報道発表資料本文


3.報告内容のポイント(第2章、第3章)

(1)今後目指すべき社会像

{1}環境負荷の少ない循環型の社会
大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会から脱却し、不要なものは作らない・買わな
 い、資源はリサイクルする、中古品を活用するといった、循環型の社会への転換が
求められる。いわゆる3つのR(reduction, recycle,reuse)や製品の長期使用を可
能にする社会である。
例えば、ごみになることが明らかな過剰な包装を行わないこと、資源ごみの分別排出
を徹底して資源リサイクルを推進すること、フリーマーケットやバザーを積極的に活
用して中古品を流通させること、家電製品や自動車、住宅といった耐久消費財を長期
間利用するためのサポート体制が完備され、また、設計段階からそういったことを前
提とした設計がなされているといったことが、ごく当たり前に行われなければならな
い。
このような形で、人間界の内側における物質循環をできる限り確保することにより、
 資源やエネルギーの利用を少なくし、温室効果ガスの排出量はもとより自然環境に
与える負荷を地球が許容できる範囲に抑えることができる。


{2}人々の環境意識に支えられた環境重視型社会
これまでは、より多く物を持っていること、より高額なものを持っていることが社会
 的ステイタスであったが、これからの時代は、環境に恵まれた中で環境を守りなが
ら暮らすことが当然であるといった価値観への転換をすすめることが望まれる。いわ
ば物質主義、自己所有主義から環境主義への転換である。社会を形成する人々が環境
保全について知り、学び、体験する機会を得ることにより、このような価値観を醸成
し、地球全体のことを考えて行動できる地球市民となれば、自ずと社会は環境重視型
のものに発展していく。

こうした意識改革の重要性は、個人についてだけではなく、企業についても同様のこ
 とが言える。すなわち、企業としての利益を追求するばかりでなく、環境と共存し
環境を守ることに企業としての価値を見出すのである。国民の環境への意識が高まっ
ているとのアンケート結果は多いが、それが大きなうねりとなり、環境重視型の社会
を形成していくことが望まれる。


{3}環境保全に積極的に取り組むことがメリットとなる社会
現状では、消費者や企業の環境保全への取り組みは通常より余分な手間や出費あるい
 は投資を生みがちであり、環境保全に積極的に取り組もうとするほど負担が大きく
なる構造になっている。これを、積極的に取り組む人ほど経済的にも社会的にもメ
リットがあるような社会構造にすることができれば、より多くの人や企業が自然に環
境保全に取り組むようになると考えられる。


{4}環境保全型ハイテクノロジー社会
環境保全技術を活用して積極的に環境保全を推進する社会が望まれる。環境保全技術
 は日夜進歩を遂げており、地球温暖化対策としても、その活用により大きな効果が
期待できる。現状では、環境保全技術の導入には、高額な費用がかかる場合が多く、
個人よりも自治体や企業単位での取り組みが主流となっているが、今後は、技術開発
と低価格化が進めば、個人のライフスタイルに大きな影響を与え、ライフスタイルに
起因するCO2排出を減らす大きな力となると思われる。
例えば、そう遠くない将来には、住宅の断熱化と高効率エアコンの大量普及、ソーラ
 ー発電と売電システムの定着、安価な低公害車の開発と普及、情報通信システムを
用いた在宅勤務やショッピング等による移動エネルギーの削減などが現実のものとな
ろう。


{5}環境保全型の国土・都市構造
CO2など環境負荷を少なくするという観点からは、比較的密度が高い都市が国土に
 適切に分散していることが望ましいと考えられており、こうした国土・都市形成に
向けた地域計画・都市計画を立案し、そうした方向に沿って鉄道や道路といった社会
資本を整備していくことが望まれる。
また、都市内では、鉄道等の公共交通機関を充実させるとともに、自転車道を併設し
 た道路を整備したり、職住近接を実現する構造に誘導することにより、移動に伴う
エネルギーの削減が可能になると考えられる。
インフラの良否はライフスタイルの選択にも大きく影響する。

{6}環境保全行動へのあらゆる主体の参加と合意形成が重視される社会
環境保全のための社会システムや環境保全型の地域を形成・発展させていくために
は、自治体、企業、市民等あらゆる主体が対等の立場で積極的にそのプロセスに参加
することができる社会、そしてそれら各主体の合意が重視される社会が望まれる。一
当事者の考え方や論理でつくられた社会システムや地域のありかたは、他の者には利
用しづらかったり、納得のいかないものであったりするために、有効に機能しない場
合もある。それぞれの主体が自己の意見を積極的に主張するとともに、相手の意見も
聞き入れ、双方が納得のできる社会システムや地域のありかたを考えていくことが望
まれる。
具体的手法として参加型のワークショップの開催やNGO、NPO等の活動団体での
 参加という形態が考えられる。また、その支援として行政や企業の有する環境関連
情報が公開され、市民に共有されていることが必要であろう。



