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化学物質と環境円卓会議(第4回)議事録

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■日時:平成14年9月11日(水)14:00~17:00
■場所:主婦会館プラザエフ9階(東京都千代田区六番町15)
■出席者:(敬称略)
<ゲスト>
  浦野 紘平 横浜国立大学大学院教授
  <学識経験者>
  原科幸彦 東京工業大学工学部教授
  <市民>
  有田 芳子 全国消費者団体連絡会事務局
  後藤 敏彦 環境監査研究会代表幹事
  崎田 裕子 ジャーナリスト、環境カウンセラー
  角田 季美枝 バルディーズ研究会運営委員
  中下 裕子 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議事務局長
  村田 幸雄 (財)世界自然保護基金ジャパンシニア・オフィサー
  山元 重基 日本生活協同組合連合会環境事業推進室長
  <産業界>
  出光 保夫 日本石鹸洗剤工業会環境保全委員長
  河内 哲 (社)日本化学工業協会ICCA対策委員長
  瀬田 重敏 (社)日本化学工業協会広報委員長
  田中 康夫 日本レスポンシブル・ケア検証センター長
  原  洋一 (社)日本自動車工業会環境委員会副委員長 菅裕保代理
  大野 郁宏 日本チェーンストアー協会環境問題小委員会委員 小林珠江代理
  <行政>
  大森 昭彦 農林水産省大臣官房技術総括審議官
  鶴田 康則 厚生労働省大臣官房審議官
  仁坂 吉伸 経済産業省製造産業局次長
  南川 秀樹 環境省環境保健部長
   (欠席)  北野 大  淑徳大学国際コミュニケーション学部教授
 安井 至  東京大学生産技術研究所教授
 横山 宏  (社)日本電機工業会地球環境委員会副委員長
 片桐佳典  神奈川県環境科学センター所長
  司会(事務局)  安達一彦 環境省環境保健部環境安全課長
■資料:
○事務局が配布した資料
資料1  議題に関するメンバーアンケートの結果 [PDF(8KB)]
資料2  リスクコミュニケーションに関するOECDガイダンス文書(要約和訳) [PDF(179KB)]
資料3  第2回会合浦野資料 化学物質に関するリスクコミュニケーションについて [PDF(880KB)]
資料4  第2回会合神沼資料 化学物質と環境に関するリスクコミュニケーション [PDF(195KB)]
資料5  第2回会合宮本資料 [PDF(1,060KB)]
○事務局が配布した参考資料
OECD Guidance Document on Risk Communication for Chemical Risk Management(原文) [PDF(426KB)]
「化学物質と環境円卓会議」(リーフレット) [HTML]
第3回化学物質と環境円卓会議議事録(メンバーのみ配布) [HTML]
○円卓会議メンバーが配布した資料
後藤資料 滋賀県環境リスク検討委員会の中間報告書「化学物質による環境リスク対策(中間報告)~環境リスクコミュニケーションの取組に向けて~」 [PDF(547KB)]
村田資料 円卓会議の議題に関する提案-その2 [PDF(95KB)]
化学産業メンバー資料1
『化学物質と環境 円卓会議』で議論すべきテーマと今後の進め方について(提案) [PDF(106KB)]
化学産業メンバー資料2
「第2回会議(2月6日)における各界メンバーからのリスクコミュニケーション関連意見のとりまとめ」 [PDF(96KB)]
南川資料 「化学物質と環境に関する教材について」 [PDF(217KB)]


■議事録

(安達) 本日はお忙しい中お集まりいただきまして誠に有り難うございます。それでは時間が参りましたので第4回化学物質と環境円卓会議を開催させていただきたいと思います。本日は原科さんに司会をお願いしております。原科さんお願いいたします。

(原科) 原科です。よろしくお願いいたします。司会は交代でやっておりまして、本日は私の番です。それでは、第4回の化学物質と環境円卓会議を開催いたします。
 今回は、お手元の議事次第にありますように、(1)議題について、(2)リスクコミュニケーションについて、(3)次回について、その他となっております。まず最初に事務局から資料の確認等をお願いします。

(安達) それでは資料の確認をさせていただきます。一枚目が議事次第です。資料1は、前回議論すべきテーマについてご議論いただきましたので、前回終了後各メンバーにアンケート調査を行い、本日の議題についてご意見をいただいた結果です。ちなみに、化学物質の管理のあり方については4.5人、リスクコミュニケーションについては10人、予防原則・未然防止の考え方については3.5人の方々から議論してはどうかとのご意見をいただきました。また、資料2は、メンバーの角田さんからのご要望で用意したものです。先般発表されたOECDの化学物質のリスク管理のためのリスクコミュニケーションに関するガイダンス文書の仮約版です。資料3は第2回会合でリスクコミュニケーションについて3人の先生方からお話を頂きましたが、その際の資料を改めて配布しております。以上が事務局でご用意した資料です。それ以外にメンバーの方々からご用意いただいた資料があります。まず、後藤さん資料は「化学物質による環境リスク対策(中間報告)」です。化学業界メンバー資料はがあります。また、1枚紙で南川さん資料があります。その後、村田さん資料という一枚紙が追加されました。以上がメンバーの方々にご用意いただいた資料です。他に参考資料としまして、資料2のOECDのガイドラインの原文をご用意しました。化学物質と環境円卓会議のパンフレットは、後ほどご紹介しますが、メンバーが一部変わりましたので、改訂版になっております。なお、議事録に付きましては既に環境省のWEBにアップしておりますので、配布はメンバーのみということにさせていただいております。
 次に、メンバーの交代がありましたのでご紹介させていただきます。まず、仲村さんが交代され同じく日本自動車工業会の菅裕保さんに新たにメンバーに加わっていただきました。本日は代理のご出席です。また、経済産業省は、増田さんに変わりまして仁坂さんに、環境省は岩尾さんに変わりまして南川さんにお願いしております。
 本日の出席状況でございますが、ご欠席は横山さん、片桐さん、北野さん、安井さんです。また、菅さんの代理として原さんに、小林さんの代理として大野さんに、鶴田さんの代理として松田さんにそれぞれご出席いただいております。
 また、本日は議題2のリスクコミュニケーションのためにメンバーからのご要望を踏まえ、横浜国立大学の浦野さんに来ていただいております。浦野さんには第2回の会合にもご同席頂いております。どうぞよろしくお願いいたします。以上です。

(原科) 有り難うございました。まず、議題1に入ります。資料1に皆さんのアンケート結果も出ていますが、ここでどのような議論をしていくかがこのような結果になっております。この結果について、まずご議論いただきたいと思います。この結果を見るとリスクコミュニケーションが10名で一番多く、全体の過半数という結果が得られています。何かご意見はありますでしょうか?リスクコミュニケーションについて議論するということで皆さんよろしいでしょうか?
 それでは、リスクコミュニケーションについて議論していきたいと思います。補足的なご意見ありますか?

(後藤) 結果的にリスクコミュニケーションについて議論することは、いずれ必要になることなのでよろしいかと思います。リスクコミュニケーションは、確かに化学物質のリスクを削減する重要な手法ですが、それが化学物質削減の全てではありません。5~7万種の化学物質が大量に生産されている中で、昔とは違った意味の、特に非意図的生成物の問題等も考えると、全体的に化学物質についての議論が必要になります。私たちは、化学物質の管理のあり方について議題にしたいという意向がありました。とりあえずリスクコミュニケーションについて議論するのはよいと思いますが、最後はそこに繋げていかないと、単にリスクマネージメントの1プロセスであり、1ツールであるリスクコミュニケーションだけの議論で終わらせたくないと思っています。

(原科) 今の発言は、リスクマネージメントという大きな枠組みの中で、当面はリスクコミュニケーションについて議論するというスタンスでいかがでしょうかという意見でした。それでは、議題2のリスクコミュニケーションについて議論していきます。今日は浦野さんに来ていただきましたので、まずは前回にお話しいただいたことに加えて更に補足的にご説明いただけるとのことですので、お願いしたいと思います。

