中央環境審議会大気部会
「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について(第四次報告)」(案)
平成8年5月21日付け諮問第31号で諮問のあった「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」に関しては、平成8年10月18日に有害大気汚染物質対策の観点から早急に実施すべき対策についての中間答申、平成9年11月21日にガソリン又は液化石油ガス(以下「LPG」という。)を燃料とする自動車(以下「ガソリン・LPG自動車」という。)及び特殊自動車(道路運送車両法に規定する大型特殊自動車及び小型特殊自動車をいう。以下同じ。)の排出ガス低減対策を内容とする第二次答申、及び平成10年12月14日に[1]軽油を燃料とする自動車(以下「ディーゼル自動車」という。)から排出される窒素酸化物、粒子状物質に重点をおいて平成14年(2002年)から16年(2004年)にかけて低減(以下「ディーゼル新短期目標」という。)し、平成19年(2007年)頃を目途に更に2分の1程度に低減(以下「ディーゼル新長期目標」という。)し、[2]ガソリンを燃料とする自動車(以下「ガソリン自動車」という。)の燃料蒸発ガス低減に係る試験燃料の蒸発性を定めた等を内容とする第三次答申を行ったところであるが、今般、自動車排出ガス専門委員会において自動車排出ガス低減対策のあり方全般について検討した結果、別添の自動車排出ガス専門委員会第四次報告がとりまとめられた。 | ||||||||||||||
本部会においては、上記第四次報告を受理し、審議した結果、今後の自動車排出ガス低減対策を的確に推進するためには、自動車排出ガス専門委員会第四次報告を採用し、[1]第三次答申で提言されたディーゼル自動車の新長期目標について達成時期を可能な限り早め併せて軽油中の硫黄分を低減し、[2]第二次答申で提言された特殊自動車の排出ガス低減目標についてディーゼル黒煙も含め達成時期を可能な限り早めるとともに、引き続き自動車排出ガス低減対策のあり方全般について検討することが適当であるとの結論を得た。 | ||||||||||||||
よって、本部会は次のとおり報告する。
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1.ディーゼル自動車の排出ガス低減対策 | ||||||||||||||
(1)ディーゼル新長期目標の早期達成 | ||||||||||||||
[1]達成時期等 | ||||||||||||||
第三次答申において平成19年(2007年)頃を目途に達成することとされたディーゼル新長期目標については、新しい排気後処理装置の開発が急速に進んでいることから、設計、開発、生産準備等を効率的に行うことにより、平成17年(2005年)までに達成を図ることが適当である。その際、短期間にディーゼル新短期目標、ディーゼル新長期目標への対応が必要なこと及び同時期にガソリン・LPG自動車の排出ガス規制強化も予定されていることから、一時期に工数が急激に増加することに伴う負担増及び認証の集中が予想され、また、新しい排出ガス試験方法が定められる場合には、その対応への準備期間が必要なことから、規制への対応が円滑に進められるよう配慮が必要である。 | ||||||||||||||
第三次答申においてディーゼル新短期目標の2分の1程度とされたディーゼル新長期目標の具体的な値については、今後の技術開発の動向を踏まえ、現行の排出ガス試験方法を見直す場合にはそれを基に、平成13年度(2001年度)末を目途に決定することが適当である。その際には、ディーゼル排気微粒子(DEP)のリスク評価の結果を踏まえ、粒子状物質(PM)を新短期目標の2分の1程度よりも更に低減した目標値とすることについて検討する必要がある。 | ||||||||||||||
なお、(社)日本自動車工業会が実施を表明しているPMの排出量をディーゼル新長期目標レベルに低減した自動車の自主的な市場供給については、その効果が十分得られるよう適切に実施することが望まれる。 | ||||||||||||||
[2]排出ガス試験方法の見直し | ||||||||||||||
排出ガス試験方法については、走行実態調査など所要の調査を行い、その結果を踏まえ、試験方法の見直しについて必要性も含め早急に検討する。その際には、我が国の大都市地域の走行実態が十分反映されるよう配慮する必要がある。なお、大型車の排出ガス試験方法の国際基準調和活動が国際的に進行していることに鑑み、我が国の環境保全上支障がない範囲において、可能な限り国際調和を図ることが肝要である。 | ||||||||||||||
試験方法の見直しに当たっては、コールドスタート時の排出ガス低減を適切に行うための測定方法について調査研究を進め、特に、大型車にあっては過渡運転の試験方法(いわゆる「トランジェントモード」)の導入及びその場合の粒子状物質の計測法について導入を検討することが重要である。また、非メタン炭化水素又は非メタン有機ガス(非メタン炭化水素にケトン、アルデヒド等の含酸素有機化合物を加えたもの)による規制の導入についてその必要性も含めて検討することが適当である。また、併せて、黒煙の測定法及び黒煙規制のあり方についても検討することが必要である。 | ||||||||||||||
