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国際的な砂漠化対処

砂漠化する地球 -その現状と日本の役割-

砂漠化とは?

砂漠化は、砂漠化対処条約で「乾燥地域、半乾燥地域及び乾燥半湿潤地域における種々の要因(気候の変動及び人間活動を含む。)による土地の劣化」と定義されています。土地の劣化は世界中のどこでも発生する可能性がありますが、乾燥地における土地劣化を砂漠化とよんでいます(注1)

地球上でどれくらいの面積が砂漠化しているかについては、複数の機関で報告されていますが(注2)、近年の国連等の関連する報告書では砂漠化の世界地図は示されていません。砂漠化のプロセスの多様性と複雑さにより、砂漠化の定量化が困難となっています(注3)

コラム:世界砂漠化地図はどこに?

近年、世界砂漠化アトラス第3版(2018)(注4)、IPBESの「土地劣化と再生に関する評価報告書」(2018)(注5)、IPCCの特別報告書「気候変動と土地」(2019)(注6)といった砂漠化・土地劣化に関連する重要な書籍・報告書がとりまとめられました。しかしその中では世界の砂漠化の分布を示す地図は示されませんでした。

世界的に一定の評価を受けたものとしては、世界砂漠化アトラス(第1版[1992]、第2版[1997])や2005年に公表されたミレニアム生態系評価の報告書などがあります。しかしIPCCやIPBESなどの世界の多くの研究者のレビューを受けて一定の合意を得たような砂漠化・土地劣化地図は、ミレニアム生態系評価(注7)以降、見当たりません。なぜでしょうか?

世界砂漠化アトラスの第3版は、第1版、第2版に対して大きく改訂されています。第1版・第2版では砂漠化地図が示されていました(ただし実際には土壌劣化の地図です)。第3版ではアプローチを大きく変え、複数のデータセットを1つの指数にまとめるのではなく、土地劣化と関連する14の変数をそれぞれ地図として示し、またユーザーがアクセスできるグローバルデータセットとして提供することで、ユーザーが関心を持つ地域に対して、適切なデータセットを選択して組み合わせて利用するとしています。

またIPCC(2019)では、土地劣化は深刻な問題であるにもかかわらず、その範囲と程度を示す信頼できる地図は存在しないとしています。この報告書やIPBES(2018)でも引用されているGibbs & Salmon(2015)の論文(注8)では、土地劣化を推定する手法によって、その面積や程度の推定が大きく異なり、世界全体の土地劣化面積では10億ヘクタール以下のものから60億ヘクタールを超すものまで幅があり、その分布も大きく異なる、と述べています。

このように推定が異なる理由としては、砂漠化・土地劣化の定義(どのような劣化プロセスを評価するか)、ベースラインの設定(いつを基準として劣化を評価するか)、評価の手法(劣化をどのように観測・評価するか)などの点でアプローチが異なるためです。

今後、地域の実情に根ざした事例研究を積み重ねるとともに、リモートセンシングや数値モデル、フィールド観測などを統合したアプローチの開発に期待が寄せられています。

恒川 篤史(鳥取大学乾燥地研究センター 教授)

乾燥地の分類と分布

乾燥地とは、乾燥の程度を表す乾燥度指数(AI)(AI = P(年間降水量)/PET(年可能蒸発散量))の値の低い地域のことです(注9)。乾燥度指数が0.05未満の極乾燥地域は、乾燥地に含まれますが、砂漠化対処条約で定義される砂漠化の対象となる地域(被影響乾燥地)からは除外されます(注10)

乾燥地区分 乾燥度指数(注11)
極乾燥地域 AI < 0.05
乾燥地域 0.05 ≤ AI < 0.20
半乾燥地域 0.20 ≤ AI < 0.50
乾燥半湿潤地域 0.50 ≤ AI < 0.65

乾燥地の面積は、それを計算する方法やデータによって値に幅があります(注12)が、多くの研究では世界の陸地の4割以上と見積もられています。今後、地球温暖化にともないその面積をさらに増やすと予測されています。たとえば、ある論文(Koutroulis, 2019(注13))では、1981~2010年の気候データセットを用いて、乾燥地面積を6,340万平方キロメートル、世界の陸地(南極を除く)の46.9%、そこには世界人口の38.8%(2010年)が暮らすと見積もっています。そして地球温暖化にともない、今世紀末にはさらに7%の面積を増やす可能性があると予測しています(注14)

プロセスの多様性と複雑さをもつ砂漠化・土地劣化ですが、持続可能な社会の実現には重要課題となっています。「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」が、2018年に発表した「土地劣化と再生に関する評価報告書政策決定者向け要約」では、以下のようなキーメッセージを報告しています。

 

「土地劣化は、広がりやすく社会経済に組み込まれた現象である。地球の陸地の至る所で発生し、様々な形態を取りうる。土地劣化の防止および劣化した土地の再生は、地球のすべての生命に不可欠な生物多様性および生態系サービスを守り、人々の福利を保証するために緊急の課題である。

緊急かつ協調した行動が取られない限り、人口増加、過去に例の無い大量消費、促進する経済のグローバル化、気候変動といった要因により、土地劣化は悪化する。

土地劣化に立ち向かうための既知で実証済みの行動を実施し、地球全体で何百万人もの人々の生活を変えることは、時間が経過するにつれますます困難になり、費用も高くなる。不可逆的な土地劣化を予防し再生手段の実施を加速するために、緊急かつ大胆な取組の変更が必要とされている。」 (注15)


