環境省自然環境・生物多様性南極地域の環境保護同行日記:トップ

ヨモギパンの大量投棄?

2008年1月12日(土)

氷河の通った痕跡

 1月10日(木)~12日(土)にかけて、往復ヘリコプターに乗り、昭和基地の南約70km程にある露岩域「スカーレン」に行ってきました。これもノルウェー語で、「頭蓋骨」という意味です。「スカーレン」は、先にご紹介した「スカルブスネス(昭和基地からも南に約50km)」と「ルンドボークスヘッタ(昭和基地から南に約100km)」のちょうど中間くらいにあります。ここでは、「スカーレン氷河」が間近に見られ、氷河が通った痕跡が無数の岩石の表面に見ることができます。

 「スカーレン」では、再度生物チームに同行し、彼らの観測活動やベースキャンプでの生活が南極地域の環境に与える影響について、幅広く状況を見てきました。「スカーレン」での観測活動は、「スカルブスネス」でのそれとほぼと同じで、湖沼の水や湖底の堆積物を採取するものでした。ベースキャンプから歩いて3分程の「スカーレン大池」が今回の観測地でしたが、氷が薄かったため、今回はアイスドリルによる穴開けは行わず、ゴムボートを漕ぎ出しての調査となりました。生物チームは、不安定なゴムボートの上から器用に機材を操り、サンプリングをスピーディーにこなしていました。なお、「スカーレン」は、動物の気配がほとんどない静寂に包まれた世界で、調査中、鳥類もほとんど見られませんでした。

 ベースキャンプでの生活については、「スカルブスネス」同様、ゴミの分別やそれらの持ち帰りがしっかりとなされており、問題となるようなものは見られませんでした。

打ち上げられた「藻類」

 さて、今回観測を行った「スカーレン大池」では、私が今までの人生で見たこともないような不思議な生物を見ることができました。それが、写真にあるような、様々な形の「藻類(そうるい)」です。どう見ても、水でふやけたヨモギパン(ヨモギ餅?)にしか見えないのですが、間違いなく生物です。どうやら、湖底にビッシリと生息している「藻類」が何らかの理由により湖底から離れ、湖底を転がったり水中を漂ったりしているうちに、次第に丸くなっていくようです。個人的には、なんとなく阿寒湖のマリモに近いイメージを持ったのですが、実際、マリモも「藻類」の仲間です。「スカーレン大池」の藻類の生態は、まだ謎に包まれた部分も多いのですが、このような不思議な形となるのも、極地の厳しい環境への適応なのかも知れません。人間の叡知などがまだまだ遠く及ばない不思議な世界が南極には広がっているんですね。

スカーレンの「居住カブース」

 ところで、「スカーレン」には、ちょうど四半世紀前に第25次観測隊が使用した「居住カブース」と呼ばれるものが置かれています。これは、大型のソリの上に小屋を乗せたもので、ここまで雪上車で運ばれてきました。今は、雪上車で引っ張られることはなく、「スカーレン」における観測隊の炊事や就寝のために使われています。「居住カブース」は5畳ほどの居住スペースに加えてガスコンロを置く台がある程度の簡易な造りですが、隊員が暖を取るには十分な施設です。極寒の南極で25年もの間、歴代観測隊員を支え続けてきた「居住カブース」に、我が国観測事業の歴史の重さを再認識した思いです。