環境省自然環境・生物多様性南極地域の環境保護同行日記:トップ

昭和基地での各種サンプリング業務

回想録3

 回想録1及び2においては、観測隊員の業務や暮らしぶりについて少し触れましたが、本回想録では、私が環境省職員として独自に行った各種サンプリング採取について、少しご紹介したいと思います。

 これまでの日記でもご説明しておりますが、南極条約及び環境保護に関する南極条約議定書)の締約国である我が国は、議定書の規定を守るために「南極地域の環境の保護に関する法律」を施行しているほか、毎年開催される「南極条約協議国会議」で採択される国際約束も遵守しています。

 その「南極条約協議国会議」において、1989年に「観測基地等における人間活動が南極の環境にどのような影響を与えるのか、継続的にモニタリング(監視)するための計画(モニタリング計画。)を立案すること」とする勧告が採択されました。上記勧告が近い将来に発効することが見込まれるため、我が国としても、昭和基地のモニタリング計画の立案に取り組む必要が生じています。

 日本国内であれば、水質汚濁防止法や土壌汚染対策法などといった法令に従ってサンプル採取・分析等を行い、有害物質等が基準値を超えることのないよう厳格に定められています。しかし、これら法令は、極地にある昭和基地においては現実問題として実行困難であるもの、実施する意味が希薄なもあります。例えば、昭和基地周辺は露岩域で土壌の採取が困難であったり、採取道具や分析機器、作業人員なども南極という地では極めて限られることから、試料採取やその分析ひとつとっても、すべて国内と同基準にすることは困難ですし、農薬等の持ち込みができない南極地域において、農薬の成分が試料に含まれているかを分析する意味は希薄と考えられます。

 このため環境省では、平成18年度から水質や土壌等の専門家を交え、モニタリングすべき事項やその実施時期、保管方法など、より効果的で現実的なモニタリング計画の立案に際して留意すべき事項をとりまとめた「モニタリング技術指針(案)」の検討を開始しました。

土壌サンプリングの様子

 私は、この「モニタリング技術指針(案)」の効果や実行性について身をもって検証し、今後のさらなる検討材料とすべく、昭和基地周辺において生活排水、土壌、ペンギン類(死亡個体)、魚類などのサンプリングを行いました。これらの試料を帰国後分析し、有害物質の蓄積などの基地活動による環境への影響の有無や、継続したサンプル採取の必要性など、より良い「モニタリング技術指針」策定のための資料にできたらと今から期待しています。

 私は今回同行を通じて、回想録2でご紹介した環境保全隊員をはじめとする各観測隊員に、「南極で観測活動を行う国として環境に責任を持つべきである」というモラル意識が浸透していることを実感しました。しかし、その反面、「どのようにすれば今ある環境を間違いなく維持できるのか」という命題については鋭意模索中であり、今まさにホットな話題であるということを現地に赴き身をもって実感しました。今後、効果的かつ実行可能な「モニタリング計画」が速やかに立案され、昭和基地が世界の国々の模範のなるような環境配慮型の基地となるよう、私も全力を尽くしていきたいと思います。