課題名

H-7 ゴールドラッシュ地域における環境管理、環境計画およびリスクコミュニケーションに関する学際的研究

課題代表者名

村尾  智 (独立行政法人産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門鉱物資源研究グループ)

研究期間

平成12−14年度

合計予算額

78,218千円 (うち14年度 25,740千円)

研究体制

(1)水銀の地球化学的挙動に関する基礎研究

(独立行政法人産業技術総合研究所、独立行政法人国立環境研究所、
広島大学、秋田大学、東京大学、日本アイソトープ協会
〈研究協力機関〉米国地質調査所、フィリピン大学、
カンボジア産業鉱山エネルギー省鉱物資源総局)

(2)金鉱化帯の識別とマッピング

(独立行政法人産業技術総合研究所、東京外国語大学、
株式会社オープンジー・アイ・エス、株式会社日鉄鉱コンサルタント
〈研究協力機関〉国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会)

(3)地質学に基く水銀放出量算定

(東京工業大学、山形大学、筑波大学
〈研究協力機関〉フィリピン大学)

(4)水銀汚染の実態調査とリスクコミュニケーション試行

(岩手医科大学、国立水俣病研究総合センター、独立行政法人産業技術総合研究所、
慶磨義塾大学、東京外国語大学
〈研究協力機関〉早稲田大学、フィリピン環境天然資源省鉱山地球科学局
CAR支所、
フィリピン大学、ダルエスサラーム大学、ベムコーポレイション)

研究概要

1.序(研究背景等)

 多くの発展途上国で鉱業の専門的知識を持たない人々が鉱物資源を稚拙な道具を用いて採掘しており、全世界に約1300万人存在すると推定されている。これをアーティザナルマイニングまたはスモールスケールマイニングと呼ぶが、多人数で金鉱を採掘する場合がゴールドラッシュである。

 金鉱の採掘では水銀等の有害物質が用られることが多く、環境が汚染されるとともに、作業者やその家族、周辺に住む人々の健康に影響を及ぼすと懸念される。また、人身事故や地すべり等の災害が頻発しているほか、ブラックマーケットの成立など社会的問題も発生している。本研究ではこの複合問題に対する学際的な取り組みの方法論を検討するものである。

 ゴールドラッシュに伴う問題を扱うためには、汚染の実情を把握し、その拡散の予測と防止をすることと、新たな採掘ラッシュや汚染を予想して環境管理と計画を立てる事、地域の住民と協働することが必要である。そこで、本研究では次の4つのサブテーマを設定した。/絛笋涼狼絏蹴愿挙動に関する基礎研究;金鉱化帯の識別とマッピング;C麓然悗亡陲水銀放出量算定;た絛箟染の実態調査とリスクコミュニケーション試行。

 

2.研究目的

 各サブテーマの研究目的は以下の通りである。

(1)水銀の地球化学的挙動に関する基礎研究

汚染地帯における水銀の挙動解明を第一の目的とした。また水銀の自然環境における閾値をフィリピンについて明らかにすることを第二、水銀その他の重金属に汚染された環境試料、特に水の簡易分析法確立とその応用を第三の目的とした。さらに補足的に有害物質を用いない金の回収方法を調査した。

(2)金鉱化帯の識別とマッピング

金鉱の採掘地帯でゴールドラッシュ、あるいは水銀汚染が起きた場合に、環境が脆弱であると予想される場所を特定する方法論の検討を目的とした。特にカンボジアについて、地理情報システムを用いた環境管理図面(案)作成をめざした。また、南米について金鉱の分布を確認すること、各国行政官が環境管理計画策定にあたって利用できる基礎図面を作成することも目的とした。

(3)地質学に基く水銀放出量算定

金鉱石の精錬過程で排出された水銀の大半は微粒の金属水銀であるが、精錬所周辺環境に拡散していくにつれて、土壌・底質、河川水、植物、水棲動物、人等から構成される物質循環系に取り込まれ、水銀の一部は化学形が変化する。また、河川水により運搬される土壌・底質の量が季節毎に変化するため、水銀濃度は季節変動を受けると考えられる。土壌・底質に吸着している水銀は、電解質を含む雨水との接触によるこれら固体中のイオン性成分の再分配により濃度が変化するはずである。濃度変動の程度は、鉱物種、固体中成分の可動性(交換性)イオン種濃度、雨水の化学組成、温度等のパラメータに依存する。この水銀分配解析のため、これらのパラメータを特定のサイトについて取得することを本サブテーマの目的とした。