(浦野) 最近、私は消費者団体の講演を依頼され、他の方の講演も聞きました。そこで、リスクコミュニケーションというものの位置づけをもう一度市民側から見直してみる必要があるのではないかと考えて、OHPを作ってきました。先程、後藤さんからも全体的なマネージメントの位置づけのお話がありましたが、もう一度振り返ってみる必要があるのではないかと考え、追加のコメントをさせていただきます。
 これは、市民がリスクについてどのように対応するかの流れ現したものです。まず、何らかの有害危険性がマスコミや企業、行政から出てくる。それがないと何も考えません。普段は何となくの不安はありますが、この不安が情報量の不十分さあるいは不確実性など、よく分からないという事が不安に繋がります。個人の性格もありますが、楽観性、家族観つまり子どもや旦那さんのことをどのくらい心配するか等もかなり効いてきます。価値観というのは安全性や豊かさ、経済性、楽であること等、どれを重視するかということに係わってきます。心配・不安の次に何を考えるかというと管理する人の事です。例えば、企業や行政がちゃんとやってくれているのかということです。この時に、誠実さ、迅速な対応、オープンであることが重要で、情報を公開したり話し合いをします。その中にコミュニケーションが入ってくるのです。そこで受入判断をして、行動する、対立する、認める、我慢する、諦めるという結果に流れています。この中で、最初の情報の部分とコミュニケーションの部分が非常に重要になります。
 少し見方を変えて市民がどのような判断をしているかを見直すと、まず有害危険性があると認識します。企業や行政側からすると、この認識のレベルを早く、正しく伝えることが非常に重要なファクターになります。そこから、自分が避けられるかどうかを判断します。避けられないと思うと、隕石の墜落や天災のように諦め、我慢します。しかし、自動車事故や狂牛病などのように自分で避けられると思うと初めて自分で判断します。特に科学者や行政官は避けられるか避けられないか自分で判断しろと言いますが、人が判断するときは、自分に責任があり、自分で判断して行動できると思う時だけです。企業や行政がやるべきだと思う時は、自分でリスク分析や判断をしようとしません。
 もう一つは、責任主体が誠実、迅速、オープンに取り組んでいるかで判断します。ですから、東電が原子力問題を隠していた、農水省が狂牛病対策を怠けていたと判断します。この判断は非常に早く、コミュニケーションを行わなくても市民は判断しています。ここでは我々が係わることは不可能に近い状態になります。
 市民は責任主体が誠実・迅速・オープンに取り組んでいるかどうかをYESかNOで判断し、ここでコミュニケーション的なことがスタートします。YESの場合はちゃんとやっていますよというコミュニケーションを行っていて、NOの場合は対立的にコミュニケーションを行っているということになります。対立するか、従認するか、我慢するかはここで決まります。我慢している人は、状況が変わると対立するか行動するという形に動きます。このような中で科学的なリスク分析やリスクコミュニケーション、あるいは情報が非常に重要になってきます。
 しかし、リスクコミュニケーションをする人は、リスクコミュニケーションで全体がかなり改善されると考え、科学的な判断、リスク分析でほとんどの物事が判断されている、あるいは判断しなければならないと思っていますし、それを理解しない市民は悪いという議論が往々にしてあります。しかし、そのようなことは誰も言っていないということを最初によく認識した上で議論する必要があると思っています。
 もう一つ、前回出席したときに市民と企業と行政が会話するときの注意点をお話しませんでしたが、リスクコミュニケーションガイドの最後の方に事例がたくさん載っています。不適切な回答の典型的な例は、相手が何に不安を持っているかを理解しようとしない、誠実にそれに答えようとしないというもので、そこでまずコミュニケーションできなくなります。また、安全である、心配ないと断定することは絶対に避けなければなりません。絶対に安全、絶対に心配ないということはあり得ません。市民はゼロリスクを要求するといって避難されますが、逆に企業や行政が100%安全のように言うというのも間違いです。それから、相手が理解できない専門的な話をする、相手の質問を上手にはぐらかす答えをする、違う話にすり替えてしまう、あるいは自分たちの考えだけを何回も繰り返す、「自分は担当者ではないので分かりません」と言い訳的な責任逃れや先送りの発言は避けなければなりません。最終的に一番悪いのは相手を攻撃することです。このようなことが頻繁に行われているので、自分たちの態度を振り返り、一つ一つ注意をしながらコミュニケーションを進めなければ上手くいきません。
 逆に適切な回答の基本は3つしかありません。質疑応答やコミュニケーションの現場では、まず相手の質問を一度受け入れるということが非常に重要です。それから、状況や情報をきちんと示すこと。そして最後に後ろ向きではなく前向きの返事をすること。入社試験を受ける学生にいつも注意していることですが、知らないことを聞かれても「知りません」、「教わっていません」という返事ではなく、「これから勉強します」、「このように対応します」のように、最後の締めくくりは必ず前向きな回答をするように言っています。この3原則があれば、ほとんどのコミュニケーションが上手くいくという事例が載っているということを追加のコメントとします。以上です。

(原科) 浦野さん、有り難うございました。それでは早速議論に入りたいと思います。

(後藤) 最初の情報がコミュニケーションに重要であるということですが、コミュニケーションを成立させるためには、必要な情報の対称性、いわゆるシンメトリシティが必要であるというレモンの法則があります。過去の日本には、この点がかなり欠けていたと思います。ですから、今後リスクコミュニケーションを進めるためには情報の対称性をかなり意識していかないと進まないと思っています。

(浦野) 情報の対称性という言葉は、受け取られ方が色々あると思いますが、とにかく情報の量と流通がある程度ないと対称性も上手くいきません。特定の人が特定の情報を持っていて、しかもそれが表に出てこないという状況が続くと必ずしも上手くいきません。つまり、情報をいかにたくさん出すか、出せるか、それを皆さんがどういう基準で判断していくかは、ある程度の質を確保した情報量が必要であると感じています。

(崎田) 常日頃から情報の量を常に確保する仕組みを作っておくことが必要だと考えています。例えば、町の工場やお店の業種によっては化学物質をたくさん持っているところがありますが、そのような工場やお店が常に情報をきちんと出す状況を確保しておくことと、そのような情報があることを市民が知って、常にコミュニケーションしているような状況をどのように地域社会で作っていくかが問われているのではないかと感じています。そのような取り組みが色々なところで徐々に始まっているところだと思いますので、そのような点を検証し、蓄積して、モデル実験を繰り返しながら現実を作っていくことが必要だと最近つくづく思っています。

(浦野) 私は環境情報研究院というところに籍が移りましたが、環境情報を化学物質に限らず集めようとすると、日本は非常に情報が少なく、公開している、していない以前に、ちゃんとした統計情報等がありません。ということは、まずは地域や工場で情報の蓄積に各主体が真剣に取り組まなければなりません。特に環境省は、情報で勝負しなければならない時期がいずれ来ます。そういった環境情報、あるいは化学物質のリスク情報をいかに収集し、公開していくかが重要です。
 我々は何かしようとすると、まず情報がありません。業界団体等が公開しないということもよくありますが、なかなか使える情報がないという現実もあります。どんな情報が必要なのか、どの情報を大学、行政、企業、業界で分担して集めていくのか、その辺をこの円卓会議で整理し、明確にしていただければ有り難いと思います。日本は細かく縦割りされているので、それぞれが少しの情報しか持っていないし、その情報も経験的に集めたものであったりするので、情報の不足はとても痛感しています。

(仁坂) 私は全くの素人で現在勉強していることですが、浦野さんが仰ったことはとても大事なことだと思っています。NITE(製品評価技術基盤機構)という独立行政法人がありますが、ここが化審法のデータやレギュレーションのデータ等にリンクしていて、私からするとたくさんの情報があると思っていましたが、浦野さんの話を聞いて、「あれではダメなのかな」と思いました。現在、日本にどんな情報がないのか、海外にはどんな情報があるのかを調べています。我々はどんどん情報を出すべきだと思っているので、どんな情報が必要なのかを教えて頂けると有り難いと思いました。

(浦野) 一番気にしているのは、日本全体の物質のマスフローです。どの物質がどこへどれだけ流れ、何に使われ、どれだけ海外や環境中に出ているのかを追いかけようとしているのですが、本当に分からないのです。ですから、物の流れが分からない限り、化学物質の安全管理は出来ないのではないかと思い頑張っています。
 もう一つは、化審法については、かなり昔から大量のデータがあるはずなのに、公開されているのはほんのわずかで、公開されていない情報が圧倒的に多いです。農薬の使用についても、どこでどの農薬がどれだけ使われているかは、農業指導書が各都道府県で整備されていますが、作り方や内容が全部違います。47都道府県のデータを全て集めましたが、データの考え方や作り方が違うため、国内全体のことが全然把握できません。産業廃棄物もそうです。処理・処分工場は許可制なので、全都道府県に情報がありますが、業務内容が輸送・処理・処分等細かく書いている県もあれば、ほとんど何も書いてない県もあります。事業所の名前さえ教えてくれない県もあります。熱心に取り組んでいる特定の県、市は情報をそこそこ持っていますが、全国レベルで比較したり、その地域の特性を見ようとするとき、ほとんど情報がありません。ですから、そのようなものを揃えていかないとなりません。
 あるいは、工業統計的な情報や工業会が何をどれだけ製造し、販売しているか等、色々な統計が混乱しているので使える情報がありません。全体として本気で考えていけば、日本全体のマネージメント、行政や企業活動の効率化が出来ると思います。もう少しサイエンティフィックに言うと、米国は気象情報や地理情報が細かい地域ごとに全てデータベース化されていて、それを安く商業ベースで販売しています。情報量で言うと、アメリカは圧倒的に多いのです。例えば水生生物はEPAのAQUIREは25万件くらい入っていますが、日本の環境省が出している毒性データは100いくつで桁が違います。ただ、米国のデータは間違いが山ほどあり、単位もさまざまで、1年間かけて全データを解析し直していますが、データがあるので何とか使っていけます。日本は情報がありません。
 農業センサスというデータを農林水産省の外郭団体が作成していますが、これは作物や耕地面積等が細かいデータベースになっています。このデータを使って農薬の細かい調査を2年前に始めましたが、そのデータベースを購入するのに300~500万円かかると言われました。ところが、今年は必要な部分だけなら10万円で出せると言われたのです。公的に調査したデータを500万円で売るという行為がおかしいということを分かってきたのだと思います。
 情報の入手も今非常に変わりつつあります。しかし、どこに何があるか、それを我々が使えるかについてはまだ発展途上で、何かしようとすると非常に情報がない状況です。国が持っている情報は本来なら公開すべきですが、統計法により行政上の目的で集めたものは法律上守られているため公開されないものが多いのです。秘密にするような情報ではないし、行政担当者が出して良いと思っていても入手できないケースがあります。よく情報が片寄ると変な判断をすると言いますが、情報の量がないとどうしても判断が正しくできない、あるいは対立的にものを見てしまうという状況があるのではないでしょうか。

(仁坂) マスフローの情報がないということでした。確かに化学物質の管理の世界では重要な情報です。ただ、研究者が自分の研究に必要な情報がないと言われたら困りますので、誰が計算して公開すれば良いのかが議論の焦点になると思います。また、PRTRが始まるので、PRTRの全体の管理をこれから分析していく中で、マスフローに利用できるデータが増えると思います。先程、化審法のデータはたくさんあるのに少ししか公開されていないと言われました。統計法や守秘義務、企業の問題などがありますので全てを公開するわけにはいきませんが、基本的には物質のデータは国民の資産のような気がするので、どんどん公開するためにはどうすべきかを議論していく必要があります。先生の方で、このデータが不足しているという意見を言っていただければ何らかの改善は出来ると思います。

(浦野) OECDでは高生産量物質に色々な問題があるということで、全世界的に生産量を報告する義務があります。それは国際的に報告されていることなので、当然国民にも報告する義務があります。しかし、これを入手するのが大変でした。どこに聞いてどのように申し込めば入手できるかを見つけるだけでも結構大変です。高生産量物質のデータは、国内で大量に使用されている物質のデータなので基本データになります。これはマスフローを見る場合に、国が収集すべきだと思いますが、PRTRでは米国のTRIと違って取扱量の報告がありません。環境に排出したデータは把握できても貯留量や取扱量は報告義務がないのです。そのため、どこで使用され、どこにどれだけ貯留されているかについては、どこにも統計がありません。PRTRではどこでどの物質を扱っているという情報は分かっても量的な情報がほとんどつかめないということです。そのために排出量が間違えていてもチェックが出来ないのです。

