課題名

A-5 紫外線増加が植物等に及ぼす影響に関する研究

課題代表者名

野内 勇 (農林水産省農業環境技術研究所環境資源部大気保全研究室)

研究期間

平成5−7年度

合計予算額

153,150千円 (うち7年度 53,861千円)

研究体制

(1) 植物の紫外線に対する防御機構に関する研究

   植物個体レベルにおける紫外線防御機構に関する研究(農林水産省農業環境技術研究所)

  植物における紫外線障害の修復機構に関する研究

(環境庁国立環境研究所、(一部委託)神戸女子大学)

   紫外線増加に対する海藻類の馴化に関する研究

(環境庁国立環境研究所、(委託)財団法人海洋生物環境研究所)

(2) 紫外線増加が動物プランクトンに及ぼす影響の評価に関する研究

(農林水産省水産庁北海道区水産研究所、(一部委託)広島大学、東京大学海洋研究所)

(3) 紫外線増加が森林植生に及ぼす影響とその適応機構に関する研究

(農林水産省林野庁森林総合研究所)

研究概要

 オゾン層破壊により、予想されるようなUV-Bが農作物、森林樹木、高山植物、海藻類の生長や収量に影響をおよぼすかどうか、海洋の動物プランクトンにどのような影響を及ぼすか、また、UV-B傷害の作用気候とその傷害修復機構、あるいは防御機構や適応機構を明らかにすることを目的に、野外実験および紫外線照射装置を用いて、その解明を試みた。

研究成果

1.現在予想されている程度のUV-B増加量が、水稲の生長や生理代謝機能に影響を与えるかどうかを明らかにするために、199319941995年の3年間にわたり、太陽からの入射UV-BBK量に追随して照射する調光型フィールドUV-B照射装置を用いて、水稲3品種に45か月間、最高1.7倍までの照射実験を行った。クロロフィルやアスコルビン酸含量にわずかな変化があり、収量はやや減少する場合があるが、壊滅的なダメージはないことがわかった。将来、UV-BBKは約15%程度増加すると考えられているが、これによる水稲の減収は、2%以下と見積もられた。本研究の結果、従来の温室やチャンバーの照射実験結果は、UV-Bの影響を過大評価しているものと考えられた。

2.キュウリの第1本葉はUV-B照射により、葉面積生長と光合成活性が低下し、アスコルビン酸パーオキシダーゼ活性が増加した。この結果は活性酸素の発生の可能性を示唆した。また、葉面積生長低下は植物ホルモンの活性低下と関連していた。UV-Bによる植物のDNA損傷産物は、微生物で報告されていることと同様に、植物にも光修復があることが認められた。

3.漸深帯に生育する紅藻類のタオヤギソウは紫外線の長期照射により、光合成色素の減少、紫外線吸収物質含量の増加、成長速度の低下が見られた。天然群落内に生育するタオヤギソウ藻体では、先端部に近い方において、紫外線吸収物質含量が高く、水中での紫外線強度に対応しており、紫外線環境に馴化・適応していると考えられた。

4.動物プランクトン群集で優占する橈脚類の紫外線影響を自然の太陽紫外線および紫外線照射実験で調べた。冷水性日周鉛直移動性(夜間表層に分布し、日中は深層に移動)橈脚類の孵化率は、現在レベル太陽紫外線でも低下した。一方、温帯性と亜熱帯性の終生表層分布性の橈脚類は、現在レベルの太陽紫外線による孵化率や生残率の低下はなかった。温帯性の終生表層橈脚類は日周鉛直移動性橈脚類に比べ、紫外線吸収物質含量が417倍も多く、紫外線の強い海洋表層の環境に適応していると考えられた。紫外線の増加は、紫外線防御機構が未発達な日周鉛直移動性橈脚類の再生産過程に影響を与え、動物プランクトンの種組成などに大きな影響を与える可能性が示唆された。

5.現在の太陽紫外線の23倍のUV-B照射は、発芽直後のアカエゾマツとブナの稚苗に異常形態と著しい生長低下を引き起こした。また、アカエゾマツ、トドマツとブナの数年性の幼苗の生長は1年を越えた長期のUV-B照射によって阻害された。紫外線増加は樹木の生理生化学的な変化を引き起こし、ある種の樹木を低下させる可能性のあること示した。