(2)燃料品質対策 | ||||||||||||||
[1]許容限度設定目標値 | ||||||||||||||
ディーゼル新長期目標達成のために有望な排気後処理装置を十分に機能させるためには軽油中の硫黄分の低減が必要であるが、現状では0.005質量%(以下「50ppm」と表記する)レベルが技術的な限界であるため、当面、軽油中の硫黄分の許容限度設定目標値を50ppmとすることが適当である。 | ||||||||||||||
なお、硫酸塩(サルフェート)の低減に加え、有望な排気後処理装置の一つである窒素酸化物還元触媒がその機能を十分に発揮するために、将来的にはそれ以上の低硫黄化が望まれる。併せて、軽油中の硫黄分に被毒されにくい触媒の開発も望まれる。また、芳香族含有率や蒸留性状等その他の燃料性状についても、その定量的な排出ガス低減効果について一層の研究が必要である。 | ||||||||||||||
[2]達成時期等 | ||||||||||||||
軽油中の硫黄分を50ppmとする許容限度設定目標値については、燃料生産者において設備設計及び改造工事等を効率的に行うことにより、平成16年(2004年)末までに達成を図ることが適当である。 | ||||||||||||||
なお、石油連盟が実施を表明しているPMの排出量をディーゼル新長期目標レベルに低減した自動車の市場供給にあわせた低硫黄軽油の自主的な部分供給については、その効果が十分に得られるよう適切に供給体制が整備されるとともに、可能な範囲で市場の軽油の硫黄分の実勢が低減されることが望まれる。 | ||||||||||||||
2.ディーゼル特殊自動車の排出ガス低減対策 | ||||||||||||||
(1)排出ガス低減目標の早期達成 | ||||||||||||||
第二次答申において平成16年(2004年)までに達成することとされたディーゼル特殊自動車の排出ガス低減目標については、達成できる技術の実用化が早期に期待できることから、排出ガス計測施設の整備等に加え、設計、開発、生産準備等を効率的に行うことにより、平成15年(2003年)までに達成を図ることが適当である。 | ||||||||||||||
なお、エンジンベースでの排出ガス試験方法による特殊自動車排出ガス規制の導入に当たっては、既存の制度に配慮しつつ、エンジン製作者が申請できるエンジン認定制度を早急に創設することが望まれる。また、認証の集中が予想されること等から、規制への対応が円滑に進められるよう配慮が必要である。 | ||||||||||||||
(2)ディーゼル黒煙対策 | ||||||||||||||
[1]排出ガス試験方法 | ||||||||||||||
PMのうちディーゼル黒煙の排出ガス試験方法については、当面、平成15年(2003年)の排出ガス低減目標の達成に併せて、建設省直轄工事における排出ガス対策型建設機械の取扱いに係る認定のための黒煙測定方法であるJCMAS T-004を採用することが適当である。 | ||||||||||||||
なお、今後黒煙測定方法に係る国際動向を見極めていくとともに、一般のディーゼル自動車の黒煙測定方法の検討と併せて適切な試験方法について引き続き検討する必要がある。 | ||||||||||||||
[2]当面の許容限度設定目標値及び達成時期 | ||||||||||||||
ディーゼル特殊自動車から排出される黒煙の許容限度設定目標値については40%とし、平成15年(2003年)の規制導入に併せて、この目標値の達成を図ることが適当である。 | ||||||||||||||
なお、上記許容限度設定目標値は当面の低減目標であり、今後とも排出ガス低減技術の開発状況等を見極めつつ、適宜排出ガス低減目標を見直すことが必要である。 | ||||||||||||||
3.今後の自動車排出ガス低減対策の考え方 | ||||||||||||||
(1)今後の検討課題 | ||||||||||||||
本部会においては、3.及び4.で示した検討課題を含め、以下の事項について引き続き検討することとしている。 | ||||||||||||||
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なお、以上の課題についての検討及び対策の実施に当たっては、第三次答申で示されたとおり、自動車が国際的に流通する商品であって排出ガス低減対策にも内外で共通の要素が多いことに鑑み、我が国の環境保全上支障がない範囲において、可能な限り基準等の国際調和を図ることが肝要である。 | ||||||||||||||
(2)関連の諸施策等 | ||||||||||||||
本報告で示した対策と相補う施策として、自動車排出ガス総合対策の推進等、以下の関連諸施策が今後行われることが望まれる。 | ||||||||||||||
(自動車排出ガス総合対策の推進) | ||||||||||||||