(2)ライフスタイルに関連して排出されるCO2を削減するための具体的対策

ライフスタイルに関連して排出されるCO2削減対策を検討するに当たり、社会シス
テ ムを「生産活動と消費活動を結びつける社会システム」、「消費活動そのものを
規定する社会システム」、「消費活動と廃棄・リサイクル活動を結びつける社会シス
テム」、「消費者の行動全体に関連する社会システム」の4つに分類し、消費者の行
動をそれぞれの社会システムに当てはめ、各行動ごとに、社会システムとの関連で考
えられる地球温暖化防止対策を整理した。
本資料においては、取り上げた施策の概要について示すが、各施策の「今後期待され
る 方向性」等の詳細については、報告書の本編を参照されたい。



{1}「買う」

・環境マーク
環境保全型商品に、そのことを示すマークを表示し、消費者に環境保全型製品の購入
 を促す仕組み。日本では、エコマーク((財)日本環境協会)、グリーンマーク
(古紙再生促進センター)、生協等が実施しており、欧米での実績もある。このほ
か、製品の製造から廃棄に至る全過程での環境負荷削減量を累積で表示するマーク制
度(環境ベルマーク)を創設することも考えられる。これは、環境保全に効果がある
製品やサービスに、その効果に応じた数のマークを付け、消費者がそのマークを収集
することにより一定の還元を受けることができる仕組みで、環境保全効果が大きいほ
どマークの数を増やすことができる点でエコマークと異なる。製品やサービスの環境
負荷低減を促進するとともに、消費者環境保全型製品などを利用することを経済的も
しくは物質的メリットを通じて促進することが期待できる。

・エコショップ制度
自治体や団体が一定の基準のもとに、その店舗が環境に配慮した店であると認定する
 仕組み。大阪府、鳥取県、徳島県等で実施事例がある。小売店のみならず、銀行や
ホテル等も含まれる場合があり、認定された店にはポスターやステッカーが貼り付け
られ、消費者が判別できるようになっている。

・グリーン購入制度
商品やサービスを購入する際に、環境の視点を重視し、環境への負荷ができるだけ少
 ないものを優先的に購入すること。日本では、グリーン購入ネットワーク((財)
日本環境協会)、一部の自治体等で環境にやさしい製品等の情報を作成している。

・環境保全型金融商品(エコロジーカード、環境口座、環境ローン等)
一般消費者の預金の金利等から一定の割合を環境保全活動に寄付することにより環境
 保全活動に貢献する仕組み。

○環境口座:預金の金利の一部もしくは全額が環境保全活動に寄付されるもので、大
 手都市銀行、信託銀行等で開設されている。

○エコロジーカード:クレジットカードの利用金額の一定割合が、カード提供会社か
 ら環境保全活動に寄付されるもで、大手流通業関連のカード会社等が提供してい
る。

○エコビジネスを行う企業の株を投資先とした信託業務を行う「環境ファンド」の例
  がある。


{2}「住む」

・経済的支援による省エネ型機器の利用
環境保全型住宅や機器など購入金額が大きいものについて、その購入・設置を促進す
 るために補助金、優遇税制、低利融資等による経済的支援を行うこと。

○補助金   購入に当たって、一定額もしくは一定割合を補助するもの
○優遇税制  導入者に税制上の特典を与えるもの
○低利融資  購入に当たって融資を受ける場合、金利を低く設定するもの

・建築物の断熱化、太陽光発電システム導入の義務化
建築物についてはハイレベルの断熱性能を発揮できない場合には建築を許可しない、
 遊休の屋根や空き地における太陽光発電システムの設置協力を義務化すること等に
より、積極的に省エネ建築、省エネ機器の導入を促進することも望まれる。

・建築物のラベリング
断熱材等が導入され省エネ建築になっている建物にラベルを表示することにより、省
エネ建築を促進しようとする仕組み。


{3}「働く」

・オフィス協同リサイクルシステム
一定地域のオフィスが協同して、紙等の資源ごみの回収を行うシステム。オフィス街
 では、紙等の資源ごみ回収システムがない場合があり、小さな事業所では単独で資
源ごみのリサイクルへの協力は困難である。他方、企業を越えてリサイクルを行うこ
ととすれば、資源回収業者が効率よく回収を行うことができる。東京都千代田区の
「オフィス町内会」等での実施事例がある。

・社用車(公用車)の削減
VIPの移動・送迎用に社用車(公用車)が準備されている場合が多いが、この台数
 や利用頻度を減らしたり、小型の自動車に変更するもの。移動者の安全の確保や社
会的体面はあるが、必ずしも社用車を必要としていない者にも用いられている場合も
多い。社用車の利用はごく一部の者に限られ、しかも電気自動車等の低公害車に切り
替え得るものである。