 河川水と底質は、厳密には固液平衡状態にはないと考えられるが、近似的に平衡状態にあるものと仮定して総水銀濃度を用いて算出した分布係数Kdcm3/g、溶液中濃度に対する固体中濃度の比)を用いて無機固体/河川水二相分配による水銀分布の解明を目指した。

(4)水銀汚染の実態調査とリスクコミュニケーション試行

 水銀汚染の実態調査を主に採掘従事者の健康面から調査すること、そのための分析支援システムを検討すること、アンケートによって地域住民のリスク認知を明らかにすることを目的とした。アンケートは数百部の回収を目指した。また、水銀汚染の防止、スモールスケールマイニングや資源開発と地域社会の問題に資するリスクコミュニケーションの可能性を検討するため二日間の円卓会議を計画した。

 

3.研究の内容・成果

(1)水銀の地球化学的挙動に関する基礎研究

 フィリピンのゴールドラッシュ地域で試料の産状を観察し、採取、分析した。試料としては精錬所の煤や灰などのアーチファクト、土壌、底質、河川水、落ち葉を採取した。観察の結果、水銀汚染の原初状態はアーチファクトであることが明らかになった。次に、主にCV-AFS法、一部PIXE法で分析を行ったところ、吸引後の河川水の総水銀が検出限界の5ng/1以下であること、土壌、底質、縣濁物、落ち葉の水銀含有量は高いことがわかった。特に落ち葉では最高で38.7ng/gのメチル水銀が生成していた。

 広島大学のPIXE装置を試料の量が少なくてすみ迅速に分析できる外部PIXEラインに改良した。まず、試料支持膜として適切な材料の検討を行い、フォルムバールを選定した。また、フォルムバールを用いて均質な薄膜を効率よく製造する簡単な装置を試作した。これはメスシリンダーにフォルムバールのテトラヒドロフラン溶液を入れ、石英ガラス基盤をそれに浸した後、引き上げる方法であり、作成した薄膜は十分均質であった。薄膜作成の技術を確立した後に、取り出し窓材の検討を行った。今回はバックグラウンドを低くする必要性があることから射出損傷に弱いカプトンフォイルをあえて採用した。ただし、その損傷は真空系や加速器本体にダメージを与えるので、一定の照射電気量をこえた時点でビーム射出プラグを交換することにした。最後に照射条件の検討に入った。実験の結果、軽元素側でH2+を、重元素側でプロトンを用いると効率よく分析を行えることがわかった。

 外部PIXE装置を完成ののち、カンボジアの金鉱採掘地「Sampov Loon」の河川水を分析した。その結果、同地域では化学的に多様な水が存在し、一部は重金属に汚染されていることが判明した。ただし、試料をフィルターで吸引してから分析を行ったため水銀の検出はできなかった。

(2)金鉱化帯の識別とマッピング

 カンボジアについて環境評価マップの作成を行った。また、ブラジル、ボリビア、チリ、エクアドル、コロンビア、パラグアイ、ペルーの7カ国について、環境管理計画の基礎となる金のポテンシャルマップを作成した。使用したデータの種類は、金鉱床地、金の各カテゴリを表すポテンシャルゾーン、地形図、地質図、構造区分図、断層・リニアメントなどである。国によってデータの種類に若干の違いがある。都市位置、河川などの地形情報は、米国政府作成のDCWWorld Bata Bank IIなどのデジタル地形データを使用した。

 これらのデータは図形種別に応じて地理情報システム(GIS)に取り込んだ。GISとしては米国マイクロイメージ社の汎用地理情報システムであるTNTmips等を使用した。これらのデータを使って、金のポテンシャルゾーンABCおよび金鉱床地を表わす主題図のレイアウトを作成した。最終年度はCD-ROMで出版するにあたり、地図データを閲覧することのできる無料のビューワー・ソフトであるTNTatlasを使用した。地図データや作成したレイアウト、文書などにリンク(ハイパーリンク)を張ることにより、それらの間を自由に移動することができる。次項上半部にカンボジアのアトラスの最初の画面を示す。画面右下にある枠で囲まれた項目上でクリックすると、リンクされた主題情報に画面が切り替わる。ユーザは各レイヤーのチェックボックスをクリックすることで、レイヤーの表示/非表示を切り替えることができる。例えば環境管理図を選択すると次項下半部に示すような図面に切り替わる。

