課題名

B-5 気候モデルによる気候変動評価に関する研究

課題代表者名

杉ノ原 伸夫 (東京大学気候システム研究センター)

研究期間

平成3−5年度

合計予算額

106,765千円 (うち5年度 36,573千円)

研究体制

(1) 気候モデルの開発・改良に関する研究(国立環境研究所)

(2) 対流圏における移流・拡散モデルの開発・改良に関する研究(資源環境技術総合研究所)

(3) 対流圏と成層圏との間における物質輸送に関する研究(気象研究所)

(4) 気候変化に係わる雲の大気物理過程の解明に関する研究(国立環境研究所)

研究概要

 現在の気候モデルで未解決とされている問題の中で、地表面・大気相互作用のメカニズム改良、大気放射・積雲パラメタリセーション、熱帯域の雲の効果について詳しく調べ、その成果を取り込んだ世界最先端レベルの大気大循環モデルを確立した。また、全球観測データとモデルの結果を用いた大気中の微量物質のグローバルな移流、拡散をシミュレートし、対流圏内および、成層圏と対流圏の間の物質輸送の時間スケールと温暖化時の濃度変化を解析した。

研究成果

1.気候モデルの開発・改良に関する研究

 数年から数百年程度の時間スケールでの気候変化のメカニズムを研究し、その定量的評価に用いるための、共同利用可能な気候モデルを作成することを目的とした大気・海洋の大循環モデルの開発・改良を行った、大気放射過程、水循環過程等に関する、物理的基礎に基づくパラメタリゼーションを開発し、気候変動研究に使用可能な大気大循環モデルを構成した。また、高精度・高効率の全球海洋大循環モデルを開発した。これらのモデルに現実的な境界条件を与えて走らせた結果、観測された気候値を良く再現することが可能であり、世界の最先端レベルに比肩できるようなモデルであることが確認された。更に、これらと組み合わせて気候モデルの構成要素となる陸面モデルと海氷モデルの開発を試み、その性質を調査した。

2.対流圏における移流・拡散モデルの開発・改良に関する研究

 全球客観解析データを用いた全球移流拡散モデルを開発した。このモデルは移流過程をセミラグランジュ、大気境界層を非局所的鉛直拡散、時間変化率に補正係数を掛ける形の質量保存機構を持ち、水平2.5度鉛直15シグマ座標で一日4回の濃度分布を計算する。1992年のヨーロッパ中期予報センターの解析データを利用した計算の結果から、このモデルには積雲による鉛直混合を含まないにもかかわらず、南北半球間交換時間が一年として評価され、フロン11相当物質による実験で対流圏における南北半球間濃度差が観測とよく一致した。

3.対流圏と成層圏との間に於ける物質輸送に関する研究

 温暖化が対流圏と成層圏との間の物質輸送の及ぼす影響を評価するために大気大循環モデルを用いて、海面水温に温暖化した状態に対応した偏差を与えて数値実験を行った。太陽高度を7月の状態に固定した実験で海面水温を2度変化させた実験では、輸送の効果によってオゾンの鉛直分布に変化が見られた。冬のシミュレーションで成層圏の突然昇温が起こった場合と起こらなかった場合を比較すると、北半球高緯度成層圏のオゾン分布に観測と対応した変化が見られた。

4.気候変化に係わる雲の大気物理過程の解明に関する研究

 気象衛星データを用いた大規模な雲・大気の結合システムの解析的研究と、大気大循環モデルを用いた数値実験を行った。長期観測のデータを用いた雲活動の解析からは、熱帯暖水域上の雲活動が大気の対流圏赤道波と非常に強く結合することが判明し、その赤道波擾乱の特性値を推定した。これから、気候モデルにおける積雲パラメタリゼーションの評価において、大気−雲結合システムの特性値による定量的な評価が可能となった。また、衛星によるリモートセンシングによって、広域の雲とエアロゾルの光学的厚さと吸収確率および有効半径を求める方法を確立した。数値実験の結果からは、熱帯降水帯分布のような地球規模の降水帯の平均分布が、積雲パラメタリゼーションに非常に敏感であることがわかった。