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[キーワード] N:P:Si比、拡大シリカ欠損仮説、ケイ藻自律沈降、栄養物質移出指数、クラゲ

[D-061 流下栄養塩組成の人為的変化による東アジア縁辺海域の生態系変質の評価研究]

(1)N、P、Si流下比変化による海洋生態系変質の総合解析[PDF](1,887KB)

  独立行政法人国立環境研究所
  水土壌圏環境研究領域 海洋環境研究室


原島 省

  [平成18~20年度合計予算額] 55,541千円(うち、平成20年度予算額 17,099千円)

[要旨]

  河川経由の栄養塩流下組成とクラゲ・非ケイ藻類植物プランクトン増加などの生態系変質の間の因果関係を主に「拡大シリカ欠損仮説」を作業仮説とし、モデル、モニタリング、レビューに基づいて検証・考察する。長江のエスチャリー(河口隣接海域)を対象とした2ボックス型の生態系モデルを構築し、エスチャリーから流出する各栄養段階の物質からエスチャリー外で生態系上位生物(クラゲ+魚)のバイオマスに転化される量を「栄養物質移出指数(N.E.I.)として定義した。この指数は、長江のDIN(溶存無機窒素)が増加し、DSi(溶存ケイ酸)が減少するほど増加する、すなわちエスチャリー外で、クラゲ+魚のバイオマス増加につながることが推定できた。さらに、レビュー結果に基づいた、魚よりもクラゲを有利にする複数要素を考慮すると、増加分が魚よりクラゲに転化される可能性が高いと考察できる。また、モデル、観測結果、レビュー事例が整合するためには、ケイ藻が、春季大増殖の終期に栄養塩枯渇、特にSiの枯渇を感知して自律沈降を起こすことが重要であることが推測できた。この自律沈降でケイ藻が上層で希薄になった時点以降(夏季)では、Siに依存せずしかも沈降しにくい非ケイ藻類が増殖し、夏季上層の食物網を肥大化させ、これがN.E.I.を増加させると考えられる。このように、Si枯渇→ケイ藻増殖の相対的低下→非ケイ藻類卓越、という従来の「シリカ欠損仮説」よりも、Si枯渇→ケイ藻の自律沈降→ケイ藻不在による上層の栄養物質残留という「拡大シリカ欠損仮説」が妥当であることが考えられる。これらの事柄から、Siを欠損させるダムなどの流域改変増加やN、P負荷増大に対するチェックなどの環境管理が必要となることが提言できる。