・カジュアルデーの導入
勤務時の服装の制限をなくすことにより、結果として、その季節にあった服装を促進
  し、冷暖房にかかるエネルギーを削減しようとするもの。特に冷房時のエネル
ギー削減 に効果があると考えられる。内勤者には可能であるが、外勤者には、現在
の社会常識か ら逸脱した行為と判断される場合が多く、社会的な意識の変革が望ま
れる。


{4}「動く」

・自転車の利用促進(自転車道の整備)
道路に自転車専用の走行帯を設け、自転車が安全で、かつ歩行者の通行と錯綜するこ
 となく走行できるようにするもの。歩道に線を引いて歩道と分離する方法、歩道に
植栽を設けて歩道と分離する方法、車道の最も歩道側のレーンを自転車専用にする方
法などがある。

・公共交通機関の利用促進(バスレーン・バス専用道の設置、バスロケーションシス
テ ムの導入、サイクル&ライド・パーク&ライドシステム、共通切符(環境切
符))

○バスレーン・バス専用道の設置
バス専用の車線、バス専用道を設置し、バスが道路の渋滞を回避し、ダイヤ通り正
   確に運行できるようにするもの。日本では、時間制のバス専用レーンや終日バ
ス専用  レーンがある。

○バスロケーションシステムの導入
バス停において、次に来るバスが現在どの位置にいるのかを告知するシステムで、
   「どれくらい待てば来るのか分からないのでバスは利用しづらい」という不満
を解消  しようとするもの。都営交通のバス等で導入されている。

○サイクル&ライドシステム、パーク&ライドシステム
バス停や駅に駐輪場を設け、自動車での移動を自転車とバス、鉄道といった組み合
   わせに移行させようとするものがサイクル&ライドシステム。都市中心部への
自動車  の乗り入れを制限し、中心部とその外周の近接点に駐車場を設け、郊外か
ら自動車で  来た場合には、その近接点で自動車を降り、中心部までは公共交通機
関を利用するシ  ステムがパーク&ライドシステム。日本では鎌倉市が実験的に実
施した例がある。

○共通切符[環境切符]
鉄道相互、鉄道とバス、鉄道と地下鉄といった、経営が別の交通機関や、形態が違
   う交通機関を乗り継ぐ場合、乗り換えのたびに切符を買ったり、別の定期券を
提示し  たりしなくても、1枚の切符や定期券で乗り継ぎができるようにすること
により、公  共交通機関の利便性の向上を図るもの。乗り継ぎによる割引が適用に
なる場合もある。 単に、利便性の向上を訴えるだけではなく、自動車よりも公共交
通機関の利用が環境  には良いことをアピールする点にこの切符の特色がある。

・規制的方法による自動車の利用削減(HOVレーン、ナンバープレートによる利用
制限、トラフィックセルシステム、ロードプライシング制度)

○HOVレーン
複数の人が乗車した自動車専用レーンを設けて相乗り自動車を優遇することにより、
  相乗り通勤等を促進しようとするもの。

○ナンバープレートによる利用制限
自動車のナンバープレートの末尾番号で、例えば奇数日には奇数番号の自動車、偶
   数日には偶数番号の自動車のみ、特定の区間の走行を許可する制度。

○トラフィックセルシステム
ゾーンシステムともいわれ、混雑の激しい地域をいくつかの区域に分割し、公共交
   通機関と緊急車両以外の自動車の区域間の移動を禁じるシステム。

○ロードプライシング
混雑する地域や道路を利用する自動車から賦課金を徴収し、必要性の高くない自動
   車の利用を抑え、交通量を削減する方法。


{5}「遊ぶ」

・レジャー単位でのエネルギー消費量の比較提示
レジャー単位ごとに(ゴルフ、テニス、ハイキングといったように)、その一般的な
  エネルギー消費量を計算し提示することにより、なるべくエネルギー消費量の少
ないレ ジャーを選択できるようにするもの。


{6}「捨てる(リサイクルする)」

・廃棄物の分別方法告知の徹底
家庭ごみの分別収集を行う場合、分別方法について分からない点をなくし、可能な限
 りリサイクルを促進しようとするもの。例えば、ペットボトルのアルミキャップは
アルミ缶と混ぜてよいのか、不燃ごみになるのか、革製品は可燃ごみか不燃ごみか、
といったことを明確にし、分別を徹底することにより、可燃ごみや資源ごみの分別が
徹底され、不純物が排除されることにより、リサイクル効率が向上する。