(原科) 裾切りもありますしね。

(浦野) そのため、大学は少量の排出しかないために報告しなくてもよいのです。分散型の用途の物質はほとんど把握できないという状況です。もう一つ、私の研究室で、日用品に使用されている化学物質の量を調べ始めました。かなり分類整理してやっていますが、とにかく情報がないのです。商品の販売量、販売方法、原料がほとんど把握できない状況です。PRTRパイロット事業の時は非点源からの移動量が対象になっていたのに、正規の法律では対象ではなくなりました。非点源の移動量は計算が難しいというのが当時の行政の意見でしたが、難しいから行政がチャレンジしたらどうかと思いました。非点源の移動量が残っていると家庭やその他からの分散型用途の有害物を推計することができたのですが、今は商品について工場側から公開する必要がないので、末端に来たときも計算されません。それが大気や水系に排出されれば計算されますが、廃棄物になったものは一切入ってきません。マスフローは大部分が廃棄物に行くのに、その把握がほとんど出来ないという状況です。それを制度としてやるべきなのか、あるいは統計調査やその他の調査でやるべきかはよく分かりませんが、今の時点では非常に分かりにくい状況です。

(河内) 我々企業も色々なデータをレポートとして出しますが、その時は地域の住民に説明するという目的であったり、本社のレポートであればできるだけ全体像が分かるような広い対象に情報を流すという目的であったりします。先程のお話でデータはあるがなかなか使えないというのは、その情報を何に使うのかという目的が先になければ精度や項目をどの程度にして、どれくらいの勢力をかけるかが決められません。情報の重要性は分かりますが、その情報を何の目的でどのように使うかを決めて、それに耐える情報をきちっとしておかないと、また全てを見直さなければならないという時が来ると思います。そういう社会としてのコンセンサスが必要ではないかと思います。
 それから、マスフローの話について、我々も日化協でPRTRが法制度になる前からレポートを作っていますが、その時には原料、生産量、移動量を原単位まで出してレポートしています。そのような情報では不足なのでしょうか?我々がどういう事をすれば良いか分からないのですが。

(浦野) 二つご意見があったと思います。一つは、情報の目的をはっきりさせて、それにあった情報を作っていくという意見です。それはごもっともですが、私が申し上げたのは、基本情報をしっかりとみんなが使える形にするということです。それを加工してどのように利用していくかは様々ですが、国民全体が使えるような基本的な情報がなければなりません。利用方法は無限にあるので、それを規定することは不可能です。しかし、基本的な情報はしっかり集めておかなければならないし、特にリスクコミュニケーションや化学物質管理に必要な情報は何なのか、どの程度の情報が欲しいのかは是非ともこのような場で目的も含めて整理をして頂きたいというのが私の意見です。
 もう一つは、化学工業会で色々なマスフローを調べているのは私も十分承知しています。しかし、それはメーカーサイドの話で、実際はトリクロロエチレン一つとってもどこにどれだけ売られ、どれだけ使われているかは、化学会社の方々は全く把握していません。ですから、変な話ですがオウム真理教にたくさん売るということがあり得るわけです。PRTRでは報告するために原則として事業所の中のマスフローをしっかり追いかけて計算する事になっていますので、その方向では管理が進んでいきます。しかし、販売先や商品になったときの把握は全く出来ていないという状況がかなり多いのです。少なくとも有害性のある物質については全体の流れを把握して、リサイクルすべきかどうか等の判断が必要です。例えば、ニカド電池は非常に危険で資源的にも非常に貴重なものなので使用禁止にしていいと私は思っているので、リサイクルしなければ販売できないようにしなければならないという情報があるにも係わらずそのようになっていません。このような事も含めて、全体のマスフローが皆さんの目に入ってくれば物事の判断が変わってきます。しかし、そのような情報が表に出ないために物事の判断がかなりおかしくなるという気がします。

(後藤) 情報の重要性は皆さん認識しているようですが、情報には2種類あります。今、主として話をされているのは基礎的な情報です。もちろん、それがコミュニケーションの上で双方に利用できるものとして整備されるのが重要ですが、リスクコミュニケーションはリスクマネージメントの重要なツールであり一環であるという観点に立つと、リスクマネージメントは個別主体で行うものです。企業だけでなく行政が事業者として行う場合の個別主体の情報もあります。マスの情報とは違う個別主体の情報という観点があるのです。個別主体の情報について言うと、我々が入手できるのは行政が持っている個別主体の情報、例えば消防法などの情報です。

(原科) 話題が少し変わるので、マス情報についてご意見のある人の発言が終わった後に個別主体の情報に移りましょう。

(田中) マスの情報はどの程度の精度が必要なのですか?情報を出す側からも様々な意見があると思います。例えば、売った先を分かっていないという意見がありましたが、分かっている部分もあると反論する人もいるでしょう。しかし、全てを把握しているかと言われると、やはり分かりません。売った先は分かっても、それから先は分かりません。オウム真理教の時は、直接メーカーが売ったとは思えません。やはり商社を介しているはずです。
 それから、使用している物質名と量は、化学業界の中で公表していくことになっていますが、中には特殊な物質の使用量は企業ノウハウ、プライバシーの問題になります。PRTR法の対象物質に限って言うと、特殊な物質を使用している事が分かると、非常に単純な製品は処方が分かってしまいます。そのため、様々な意見があるのです。もう少し大掴みの情報で良ければ、都道府県あるいは市町村等の範囲で集約したデータで、企業のプライバシーに配慮すればできると思います。しかし、それでも8割以上を把握するのは難しいかもしれません。

(南川) PRTRのパイロット事業は、基本的にボランタリーベースで企業に情報を出してもらいました。制度化の時には、罰則等色々な問題がありますので、その制約の中でどこまで法律上の必要があるものとしてお願いできるかを精査した結果、今の形になっています。この制度自身できるだけオープンにしようということで組んでいますので、少なくとも結果が出てくれば化学物質についての大きな情報として活用できるというベースは出来ています。小規模の問題、非点源の問題については、いくつかケーススタディーをやりながら何倍かするということをしないと難しいと思っています。実際出来ることを積み上げていきたいし、その積み重ねが色々な調査等の充実になっていくのだろうと思います。
 それから、企業の取扱量を含めて環境報告書が普及してきたので、中堅以上の規模の企業では環境報告書という形で化学物質の取扱量を含めて情報を公表しています。ただ、これ自身もあくまでもボランタリーで、強制はできませんが、だんだん形が定着してくれば、それ自身をまとめてみるということはできます。当然ながら企業数からすれば極わずかで、これを零細企業までやるのは不可能なので、そういう意味での限界はあります。後は如何に零細企業等の調査研究等をしながら、全体の統計を取る人が見れば分かるような形にやっていけるのかという課題はあると思います。ただ、なかなか工業統計表のような形にはなりません。あれは富国強兵や殖産興業というかけ声があったときに出来た法律で、工業統計表が日本にあることがunbelievableであって、大政翼傘下にあり、戦争を遂行するためにやったのではという声もあます。あのような統計は、ある種の特権的な国家の力があってできたもので、今の日本政府にそのような強権はないだろう思います。ごみの話も出ましたが、ごみについては我々にもなかなか情報が入ってこないのです。産廃の処理施設はどこに作り、今どれだけ余裕があるかについては我々も教えてもらえないという部分があります。自治体にとっては企業立地と裏表の関係にあり、情報としては非常に出て来にくい部分があります。ただ、我々としては来年廃掃法の改訂も予定していますし、その中で一廃や産廃の定義も含めて色々再検討しているので、できるだけオープンに出来る情報はオープンに出来る形にしていきたいと考えています。

(原科) 私も一言いわせていただきたいと思います。司会ばかりで面白くないので。(笑)
 今話に出た日本の経済統計ですが、国策的なことで出来たというのは仰る通りです。しかし、今後の日本の国策をどうするかは非常に大事なことです。20年ほど前、私は当時の環境庁の国立公害研究所、現在の国立環境研究所にいました。そこには環境情報部があり、環境統計を作ろうという話が当時から出ていました。しかし、環境庁に力がなかったため、夢物語でしたが、今は環境省になったので夢でもなくなったと思います。国策として浦野さんの仰った基本的な環境情報を揃えるかどうか、まさに国民が資源投入をするか、税金を使うかという話です。現在、莫大なお金を公共事業に使っています。環境情報を集めることも一つの新しい形の公共事業かもしれません。
 アメリカでは色々な情報が蓄積されているということでしたが、実はアメリカは大変に規制の厳しい国で、規制が厳しいから規制緩和をするのです。日本は規制の緩い国なので、アメリカ並みにするのであれば今よりも厳しくしなければなりません。規制が厳しいから行政上の目的で集められた情報がたくさん蓄積されています。現場で必要だから集めますが、統一する必要はありません。が、情報はとにかくあるというのが一つ目です。それが国民の目にふれるというのが二つ目です。つまり、情報公開が徹底しています。日本ではようやく昨年情報公開法が施行になりましたから、まさに仁坂さんが仰ったように今は公開する方向になっています。情報の蓄積については、規制があまりないため行政的な資源投入をしていないので、これまで情報があまり集まらなかったと思います。しかし、そうした意味ではこれから将来、環境の問題を考えるには、国策として環境情報を集めるということが必要です。むしろ環境省から強く言ってもらいたいと思います。昔は経済統計等を一所懸命集めて経済に関する情報は整備されたけど、環境は随分遅れている。これからは環境情報を集めるための努力が必要だと思います。