 CD-ROM2枚構成にして、1枚目にカンボジアのデータを、2枚目に南米のデータを収録した。2枚目の編集は国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC、スペイン語略称CEPAL)と共同で行った。Readmeフォルダには、CDの内容について説明した文書(AboutThisCD)やインストールガイドを収録した。またMetadataフォルダには、環境評価マップについての説明やブラジルの水銀についての解説、データの出典を収録した。

 

 

 

カンボジアの金ポテンシャルを示す図面の一部

 

 

 

カンボジアの「環境評価マップ」の画面

 

(3)地質学に基く水銀放出量算定

 河川底質や周辺の土壌は、自然の水銀濃度と比べて100-1000倍の水銀を含むことが判明した。土壌に排出された水銀の大部分が吸着されており、また、これらの水銀汚染が、水銀排出源から遠く離れた地域でも見られることから、水銀を含む土壌が主として雨水とともに下流へ運ばれ、再分布したものと推定された。

 河川水のpHは、採取後ろ過をせずにそのまま測定した値である。得られたpHはどの採取地点でも同様であり、ややアルカリ性(7-7.6)を示している。また、このpH条件は、水銀がイオンになっていればより吸着しやすい環境を示している。共存する主な電解質は、Na+Ca2+等であるが、Hgイオンがこれらの成分との競合に打ち勝って吸着するとすればHg2+であろうと推定される。

 採取した河川水(ナルゲンフィルタシステムを用いてろ過した河川水)の重金属を化学濃縮PIXE法によって分析した。検出された重金属は、MnFeNiCuZnZrAsであるが、いずれの成分も環境基準値以下である。ヒ素濃度は、ppbレベルに止まっている。このpH条件下では、土壌・底質に含まれているとしても溶出してくる可能性は低いと推定される。

 金アマルガム精錬小屋で採取したススのPIXE分析(1000μmのポリエチレンを吸収体として用いた)で検出された元素は、SiCaSrTiMnFeCuZnHgPbZrであり、水銀濃度は天井に付着したススで特に高かった。水銀と同時に検出された鉛は、鉱夫が有鉛燃料を使用して作業している可能性を示唆する。

 壁に付着したススの低エネルギー側のPIXEスペクトルには、これらの元素のほか、MgAlPSKが、天井に付着していたススの低エネルギー側のPIXEスペクトルには、MgAlSKが検出された。これらは、作業中に巻き上げられた土壌成分(アルミノケイ酸塩)に由来するものと推定される。

 このスス中の水銀の化学形を調べるために、X線吸収端構造を調べた。参照物質としてHgClHgCl2を使用し、同様の条件でスス(試料A 天井に付着していたスス、試料B 壁に付着していたスス)を測定した。化学形を決定するに十分なデータは得られていないが、EXAFS領域まで含めて比較検討すると、試料A中の水銀はHgClに近く、試料BHgCl2の化学状態に近いと推定される。

(4)水銀汚染の実態調査とリスクコミュニケーション試行

 本サブテーマでは、リスクコミュニケーションの円滑な実施を実現するため、まず、初年度に毛髪試料の迅速な分析法の検討を行った。その結果、PIXEを用いた岩手医科大学の無調製無標準定量法が極めて有効であることが判明した。またこの方法の爪分析への有効性も実証された。

 次に、ゴールドラッシュ地域の水銀汚染の特徴把握を試みた。試料としては、フィリピンとモンゴルで本人の同意を得た上で入手した毛髪、タンザニアの産金地帯で採取した選鉱かす、河川水、土壌、底質、魚類、地衣類を分析した。

