。(4)降雨特性を検討したところ、年2回の月雨量のピーク、明瞭な日周期、短い継続時間、大きな降雨強度などの熱帯での特徴が確認された。(5)降雨に対する流出応答特性と土壌水分変化の観測結果を比較検討したところ、明確な乾季がないにもかかわらず、降雨流出には土壌水分の影響が顕著に現れることが明らかになった。このことから、乾燥時には雨水が土壌に保持されるのに対し、湿潤状態においては、土壌に浸透した雨水が途中で貯留されずに河川に流出するという流出機構が推定された。(6)流域平均蒸発散量を、短期水収支法によって推定したところ、明確な季節変化がないことがわかった。

3(1)熱帯雨林における木材の分解においてシロアリが果たす役割を客観的に評価するために、シロアリの除去操作をした林内での木材分解実験を行った。材密度約1g/cm3の堅い板木ではシロアリの影響が認められなかったが、材密度約0.5g/cm3の軟らかい板木ではシロアリが入れることによって分解率が8倍近く上昇することがわかった。(2)熱帯降雨林での8種の落葉の分解実験とD. baudii人工林での落葉分解の実験から、熱帯での落葉分解様式の特徴を炭素、窒素動態から明らかにした。温帯に比べて調査した熱帯林では、落葉分解での窒素の無機化が、高い炭素/窒素比のもとで生じることが明らかとなった。