(中下) 全く賛成です。今、化学物質管理もリスクマネージメントと仰いましたが、従来の個別物質の規制ではとても管理しきれないということで、情報を公開し、リスクコミュニケーションをして、それぞれ主体的にリスク削減に取り組んでいくという新しい形のPRTRを代表とした化学物質政策も展開してきています。その時に大事な情報は、主体的に一人一人がリスク削減策を採るためにどのような情報が必要なのかという観点で考えていくと、今までの必要な統計とは違った観点からの情報が必要になってくると思います。
 それから、循環型社会の形成も新しい21世紀のテーマで、日本はその方向に大きく転換しようと環境省が中心になってやっておられます。そうなると、トータルなマスフローの数字を抜きに循環型社会の転換は図れないのです。ですから、新しい局面を迎えているのです。特に化学物質については新しい局面を迎えているので、従来の統計だけでなく、リスク削減していくために重要な情報という観点で考えていく必要があるだろうと思います。それは、行政が中心になってやることだろうと思います。例えばPRTR法にしても、試行の時に取扱量や貯蔵量も報告義務に入れて欲しいということを市民サイドとして提案しました。残念ながらそれは実現しておりませんが、当然そういう法制度の中で解決していけば、それを公開すれば済みます。その辺は、国だけではない業界や個別企業の役割分担として議論していく必要があると思います。

(田中) 前にもお話ししましたが、我々もコミュニケーションという形で地域対話や市民対話をやっています。その中で、環境報告書、我々の名前で呼びますとレスポンシブル・ケア報告書となっておりますが、それで説明するのが地域対話、市民対話の時のスタートになります。その中にはどれだけの物質をどれだけ使い、どれだけ排出し、どれだけ廃棄しているということも書いてあります。しかしながら、地域の人々の関心はこのような問題よりも違う観点の情報のようです。それでは、どのような問題に興味があるのかと聞くと、なかなか上手く表現してもらえません。こういう事が本当に市民が望んでいる情報だということを教えていただければ、我々もそれに努力していきたいと思います。是非、この点でご意見を頂ければと思います。

(原科) どのような情報を市民が求めているかを具体的にご提案いただきたいということでした。

(中下) 先程個別情報の話を後回しにしたので、先にマスフローの話をしていただきたいと思います。

(浦野) ここで一度話を切っておいた方が良いと思います。マスフローの話をしたのは、私は少なくとも現在ある情報をある程度使える形にもっていくことが必要だということです。先程、産廃や農薬の話がでましたが、情報は各自治体が持っているのに全く不統一であるために使えないという状況です。ですから、情報がないという議論をしているのではなく、ある情報のフォーマットがバラバラであるために使えないことに問題があると言っているのです。精度の話もありましたが、最初は精度が悪くても、不明が半分あっても良いのです。まずはそのこと自信を整理して公開していく事が大事であって、精度は順次上げていけばよいのです。
 また、企業秘密も同様です。企業秘密は少量のものであって、大量に使っているものは秘密にする必要がありません。今は分析技術が高いので、少量でもあっという間に分かってしまいます。そのため、本当の企業秘密はほとんどないのです。ところが、企業秘密を言い逃れに使っているとしか思えない部分が随分あるということをよくご理解いただきたいと思います。特に、私は化学物質については製造物責任というセンスが非常にまだ遅れていると思っています。医薬品は非常に厳しいのですが、農薬や工業薬品については自分たちが卸業に出した先は分かりませんと言って平気でいられるということ自信、本当は大きな問題点だと思っています。

(原科) 浦野さんが仰ったのは、今ある情報だけでも活用しようということでしたが、今ある情報がなかなか集まりにくいのは、一つは日本が法をきちっと守らなくても通ってしまうということがあるからです。特に廃棄物関係がそうです。ですから、法を守らせる仕組みを作っていかなければなりません。アメリカは公務員の数が人口比で日本の倍いますから、しっかり取り締まっていますし、逆に取り締まる方に人間を投入しています。だから、日本はそのような点で随分遅れがあると思います。ですから、今あるシステムを活用するのは大切なことだと思います。

(田中) 私は千葉県や愛知県、埼玉県の工場に勤務したことがあります。確かに廃棄物の報告書の様式は都道府県によって少し違いますが、本質は同じ事を聞いているのだろうと思います。我々の要望としては、様式を整えてもらえればかなり進歩するのではないかという気がします。

(瀬田) 今のマスフローの話で浦野さんの質問したいのですが、化学物質についてはかなりの量が輸入されています。輸入品と国産品とが一緒になっているという状況の中で、マスフローのデータはきちんと取れるのかどうか、基準を合わせて数字を出すとすれば、責任者はどこになるのかという点はいかがでしょうか。

(浦野) 大蔵省の輸出入統計からかなりの情報量が得られます。ところが、これは冊子体なので電子ファイル化するだけで莫大な労力を要しましたが、上手に使えば海外から入ってくるものはかなり押さえられます。それと国内生産との関係は、方式が違うため整合性を取るのは大変で、年度がずれていたり、報告が遅れて出てくるので揃わないということが往々にしてありますが、それでも輸出入の量はそれなりの把握が出来ると思っています。

(瀬田) 私どもも輸出入統計を使って色々な情報を整理することはよくありますが、時間的なずれや載せられているデータの箇所が違うということがあるので、そのような情報を整理しようとしたとき、誰が責任を持ってやるのでしょうか?

(浦野) どの統計でもある程度の誤差や間違いがあります。電子媒体になっているとチェックや検索がしやすいのですが、冊子体でページをめくってチェックするのは本当に大変な作業になります。せっかく統計があるので、それを電子媒体にして使い勝手をよくしていただければそれだけでもすごく役に立ちます。ですから、ある情報をもう少し色々な活用が出来るようにするのは非常に大切なことだと思います。

(南川) 今、電子政府化というのをやっていまして、届け出も電子情報でできるし、統計類もどんどんそれで引き出せるように少しずつ進めています。多分、輸出入統計もしばらくすれば電子情報になると思います。

(浦野) それを期待しております。

(南川) もう一つ難しいのは、誰がその推計作業をするかです。どのようなデータがどこにあるかは国が公表できますが、その推計を国がすることは非常に難しく、独立行政法人になっている研究所で進めて頂かないと、仮定の計算が入りますので自ずから限界はあると思っています。

(崎田) 全体の動きに関して、全体の量が出れば廃棄物の管理も含めて全体が上手くいくわけですし、一つの仕組みができれば情報が出るのではないかということなので、このような話し合いをきっかけに、それぞれの産業界から出る廃棄物情報のデータはこのような様式にすれば良いのではないか提案をしてはどうでしょうか。出来ることから一つずつやっていけるような状態であればいいなと感じました。

(出光) 今産業廃棄物の話がありましたが、産業廃棄物は基本的にマニュフェストを発行していますからデータはあります。多分、浦野さんが仰っているように、様式が違うからすぐに整理できないということが問題なのです。どのようなものをどれだけ出しているかは書類にして、運搬も許可を取っている業者しかできないし、処理も許可を取っている業者しかできないので、企業サイドから見ると情報がないわけではありません。集計するときにどうかというフォーマットの議論は別だと思います。

(原科) それがきちんと管理されているかという問題もありますから色々議論が出てくるのです。それはちゃんとやっていただきたいということですね。基本的に仰る通りで、電子化すれば今の問題は解決します。そういった新しい方向に転換してもらいたいです。

(浦野) そういう意味ではマニュフェストを有効活用して、今は処理の危険性や処理の仕方に合わせて、いわゆる廃掃法に則っていますが、もう少しマスフローであるとか循環の可能性、有害性が分かるようなものに変えていけば、今の制度でもかなり活用できます。もちろん、不法なものやマニフェストも偽物が大量に出回っていますから、そういった問題は別途検討しなければなりませんが、ある情報を上手に活用しながらいい情報を集めていく、あるいはそれを使いやすい形で集計して公開していくようなところが必要だと思います。それをどこかに頑張っていただかなければなりません。どのような集計をしてどのようにまとめるかは、それぞれのやり方や仮定がありますが、仮定や前提も含めて集計した情報をきちっと出せば、それなりに皆が役に立つ部分があると思っています。当然あらゆる人に100点満点ということはあり得ませんが、そのような情報を整理して出すことが一番のベースなのかなと思います。

(原科) それでは、しばし休憩を取らせていただきたいと思います。15時25分目標に席にお戻り下さい。

<休憩>

(原科) 予定の時間になりましたので、そろそろ再開いたします。前半は情報のことで随分活発にご議論いただきました。マスフローの話はこの辺で一区切りにしたいと思います。それでは、個別の情報について、田中さんの発言をもう一度確認したいと思います。

(田中) コミュニケーションを我々もやって参りました。参加者はどうしても代表的な方になるので、幅広い市民層が参加できるような場にして欲しいという意見もありました。また、話の取りかかりとして環境報告書を始めに説明しますが、個別の企業のデータではなく、地域全体のデータが欲しいという意見もありました。また、市民が望む情報をわかりやすく説明して欲しいと言われます。では、望む情報とは何でしょうか?と質問すると、我々の報告書に載っていない情報のようで、その辺のことは非常に我々の苦慮するところです。そして皆さんと意見を交換しきれないまま時間切れになり、時間が足りないと言われます。様々な地域を回るとそのような意見が多いので、何らかの工夫が必要なのではないかと思っています。

