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「南極特別保護地区」に行ってきました!

2008年2月5日(火)

 2月1日(金)から5日(火)にかけて、ついに私にとって南極で最後となる野外調査に、往復ヘリコプターで行ってきました。今回の調査地は、昭和基地の南およそ25kmに位置する「ラングホブデ」という露岩域です。ノルウェー語で「長い頭」を意味しています。昭和基地からほど近いこの「ラングホブデ」には、多くの湖沼があり、また、ペンギンのルッカリーもある地域で、観測隊にとっても馴染み深い露岩域の一つです。

 ここでは、これまでご紹介した「スカルブスネス」や「スカーレン」と同様に、生物チームの湖沼観測にも同行したのですが、それとは別に、「南極特別保護地区」の現地調査も行いました。領土権が凍結されている南極に「特別保護地区」が定められていると聞いて、違和感を感じた方もおられるのではないでしょうか。そこで今回は、この「南極特別保護地区」について、少しご紹介したいと思います。

急峻なガレ場が続く「雪鳥沢」

 昨年12月23日の日記において、「南極条約体制」について少し触れましたが、「南極条約体制」の適正な維持のため、毎年1回、「南極条約協議国会議(Antarctic Treaty Consultative Meeting:通称ATCM)」という名の会議が各国持ち回りで開催され、我が国も協議国として参加しています。昨年は、インドのニューデリーで開催され、私も政府代表団の一員として出席してきました。この「南極条約協議国会議」では、南極の環境保護や観光のあり方など、南極に関する様々な事項が審議され、全会一致方式で決議が採択されています。そのような決議の一つとして、「南極特別保護地区」の指定があります。これは、ある国が提案した「南極特別保護地区(案)」を「南極条約協議国会議」で審議し、採択された場合には、提案した国が責任主体となって管理を行っていくものです。このような場所が、南極全土に67カ所(2008年2月現在)あり、このうちの一つが、今回私が訪れた「ラングホブデ」にある「雪鳥沢(ゆきどりざわ)」です。「雪鳥沢」の雪鳥とは、その名のとおり真っ白な鳥で、急峻な崖に巣を作り、トウゾクカモメなどの外敵から身を守るように生息しています。「雪鳥沢」には、この雪鳥が多く生息しているため、その死骸や排泄物から生じる有機物によってコケ類などが旺盛に繁茂し、沢を中心とした生態系が形成されています。

雪鳥(「しらせ」で南極に向かう途中に船上から撮影)

 「雪鳥沢」は、我が国が1984年以降継続してコケ類の群落を観測してきた場所で、特に生物分野において重要な観測地点となっています。このような生物学上の重要性に鑑み、「雪鳥沢」を「南極特別保護地区」として指定すべき旨を我が国が「南極条約協議国会議」に提案して、1987年の南極条約協議国会議で採択されたため、我が国が主体となって管理しています。

コケのサンプリングの様子

 各「南極特別保護地区」には、当該地区の保護方法などを定めた「管理計画」があり、管理主体は、これを5年に一度程度の目安でチェックすることとされています。我が国が管理主体となっている「雪鳥沢」の「管理計画」は、まさにチェックする時期を迎えています。今回私は、「雪鳥沢」で過去20年以上に渡って主にコケ類の継続的な観測を行ってきた観測隊生物チームとともに現地を歩き、コケ群落の状況等を視察するなど、現地の自然環境を確認してきました。現行の管理計画が定められた2000年と比べ有意な変化が無いのか今後、国内の専門家にも諮りながら、現行の管理計画のリバイスの要否を検討していくこととなります。

 今回は、我が国が唯一管理主体となっている「雪鳥沢」を実際に歩くことによって、その観測地点としての重要性を再認識するとともに、「南極条約体制」の維持の一端を担う業務を行うことができ、大変有意義な現地調査となりました。