 最終年度には、リスク認知を知るためのアンケート調査をフィリピン、ルソン島の産金地帯に位置するイトゴン市で行った。サンプリング法はコンビニエントサンプリングである。リスク認知の高いものは2種類に分類できると考えられる(第1表)。それらは、テロや、核兵器、原子力発電所のように大規模なものと地滑りや水銀という非常に身近に存在するものである。スモールスケールマイニングによる水銀汚染を低減する方策の評価としては、政府による広報活動がもっとも有効であると評価されていた。また、水銀に代わる技術を政府が導入するという政策もこれに次いで支持されていた。このほか、鉱山会社がスモールスケールマイナーを雇用することと、鉱山会社が水銀の害と取り扱いについて教育するという方策も評価されていた。スモールスケールマイニングによる水銀汚染に対する対策としては、政府や開発会社による介入が相対的には有効と判断されていた。特に教育や啓蒙活動が有効な方策と見なされていた(以上 第2表)。このことは、現実には多く水銀が利用されながら、そのリスクに対する真の理解や知識が欠けているという問題意識にもとづくものと推測される。最後にスモールスケールマイニングと大規模資源開発とが、それぞれハザードにどのように寄与しているかを評価させた。その結果、差異のあるすべての項目でスモールスケールマイニングの方がハザードヘの寄与が低いとされていた。すなわち、スモールスケールマイニングの方がおおむね安全あるいは環境に負荷がより少ないと見なされていた(第3表)。

 円卓会議は「Round Table Meeting on Good Practice and Effective Methods on Risk Communication Between Mineral Property Developers and Local Communities」として2003114-15日に開催した。国連、世界銀行、政府、大学、企業、先住民共同体代表など多彩な顔ぶれによる議論が行われた。水銀汚染の防止キャンペーンについてはブラジル鉱物技術研究所(CETEM)がアマゾンで実施したプロジェクトを中心に議論が行われ、地域に受け入れられるキャンペーンの方法論についてとりまとめが行われた。

 

4.考察

(1)水銀の地球化学的挙動に関する基礎研究

 本サブテーマでは、ゴールドラッシュ地域における水銀汚染がアーチファクトとして始まることを見出した。アーチファクトとは精錬後に作業小屋の天井や床に付着あるいは沈積する煤や埃であるが、これまでは関係者の注意を引かなかった。しかし、本サブテーマの分析により、最大15%もの総水銀を含む汚染物質であることが明らかになった。また、アーチファクトのほかに重要な水銀汚染源が落ち葉であることや、河川水に溶存する無機水銀は極めてわずかで水銀の大半は縣濁物に付着して運搬されている可能性が高いことも判明した。したがって汚染拡大を防止するには水銀が付着するゴミ類の処理を適切に行わなければならない。フィリピンにおいては、おそらく、雨季にゴミや落ち葉が流下する事により、多量の水銀が運搬されると予想される。今後はこのような物理的な水銀の拡散様式を研究すべきである。また、メチル水銀が落ち葉の中に生成していることが判明したので、これの水への溶出性を確認する必要がある。汚染地帯の調査ではできるだけ多くの場所で試料を取らなければならない。また、試料の運搬を容易にするためには分析に必要とされる量が少ないことが望ましい。外部PIXE法はこれらの条件を満たすものであり、試料支持膜の材料、取り出し窓の材料、照射ビームの種類、加速電圧を適切に選ぶことで、十分に総水銀値を決定できることがわかった。外部PIXE法と公定法の比較を進め、その信頼性についてさらに検証してゆく必要があろう。

(2)金鉱化帯の識別とマッピング

 本研究では各国の金鉱化帯を以下の3つに分類した。そして、カンボジアを例にして、精錬の手法や人口密度など環境に影響を与える要因を考慮して環境管理マップの作成を行った。

カテゴリA…既存の金鉱床地を中心として半径10-15kmの領域(金の存在確率大)。

カテゴリB30km以内で、Aと類似した地質背景を持ち、Aの領域を内部に含む領域(金の存在確率中)。

カテゴリC…さらにBの領域を内包するより広い領域(金の存在確率小)。

 上記のような分類は資源地質学的には誤差が大きく、鉱物資源探査の指針としては精度が高くないが、カンボジアの例にみられるように、スモールスケールマイニングに伴う環境破壊、汚染の様相と管理計画策定には使いうるものである。最終的には、これまでの調査データをGISに取り込み、簡易ビューワーを組み込んで、初めてのユーザにとっても使いやすいような形になるように作成した。今後は各国の反応を参考にして、さらに使いやすいものを作ってゆきたい。