(後藤) 情報は2種類あると申し上げました。マスと個別主体の情報です。個別主体の情報を我々が入手できるのは二つの方法があります。一つは行政が持っている個別主体の情報、二つ目は企業や事業者自身が公開する個別主体の情報です。数年前の経験ですが、行政がもつ個別主体の情報は、情報公開条例で請求しても、ある市が公開するには、該当する企業に消防法や水濁法などの報告を公開して良いかの確認を取ります。企業から企業秘密だといわれると、公開できませんと言われます。今、色々な法律で報告義務をかけているものには、社会一般にオープンにしていくという制度改定が必要ではないかと思います。まさに、リオ宣言の第10原則に則った形で行政は努力をする義務があるのだろうと思います。
 それから、個別事業者が公開する情報ですが、例えば環境報告書は昨年の環境省のアンケート調査によると580社くらいが出しているということでした。企業数からすると微々たるもので、これを制度化すべきではないかという議論もありますが、そんな簡単に制度化出来るとは思えません。ただし、トップ企業が化学物質について情報公開していることは事実です。私の経験から言うと、化学業界で環境報告書を出している企業はそんなに多くなと思います。RC協議会で報告して、それをもって情報公開していると回答する企業がかなりありますが、リスクマネージメントという観点では、業界団体ベースでまとめていてもリスクマネージメントにはなりません。本来は個別企業のリスクマネージメントとして個別に考えるべき問題だろうと思います。
 それから、事業者で言いますと、ごみの問題では自治体が事業者になります。私は現在廃棄物会計というフォーマットを作っていて、議員経由で100自治体くらいに情報を作ってもらっていますが、実際に出てきデータを見ると、1/4程度しか使えません。自治体も廃棄物については我々の知りたい情報をまとめ切れていないようです。
 どのような情報を知りたいかという話に関しては、我々のグループでは事業者としての自治体に対しては廃棄物の情報が欲しいとまとめていますが出てこないという実態があります。
 先程、PL法の話がありましたが、アメリカではPL法は基本的にはありません。州ベースで制定しているところはあります。アメリカでPL法に相当するのは判例法で、製品の欠陥を前提にした無過失責任という事になっています。ここで製品の欠陥とは、デザインの欠陥、製造の欠陥、表示の欠陥を指します。表示の欠陥で言いますと、例えば化学物質についてハザード情報がないというのは、私に言わせれば完全に表示の欠陥であると思っています。その辺について、日本の化学工業会の方はどのように考えていらっしゃるのでしょうか?もう一つは、アメリカの法律と日本の法律で違うのは、Business to Businessの損害賠償が出来る点です。自動車メーカーが使った化学物質に表示や何らかの欠陥があれば、消費者から訴えられた場合に、その損害をさかのぼってメーカーまでいけるのです。その辺は本当に日本の産業界、化学工業会の方は認識されているのでしょうか?それを認識していれば、ハザード情報がないということは実は信じがたく、そういった意味で私は浦野さんの話に全く賛成です。PL法ができたのは90年代ですが、それ以前のいわゆる不法行為法の認識から一歩も出ていないのではないかという印象を持っています。不法行為法は過失責任で、過失責任の立証責任は被害者側にあるという形ですが、今は法体系が全く変わっているということです。

(河内) ハザード情報が不十分だということですが、確かに既存化学物質について全部取り切れていないということは事実です。従って、できるだけ早く取ろうということを現在国際的に進めています。先程PL法の話が出ましたが、企業からするとその使われ方や使用量から考えて、当然それが問題になればリスクが被ってくるわけです。企業はその責任を十分認識していますから、そういう対象については十分ハザードのデータを取っているつもりです。企業がMSDSでも情報を隠していると言われますが、分かっている情報はMSDSに全て書いているつもりです。高生産量物質のハザードを調べるのに4000万円かかり、2004年までに1000物質のデータを取ることを目標にしていますが、それ以外にも物質はまだまだたくさんあるわけです。そのような中で、優先順位を付けて、リスクの大きいものから押さえていくということで進めているつもりです。

(後藤) 現在ハザード物質の情報整備を進めているということは知っています。PRTR法の議論になっていた1998年に当時のアメリカのゴア副大統領とEnvironmental Defense Fund、全米化学工業会が協定して2004年までに大量生産化学物質の2000数物質についてハザード情報を整備するという中の一環を日本も請け負っているということを仰ったと思います。その努力は評価しないわけではありません。PL法がらみで申し上げたのは、製品の表示の欠陥は、今や企業は無過失責任を負っているということを必ずしも多くの企業が認識していないのではないかと思ったからです。そうすると、大量生産物質のハザード情報を整備していればよいということではなくて、自社の製品、製造物のハザード情報は企業責任として把握しなければならない、それを表示しなければならないという法体系に90年代に変わったということを申し上げたつもりです。

(河内) 高生産量物質を対象にしてお答えしたのではなくて、リスクの高い物質についてはそれなりのリスク評価をしているつもりです。もちろん、企業としては、世の中に製品を出したときに、問題を起こしてそれが跳ね返ってくるというのは当たり前のことなので、その責任は十分認識しています。従って、そのような事が起こらないような歯止めだけは取っておかなければならないという意識は企業として当然あるべきだと認識しています。

(後藤) ここにご出席されている企業の方にそのような認識がないという疑いは持っていませんが、企業はたくさんありますので。

(角田) 議論を前に戻しますが、田中さんのご説明では、企業が説明しようとしていることではない内容を住民が望んでいるということでした。例えばどんなことだったのかを少し具体的に教えてください。

(田中) 我々も分かりません。環境報告書には、PRTRの問題や環境問題、保安防災いわゆる爆発事故のような情報、環境保全という形で化学物質の使用量、排出量、COxの排出量などは共通的に掲げていると思います。しかし、そのような情報ではないものを要求されているようなのです。

(有田) 住民によって欲しい情報は違うと思います。先程マイナス情報の話がありましたが、企業の方はいつも良い事しか言われません。例えば円卓会議が始まるときもそれぞれが報告書を説明されましたが、「そんなことは分かっているのよ!」と思いました。ただ、皆聞きたいことがその時その時で違いますが、何か聞いたときに「今は答えられませんが後でお知らせします」という態度が見られれば、その場で事を荒立ててとか声を大きくして何か言うということは、よほどの事故が起こらない限りはないと思います。
 もう一つ、浦野さんの市民団体のリスクコミュニケーションにおける7つの基本原則について、今日は説明がありませんでしたが、ポイントを突いて必要条件を説明していただきたいと思います。企業向けには説明されましたが、市民団体にも必要な事があったら教えていただきたいと思います。

(浦野) 前回お話しした事は今回繰り返しませんでした。資料3のp18に市民団体等のための7つの基本原則があります。“等”と書いたのは個人も含めてという意味です。これは、角田さんにもご協力いただいて作ったものです。やはりどうしても最初から企業や行政が悪いという先入観で頭から対立的になる方が多いのですが、コミュニケーションの場に出るということは、自分も謙虚に受け止めて行かなければなりません。この点が一番最初に重要だと思っています。後は、感情的にならない等色々と書いていますが、基本的にはコミュニケーションというのは企業側や行政側だけでなく、市民側も相手を理解しようとする気持ちが前提に必要です。逆に言うと、コミュニケーションの場を設けるときに第3者的な司会者が、最初にコミュニケーションとはこういうものですというものを示さなければなりません。つまり、この場で結論を出したり、対立したりするためにコミュニケーションするのではないということを最初に言うべきです。スタートの時点でそのような気持ちに全体をさせることが非常に重要だと思っています。
 ここに書いてあることは、それぞれ読んでいただければ分かることですが、特に市民側に要求されるのは5番目にある何らかの改善策を述べられるかどうかです。相手に望むことで良いのですが、これが嫌だ、これが恐いと言うのではなく、こういう風にしてもらえないだろうかという提案を持ち出せるかどうかが非常に重要なポイントです。これが悪い、あれが悪いというわけではなく、何かしら自分たちも前向きな提案が出来るかどうかで話し合いが上手くいくかどうかが決まっていくという気がしています。

(崎田) その前の個別情報のところで、田中さんのご質問にお答えしておきたいことがあります。市民が何を知りたいかということですが、例えば企業全体をどのように管理しているか、化学物質の使用量と管理方法、その推移、その物質が生産過程に必要なのか、製品自体に必要なのかということです。また、サイトレポートが普及してきたので、地域社会での環境報告書をどのように地域の人と共有していくかという作業が必要になると思います。東京都の環境局がPRTR情報をどのように市民にコミュニケーションするかというモデル事業を展開していて、そのうちの一つに先日参加しました。府中にある大きな家電メーカーが「地域社会の人と当サイトの環境報告書を読む会」というのを主催されて、150人くらいの地域の人が参加しました。現時点では廃棄物の量等に質問が集中しますが、関心のある人達は、どのような化学物質を使用しているか、それがどのような作業のために必要なのか、その推移と現在の処理の仕方あるいは管理の仕方がきちんと出ているかどうかが大変気になるようです。それともう一つ、申し込みがあれば工場見学を受け付け、現場を公開するという状況を確保することが、たいへん信頼感の醸成につながるなとその時感じました。やはり、場を確保し、公開しているということが最低限の信頼づくりだと私は感じました。

(田中) 今のお話で、“あっ!”と思うことは随分ありましたので、やはり研究していきたいと思います。場の話は出ましたが、PRTRの説明会は今まで一度もやっていないので、それだけに特化した練習をどこかでしなければならないと思っています。

(後藤) 本日、私の提供資料ということで、滋賀県のリスク管理、特にリスクコミュニケーションに特化して3年間議論した結論を配布しています。良いかどうかはこれかが世の中の批判を浴びるわけですが、是非ご参考にしていただければと思います。

(有田) PRTRに特化した学習をしていないということでしたが、消費者団体としては、この3年間にリスクコミュニケーションやPRTRの学習を行っているという事だけ報告させていただきたいと思います。ただ、これがまだ十分だということではなくて、これが広がっていくということも必要だと思っています。

(原) 昨年、日産自動車は環境報告書の環境大臣賞ということで、500数十社の中でトップを頂きました。また、今年はサイトレポートを発行しました。昨年までは60ページの報告書を広く皆さんに理解しろといっても限られた人しか読みこなせないので、サイトレポートを各工場の状況を知らせるミニコミのツールとして活用しはじめました。コミュニケーションという事で言うと、人が来るのを待つのではなく、話を聞きたいAグループ、Bグループがあればそれぞれに聞きたい内容が違うでしょうから、そこに行って話をすれば、随分話が分かるのかなと思っています。
 車は約3万点の部品で出来ています。全て無害な物ではなく、例えば鉛を使っていますが、鉛をなくして車を作るとなると、ほとんど走れないか非常に高価になります。できるだけ鉛フリーに持っていっていますが、その他にどうしても残るのがバッテリーです。シュレッダーで潰して捨てるということではなく、バッテリーは生涯管理をすることにしています。車は車検制度や登録があるので、ユーザーの行き先が分かります。その特徴を上手く使いながら、将来的に鉛を使ってもどこかに垂れ流しをするという事ではなく、最終処分場まで管理するような工夫を説明すると分かっていただけます。それを言わないで、「鉛を使っているのか?」という質問にYESと答えると「けしからん!」ということになってしまいますが、管理の方法まで説明すると理解していただけます。本日の議題になっていますコミュニケーションというのは、色々なレベルでやっていかないと難しいと実体験で感じています。

