温室効果ガス排出量算定・報告・検証情報ライブラリー
EUをはじめとする米国、オセアニア、アジアの各国・地域において、GHG排出量のMRVに関する制度設計や取組が進展しており、運営方法の検討や体制整備が本格的に進められつつあります。
欧州排出量取引制度(EU ETS)は、2003年10月欧州議会によって承認された「排出量取引設立のための指令」に基づく制度です。一定規模以上の温室効果ガスを排出する事業所に対してそれぞれ排出上限(排出枠)を設定しつつ、実際の排出量を比較して排出枠の余っている事業所と不足している事業所が排出枠を売買できる取引市場を設けることによって、排出削減にかかる経済コストを低減しようとする「キャップ・アンド・トレード」の原則に則っています。
EU ETS導入以前の2002年から、英国でUK ETSという自主参加型のプログラムが開始されました。EU ETSはUK ETSの知見がかなり活用されたと言われています。また、排出量のモニタリング・報告に関しては、1995年から始まった「環境管理・監査スキーム(EMAS)規則」に基づく、企業による自主的な環境管理、環境報告書の公表及び外部機関による環境監査での経験が、制度の運用に貢献しています。
EU ETSは、2005-2007年の第1期、2008-2012年の第2期、2013-2020年の第3期と3つに区分されています。2012年からは航空部門(国内線)がETSに加えられました。
2013年から、「排出量のモニタリング・報告に関する新規則 (MRR)」、ならびに「排出量報告書とトンキロメーター報告書(航空部門が提出する報告書「tonne-kilometre report」のこと)の検証、及び検証機関の認定に関する新規則 (AVR)」が適用されました。これにより、EU域内における検証機関の認定基準とその運用のレベルの確認が定期的に行われるため、排出量のモニタリング・報告・検証の作業が、今後より標準化・均一化されてます。
新たな動きとして、英国では、EU ETSではあまりカバーされていない業務部門を対象とするため、2010年より炭素削減コミットメント・エネルギー効率化制度(CRC)が開始されました。
【EUにおけるMRV制度の変遷】
【各制度の概要(2014年3月現在)】
制度名 | EU-ETS | CRCエネルギー効率化制度 |
対象地域 | EU27カ国+3カ国 | 英国 |
開始年 | 2005年 | 2010年 |
制度種類 | 義務削減 | 義務削減 |
排出量取引 | あり | あり |
報告対象ガス | CO2, N2O, PFCs | CO2 |
対象者数 | 13,000 | 20,000 |
算定単位 | 設備 | 社・団体 |
第三者検証 | 義務 | なし |
当局レビュー | あり | あり |
【EU-ETS第3期の年間スケジュール】
2011年12月に、「温室効果ガス排出量のモニタリング・報告に関する規則」、ならびに「温室効果ガス排出量報告書及びトンキロメーター報告書の検証と検証機関の認定に関する規則」が決定されました。EU-ETS第3期からは、下図のようなスケジュールで実施されることが規定されています。
【EU-ETS ガイダンス・テンプレート】
第2期から第3期へ移行する際、参加者が制度により柔軟に適応できるように、制度に関して様々な改善や変更が行われました。その一つがガイダンス(手引き)およびテンプレートの提供です。
欧州委員会(EC)は、EU-ETS第3期より、事業者が提出する「排出量報告書」や、検証人・機関が提出する「検証報告書」のテンプレート(記入例を含む)を公開しており、各国での使用を奨励しています。
一般的なガイダンスに加えてMRRに関しては、「モニタリングプラン」、「サンプリング・分析」、「不確実性の評価」など、AVRに関しては「検証範囲」、「リスク分析」、「サイト訪問」など個別の項目に関して、よりくわしく、わかりやすく説明しています。
EU-ETSのMRR およびAVRに関するすべての規則、ガイドライン、テンプレートは以下のリンク先より入手することができます。
欧州委員会(European Comission)
:EU ETSの算定・報告・検証に関する文書
http://ec.europa.eu/clima/policies/ets/monitoring/documentation_en.htm
米国では、連邦政府や州政府、またNPOなどによってさまざまなMRV制度が導入、施行されてきました。最近では、カリフォルニア州のキャップ・アンド・トレード導入の動きや、地域毎に並存する諸制度を米国及びカナダ全体で連携、統一の方向を模索しようとするThe Climate RegistryというNPOの仕組みが注目されています。
