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「総員離艦」訓練!

2007年12月4日(火)

 みなさん、こんにちは!表題の「総員離艦」と聞いてもピンと来ない方も多いかと思いますが、要は、船が沈没する際などの緊急時に、艦内の全員に出される避難命令のことです。今日は、この「総員離艦」の訓練が行われましたので、これに触れてみたいと思います。訓練は、本番さながらに一時停船し、海上自衛官の指示のもと、真剣かつ有意義なものとなりました。しかし、停船したのは、一番近い陸地から300km以上離れ、水深1000m以上もあるような大海原。しかも、よく見るとサメらしき姿も!まして、こんな冷たい海に放り出されたら、と思うだけでゾッとしました。とにかく、砕氷艦「しらせ」を信じて、向かうは南極昭和基地です!

 さて、ついでと言っては失礼ですが、私たちが命を預けている「しらせ」について、少しご紹介したいと思います。みなさんは「砕氷艦」という言葉を聞いたことがありますでしょうか?これは、文字どおり、氷を砕いて進むための船です。また、海上自衛隊の船なので、「砕氷船」ではなく「砕氷艦」となっています。「護衛船」ではなく「護衛艦」とされているのと同じですね。

 「しらせ」は、初代「宗谷」、2代目「ふじ」に次ぐ、3代目の南極地域観測のための砕氷艦として、1982年に就役しました。それから25年間もの間、南極地域観測隊員や物資を運び続け、南極地域観測を支えてきたのです。「しらせ」の砕氷能力は世界有数で、1.5m程度の厚さの氷であれば、3万馬力で砕きながら進むことができます。
しかし、南極周辺の海域の氷の厚さは、1.5mなどというレベルではありません。そんな時は、「チャージング」と呼ばれる方法で進みます。「チャージング」などという聞き慣れない単語が出てきましたが、どんな方法だと思いますか?実は、とても単純です。一旦200m~300mほど後退した後、フルスロットルで前進し、氷に乗り上げて自重で氷を砕くというものです。(子供の頃に夢中になった、後ろに引っ張って手を離すと前に進むオモチャを思い出したのは私だけでしょうか?)

 このような砕氷能力を誇る一方、「しらせ」が砕氷能力に突出しているからこそ、氷のない海では困ることもあります。それは、「動揺」です。「しらせ」は、体ごと氷に乗り上げるため、通常の船舶の船底に付いている減揺装置が付いていないのです。その装備で、船乗りが「「吠える40度(roaring forties)、狂う50度(furious fifties)、絶叫する60度(shrieking sixties)」(すべて南緯のこと)」と呼ぶ暴風圏を過去48回もくぐり抜け、最大53度傾いても乗り越えてきたのですから、「しらせ」の航海能力には感心させられます。

 そんな「しらせ」も、すでに就役から25年を越したということで、来年3月に帰国すると退官となり、その任務を4代目の砕氷艦に譲ります。「しらせ」は、確かに、いたるところに歴史を感じる作りで、たびたび補修も必要です。しかし、その姿はまだまだ威風堂々としており、退官が少し残念でもあります。とにかく、「しらせ」に乗艦できる最後の者の一人であることを光栄に感じ、寝室や食堂などを帰国まで大切に使いたいと思います。

 なお、今日の正午で、南緯36度・東経112度あたりを通過し、暴風圏も間近に迫ってきました。いよいよ船の傾きも大きくなり、船酔いとの勝負は明日以降が本番のようです!