環境省自然環境・生物多様性南極地域の環境保護同行日記:トップ

ペンギンの島に行ってきました!

2008年1月23日(水)

 1月19日から22日にかけて、昭和基地のある東オングル島の西約6kmに位置する「オングルカルベン」という島に、往復ヘリコプターで行ってきました。「オングルカルベン」は、ノルウェー語で「釣り針小島」を意味しますが、その名のとおりの小さな島で、周囲約3km、最も高い場所でも標高35.5mしかありません。この島は、我が国観測隊にとって馴染み深い場所なのですが、それは昭和基地から近距離であることと同時に、アデリーペンギンの「ルッカリー」があるためです。「ルッカリー」(Rookery)とは、日頃あまり耳にしない言葉ですが、英語で「生息地」を意味します。「オングルカルベン」には、大小3つのアデリーペンギンの「ルッカリー」が確認されており、観測隊生物グループがアデリーペンギンの生態を研究しています。なお、今回のオングルカルベンにおける現地調査では、成鳥とヒナ合わせて200羽程度のアデリーペンギンを確認しました。

 さて、今年の生物グループは、当初、紫外線がアデリーペンギンの体に及ぼす影響について調べようと、目に異常の見られる個体を一時捕獲して目を調査することを予定していました。しかし、目視調査を通して、そのような異常を持つ個体が見つからなかったことから、アデリーペンギンの一時捕獲は一度も行われませんでした。現地で捕獲の様子を見ることにより、環境省が南極地域活動の環境影響に関する審査を行う際の追加情報を得たいと考えていたのですが、今回は叶いませんでした。

アデリーペンギン!

 そこで今回は、各南極地域活動が与える環境影響についてではなく、本日記でも何度か登場しているアデリーペンギンについて、少しご紹介したいと思います。フランス人探検家のデュモン・デュルビル氏は、1840年に日本のほぼ真南にあたる南緯66度36分・東経144度4分付近の南極大陸に上陸し、その地を彼の婦人「アデリー」の名前をとって、「アデリーランド」と名付けました。アデリーペンギンは、その「アデリーランド」で最初に発見されたことから、アデリーペンギンと命名されたものです。なお、アデリーペンギンは、南極地域の沿岸部に多く生息しており、昭和基地周辺でもよく見られます。先日も、ラジオ体操をしている観測隊員達のすぐ脇を通り過ぎて行きました。

 アデリーペンギンの成鳥は、体長70cmほどで、眼の周りにクッキリとした白い輪があり、くちばしの半分以上が黒い羽毛で覆われているため、くちばしが短いように見えるのが特徴です。日本でも動物園や水族館で飼育されており、割とお馴染みのペンギンかも知れません。

「クレイシ」の様子

 さて、このアデリーペンギンですが、11月頃から1月頃にかけて沿岸部に集まり、それらがつがい(夫婦)となってたくさんの巣を作り、「ルッカリー」を形成します。つがいとなると、メスは通常2個の卵を産みます。アデリーペンギンのヒナは、産卵後35日程度で孵化し、孵化後30日程すると、ヒナ同士が集まって「クレイシ」と呼ばれる、いわば「集団保育所」を形成します。このように、ヒナ同士が集まって外敵から身を守ることにより、産卵・育児でお腹を空かせたアデリーペンギンの親鳥が、オキアミや魚類といったエサを取りに海に出ることができるようになるのです。また、「クレイシ」には、つがいになれなかった若い成鳥や、巣に戻ってくる親鳥によって、ある程度の保護が与えられます。そうはいっても、全てのヒナに目を配ることはできず、トウゾクカモメなどの外敵の餌食となってしまうヒナも多く見られます。また、ヒナ同士のエサを巡る争いは熾烈を極めます。海から戻ってきた親鳥に少しでも多くのエサをもらうため、親鳥を追いかけたり、両翼を広げて他のヒナがエサをもらうのを邪魔したりもします。ヒナ同士の戦いに勝ち残り、外敵に襲われなかったヒナだけが成鳥になれるのです。

餌をねだるトウゾクカモメの雛

 私達が「オングルカルベン」の「ルッカリー」を訪れたのは、まさにそのような戦いの真っ只中でした。トウゾクカモメが「ルッカリー」の周囲をウロウロしてヒナを狙う中、親鳥からのエサを巡ってアデリーペンギンのヒナ同士が争うという、まさに生きるために全員が必死になっている光景でした。トウゾクカモメの餌食となってしまったヒナもいましたが、トウゾクカモメもヒナを育てるために必死です。アデリーペンギンの大敵であるトウゾクカモメも、自分の巣に戻れば親鳥です。お腹を空かせたヒナが鳴きながら親鳥にすり寄っていました。

アデリーペンギンの親子

 わずか3泊4日の「オングルカルベン」滞在でしたが、南極という過酷な環境下で生き抜こうとするアデリーペンギンやトウゾクカモメの姿を見て、野生生物が繰り広げる純粋な自然の営みの荘厳さを実感させられました。