・資源ごみ回収の高頻度化、置き場所の確保
資源ごみの回収場所を多くしたり、回収頻度を多くしたり、置き場所を確保すること
  により、消費者の資源ごみ保管の負担を軽減し、資源リサイクルを推進しようと
するも の。平成7年に本検討会で実施した消費者アンケート調査によると、資源リ
サイクルに
協力しにくい理由として、回収場所まで持っていくのが面倒、資源ごみを回収予定日
まで保管しておく場所がないといったことが挙げられており、これらの不満に応える
ことにより、資源ごみのリサイクル率向上が期待できる。

・リユース市場、修理市場の育成
家庭での不要品のリユースを促進する仕組みとしては、フリーマーケットやガレージ
 セールがある。フリーマーケットは広い公園などで主催者の呼びかけにより一般の
消費者が不要品を持ち寄り個人的に売買するもの。ガレージセールは、本来自宅のガ
レージで不要品を売る方法であったが、小規模なフリーマーケットを指すような場合
もある。
修理市場の育成は、製品使用の長期化に結び付くもので、壊れたら買い換えるといっ
 た考え方を改め、「耐久財は修理してなるべく長期間使う」ことを可能にするもの
である。

・経済的措置によるごみ減量化
経済的なメリット、デメリットを設けることでごみを減量し、資源リサイクルを推進
 しようとするもので、ごみの有料化、デポジット制度等があげられる。

○ごみの有料化
ごみの排出を有料化することによりごみの削減を促すもの。「料金を取られるなら
  ごみの量を減らそう」という経済観念を利用することにより、ごみ排出量の削減
が期 待できる。この制度を導入している自治体は数多くあり、さらに普及する可能
性があ る。
○デポジット制度
ビールビンのように、容器等を販売店に返すとキャッシュバックが受けられる制度
   で、資源の回収を推進しようとするもの。メーカー、販売店、消費者それぞれ
の協力  が不可欠である。


{7}消費者の行動全体に関連する社会システム

上記の各施策を断片的にとらえる以外に、これらの消費行動全体に関連する社会シス
 テムを考える必要がある。具体的には、消費行動全般について、消費者のエコライ
フ推進の上での疑問に答えたり、相談に応じる仕組みや、より良い社会システムを形
成していく上で、消費者、企業、行政それぞれの当事者が話し合う場を提供する仕組
みなどが求められる。

・エコライフ行動計画の策定
エコライフ推進のためにはどのような行動をとればよいのか、いわば「地球温暖化防
 止行動計画」のエコライフの部分に詳細に踏み込んだものを提示し、エコライフ推
進のための基本的な考え方について国民や地域社会の合意を得ることが望まれる。計
画の策定は、国、自治体などが考えられる。また、この行動計画に基づいて、エコラ
イフ推進のための具体的な企画の立案とその推進を行う、いわばエコライフ運動推進
本部の設置も望まれる。

・環境アドバイザー制度
消費者が環境保全的行動を取ろうとした際に、不明の点がある場合、特定の人に問い
 合わせれば、その疑問について一緒に考えたり、回答してくれるという制度。現
在、環境カウンセラー制度があるが、これは、消費者個人に対して、個々の細部に
渡った疑問に応える制度ではない。また、このアドバイザーが地域での環境保全への
取り組みについてリーダーシップを発揮できるよう、教育することも重要と考えられ
る。

・エコライフセンターの設置
エコライフに関する情報やノウハウを蓄積し、消費者からの問い合わせに応じるとと
 もに、「エコライフ行動計画」実践のためのキーステーションともなるものであ
る。消費者の疑問に応えることにより消費者のエコライフを促進するとともに、エコ
ライフに関する様々な提案を行い、消費者をエコライフに誘導することが期待され
る。

・ワークショップの開催
これまで述べてきた社会システムを形成・発展させていくには、消費者、企業、行政
 といった当事者が、対等な立場で、その社会システムのあり方や実行方法等につい
て話し合うことが望まれる。その一つの手法として、それぞれの役割を演じながら解
決策の立案を経験する形でのワークショップを開催することが考えられる。




(3)ケーススタディ

環境保全に熱心な家庭(北山家)と環境保全にあまり関心のない家庭(西山家)の二
つ の仮想の家庭について、1997年から2010年にかけての様々な取り組みの差異を通
じて、2010年時点での両家庭の二酸化炭素排出量の差を算出した。その結果、両家庭
の二酸化炭素排出量の差異が一世帯当たりの平均的な排出量に比較した場合およそ
34%に及び得ることをなどを示した。
これは、環境保全への取り組みの重要性と効果を訴求するための素材であり、必ずし
も 厳密な計算でない部分や誇張した部分もあるが、一つの参考事例として利用して
いただければ幸いである。
なお、次表では北山家と西山家の2010年における二酸化炭素排出量の差についての結
果 を示す。




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