(浦野) 今皆さんのお話を聞くと、日本ではコミュニケーションが始まったばかりという状況なので、皆さん試行錯誤しているというのはよく分かります。むしろ、そのような工夫や試行錯誤の情報を共有するシステム作りがこれからは大切だと思います。もう一点は、工場の中での物の流れと誠実に管理されているかどうかが信頼感の非常に大きなファクターです。この物質にどれくらいの毒性があってといった細かいことを言われても、市民側が知りたいのはそのような話ではないんですよという議論になります。如何に誠実に管理しているかを見せる時に良いことばかり言っていると必ず疑われるので、このような問題点を抱えていて、現時点ではこのように最大の努力をしています。これから更にこのような努力をしていきますという言い方ができればそれなりに評価されて議論が進む、あるいは信頼が進みます。誠意を示すということは、困っていること、これから取り組むべき課題の情報も出せるかどうかが非常に大きいと思っています。最後は、安全かどうかというトータルの安心感を求めるので、個別の情報もさることながら、有害性のトータルの議論をしなければなりません。
 先程、鉛バッテリーの話が出ました。自動車メーカーの皆さんは大変努力されていますが、鉛は資源的にも毒性的にも問題になって、国際的にも基準がどんどん厳しくなっています。しかし、日本の鉛バッテリーのリサイクル率は確実に落ちています。バッテリーの中では非常にリサイクル率が良くて優等生なのですが、それでも落ちているのです。なぜなら、自動車会社が管理できない部分がまだたくさんあり、車自体がその辺に捨てられたり、バッテリーを使用途中に交換して捨てられたりするからです。都市ゴミにも鉛バッテリーが入ってきたりします。ですから、そのような部分に対して、自動車メーカーやバッテリー会社はどのように責任を負うかを全然考えていませんという話になると本当は良くないのです。そこまで含めて、自分たちの出来る範囲とマクロの議論がこれからは必要だと思っています。サイトの個別の情報と大きく見たときの情報がリンクしないと納得されない部分が出てくると思います。

(角田) 昔ISOの議論で、communicationをどのように日本語に訳すかというときに「周知徹底」と訳すという話があって、「エーッ!」と思ったことがあります。96年当時はそのような議論が出ていましたので、現在このような話が出来るということは非常に嬉しいことです。
 環境報告書を一所懸命作られて、地域の人を招いて説明するときに、伝わらない理由はあと2つあると思います。一つは、文字の情報として説明が足りないという事です。例えば、バルディーズ研究会の中で企業の化学物質管理を良く知っている人が環境報告書を読むと、ちゃんと説明すれば分かってもらえるのにという部分があります。ある物質の排出量が減ったという説明でも、企業努力で減ったのか、外注したために減っただけなのかの説明がありません。単にデータとして減った事実だけを伝えられても理由が報告書に書かれていないことが多いので、企業として管理していることを言葉にして説明することが非常に大事ではないかと思います。そのためには、市民なり読む人が何を知りたいのかということを考えて作ることが一つです。
 それから、科学的リスクや文字情報だけで判断することがほんのわずかであるという時の非言語の伝え方が非常に大きいと思います。例えば、ある県で工場見学のコーディネートに立ち会ったとき、その工場である物質の臭いがして、住民から「これって本当に臭うんですよね」という話があっても、「私たちは慣れていますから感じません」と言われてしまうとそれだけで「この人に言っても分からないのね」という判断をされてしまいます。態度や説明の仕方を考えて接すると信頼感が大きくなると思いますし、住民の方は詳しい科学的な説明よりもどのように接してくれるかで信頼できるか出来ないか、安心できるか出来ないかを判断するところもあります。その点がまだまだだと思いました。日本人は態度に表すことが非常に苦手な人が多いのですが、今後はその点がキーになってくるのではないかと思います。

(有田) 企業の担当者は構えていて、私たちはもっと対話したいと思っているのに顔が引きつっていることがあります。環境の担当の方はそれが必要だと思っているようで、お話も上手ですし表情は軟らかくて接し方も上手なのですが、他の方は「消費者団体は何なんだ!」という構えがあって、ここからマイナスイメージがまた発生し、せっかく近づいていても離れてしまうことがあります。まさしく態度と言葉が重要で、角田さんと同じ意見です。

(中下) 環境報告書以外のことを知りたいというのは本当によく分かります。そこは良いことしか書かれていないし、全部正しいとは思っていないと思います。どこか上手く書いているところがあるのではないか、ひょっとしたら嘘を書いているのではないかと思いってします。残念ながら、これが一般の皆さんが感じるところだと思います。どうして嘘が出てしまうのか、分かっていながら表示に違うことを書いてしまうのかという事をもう一度真剣になって考えて頂きたいです。いい格好しないと大変だ、騒ぎが起こると大変だという風に思っていることが根本にあるのではないでしょうか。あるとしたらそれは間違いで、情報を明らかにし、このような不始末をしましたがこのように処置しました、今後このような事がないようにやっていきますということを示す以外に信頼を取り戻す方法はないし、そのような事を日常的に環境担当者だけではなく、社員に教育していないとだめです。そのためには、企業責任をどれくらい自覚しているか、ひょっとしたら危ない物を作っているのかもしれないといった意識をどれくらいの方が持っているかにかかってきます。食品業界で食品を扱うということの重要性を認識していなかったために、雪印や日本ハムで問題が起きました。ですから、まずは社員の教育が大事です。雪印のニュースを見ましたが、問題が起こった後に今さらのように社員教育を行うなんて、倒産してもやむを得ないと思いました。社員教育を日常的にやっていれば、社員のコミュニケーションの仕方は自ずと変わってくると思います。本質的には技術的な問題ではないと思います。それを自覚していれば、ネガティブな情報はもっと出てきてもおかしくないのに環境報告書を見てもネガティブな情報は全く出ていません。ですから、申し訳ないけど環境報告書は見る気がしません。ネガティブな情報が書いてあれば、この企業は違う、姿勢が変わってきていると見ます。ですから、横並びをしないことが大事なのです。

(原科) 大学の教官も、留学や奨学金の推薦書を書くとき、褒めてばかりだと信用されないので、このような欠点があるが、この点が良いという風に書きます。ですので、確かに仰る通りです。

(山元) 重複しますが、最近の食品表示や東電問題による企業不信が積もっているのは事実だと思います。この間、企業と消費者が対立的でなくコミュニケーションを進めていくという方向になりつつあったのに、最近の問題で元に戻ってしまったというのは真実だと思います。ですから、今後、信頼感を取り戻すためには、企業が事故等のマイナス情報をどのように公開するかが重要であり、消費者もそれを冷静に受け止めて判断できるような新しい価値観や文化を創っていかなければならないと思います。これを機会に新しい方向に踏み出すことが良いのではないかと思っています。

(村田) マイナスの情報を出すか出さないかは難しい問題ですが、その前にリスクコミュニケーションの場で、企業の方は分かっていることはきちんと伝えますが、分かっていないところ、何が分かっていないのかをきちんと伝えません。受け取る側は見えている部分と見えてない部分の全体像が分からないと何となく不安になります。ですから、今ここまでは分かっているけどこの先は分からない、この物質のリスクは分からないという事まで伝えることによって、多少住民側のリスクコミュニケーションの場での不安が是正されると思います。

(後藤) 私は環境報告書に書いてあることをかなり信用しています。昨年NTT-Xのアンケート調査に協力し、環境Gooで一般ポータル何万人かに読者調査を行いました。結果は環境Gooに載っています。インターネットの調査なので、一般の調査とは違いますが、NTT-Xと環境Gooの調査では、10代以下と60代以上を除けば、優位の差は認められないということでしたので、読者調査と考えていただいて良いと思います。その中で、環境報告書を信用できないと言っているのは、30代、40代の男性会社員で、環境担当部署ではない人でした。読んでもいないのに信用できないという答えを出しています。私のものすごく穿った解釈ですが、だいたい財務報告書がいいかげんなので、企業の男性社員で30代、40代になると、企業の出す物はむしろ信用できないのだということを去年シンポジウムで言いました。一般消費者は環境報告書をあまり知りません。むしろ、読んでもいない企業の人が信用できないと言っている部分がかなりあるという事を申し上げておきます。私自身は、環境報告書に書いてあることについてはかなり信憑性が高いと理解しています。
 それから、田中さんの質問にお答えします。環境報告書は、あるガイドラインに則ってそれを網羅的に書いたもので、書きたいことを書くのではなく必要な項目を書いています。化学工業会について申し上げると、私はRCがガンになっているのではないかと思っています。あれに則って書いているので自分たちはちゃんと書いていると思っておられるのだろうと思っています。報告書に書くものは、実は自分たちが出したい物ではなくて、適合性原則、レレバンスに即したものです。レレバンスとは読み手側が必要とする情報に適合しているかどうかというものです。そのような意味で言うと、RCは読み手側がどのような情報を必要としているかについての調査はしていないと思います。RCに則って書いているから自分たちはちゃんとしていると思っていらっしゃいますが、レレバンスという観点からは対応していないのだろうと思います。
 最後になりますが、去年の7月に欧州でCSRについてのグリーンペーパーが出ました。今年の7月にもパブリックコメントを受けた改訂版が出ましたが、ここで言うCSRはISOがCSRの企画を作ろうという時のCSRとは違い、ここで言うSocialはSustainabilityとほとんど同義語で使われています。そういう意味で言うと、実は環境報告書がものすごい勢いでSustainability Reportに変わっているのです。多分、その観点からもRCだけで対応していると社会全体の関心から見ると極めて欠けたものになると思っています。

