<別紙>「2013年以降の気候変動枠組みに関する中国との非公式対話」結果概要
冒頭の挨拶において、ERIハン事務次長は、中国にとって経済発展が最重要課題ではあるが温室効果ガスの排出削減の重要性も認識している点を述べ、アジアにおいて唯一、京都議定書の排出削減目標を課されている日本と2013年以降の国際枠組みについて意見交換を行なうことは非常に意義があると強調した。IGES森嶌理事長より、アジアの経済成長は豊かさをもたらすと同時に環境問題という負の問題も引き起こしており、日中が協力していくことの重要性が指摘され、気候変動問題に対しても様々なレベルで協力体制を築いていく必要性が述べられた。また、非公式ながら率直な意見交換を行なう場としての本非公式対話の位置付けがなされた。
セッション1:地球的視野から見た気候変動枠組み
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丁IGES気候政策プロジェクトリーダーより、本非公式対話の趣旨説明等についてのプレゼンテーションが行われた。 |
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気候変動枠組みに関してディスカッションでは以下の意見・認識が示された。 |
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- これまでの気候変動枠組条約および京都議定書の成果として、気候変動問題は世界共通の問題であるとのコンセンサスの下、国際協力のための枠組みが構築された。また京都議定書の下、気候変動対策の手段として市場メカニズムが導入された。さらに、先進国が途上国との国際協力を通じ、これまで多くのキャパシティービルディングに帰する活動が行われた。京都議定書は、京都メカニズムの運用法などの修正は必要だが、基本的には有効な枠組みであり、将来的にも京都議定書の有効な仕組みは継続されるべきである。
- 問題点および懸念として、これまでに国際的に多くの合意がなされたが、技術移転およびCDMにおいての実質的な実施には至っていないことが指摘された。またCDMに関しては、コンセプトとしては素晴らしいが、期待されていたほど機能していないことが挙げられた。特に、中国が懸念するエネルギー安全保障問題に関連して、CDMを通じたエネルギー効率を高める技術の移転が行われていないことが述べられた。
- また米国の京都議定書への不参加は、折角構築された国際協力のためのメカニズムおよび様々な利害関係者(stakeholders)が協働できる枠組みの機能を麻痺させている。
- 京都議定書の下では、遵守のための枠組みが必ずしも十分でないことへの懸念が述べられた。参加者より、WTO(世界貿易機関)で用いられる紛争解決メカニズムおよび国際海事機関における保険制度が、遵守制度のよいお手本になるのではとの意見が出された。
- 国際環境条約の中では、モントリオール議定書が成功例として紹介され、資金メカニズムの活用や技術移転という観点で、先進国と途上国が効率的に協力する良いモデルとなるとの見解が示された。
- また技術移転における知的財産権の取り扱いについての懸念が述べられた。参加者から、WTOのTRIPsが定める「特許に対する20年の有効期限」を踏襲していると、有効な技術の移転が行われないことが指摘され、最近、HIV/AIDS治療薬の特許有効期限が大幅に短縮されたことを例に挙げ、政治的なリーダーシップの下、気候変動問題解決に役立つ技術の特許の有効期限を短縮するとの提案もなされた。
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セッション2:気候変動枠組みに対する中国の懸念
1) ディスカッションでは以下の意見・認識が示された。
- 気候変動枠組条約と京都議定書が共通の基盤を形成しており、2013年以降もこうした基盤を継承していく必要性が指摘された。また、附属書I国による合意事項の実施が十分でないことも懸念事項として挙げられた。
- 中国にとっての最重要課題はエネルギー安全保障の問題であり、こうした国ごとの事情を十分考慮すべきとの意見が出された。また、現在、気候変動問題を議論する際に持続可能な発展という視点が十分でないとの指摘があった。
- 技術移転に関連する国際合意の実施が十分に行なわれておらず、実際に技術移転が認められた成功例も限られている。制度的枠組みを構築し、資金面でサポートするメカニズムを作り出すことが必要であるとの指摘がなされた。
- 気候変動に関する国際的な議論の場では、適応問題に対して十分な関心が払われていないとの指摘がなされた。
セッション3:気候変動枠組み再構築への優先課題−そうした再構築から中国はどのような利益を得ることができるのか?
