課題名

B-12 地球の温暖化が植物に及ぼす影響の解明に関する研究

課題代表者名

大政 謙次 (環境庁国立環境研究所生物圏環境部環境植物研究室)

研究期間

平成5−7年度

合計予算額

88,783千円 (うち7年度 35,872千円)

研究体制

(1) 植物生態系への影響予測に関する研究

(環境庁国立環境研究所、宮崎公立大学、東京大学、愛知大学、東京農工大学)

(2) 山岳地における植生帯の移動条件に関する調査研究(農林水産省森林総合研究所)

   −温帯地域における調査研究−(財)自然環境研究センター

  −熱帯地域における調査研究−

(3) 植物に及ぼす複合影響に関する実験的研究(環墳庁国立環境研究所)

研究概要

 IPCCなどの温暖化防止に向けた国内外の取り組みが本格化する中で、温暖化にともなう植物への影響、特に自然植生や森林、希少植物、農作物などへの影響の解明とその予測手法の開発が急務とされている。このため、我が国を含めた東アジア地域を対象として、地理情報システムや気候シナリオを用いた影響予測モデルを開発し、東アジア地域における植生シフトや生物季節への影響を予測した。また、温度や二酸化炭素の上昇、乾燥化、大気汚染などの温暖化にともなう複合環境の変化がイネやその他の農作物へ及ぼす影響を、生物環境実験施設を用いた実験研究により明らかにした。

研究成果

(1)植物生態系への影響予測に関する研究

 地球温暖化が生態系に及ぼす影響を解明するために以下の研究を行った。1)我が国における数種の植物季節の温暖化による影響予測図の作成、植物季節と緯度・経度・海抜高度との関係を明らかにした。2)エル・ニーニョ・イベントとラ・ニーニャ・イベントの場合について、サクラの開花日の遅速、乾季と干ばつによる作物の量の増減、自然災害の多少についての比較研究、3)わが国及び中国における植生分布の影響の予測、4)東アジアにおける植物生産への土地利用の影響評価研究、5)南西諸島の植物相への影響についての考察、6)湖沼における鉛直一次水温予測モデルと水界生態系モデルとを連結させ、湖水温の温暖化した場合の将来予測及び植物プランクトン量、無機態栄養塩量、溶存酸素濃度の季節変化のパターンの再現を行った。

(2)−〇崖拊呂砲ける植生帯の移動条件に関する調査研究−温帯地域における調査研究−

 地球の温暖化が我が国の山岳地の植生に及ぼす影響を予測するため、秋田駒ヶ岳、奥秩父山地、赤石岳などの高山・亜高山帯を中心に、現在及び過去の植生が成立する環境要因を調査した。降雪及び融雪過程のモデル化と雪田植生の植物季節に及ぼす影響、土壌有機物の分解促進などの調査結果から気温の上昇がもたらす影響を予測することが可能になった、ハイマツ群落の成長速度の測定結果など、気温の上昇が群落の消長に直接結び付かない現象も観察され、土壌凍結などの土地的要因の変化が重要であるとの結論を得た。

(2)−∋崖拊呂砲ける植生帯の移動条件に関する調査研究−熱帯地域における調査研究−

 地球温暖化の森林に与える影響を解明するため、ボルネオ島の高山キナバルの湿潤な斜面を利用して、高度別に土壌窒素の無機化速度と樹木葉の寿命を調査した。湿潤熱帯山岳では温度の季節変化がなく、標高につれて温度が予測的に減少するために、温度を関数として森林の変化を研究することができる。堆積岩と超塩基性岩起源の土壌を異なる温度(高度)下で培養したところ、土壌窒素の無機化速度はどちらも温度を関数として有意に変化した。堆積岩土壌では温度が10℃上昇すると、無機化速度は1.7倍(温度係数)になったが、超塩基性岩土壌では上昇率は極めて低かった。以上から、温暖化の森林生態系への影響は地質によって異なり、超塩基性岩のような特殊な地質が森林を制限する場合、温暖化の無機化への影響は比較的少なく、どちらの地質でも、高地と比べて高温下にある低地ほど温暖化の影響が大きいことが示唆された。また、調査の結果、どの標高も常緑性の樹木で被われているが、樹種別に見ると葉の寿命が1年より長い樹種と短い樹種が存在することがわかった。高度分布の広い種Schima wallichiiでは、標高が高くなると葉の寿命が長くなる傾向が認められた。

(3)植物に及ぼす複合影響に関する実験的研究

 植物の生長に及ぼすCO2濃度と乾燥化、温度上昇と乾燥化の単独及び複合影響について実験的検討を行った。乾重及び葉面積生長は、CO2濃度増加によって促進され、温度上昇や乾燥化によって抑制された。各々の環境要因は植物の純同化率や分配率、比葉面積に影響することが判明した。また、気孔を通した蒸発量に影響し、水利用効率や葉面温度にも影響を及ぼしていた。各々の環境要因は、相加的に影響している場合が多かったが、複合効果も認められ、地球温暖化の植物・植生影響の定量的予測・評価を行う場合、重要な要因の複合影響を考慮する必要があることを示唆された。イネの生殖生長は、開花期の気温上昇によって影響されたが、品種によって受精率の抑制程度は異なった。2倍のCO2濃度(640ppm)時の3種のGCMの気候変動シナリオを用いてイネの生育収量に関するシミュレーションを行った結果、収量増加が予測された。