(田中) RC報告書は環境省のガイドラインより広い範囲を捉えていると思っています。と申しますのは、環境省は保安防災や労働安全には全く無関心だからです。しかし、完璧なものであるとは決して信じていませんので、今日もお話をお伺いしたわけです。環境省のガイドラインが今のところベストだと仰るのであれば、若干ひっかかるところがありますが、我々は環境省のガイドラインよりも上回っている部分もあります。しかし、発表する内容は企業に任されていますので、必要な部分が抜けていることもあるということも理解しております。環境省から色々出されているガイドラインだけではカバー出来ないもの、Sustainable Reportであれば、当然そのようなものが出てくると思いますが、我々はそれを考えてやっていかなければならないということは感じています。

(後藤) 環境省のガイドラインが云々という話ではありません。私も環境省のガイドラインを作るときの委員の一人ですから、あれが完璧なものだとは思っていません。しかし、ガイドラインに則って書くということは、ミニマム情報が網羅されているという意味で、それを越えた読者のニーズに適合したレレバントな情報をどのように出すかは個別企業の決定(decision)で、利害関係者(stakeholder)をどのような形で調査(survey)し、どのような情報が必要かということはまさにリスクマネージメント、リスクコミュニケーションのために企業がすることです。ガイドラインはあくまでミニマムのレレバンスを決めているというもので、あれをやっていれば完璧ですという問題ではなく、個別企業が個別のリスクマネージメントとして考えられることだと思っています。

(田中) そういう事であれば理解できます。企業としてはガイドラインの項目を全て書く必要がないところはたくさんあります。リスクマネージメントという観点からは重要な点をピックアップして報告書を作っています。しかし、それで完全な物が出来ているとは決して思っておりません。

(原科) 情報の絞り込みが重要です。アセスメントの分野ではスコーピングと呼んでいますが、一番重要なものは何かを整理し、その中でガイドライン外のことも必要ならやるということです。

(大野) 我々は西友という小売業なので、消費者からダイレクトな質問が来ます。化学物質については素人ですから、我々自身が困るような質問が非常に増えました。その時にメーカーや西友の専門部署のバイヤーに聞くようにしますが、直接消費者からの声を聞いていないので温度差があります。何を知りたいのかということがダイレクトに伝わっていないのかと思います。木で鼻をくくったような答えが帰ってくることが多いです。消費者はそのようなことを知りたいのではなくて、こういうことが知りたいので、もう一度追加調査をしてくださいと言ってやってもらいます。しかし、化学物質ですから分からないこともあるので、その時は、メーカーやバイヤーはこのような事を言っていますが、我々もここまでしか分かりませんと説明します。そうすると、信頼はしていただける、そこまで調べて頂いたなら分かりました、というような形で納得してもらえるというケースが去年から増えました。
 先程、雪印などの話がでましたが、企業には倫理観が必要だと思い、当社の中でもグリーンボードと言って外部の識者の先生と経営者とのミーティングを年に4回くらい行っています。その中でも、最近は企業の倫理観がテーマになっています。消費者からの声が一番企業を教育するということで、企業の倫理観を高めるためのよい機会だと思っていましたが、最近になってそれを覆すことが起きました。実は、日本ハムの問題後、流通各社が店頭から製品を撤去しました。雪印の問題の時は製品を売っている姿勢が問われて、今回も横並びで撤去したようですが、消費者からは「どうして撤去するのか?」という意見が非常に強くありました。今までは購買の代理者のような視点をもって製品を選ぶことが流通企業の倫理観の元という意見が多かったのですが、ここに来て選ぶのは消費者で嫌な人は買わないだろうから店頭に並べろという意見が急に増えました。我々の部署からする企業倫理の教育には後ろ向きの意見が非常に多く出てきました。

(有田) 企業倫理の後退だとは思いません。雪印は品質の問題で食品業界があんな事をしてよいのかという非難でした。日ハムの問題は、商品そのものの問題ではないのに、商品を買わないということを流通企業に押しつけられたと感じました。もっと別の対応があるのではないかと思いました。ですから、企業倫理を問うのに、事業者がいい格好をしているように見えました。もちろん日本ハムの問題は許されることだとは思っていませんが、単純に消費者には流通企業の対応がパフォーマンスに見えました。店頭に並べないだけが企業倫理なのかなと思いました。もう一つは、本当にあなた方流通企業は、よそに問えるほどきちっと管理しているのかと逆に思ったのも事実です。自分たちが全面に正義の味方のようにしていますが、少しぐらい税金をごまかしていないですか、何か消防法に引っかかるようなことをやっていないですかという思いがありました。一つの社会的なアピールだと思いますが、皆がそうは思わなかったのではないかと思います。同じ食品業界の不正があったとしても個別に対応が違って当然なのではないかと思いました。

(浦野) 一つ話を戻させていただきます。企業の窓口以外の人に当たるとコミュニケーションできないという話がありましたが、リスクコミュニケーションガイドを作成するときに実施したアンケートの結果をお知らせします。行政の化学物質の担当者に「自らに有利な情報を公開して不利な情報を意図的に隠していると思うか」という質問に64%が「そう思う」と回答しています。主に化学会社の化学物質の担当者に同じ質問をしたところ、39%が「そう思う」と回答しています。ですから、一般市民はもっと不信感を持っているという実態があるということは素直に認めて、むしろ社員教育や従業員が会社を信用しているかという問題をもっと真剣に考えないといけないと思います。
 もう一つ、化学物質は便利な物ですし、必要な物は使ってしっかり管理していけば良いと思いますが、ある年齢以上の一般の方々は急速に化学物質が増えてきているという実感を持っています。50~60年くらい前から急速に増えてきています。生命の歴史が30億年、人類の歴史が数百万年ありますが、その中でほんの数十年の間に爆発的に増え、有名な方の言葉を借りれば、「化学物質が泳いでいる状態の社会」になっています。それを高生産物質でも毒性情報を調べるのに6000~7000万円かかるので大変だからやりませんという議論は非常におかしいと誰もが感じているということは事実です。それに対してどういった倫理感や慎重さ、説明をしていくかという根本的なところを社員全体が持たないと、多分本当の意味の化学物質のリスクコミュニケーションは上手くいかないのではないかと思います。一種の価値観や文明論になってしまうと少しオーバーですが、市民は便利だから使うのは当たり前という前提では決してないということも理解してコミュニケーションすべきですし、それを社員全員に共有させる必要があると思います。もちろん、化学物質は必要ですし、便利な部分がたくさんあるので、使ってはいけないとは言いませんが、それなりの責任なり情報公開なりが必要だという認識がもう一段進まないと、この問題はなかなか先に進まないと思っています。

(中下) 提案ですが、環境報告書を作るときに、例えば市民と一緒に作るなどして、過程を示すことが重要です。結果だけ示すからなかなか信用されないと思いますし、我々も信用しにくいです。ですから、プロセスを透明化するということを考えていただいてはどうでしょうか。先程の日本ハムの話ですが、消費者も一枚刃じゃありませんし、色々な考え方の人がいます。それぞれの個別企業がポリシーを持って、自分たちが物を売るときに、どこから仕入れ、どこに売るかという姿勢を明確することだと思うのです。それが横並びだったらまた信用されません。要求があっても、不正のある企業からは仕入れないと言われたら、消費者も信用して、我々も西友に買い物に行こうという気になると思います。ですから、責任者がどのような態度かというところに国民は一番関心があるのです。その時に、化学物質とのつきあい方を今一度考え直す時期で、そのリスクをどれだけ真剣に考えて製造、販売されているのかという点が重要なポイントだと思います。どこかの環境報告書にイマザリル,OPP,TBZ等の有害物質を使用しているということを表示していますと書いてありましたが、そもそも消費者はそのような物質を使うこと自体を心配しているわけですから、表示していればよいという事でもありません。もう少し、化学物質に対するポリシーが出るような環境報告書でなければ、ガイドラインに従っていますというだけではいかないと思います。やはり、製造者、販売者がポリシーを持っているか、そのことを表した環境報告書であるかが重要なポイントだと思います。内部の人はそれを判断するのは難しいと思うので、外部の人を入れて違った目から見てもらうことも良いことなのではないかと思います。

(出光) まず、後藤さんの話のリスクマネージメントですが、我々のように家庭用品を扱う業界では単に環境だけではなく、トータルの信頼を失うと企業は潰れるという認識の業界です。ですから、単にリスクコミュニケーションがリスクマネージメントのツールで、リスクを取ったコミュニケーションも含めて企業サイドは自分たちの死活をベースに議論しているのは間違いないと私は思っています。その時に、今のような状況で信用できませんと言われると非常に悲しいのですが、現時点で言うとあまりに化学物質が色々出過ぎたなということを企業人としても感じることはあります。では、企業倫理を全て示さなければ分かっていただけないかと。私どもは実は企業倫理に関しての規定が随分前からあります。例えば、法や倫理を犯してまで利益は追求しないと明文化したものを社員全員に渡しています。私も持っています。そういう経営をやっていますが、そういうことを全て一般にPublishしなければならないかという議論はあると思います。

(中下) 多分、そのような規定はどこの企業にもあると思います。そのような物を出しても、また横並びになるので、それで企業を信用すると言うことはないと思います。ご自分の会社は大丈夫だというのは分かりますが、必ずしもそうと言い切れないのではないでしょうか。

(出光) 大丈夫だと言っているのではなく、私はそのようなリスクを抱えているということを常に社員に言っていますし、現実にそういう事例が世の中に起こっています。ですから、皆さんが仰る以上に企業サイドは考えています。全て企業は信用できないと言われると若干悲しいという印象です。

