報道発表資料本文


(参考1)気候変動枠組条約に基づく第2回日本国報告書(政府案)の概要

第1章 国家の状況

 我が国は、北緯24度近くから46度近くに広がる細長い島国である。1994年現在の
国土面積は3,778万haであり、森林及び農用地が全国の約8割を占めている。気候帯
は、南は亜熱帯から北は亜寒帯までにわたっており、四季の変化に富んでいる。1995
年現在の人口は約1億2600万人、1995年度の実質国内総生産は467兆円である。
 国内輸送量は、旅客及び貨物輸送とも80年代後半の景気拡大に伴って急速に拡大し
たが、90年以降、旅客はほぼ横這いに、貨物輸送は減少に転じている一方、自動車保
有台数は60年代から一貫して増加傾向を示しており、90年代以降も一様に増加して
いる。
 エネルギー消費については、最近の電力消費の伸びが最終エネルギー消費の伸びに
比べて高く、その結果、一次エネルギー供給のうち、発電のために供給されるエネル
ギー比率が上昇している。一方、我が国のエネルギー供給の対外依存度は近年80%強
で推移しており、供給構造はきわめて脆弱である。
我が国一人あたりのエネルギー消費量は、原油換算約4,620l(約42.7百万kcal)
であり、一次エネルギー総供給量のGDP原単位は近年下げ止まり傾向にある。これ
は、産業部門において大規模な省エネ投資が一巡したと同時に、民生部門及び運輸部
門におけるエネルギー消費の増大等によるものと考えられる。


第2章 温室効果ガスの排出と吸収の目録

 人間活動に伴った温室効果ガスの排出と吸収の目録については、気候変動枠組条約
第4条第1項(a)に規定されているとおり、締約国は定期的に更新し、報告することを
義務づけられている。当通報で報告される日本の温室効果ガスの排出及び吸収の目録
については、「附属書I締約国の通報の作成のためのガイドライン」及びIPCC/OECDプ
ログラムにより作成された「温室効果ガスの排出・吸収に関する国家目録作成のため
のガイドライン」の指示に準拠している。基本的な算出方法は、ガス毎および部門毎
のそれぞれの活動量に、該当するガスの排出係数を乗じるものである。
 対象とした温室効果ガス等の種類と、報告年次については表-1に示すとおりである。
計10種(群)の物質が対象となり、1990年度から把握できる最新年次までの排出・吸収
量が報告されている。
表-1 対象としたガスと排出・吸収量の報告年次

* 1105b-1.gifを参照。

 対象としたガスの1994年度の排出・吸収量の一覧は表-2に示すとおりである。

表-2 1994年度における温室効果ガス等の排出・吸収量

* 1105b-2.gifを参照。


第3章 政策・措置

 我が国は、1990年10月に「地球温暖化防止行動計画」を決定し、二酸化炭素排出
抑制対策、メタンその他の温室効果ガス排出抑制対策、二酸化炭素の吸収源対策、調
査研究、観測・監視、技術開発及びその普及、普及・啓発、国際協力の各分野で対策
を進めている。
 現在、日本の環境政策は、環境基本法(1993年11月施行)及び同法に基づき策定
された環境基本計画(1994年12月閣議決定)に基づいて実施されている。環境基本
法は、地球温暖化などの地球規模の環境問題や廃棄物に係る環境問題などに対し、適
切に対応する必要性を背景として制定された。また、環境基本計画においては、環境
政策の長期的目標として「循環」、「共生」、「参加」及び「国際的取組」の4つを
掲げ、循環を基調とする経済社会システム実現のための施策の一つとして地球温暖化
対策を位置づけている。
 多くの地方公共団体においても「地球温暖化対策地域推進計画」等の計画を策定し、
それに基づいて地球温暖化対策を実施している。

1.二酸化炭素に係る政策・措置
 エネルギー転換部門においては、エネルギー転換の効率化とともに、二酸化炭素排
出の少ないエネルギー構造の形成を推進するのみならず、需要側管理の推進のため、
発電効率の向上、二酸化炭素排出の少ない又は排出のないエネルギー源の導入及び供
給側からの需要抑制対策を講じていく。
石油危機以降、産業部門では様々な省エネルギー対策がとられてきたが、工場、事
業所において共通する業種横断的なエネルギー利用・転換の効率化対策を推進すると
ともに、エネルギー多消費業種を中心に、法律に基づく措置や財政的な支援措置によ
りこれらの対策を推進する。
民生部門における対策として、建築物の断熱構造の強化、自然エネルギーの導入、
省エネルギー機器・設備の導入、コージェネレーションの導入、未利用エネルギーの
活用等による地域熱供給及び都市部における緑化や透水性舗装によるヒートアイラン
ド現象の緩和を推進するとともに、二酸化炭素排出の少ないライフスタイルの実現に
向けた取組を進める。
 運輸部門における対策として、自動車を中心とした交通機関単体技術によるエネル
ギー消費効率の向上、低公害車の導入、貨物輸送・旅客輸送それぞれのエネルギー消
費効率の向上、自動車交通の円滑化によるエネルギー消費効率の向上等を推進する。
 リサイクルは、温室効果ガス削減のための有力な政策手段であることから、廃棄物
の発生抑制はもとより、マテリアル・リサイクル及びサーマル・リサイクルを推進す
る。また、有効性が期待されている炭素税・排出権取引等の経済的措置については、
その導入の是非について審議されている。
 吸収・固定源対策としては、引き続き森林の適切な保全整備を進めるとともに、都
市部においても積極的に緑の保全創出を図っていく。