【米国におけるMRV制度の変遷】
【各制度の概要(2014年3月現在)】
制度名 | The Climate Registry | GHG報告プログラム | カリフォルニア州地球温暖化対策法 |
対象地域 | 米国・カナダ | 米国 | カリフォルニア州(米国) |
開始年 | 2009年 | 2009年 | 2012年 |
制度種類 | 自主報告 | 義務報告 | 義務削減 |
排出量取引 | なし | なし | あり |
報告対象ガス | CO2, CH4, N2O, HDCs, PFCs, SF6 | CO2, CH4, N2O, HDCs, PFCs, SF6, NF3 | CO2, CH4, N2O, HDCs, PFCs, SF6, NF3, その他のフッ化GHG |
対象者数 | 430 | 13,000 | 800 |
算定単位 | 社・団体 | 事業所 | 事業所 |
第三者検証 | 義務(ISO14064-3に準拠) | なし | 義務 |
当局レビュー | なし | あり | あり |
オーストラリアでは、2008年7月から温暖化エネルギー報告制度(NGER)が実施されています。
また、ニュージーランドでは、2008年に森林部門へ排出量取引制度が導入され、以後2015年まで順次対象部門を拡大しています。この制度は、上流アプローチを採用しています。
【各制度の概要(2014年1月現在)】
制度名 | 温室効果ガス及びエネルギー報告法 | ニュージーランド排出量取引制度 |
対象地域 | オーストラリア | ニュージーランド |
開始年 | 2008年 | 2008年 |
制度種類 | 義務報告 | 義務削減 |
排出量取引 | なし | あり |
報告対象ガス | CO2, CH4, N2O, PFCs | CO2, CH4, N2O, HDCs, PFCs, SF6 |
対象者数 | 約300 | 約300 |
算定単位 | 社・団体 | 事業所 |
第三者検証 | 義務 | なし(独自の排出係数(UEF: Unique Emission Factor)には第三者検証必要) |
当局レビュー | あり | あり |
韓国では、2012年5月、韓国国会において「温室効果ガス排出権の割当及び取引に関する法律案」が可決され、2015年1月1日から排出量取引制度が本格的に実施されることになりました。現在、「温室効果ガス・エネルギー目標管理制度」に基づいたGHG排出量の算定・報告・検証に関する規則の策定作業が進められています。
台湾では、大気汚染管理法を改正して6つのGHGを汚染物質と位置づけ、GHG排出量の報告と排出への課金制度を導入する動きがあります。排出量の算定・報告は、現在普及している行政院環境保護署の自主的な算定・報告制度であるEarly Action Crediting Programが基礎になるといわれています。
中国では、2013年1月1日より7省市(北京市、天津市、上海市、重慶市、深セン市、広東省、湖北省)において、排出量取引制度の試行事業が開始され、GHG排出量の算定・報告・検証に関する規則の策定が進められています。試行事業で獲得した知見を、2015年から全国的な制度として展開することを計画しています。
【韓国と台湾における制度の概要(2012年11月現在)】
制度名 | 韓国:目標管理制度 | 台湾:Early Action Program(中国語) |
対象地域 | 韓国全土 | 台湾全土 |
開始年 | 2011年 | 2009年 |
制度種類 | 義務報告 | 自主報告 |
排出量取引 | なし | なし |
報告対象ガス | CO2, CH4, N2O, HDCs, PFCs, SF6 | CO2, CH4, N2O, HDCs, PFCs, SF6 |
対象者数 | 500 | 300 |
算定単位 | 事業所、及び社・団体 | 社・団体 |
第三者検証 | あり | 任意(ISO14064-3に準拠) |
当局レビュー | あり | あり |
【中国の主な省市制度の対象企業の基準(2012年11月現在)】
省市名 | 対象企業の基準・社数 |
北京市 | 年間排出量10,000トン以上の600社に削減義務 |
天津市 | 年間石炭消費量10,000トン以上に削減義務(社数は不明) |
上海市 |
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深セン市 | 約800社に削減義務(対象基準は明らかにされていない) |
広東省 |
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