(注1) Mirzabaev, A., J. Wu, J. Evans, F. García-Oliva, I.A.G. Hussein, M.H. Iqbal, J. Kimutai, T. Knowles, F. Meza, D. Nedjraoui, F. Tena, M. Türkeş, R.J. Vázquez, M. Weltz, 2019: Desertification. In: Climate Change and Land: an IPCC special report on climate change, desertification, land degradation, sustainable land management, food security, and greenhouse gas fluxes in terrestrial ecosystems[P.R. Shukla, J. Skea, E. Calvo Buendia, V. Masson-Delmotte, H.-O. Pörtner, D.C. Roberts, P. Zhai, R. Slade, S. Connors, R. van Diemen, M. Ferrat, E. Haughey, S. Luz, S. Neogi, M. Pathak, J. Petzold, J. Portugal Pereira, P. Vyas, E. Huntley, K. Kissick, M. Belkacemi, J. Malley, (eds.)]. In press.,3.1.1, p254
(注2) 以下の例がある。
・UNCCD.FactSheets.2009.The causes of Desertification,p3「世界の乾燥地の70% (極乾燥砂漠を除く)、約36億ヘクタールが劣化している」
・United Nations.Secretary-General-Sdg-Report-2020--Statistical-Annex. 2020.Economic and Social Council,15.3.1, Proportion of Land That Is Degraded Over Total Land Area,p139:地域データは、UNCCD 2018年国家報告書で123カ国から提出された国レベルのデータと、世界的なデータソースに基づいてUNCCDが作成した推計値に基づいている。留意事項として、「カリブ海諸島を除く」、「パプアニューギニア、オーストラリア及びニュージーランドを含むが、オセアニア諸島は除く」、「米国及びスイスを除く」となっている。
(注3) 注1に同じ,3.2.1, p260
(注4) Cherlet, M., Hutchinson, C., Reynolds, J., Hill, J., Sommer, S., von Maltitz, G. (Eds.), World Atlas of Desertification, Publication Office of the European Union, Luxembourg, 2018.
(注5) IPBES (2018): The IPBES assessment report on land degradation and restoration.Montanarella, L., Scholes, R., and Brainich, A. (eds.). Secretariat of the Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services, Bonn, Germany. 744 pages.
(注6) Mirzabaev, A., J. Wu, J. Evans, F. García-Oliva, I.A.G. Hussein, M.H. Iqbal, J. Kimutai, T. Knowles, F. Meza, D. Nedjraoui, F. Tena, M. Türkeş, R.J. Vázquez, M. Weltz, 2019: Desertification. In: Climate Change and Land: an IPCC special report on climate change, desertification, land degradation, sustainable land management, food security, and greenhouse gas fluxes in terrestrial ecosystems [P.R. Shukla, J. Skea, E. Calvo Buendia, V. Masson-Delmotte, H.-O. Pörtner, D.C. Roberts, P. Zhai, R. Slade, S. Connors, R. van Diemen, M. Ferrat, E. Haughey, S. Luz, S. Neogi, M. Pathak, J. Petzold, J. Portugal Pereira, P. Vyas, E. Huntley, K. Kissick, M. Belkacemi, J. Malley, (eds.)]. In press.
(注7) Millennium Ecosystem Assessment, 2005. Ecosystems and Human Well-being: Desertification Synthesis. World Resources Institute, Washington, DC.
(注8) Gibbs & Salmon. Mapping the world's degraded lands. Applied Geography. Volume 57. February 2015, p12-21
(注9) UNCCDホームページ
(注10) UNCCDの条文より. 和訳:外務省ホームページ.第1条 用語, [砂漠化],[砂漠化に対処する], p8
(注11) 注4に同じ, p72
(注12) 例えば以下の例がある。
・UNCCD.GLOBAL LAND OUTLOOK First Edition.2017.Secretariat of the United Nations Convention to Combat Desertification.Platz der Vereinten Nationen 1.53113 Bonn, Germany
PART TWO: THE OUTLOOK.12 Drylands,p246 “Drylands cover 41 per cent of the land surface, produce 44 per cent of the crops, and contain over 2 billion people and half of the world’s livestock.”「乾燥地は地表の41%を占め、作物の44%を生産し、20億人以上の人々と世界の家畜の半分を含んでいる」
・注4に同じ,以下.
p72 “In 1981-2010 drylands constituted nearly 40 % of the total terrestrial land area of the Earth.”「乾燥地が40%近くを占めていた」
p75 “A comparison of the two 30-year periods, 1951-1980 and 1981-2010, shows that global drylands have increased by about 0.35 %.”「30年間 (1951年~1980年と1981~2010年) を比較すると、世界の乾燥地は約0.35%増加」
(注13) Koutroulis. Dryland changes under different levels of global warming.Science of The Total Environment Volume 655.March 2019, p482-511
(注14) 注13に同じ
(注15) 翻訳:環境省.監修:山形与志樹(国立環境研究所地球環境研究センター 主席研究員).百村帝彦(九州大学熱帯農学研究センター 准教授).編集協力:公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES). IPBES土地劣化と再生に関する評価報告書 政策決定者向け要約(抄訳),p1