自動車排出ガス総合対策については、大気・交通公害合同部会での審議を踏まえ、平成12年(2000年)内にとりまとめられる中央環境審議会答申を基に実効性のある対策を総合的、計画的に講じていく必要がある。具体的には、平成4年(1992年)に公布された「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」(いわゆる自動車NOx法)を改正し、PMを法対象に加えるとともに、車種規制の強化、事業者に係る自動車排出ガス抑制対策の充実、低公害車等の普及促進等の施策を総合的に推進する必要がある。 | ||||||||||||||
(低公害車等の普及促進) | ||||||||||||||
低公害車については、既存の諸施策を引き続き推進するとともに、低公害車の普及促進に向けた社会環境づくりを推進する必要がある。また、平成12年(2000年)3月にトラック・バスのうち車両総重量3,500kg超えのものについて、第三次答申に基づき、「低公害車等排出ガス技術指針」を改定し対象としたところであり、同指針を踏まえ、より排出ガスの少ない自動車の普及促進を図る必要がある。 | ||||||||||||||
(使用過程車の排出ガス低減対策) | ||||||||||||||
ディーゼル自動車の使用過程車対策については、「ディーゼル車対策技術評価検討会」の中間とりまとめに示された提言を実現するため、具体的な政策手法について早急に検討する必要がある。 | ||||||||||||||
第二次答申及び第三次答申で示されたとおり、ガソリン・LPG自動車、ディーゼル自動車等の使用過程車全般については、今後とも、点検・整備の励行、道路運送車両法に基づく自動車の検査(いわゆる「車検」)及び街頭での指導・取締まり(いわゆる「街頭検査」)時における排出ガス低減装置の機能確認等により、使用過程において良好な排出ガス性能を維持させることが重要である。 | ||||||||||||||
また、通常の使用過程において排出ガス低減装置の性能維持の状況を把握するため、抜取り検査(サーベイランス)の導入等の方策について、必要性も含め検討することが望ましい。 | ||||||||||||||
(関係業界の自主的な取組) | ||||||||||||||
(社)日本自動車工業会及び石油連盟は平成15年(2003年)から16年(2004年)にかけて、PMの排出量をディーゼル新長期目標レベルに低減した自動車の販売を開始し、これにあわせて、低硫黄軽油の部分供給を開始することを表明しており、この取組が着実に実施されることが強く望まれる。 | ||||||||||||||
(コスト負担等) | ||||||||||||||
今回の報告に基づき排出ガス低減対策を推進していく過程では、車両価格、燃料価格、エンジン耐久性、燃費及び維持費等への影響が考えられるが、これらは自動車の利用に係る費用として自動車・燃料の生産者、使用者等のそれぞれが応分に負担する必要がある。 | ||||||||||||||
なお、最新規制適合車への代替や燃料の品質改善を円滑に推進するためには、金融・税制面等における配慮も必要である。 | ||||||||||||||
(未規制排出源の排出実態調査及び対策) | ||||||||||||||
各種未規制の排出源について排出実態の調査及び対策の必要性の検討を進めるとともに、対策実施のための制度のあり方について検討する必要がある。 | ||||||||||||||
(地球温暖化対策等) | ||||||||||||||
自動車単体に係る環境対策として、低排出ガス技術と低燃費技術とが両立する方向への技術開発が必要である。 | ||||||||||||||
また、自動車から排出される温室効果ガスのうち、二酸化炭素以外のメタン及び一酸化二窒素について、今後、排出実態の把握及び生成メカニズムの解明を行うほか、窒素酸化物、炭化水素等と併せて排出低減技術等について調査研究し、排出抑制を図ることが強く望まれる。 | ||||||||||||||
(有害大気汚染物質対策) | ||||||||||||||
各種発生源からの有害化学物質の環境中への排出量を総体として把握するため、自動車から排出される有害大気汚染物質についても、測定法の開発及び測定精度の向上を図り、データを蓄積して排出原単位の整備を進めることにより、自動車からの排出量把握のための基盤を整備するとともに、得られた情報を基に必要な施策を講じることが望まれる。 | ||||||||||||||
その際、エンジン燃焼技術、触媒等の排気後処理技術、燃料・潤滑油品質等が自動車からの有害大気汚染物質の排出量に及ぼす影響についても併せて把握するよう努めることが必要である。 | ||||||||||||||
(効果予測・効果測定の充実) | ||||||||||||||
単体対策や総合的な排出ガス対策の進展に伴い、これらの対策の効果を的確に予測し、また、精度の良いモニタリングによる効果測定を行うことが、必要な施策を企画・実施していく上で、一層重要になる。このため、大気質改善に対する各対策の効果・予測手法の開発、沿道等での対策効果の把握体制の整備等が望まれる。 |
参考:自動車排出ガス専門委員会報告 [PDFファイル(50KB)]
(参考)略語集 [HTMLファイル]
(参考)中央環境審議会大気部会委員名簿 [HTMLファイル]