(3)地質学に基く水銀放出量算定

 土壌・底質試料中の総水銀濃度は最大18ppmから最小0.03ppmまで変動していた。これは、排出源からの距離・排出後に受けた化学的・生物学的作用が様々に働いた結果であると考えられる。人為的な水銀汚染を受けていない岩石・底質中の水銀含有量は数−数十ppbであるので、0.1ppmを超える試料は明らかに水銀汚染を受けていると推定される。この結果は、スモールスケールマイニングによって精錬作業場付近の汚泥池はもちろん、河川の上流域から下流に至るほとんどの地域の土壌・底質はかなりのレベルの水銀で汚染されていることを示している。

 水試料中の総水銀濃度は、0.3ppb以下であった。調査対象地域の住民が利用している飲料水源の周辺で採取した試料及び小学校近くの民家で使用している飲用水中の総水銀濃度はその10分の1程度であり、特に問題となる濃度ではないと考えられた。水銀の分布係数は、大きな値を示した。これは底質・懸濁物に大半の水銀が吸着しており、これらの底質成分は大きな水銀吸着力を持っていることを示している。したがって、本調査で使用したようなフィルターを用いて濾過するだけで河川水中の大部分の水銀を除去できるものと考えられる。

(4)水銀汚染の実態調査とリスクコミュニケーション試行

 本サブテーマで明らかになったゴールドラッシュの特徴は、選鉱かすが最も問題となる汚染源であるという事である。タンザニアの例で示されたようにその総水銀値が高い上にメチル水銀も生成している。選鉱かすの総水銀値が高いことは南米でも指摘されており、その適正な管理は急務である。また、底質の解析では細粒部に水銀が選択的に吸着されていることが明らかになったが、サブテーマ1や3のフィールド研究でも水中の水銀は縣濁物に伴って運搬されることが指摘されており、粘土鉱物等の細粒物質の挙動をそれぞれの汚染地帯で明らかにする必要があると思われる。

 フィリピンの産金地帯における地域住民の意識調査では、リスク認知の高いものは2種類に分類できると考えられた。それらは、テロや、核兵器、原子力発電所のように大規模なものと、地滑りや水銀という身近に存在するものである。スモールスケールマイニングによる水銀汚染に対する対策としては、政府や開発会社による介入が相対的には有効と判断されていた。特に教育や啓蒙活動が有効な方策と見なされていた。大規模開発とスモールスケールマイニングを比較すると、スモールスケールマイニングの方がハザードに対する寄与が多くの項目で低いと評定された。すなわち、スモールスケールマイニングの方がおおむね安全、あるいは環境に負荷がより少ないと見なされていた。スモールスケールマイニングに対して地域住民は寛容であるように見える。

 円卓会議では次の点が明らかになった。

 .好癲璽襯好院璽襯泪ぅ縫鵐阿鉾爾水銀汚染を防止するには採掘に従事している人々との協働が必要だが、そのためには地域に受容され、リスクメッセージを効果的に伝えるための方法論が必要である。これはブラジルでは「anthropology of technology」として総括されている。

 鉱山会社は環境保護や地域社会との共存を実現するための自主ガイドラインを制定する方向にあり、このガイドラインはベストプラクティスという言葉で表現されている。

 9杙害饉劼斑楼莉嗣韻任魯螢好認知が大きく異なる。したがってベストプラクティスに期待する内容が双方で異なるが、関係者の間でこの点に関する考察が不十分である。

 す杙害饉劼筝的機関が資源開発に伴う各種問題について地域住民と対話する方法は双方向のコミュニケーションを目指している場合が多く、リスクコミュニケーションは強く意識されてはいないが実務レベルではすでに一部で実現されている。

 今後は以上に述べた点を考慮に入れて汚染防止と環境管理推進のための地域社会との協働プログラムを検討すべきである。なお、円卓会議の内容は「Risk Communication Between Mineral Property Developers And Local Communities」としてロンドンの書店から発行される。

 