市場メカニズム
- 現在の問題点:CDMの市場の発展が滞っていることで、潜在的な参加者の間でCDMに対する信頼が失われている。また、今までのところ、CDMの成功例と呼べるプロジェクトがあまり見られない;複雑な手続きゆえに、CDM実施までの取引費用がかかりすぎる;持続可能な発展に寄与していない。
- ユニラテラルCDM: 実施に当たってのリスクは高いと理解されており、中国としては積極的にユニラテラルCDMを推進するつもりはない。
- インドの例を見てみても、ボトムアップ・アプローチは時間がかかりすぎて有効とはいえない。それに対し、政府および産業団体によるトップダウン方式は、実施に当たっての時間が短縮できるだけでなく、プロジェクトの管理という観点でも望ましい方式であるとの意見が述べられた。
- まずは、省庁間の協力を高め、専門家チームを発足させて、他のCDMのモデルケースとなりうるプロジェクトを共同で作成するべきである。現段階では、各省ごとに同様の取組を進め、その後統合を図る、といった方策を採る時間的余裕はない。
- メカニズムの柔軟性が今後高められる必要性はあるが、CDMのもつ環境改善効果が犠牲にされることがあってはならないとの意見が述べられた。
適応対策
- 緩和策・CDM同様、適応策に対しても同等の重要性が認識されるべきである。
- 緩和策は人類の持続可能な発展のためには不可欠である。
- 今後更なる気候変動に対する適応を行っていくに当たって、適応に対するキャパシティービルディング、適応のための資金メカニズム、適応のための技術(技術情報ネットワークを含む)及び知見の共有といった多岐にわたる分野で更なる努力が必要であるとの見解が多くの参加者より示された。
- 適応に関して保険制度の利用可能性についての意見がよく聞かれるが、途上国における民間の保険市場が十分に発展していない状況を鑑みると、保険制度では十分に適応の対処が図れないとの懸念が述べられた。このため、より一層の公的部門からの資金調達の充実が必要であるとの意見が出された。
- 中国全土が様々な形で気候変動の影響に脆弱であることから、国家の開発戦略に気候変動への適応が謳われる必要が強調された。ただ、各地域・地方ごとの気候変動の影響についての科学的な不確実性があるため、実際には現状では困難であることを指摘する参加者もあった。
- 現状のルールでは、CDMプロジェクトへの投資の2%が適応策のために使われることになっているが、仮にその割合を引き上げてもさほど適応策のための資金の増加は見込めないだろうとの見解が示された。このため、CDMとも関連した適応資金に関するガイダンスを作成する必要があるとの意見が出された。
衡平性
- これまで、各国の削減目標を決めるに当たり、Grandfathering原則が用いられているが、衡平であるとは言いづらく、次期枠組みにおいて(capのもとになる)各国の削減目標を設定するに当たっては、より適切かつ衡平な方式で行うべきとの考えが多数の参加者より述べられた。
- 高い人口増加が今後も見込まれる国々については、一人当たりの温室効果ガス排出量に基づいて排出枠を割り当てるという原則(per capita allocation)が好ましい指標であり、日本のように人口増加が今後望めない国々についてはGDPごとの排出強度(emissions
intensity per GDP)が望ましい指標ではないかとの考えが述べられた。
セッション4:将来の気候変動枠組みへの視座:中国からの視点
- 「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ」については、基本的に、京都議定書プロセスを補完するものであり、対立するものではないとの認識が示された。
- 現在、CDMを取り巻くリスクとして2013年以降の不確実性がある。2013年以降における政府のクレジットの買い取りについての合意など、リスクを軽減する方策が必要であると指摘された。
- 技術協力の分野では、デモンストレーション・プロジェクトを推し進めていくことが必要であるとの見解が出された。クリーン石炭技術において、具体的な対象技術やスケジュールを設定している中国-EUの協力がその例として挙げられた。
- 中国側からは、他の途上国との協力が重要であり、中国もその意思があることが示されたが、他方で、そのために必要な人的資源や専門知識が不足しているとも指摘された。
- 政府開発援助(ODA)は社会基盤の整備など広範囲の目的も持っているものであり、それをCDMに活用していくことについては慎重な意見が多く出された。
- 気候変動問題に取り組むに当たって、従来の「非難合戦」型のものから「協力志向」型のものへ転換していく必要性が述べられた。
- 気候に優しい技術の移転は公共財的な要素も含むものであり、その知的所有権に関する問題には新しい視点をもって考える必要であると主張された。その一方で、市場メカニズムにおいては技術の開発・所有者が益するシステムを考えない限り、技術移転は成功しないとの指摘もなされた。
5.総括
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現在の国際枠組みは重要な役割を果たしている一方で改善の余地も少なくない。各国の事情を反映できるよう、より柔軟性を高めていくことや、持続可能な発展という視点をより強めていくこと、そして、多国間協力を補完する地域・二国間協力を推し進めていくこと、などが含まれる。 |
2) |
2013年以降の次期枠組みの構築に際しては、アジア諸国が協力して地域の懸念事項を反映していかなければならない。 |
3) |
次世代の福祉が向上するような国際枠組みとは何かというような未来志向で考えていかなければならない。 |
以上