(中下) 今は、信頼を回復するためにそのくらい危機意識を持っていただいてちょうど良いくらいだと思います。

(後藤) 一昨日、経団連も企業倫理の遵守というプレスリリースを奥田さんの名前で出しておられました。確かに今年になって色々な問題が続いたので、倫理とかコミュニケーションの重要性を多くの企業が認識されているというのは事実です。リスクマネージメントという観点で、レピテーションリスクにはコミュニケーションが重要ですが、その体制を作るための努力を企業がやってきたかというと、あまりそれはなかったと思います。その証拠に、ISO14001の認証を取得して、コミュニケーションという項目を満たすために苦情処理部と担当者を置くという程度ですませている企業がほとんどです。東芝はその後リスクコミュニケーションの部分についてかなり分厚いマニュアルを作られたということは聞いていますが、多くの企業ではそのようなものはほとんどありません。今年になってから、非常に不祥事が続いたためにそういう認識をしておられる企業が増えてきているということは重々理解しているつもりですが、まだ日本全体ではそのような状況ではないと私は思っています。
 それから、色々なものを全てPublishするかどうかについては、リスクマネージメントの観点からすると、全て自己責任、自己決定です。ですから、これだけしか出さなくてリスクマネージメントが上手くいかなければ自分のリスク、出しすぎて弱みを見せすぎたために苦況に陥るのも自分のリスクという意味で、自己責任、自己決定の問題だと思っています。

(出光) 後藤さんの意見に賛成です。

(有田) 私も年次報告書を作る立場にいた関係で、そう思います。出しすぎても読んでもらえませんし。企業の方は内部監査のところで、例えば消費者や市民の意見を入れていますか?
 話が戻りますが、日ハムの問題で、市民の意見が一枚刃ではないという話がありました。OPPやTBZの表示については、情報として必要ですが、例えば可食部分に添加物が残っていなければ良いという消費者がいれば、その情報を出しながら売っていくというのも一つの方法です。そういう情報を消費者がどれだけ受け止められるかというものもありますし、出し方もあるということで言えば、全て同じように横並びで対応してしまうと苦情につながるのではないかと思います。色々なことをその場その場でどのように対応すればよいかを企業も考えたり、自分たちの意見を公表していく必要性があるのではないかと思います。

(原科) 日ハムの例は、企業が個々にちゃんとしたポリシーを持っていないように見えたということですね。

(原) 日産自動車は第3者の監査はやっていません。環境報告書はガイドラインがありますが、それに沿った何十ページの報告書を出すということが大事なのではなく、ガイドラインに基づいて社内の仕組みを作っていかなければなりません。レポートを出すための仕組みづくりが非常に大事だと思っていますので、第3者認証というよりも先に社内の仕組みを作ることが大事だろうと考えてそこを構築しています。

(原科) 今は仕組みづくりをしているけれど、将来は第3者の監査も考えたいと言うことでしょうか?

(原) 視野には入れなければならないと思っています。いつ入れるかは決めていませんが。

(瀬田) 旭化成では第3者の監査を入れています。ただ、監査と言っても様々な意味のものがあります。例えば、数字上の監査もあるし、技術詳細に渡って内容が十分かを確認する監査もあります。監査については、河内さんから話があるかもしれませんが、RCの協会自身でそういう監査システムを作っていく動きがあると私は聞いています。ただ、今の計数的な監査だけで膨大な作業があり、数人が数日常駐し、社員も1~2週間付きつめで対応しています。本社だけではなく、特定の工場でも行い、その結果が環境報告書の最後の1枚紙になっています。それで十分ということはないと思います。例えば技術の内容等については、内部に入らないとダメですから。ですから、第3者といっても決して容易ではないと思います。だから、ほんとに内容を知っている外部の人たち、RC協会の認定グループが行うのは良いのかもしれません。ただ、相当膨大な費用がかかることは事実です。

(原科) 第3者監査にはそれだけの技術力、知識がないとできないということですね。

(瀬田) 監査には色々ありますので。計数をキッチリ見るのも監査ですし、技術の中味、工場の運営までに入っていく監査、先程のように社員や運転員の意識まで入っていくという監査になれば、大変なことになると思っています。

(田中) 河内さんではなく、私が担当ですのでお話しします。RCをきちっと行うために検証センターを立ち上げて私がセンター長に就任しました。先程説明があったように旭化成を監査しました。今言われたように専門家が見ないと技術的な事は分からないと思い、スタッフには専門家を揃えました。対策が本当に技術的に正しい方法で業界レベルあるいは日本全体のレベルを見て妥当な対策かを見るとともに、コードというものを持って、それに基づいていない行動は指導することになっています。各サイトに行ってそれぞれの数値の妥当性、集計の妥当性を見るわけですが、それだけで虚偽を発見できるかは、実践してみて非常に難しいと思いました。どうやって虚偽を見つけるかが今後の課題だと思っています。しかし、とりあえずは技術的にきちんとしたレベルにあり、それが妥当なものかは見ていけると思っています。

(浦野) 環境報告書を作るためにすごく努力をして体制を作り、管理するということは大事なことですし、そのために色々なガイドが出ています。実は、報告書はあくまでもプレゼンテーションの物であって相手がいます。なので、相手に理解されるというのは非常に重要なことで、そちらの方に市民や第3者がもう少しコミットすべきだと思います。
 あるいはPRTRで現時点ではある物質をやむなく大量に排出していて、今後減らす計画があっても、住民がデータを見たら極端に不安がる可能性もあるということで、ある大企業から相談を受けています。多分、内部的には解決できないので、様々な測定に市民を参加させることでかなりの理解が得られますと回答をしました。それも難しい測定方法ではなく、検知管やパックテストのように結果が目に見えるもの、直感的に分かる道具を色々使うなど、市民側に理解してもらう工夫はたくさんあり得ます。先程言った、見学をさせる、工場周辺で市民と一緒に環境測定をするといったこともすごく重要なことなので、どうすれば周辺住民や市民に参加してもらえるのかをもっと真剣に考えるのも重要ではないかと思います。

(原科) 廃棄物処理施設でも、市民側が専門家を選んで運営管理を一緒にやるという例がよく出てきます。この点は非常に重要なポイントだと思います。時間が残り少なくなりましたので、現在手の挙がっている2人に順番にご発言いただきたいと思います。

(出光) 私どもは測定まではやっていませんが、見学者だけでも年間3万人はいますし、HPに環境のページを作って、毎月4000~5000件のアクセスがあります。HP全体には月に30万件くらいのアクセスがありますが、我々が発信した情報をベースに市民の方から年間11万件の相談があります。そういうコミュニケーションを通しながら、市民の皆さんの意見を商品や仕組みに反映し、HPも何度もリニューアルしました。本日の議題はリスクコミュニケーションですが、その前にコミュニケーションがあるのだと思います。その中で、リスクの部分はどうするかという議論ができればと思います。

(大野) 今年の環境報告書は、読者の興味を第一に考えました。やはり、何を知りたいか、どのように伝えたらよいかが重要ですので、普通の人が何を知りたいかを考えられる人に担当させました。第3者検証についてもきちんとしたものを作るという意味で入れています。何社もやっている監査法人ですが、彼らに頼んで、我々の方はISOの内部環境監査のチームにも入ってもらっていますし、チェックリストを一緒に作っていますので、チェックリストの中で環境報告書の中のデータを検証できるような質問も作って盛り込んでいくようにしています。もちろん、監査法人も監査をすることに自分たちのリスクを感じていますので、積極的にやっていると思います。

(原科) まだたくさんご意見があるようですが、最後にこれだけは言っておきたいということがありましたらどうぞ。

(崎田) まだ市民がどうすべきかという話が残っています。

(原科) 時間がなくなってきましたので、次回はどのような事を議論しましょうか?

(崎田) 先程、大野さんの発言で、消費者から選ぶのは私たちだからという意見があるということでしたが、本当に多くの人がこのように言える時代になっていくことが大切だと思いました。できるだけ多くの消費者が意志を持って自分たちの暮らし方やそれに必要な商品の事を分かって、意志を持って会社を選んで買うようになることが今とても重要だと持っています。こういう社会に向けて、先程は企業のお話がありましたので、これから消費者はどうするか、市民自身にどういう風に地域社会の環境学習の仕組み、大人あるいは子どもの環境教育の仕掛け作りやそれを一緒に企業や行政とやっていく仕掛けはどうするかについての話を今日このままやりたいという気がしています。

(原科) 会議は終わりに盛り上がってもっと続けたいという風になりますが、今日延長戦をするのは無理なので、次回は今の議論の延長としたいと思います。本日は情報の事を中心にマスの情報と個別情報について議論しましたが、情報の交流、次の段階、市民の問題を中心にリスクコミュニケーションについて更に議論していきましょう。2,3回議論しないと煮詰まらないですね。次回は、引き続き今日の議論を踏まえて議論を展開したいと思います。次回のスケジュールについて事務局に説明していただきます。

(安達) 2~3ヶ月に1回と考えています。次回の日時についてはメール等で調整させていただきます。

(原科) 皆さん盛り上がっていますので、あまり間をおかない方が良いと思います。次回は2ヶ月後の11月の半ばとお考えいただいて、それまでに色々な情報を整理していただきたいと思います。今年度の予定はどうなりますか?3月で一区切りでしょうか?

(安達) 今の段階では特に終期は設定していません。円卓会議ご自身に進め方を決めていただく事になっています。

(原科) 我々が決めると言うことは、自己責任、自己決定ですね。(笑)それでは、2ヶ月後に開催するということにしましょう。今回メンバーが入れ替わりましたので、参考資料としてパンフレットを用意して頂きましたが、最初のページに化学物質と環境円卓会議の目的や位置づけが書いてあります。確認しますと、「国民各界の意見・要望を集約し、意見・要望を踏まえた対話を通じて環境リスク低減に関する情報の共有と相互理解を深め、会議での議論やそこで得られた共通認識を市民、産業、行政に発信していきたい」と思います。ですから、具体的な発信が将来できれば良いと思いますが、少なくともこれまでの議論の経過は、議事録として最小限残りますから、それだけでも最小限の発信はできますが、できればもう少し具体的なものを発信できればと思っています。

(有田) 行政の方はいつも神奈川県の方しか発言されませんが、今日本当に嬉しかったのは、環境省と経済産業省から発言があったことです。次回は他の省の方も発言していただきたいなと思いました。

(原科) それでは、時間がいっぱいになりましたので、この辺で終了いたします。どうもありがとうございました。

(安達) なお、浦野さんがお使いになりましたスライドにつきまして、ハードコピーを受付の方に用意してありますので、必要な方はお持ち帰り下さい。

(浦野) 未熟なものでまだ修正がたくさん入りますので、この会議の参加者だけでお願いします。