本書の内容 / 解説「国際機関における環境指標の検討」 / 凡例


解説 「OECD及びUNCSDにおける環境指標の検討」

1.経済協力開発機構(OECD)における検討

 OECDでは、環境情報を体系的に整理し、指標化するための概念的枠組として「PSRモデル」が開発されています。これは、人間の活動と環境の関係を、「環境への負荷(pressure)」、「それによる環境の状態(state)」、<CODE NUM=00A2>これに対する社会的な対策(response)」という一連の流れ(PSR)の中で包括的に捉えようとするもので、他の国際機関や各国等が環境指標を開発する際の基礎として広く世界に浸透することとなりました。
  この「PSRモデル」に基づき、OECDでは、「コアセット指標」、「部門別環境指標」、「デカップリング環境指標」などの指標群が作成され、人間活動と環境との関係性などの把握に用いられています。
  PSRモデルの各要素は以下のとおり説明されています。

(1)環境への負荷(pressure)
環境への負荷を表す指標は、天然資源を含めた環境への、人間の活動による負荷を表します。ここで言う「負荷」とは、直接的な負荷(資源の利用、汚染物や廃棄物の排出等)と同様に、潜在的あるいは間接的な負荷(活動そのものや環境の変動傾向等)を網羅しています。
(2)環境の状況(state)
環境の状態を表す指標は、環境の質及び天然資源の質と量に関係し、環境政策の究極的目的を反映します。さらに環境の状態の指標は、環境の全体的な状況と時間の経過に伴う変化を示すように策定されています。例としては、汚染物の濃度、負荷の危険水準の超過、公害及び低下した環境の質への危険にさらされる人数や健康被害、野生生物、生態系及び天然資源の現状等をあげることができます。
(3)社会による対応(response)
社会による対策を表す指標は、社会が環境面の課題事項に対策する程度を示します。指標の例としては、環境への支出、環境に関する税及び補助金、環境に配慮した製品やサービスの価格及び市場占有率、汚染除去率、廃棄物のリサイクル率等をあげることができます。
2.国連持続可能な開発委員会(UNCSD)における検討
 平成4年(1992年)の「地球サミット」で採択されたアジェンダ21の第40章で示された「環境情報の整備及び持続的開発指標の開発」を目的として、UNCSDにおいて、国家レベルの意思決定者がアクセス可能な持続可能な開発指標の中心的なセットの作成が進められました。具体的には、OECDのPSRフレームワークにおける負荷(pressure)指標を、駆動力(driving force)指標として、社会、経済、制度面を含む概念に拡張したDSRモデルの枠組の下で検討が進められ、1996年に最初のCSD指標が作成されました。その後、2001年、2006年と改定され、現在、50のコア指標を含む96のCSD指標が策定されています。

OECDコアセット指標の体系
環境問題 負荷 状態 対応
1.気候変動

〇温室効果ガス排出指標

・CO排出量

・CH排出量

・NO排出量

・CFC排出量

〇温室効果ガス大気中濃度

〇地球平均気温

〇エネルギー効率

・エネルギー集約度(一次エネルギー総供給/GDP又は人口)

・経済及び財政手段(例:価格及び税、支出)

2. オゾン 層破壊

〇オゾン層破壊物質(ODP)消費指数

・CFC及びハロン消費量

〇ODP大気中濃度

〇地表の紫外線放射量

・大成層圏オゾン量

〇CFC回収量
3.富栄養化

〇水圏及び土壌への窒素、リン排出量→○栄養物収支

・肥料消費及び家畜からの窒素とリン

〇BOD/COD(内水面/海域)

〇窒素、リン濃度(内水面/海域)

〇生物学的及び/又は科学的下水処理施設接続人口

・下水処理施設接続人口

・排水処理の使用者料金

・無リン洗剤の市場占有率

4.酸性化

〇酸性化物質排出指標

・NOX、SOX排出量

〇水圏及び土壌におけるpHの臨界負荷量の超過

・酸性降下物中の濃度

〇自動車触媒装置装着率

〇固定発生源脱硫・脱硝装置の能力

5.有害物質状態

〇重金属排出量

〇有機化合物排出量

・農薬消費量

〇重金属・有機化合物の環境媒体/生物中濃度

・河川の重金属濃度

〇製品、生産工程における有害物質含有量変化

・無鉛ガソリンの市場占有率

6.都市環境質

〇都市域のSOXNOX、VOC排出量

・都市域交通密度

・都市域車両所有

・都市化度(都市人口成長率、都市域土地利用)

〇大気汚染、騒音曝露人口

・大気汚染物質濃度

〇都市域周囲の水質

〇緑地空間(都市開発から保護されている面積)

〇経済、財政、規制手段

・水処理、騒音対策支出

7.生物多様性

〇自然状態からの生物生息環境の改変及び土地の転換

・さらなる指標開発が必要(例:道路網密度、土壌被覆変化等)

〇絶滅危惧又は絶滅種の全既知種数に対する割合

〇主要な生態系の面積

〇自然保護区域面積の割合(生態系タイプ別)

・保護されている種

8.景観 ・さらなる指標開発が必要(例:人工物要素の存在、歴史的・文化的又は審美的理由により保護された場所)
9.廃棄物

〇廃棄物発生(一般廃棄物、産業廃棄物、有害廃棄物、核廃棄物)

・有害廃棄物の移動

〇廃棄物最小化(さらなる指標開発が必要)

・リサイクル率

・経済、財政手段、支出

10.水資源 〇水資源利用強度(採取料/利用可能資源量) 〇渇水の頻度、期間、程度 〇水道価格、下水処理に対する使用者料金
11.森林資源 〇森林資源利用強度(実伐採量/生産能力) 〇森林の面積、蓄積及び構成 〇森林地帯管理及び保護(例:全森林面積のうち森林保護面積の割合、再植林による再生が成功している伐採面積の割合)
12.水産資源 〇漁獲量 〇産卵資源量 ・割り当て漁獲数量
13.土壌劣化 (浸食・砂漠化)

〇浸食リスク:農業への潜在的及び実際の土地の利用量

・土地利用変化

〇表土喪失率 〇再生面積
14.特物質資源(新しい問題) 〇物質資源の利用強度(物質フロー勘定と関連をもって指標が開発されるべき)
15.社会経済の部門別及び一般指標(特定の環境問題に限定されない)

〇人口増加率/密度

〇GDP成長率及び構成

〇民間及び政府の最終消費支出

〇工業生産高

〇エネルギー供給の構成

〇道路交通量

〇自動車保有量

〇農業生産高

〇環境保全支出

・公害防止支出

・政府開発援助(環境パフォーマンスレビューの経験に基づき追加された指標)

〇環境問題に対する世論

 

注)〇は当該問題に係る第1議的な指標、・は補完的な指標/第1の指標が直ちに測れない場合の代替指標。 

出典:OECD environmental indicators(2003)より作成