研究成果報告書 J95A0520.HTM

検索画面に戻る Go Research



(1,068Kb)

[A−5 紫外線の増加が植物等に及ぼす影響に関する研究]

(2)紫外線増加が動物プランクトンに及ぼす影響の評価に関する研究


[研究代表者]

 

北海道区水産研究所 海洋環境部 生物環境研究室  ●齊藤宏明

[水産庁 北海道区水産研究所]

 

海洋環境部 生物環境研究室

●田口 哲・葛西広海

(委託先)

 

広島大学生物生産学部

●上 真一

東京大学海洋研究所

●津田 敦


[平成5〜7年度合計予算額]

38,417千円

(平成7年度予算額13,517千円)


[要旨]

 オゾン層破壊に伴う太陽紫外線増加が、海洋生態系で優占する植食者である動物プランクトンに与える影響を評価するために、動物プランクトン群集で優占する橈脚類を用いて太陽紫外線および紫外線灯を用いた照射実験を行った。橈脚類は鉛直分布特性によって、常に表層に分布する終生表層分布性と、昼は深層に分布し夜間表層に鉛直移動する日周鉛直移動性の2つのタイプに分けることができる。そこで、それぞれのタイプについて紫外線の影響を調べた。
 冷水性日周鉛直移動性橈脚類のParacalanus sp.の孵化率は、紫外線ドースの増加と共に反シグモイド型の低下を示した。紫外線の孵化率への影響は産卵直後の卵で、産卵されてから時間が経過した卵に比べて大きかった。また、同じドースを与えた場合、紫外線放射量を高くし照射時間を短くした場合に比べて、低い放射量で照射時間を長くした場合の方が、孵化率の低下が著しかった。冷水性日周鉛直移動性のAcartia omorii雌成体の生残率はドースの増加に伴って低下したが、紫外線の影響はParacalanus sp.の孵化率低下がみられるよりも大きなドースでみられた。暖水性日周鉛直移動性橈脚類のCalanus sinicusの孵化率および生残率に及ぼす太陽紫外線の影響は、瀬戸内海において1月、4月、6月に調べた。1月には紫外線の影響はみられなかったが、4月および6月には孵化率および成体雌の生残率の低下がみられた。また、ドースが高い場合ほど、孵化した動物の奇形率が高かった。
 日周鉛直移動性橈脚類に対し、温帯性終生表層分布性の、Pontella rostraticaudaPontellopsis tenuicauda、および亜熱帯性終生表層分布性のLabidocera maduraeには、現在のレベルの太陽紫外線放射量による孵化率や生残率の低下はみられなかった。P.rostraticaudaおよびP.tenuicaudaと日周鉛直移動性のCalanus sinicusについてカロチノイド系色素およびマイコスポリン様アミノ酸含量を調べたところ、終生表層分布性の2種は、日周鉛直移動性のC.sinicusに比べて体重あたりの含量が4〜17倍多かった。これらのことから、紫外線の強い海洋表層の環境に分布する橈脚類は、紫外線吸収物質等を持つことによって紫外線による悪影響を防ぐ機構を獲得していることが明らかになった。
 本研究によって、オゾン層の破壊に伴う紫外線の増加は、紫外線防御機構が未発達な日周鉛直移動性橈脚類に影響を与え、特に、日周鉛直移動による紫外線の弱い深層への移動という能動的な紫外線忌避行動をとれない卵の、孵化や正常な発生を妨げることによって再生産に大きな影響を与えることが予想される。このことは、動物プランクトンの種組成、生産率及び種間関係を変化させることにつながるため、紫外線放射量の増加は、今まで長時間かかって築き上げられてきた海洋生態系の大きな擾乱要因となることが予想される。