1表 地域住民のリスク認知

Hazards and risks

Mean

SD

1.Alcoholic beverages

2.67

0.81

2.Radiation therapy

2.78

0.75

3.Small-scale mining

2.28

0.89

4.Coal/oil fired power plant

2.76

0.77

5.Crime

3.11

0.85

6.Economic crisis

3.00

0.90

7.Hiking as sports

1.65

069

8.Hunting as sports

1.83

073

9.Boxing as sports

1.93

0.71

10.Basketball

1.71

0.68

11.Car racing

2.68

0.78

12.Hydroelectric power plants

2.55

0.95

13.Mercury

3.02

0.78

14.Motorcycles

2.44

0.66

15.Terrorism

3.54

0.76

16.Nuclear weapons

3.59

0.72

17.Bicycles

1.93

0.65

18.Flying as airline passenger

2.26

0.66

19.Herbicide

2.41

0.68

20.Pesticide

2.62

0.72

21.Motor vehicles

2.20

0.60

22.Coal mining

2.47

0.75

23.Commercial aviation

2.30

0.64

24.Tractors

1.89

0.70

25.Food preservatives

2.12

0.77

26.Food colouring

2.18

0.76

27.Genetically modified food

2.16

0.72

28.Antibiotics

2.06

0.79

29.Nuclear power plant

3.33

0.84

30.Railroads

2.28

0.76

31.Water/ship transport

2.27

0.71

32.Vaccination

1.79

0.73

33.Large scale mining

2.95

1.61

34.Open pit mining

2.92

0.96

35.Underground mining

2.79

0.92

36.Mineral processing

2.59

0.83

37.Mine tailings dams

2.69

0.82

38.Open pit excavations

2.83

0.85

39.Mined-out areas

2.85

0.84

40.Land slides

3.09

0.75

Note: 4-point scale (very risky: 40~not risky: 1)

 

 

2表 地域住民による汚染対策についての評定結果

Countermeasures

Mean

SD

1.Local governments to conduct effective public information dissemination

3.24

0.76

2.Local governments to create other job opportunity for local residents

2.87

0.88

3.Minibg companies to employ local small-scale miners

2.92

0.84

4.Nationa1 government to create other job opportunity for local residents

2.79

1.01

5.Mining companies to educate on hazards and handling of mercury

2.98

0.91

6.Local communities to prevent small-scale miners from using mercury in their operations

2.53

1.03

7.Goverments to ban the use of mercury by small-scale miners

2.47

1.02

8.Natlonal govemment to tighten the regulations on small scale mining

2.37

1.00

9.LocalGovemment to tighten the regulations on small-scale mining

2.45

0.99

10.Govemment to introduce technological practices not to use mercury for small-scale mining

3.01

0.92

11.Goverment to regulate the importation of mercury to country

2.55

1.04

12.Government to ban the sale of mercury in small-scale mining communities

2.32

1.13

Note: 4-point scale (4: very effective1: not effective)

 

3表 ハザードヘの寄与度の評定結果.

Contribution

SSM

LSM

1.Subsisdence*,

2.90

3.76

2.Water source depletion*

2.98

3.92

3.Deforestation*

3.01

3.96

4.River siltation*

3.08

4.02

5.River pollution*

3.16

4.02

6.Removal of vegetation cover*

2.87

3.75

7.Accidents*

2.90

3.49

8.Air pollution*

2.82

3.57

9.Noise pollution*

2.67

3.63

10.Forest fires*

2.59

3.06

11.Lung related diseases*

2.91

3.42

12.Prostitution*

2.08

2.75

13.Crime*

2.54

3.01

14.Alcohol problem*

2.90

3.32

15.Gambling*

2.84

3.27

16.Tax evasion

2.65

2.84

17.Illegal trading

2.62

2.70

18.Child labor*

2.49

3.59

19.Labour exploitation*

2.60

3.64

20.Corruption*

2.52

2.89

21.Labour practice violation*

2.13

3.10

22.Unnecessary migration

2.85

3.03

23.Local/ethnic relation problem*

2.65

2.99

24.Land ownership issues/problems

3.02

3.22

Note: Mean ratings of evaluations of contribution. The greater the number is, the higher

the contribution is evaluated. SSM: small scale mining, LSM: large scale mining.

