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5.実験動物における影響

 ダイオキシン類には多くの同族体が存在するが、毒性試験には、主に、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDを被験物質として用いている。

(1)発がん性

 実験動物に対する2,3,7,8-TCDDの発がん性については、Kocibaらがラットの試験により、100ng/kg/日(2年間の連続投与)の投与量で、肝細胞がんの発生を観察、報告している60)表1の番号23)が、その他に、マウスやラットを用いた長期試験で甲状腺濾胞腺腫、口蓋・鼻甲介・舌及び肺の扁平上皮がん、リンパ腫の誘発が、ともに、投与量71ng/kg/日(2年間の連続投与)(表1の番号22)において認められている61)
 なお、発がんメカニズムについては、遺伝子傷害性を検出するための複数の試験系で陰性の結果が得られ、マウスやラットを用いる二段階発がんの試験系でプロモーション作用が証明されている15)

(2)肝毒性

 肝毒性としては、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼの上昇やポルフィリン症、高脂血症等の生化学的変化に加え、病理学的には肝細胞の肥大や脂質代謝異常などが観察されている。

(3)免疫毒性

 免疫毒性に関連する試験において、2,3,7,8-TCDD は動物に胸腺萎縮や細胞性及び体液性免疫異常を引き起こし、ウイルス感染に対する宿主抵抗性や抗体産生能の抑制も認められている64)表1の番号15)。また、母ラットへ投与すると、児動物に遅延型過敏反応の抑制65)や抗体産生能の抑制66)がみられている(表1の番号12)。これらの影響は、単回投与で投与量100 ng/kg以上から発現しており、明確な用量依存性が認められている。
 マウスへの10 ng/kgの単回投与により、ウイルス感染性が増大するとの報告があるが、用量依存性は示されていない63)表1の番号3)。

(4)生殖毒性

 生殖毒性試験では、母動物よりも胎児及び出生後の児動物への影響が強く現れ、妊娠中及び授乳中の投与により、以下のような影響が発現する。

(1) 児の口蓋裂、水腎症等

 生殖毒性試験においては、高用量の連続投与(投与量として500 ng/kg/日から)の2,3,7,8-TCDD の投与によって、ラットに腎形成異常67)、マウスに口蓋裂や水腎症が引き起こされる67,68)ことが報告されている(表1の番号19、25)。母動物よりも次世代への影響が強く発現し、ラットでの繁殖性試験では、次世代以降に受胎率の低下が認められている69)

(2) 児の雌性生殖器系への影響

 妊娠15日に母ラットに2,3,7,8-TCDDを単回投与した場合には、雌児動物における生殖器の形態異常が、投与量200 ng/kg(表1の番号13)からみられている70)

(3) 児の雄性生殖器系への影響

 妊娠ラットに2,3,7,8-TCDDを投与した場合には、児動物における精巣中の精子細胞数の減少、精巣上体尾部精子数減少、射精精子数減少などが認められたとされている。
 Faqiら(1998)の試験では、母ラットに交配2週間前から離乳まで皮下投与を行ったところ、低用量群(25 ng/kgを初回投与後、5ng/kg/週を投与)以上で精巣中の精子細胞数が用量依存的に減少している(表1の番号7)ほか、高用量群では血清中テストステロン濃度低下、精巣の組織学的変化等が認められている71)
 Mablyら(1992c)の試験においても、妊娠15日に母ラットに投与したところ、低用量(64 ng/kg)群で児動物の精巣中の精子細胞数の減少、精巣上体尾部精子数の減少、精巣上体重量低下、精巣上体尾部重量低下等が認められている72)表1の番号11)。なお、児動物が成長した後の生殖能については、対照群と比べ有意な差は認められていない。
 Grayら(1997a)によれば、投与量200ng/kg(妊娠15日の母ラットへ単回投与)で精巣上体精子数減少、精巣上体尾部精子数減少、陰茎亀頭重量低下、包皮分離遅延などが、800 ng/kg投与群で射精精子数の減少が生じている73)表1の番号14)。

(4) その他

 アカゲザルを用いた試験では、母動物に4年間投与し、投与開始後10年の時点において0.15 ng/kg/日で子宮内膜症の発生率と重篤度が有意に増加したとの報告がある74)表1の番号9)。しかし、この試験には、飼育条件を含めた技術面の不備が指摘されている75)
 また、同じ研究機関において実施されたアカゲザルの試験では、母動物に投与(妊娠7ヶ月前から離乳期まで、0.15ng/kg/日)した場合の児動物に学習行動テストの成績の低下が観察されている76)表1の番号8)。

(5)その他

 ラットにおいて薬物誘導酵素(CYP1A1)の誘導が1 ng/kgの投与量で認められており77)、また、マウス肝臓においては同様の影響が1.5ng/kgで認められている78)表1の番号1、5)。
 また、マーモセットにおいてリンパ球構成の変化が0.3ng/kg及び10ng/kgの投与量で認められている79,80)表1の番号2、4)。
 ウサギにおいてクロルアクネが4.0ng/kgの投与量で認められている81)表1の番号6)。

 


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