 

5.研究者略歴

課題代表者:村尾 智

1959年生まれ、広島大学大学院博士課程単位取得 理学博士 工業技術院地質調査所

科学技術庁日豪交流研究員(CSIROへ派遣)現在産業技術総合研究所主任研究員

主要論文:

Murao, S., Daisa, . E., Sera, K., Maglambayan, V. B. and Fut. at. sugawa, S.: PIXE measurement of human hairs from a small-scale mining site of the Philippines, Nucl. Instr. Meth. B189, 168-173 (2002)

Murao, S., Sera, K., Futatsugawa, S., Chen, B. and Sun, X: Trace element concentration of leaf and ash from a waste pond at Fankou mine, China, International Journal of PIXE 12, 53-60 (2002)

Murao, S., Futatsugawa, S., Sera, K. and Maglambayan, V. B.: Trace element analysis of tailings from an indigenous mining community, Benguet., Philippines, International Journal of PIXE 12, 61-69 (2002)

 

主要参画研究者

(1): 村尾 智(同上)

 

(2): 輪座利彦

1953年生まれ 東京大学大学院理学系研究科地球物理学専攻 理学博士 株式会社パスコ

現在 株式会社オープン・ジー・アイ・エス代表取締役社長

主要論文:

Maglambayan, V. B., Murao, S. and Waza, T.: The use of GIS for environmental management of small-scale mining in Baguio district, Philippines, NIGS Res. Symp., Nov. 29, Quezon City (2001)

Murao, S., Chaparro Avila, E., Villas Boas, R. and Waza, T.: Gold Potential Maps for Environmental Management of Cambodia and Latin America, CD-ROM, AIST02-C00024 (2003)

 

(3): 辻 正道

1949年生まれ 東北大学大学院博士課程終了 工学博士 東京工業大学助手

ペンシルバニア州立大学素材研究所客員研究員 現在 東京工業大学助教授

主要論文:

Tsuji, M.: Pb2+ separation from concentrated electrolyte solution by a cryptomelane-type manganic acid and titanium antimonic acid, Solvent Extr. Ion Exch. 19, 531-551 (2001)

Tsuji, M.: Se032--selective pi-opei-ties of inorganic materials synthesized by the soft.-chemical process; Solid State Ionics, 151, 385-392 (2002)

Tsuji, M: Evaluation and molecular-design of inorganic anion sieves, In: Fundamentals and Applications of Anion Separations (Bruce, A. Moyer and Raj P. Singh, editors), Kluwer Academic/Plenum Publishing Co. (in press)

 

(4) Юの氷粍賚

1952年生まれ 東京理科大学工学部卒業 工学博士 東北大学抗酸菌病研究所技官

同大学サイクロトロン施設技官 現在 岩手医科大学助教授

主要論文:

Sera, K, Futatsugawa, S. and Murao, S.: Quantitative analysis of untreated hair samples for  monitoring human exposure to heavy metals, Nucl. Instr. Meth. B189, 174-179 (2002)

Sera, K., Futasugawa, S., Murao, S. and Clemente, E.: Quantitative analysis of untreated nail samples for monitoring human exposure to heavy metals, International Journal of PIXE (in print)

Sera, K. , Terasaki , K., Murao, S., Futatsugawa, S. and Saitoh, Y.: A three-detector measuring system using a pure-Ge detector, International Journal of PIXE (in print)

   :吉川肇子

1959年生まれ 京都大学大学院博士過程単位取得 博士(文学)京都学園大学助教授

筑波大学講師 現在慶應義塾大学助教授

主要論文:

藤井聡、竹村和久、吉川肇子:「決め方」と合意形成:社会的ジレンマにおける利己的動機の抑制にむけて 土木学会論文集、70913-26 (2002)

加藤順子、吉川肇子:遺伝子組み換え食品に対する情報二一ズの研究 日本リスク研究学会誌、1355-60 (2002)

大坪寛子、山本明、吉川肇子:社会的現実としてのリスク:合理的なリスク概念の限界 日本リスク研究学会誌、1463-68 (2002)

Kikkawa, T.: The effect of 'Plant Manager Game' on understanding of environmental problems among junior high school students. The International Simulation and Gaming Yearbook, 11, 127-130 (2003)