2.メタン排出抑制に係る政策・措置
 廃棄物の埋立に起因するメタン排出を抑制するため、ごみの排出抑制・リサイクル
を行い、なお残る可燃性廃棄物も極力焼却処理を行う。また、農業部門においては、
家畜の腸内発酵・糞尿管理や稲作に起因する発生実態やメカニズムの調査、これらを
踏まえた排出抑制手法の検討が進められている。

3.亜酸化窒素排出抑制に係る政策・措置
 亜酸化窒素の排出抑制を目的とする政策・措置としては、アジピン酸の製造工程へ
の亜酸化窒素排出抑制装置の設置が予定されているとともに、農業部門においては、
窒素肥料の施用の削減、効率化が検討されている。

4.HFC、PFC、SF6排出抑制に係る政策・措置
 HFC、PFC、SF6の大気中への放出の抑制が地球温暖化対策を進める上で重
要であるとの認識のもと、オゾン層保護対策との調整を図る必要があることに留意し
つつ、使用分野の限定、クローズドシステムの採用、回収・再利用・破壊の推進及び
代替物質・代替技術開発の推進を基本方針として対策を進める。

5.前駆物質排出抑制に係る政策・措置
 窒素酸化物、一酸化炭素、非メタン炭化水素、硫黄酸化物の排出については、大気
汚染防止法による規制的措置が体系化されている。


第4章 温室効果ガス排出・吸収の将来見通し

 温室効果ガスの排出・吸収に係る将来見通しについては、二酸化炭素、メタン及び
亜酸化窒素を対象に新たな政策・措置の効果を見込まない標準ケースを推計する。
二酸化炭素の排出見通しは、2010年度には1990年度の排出量を約20%超過して369
百万炭素換算トン(1,353百万二酸化炭素換算トン)に達するものと見込まれる。
また、土地利用変化及び森林部門における二酸化炭素吸収の見通しは、2000年度に
67百万二酸化炭素換算トン、2010年度には56百万二酸化炭素換算トンになるものと
見込まれる。
メタンの排出の将来見通しは、2000年度に158万トン(1990年度比0%)、2010
年度には149万トン(1990年度比6%減)になるものと見込まれる。
亜酸化窒素の排出の将来見通しは、2000年度に12万トン(1990年度比15%増)、
2010年度には13万トン(1990年度比24%増)になるものと見込まれる。


第5章 気候変動により予想される影響及び脆弱性の評価

 気候変動の我が国への影響を明らかにするため、我が国で行われた気候変動に関連
する研究をレビューし、その成果から定量的な影響評価を中心に抽出した。
 これまでの研究成果により、気候変動は我が国の農林水産業、水資源、沿岸域の管
理、自然生態系、人の健康等に対し大きな影響を及ぼすことが明らかとなっている。
 例えば、夏には現在降水量の多い(少ない)地域でさらに降水量が増加(減少)す
る可能性があり、西日本では米、小麦が減収し、日本南部では媒介動物の進出により
マラリア等の熱帯性感染症の発生の危険性が増大すると予想される。また、海面上昇
により海抜ゼロメートル以下の地域が拡大し、高潮による被害の増大が予想される。
さらに、新たな侵食が発生し、65cmの上昇で我が国の砂浜の8割以上が喪失する等の
影響が予想されている。
一方、台風及び梅雨前線の変化等、我が国の防災上重要な現象について、また、複
雑化しグローバル化した我が国の社会・経済システムに対する、間接的影響(例えば、
食料やエネルギーなど輸入資源の問題)については、今後の研究課題であり、今回の
影響評価には含まれていない。また、生態系に多大な影響があると考えられるが、こ
れも現時点では定量的な評価がきわめて困難な影響である。


第6章 適応措置

 我が国では、海面上昇及び農業生産における適応策について検討が進められている。
海面上昇への適応措置としては、新設される港湾施設ではその耐久年数等を考慮し海
面上昇の影響を配慮した設計とすること、既存の港湾施設では海面上昇の状況を監視
し必要な段階で対策を実施すること等がある。
農業生産における適用措置としては、新品種の導入、播種時期の変更などの農業技
術が考えられ、これらの技術により減収がどれくらい回避できるかについて研究が行
われている。


第7章 資金援助と技術移転

 地球環境保全に関する国際協力については、環境分野の政府開発援助(ODA)の
拡充、開発途上国の実情に応じた技術の開発・移転等、ODA等の実施に際しての環
境配慮の強化を施策の基本方針として、環境分野のODAの拡大、ODA等における
環境配慮強化の取組等を行っている。
我が国は、地球サミットにおいて、1992年度からの5年間の環境分野のODAを
9,000億円から1兆円を目途とした大幅な拡充・強化に努めることを表明し、1995年
度までの4年間で約9,800億円となり、1年前倒しで目標を達成した。また、92年6
月に、我が国援助の理念・原則を明らかにした「政府開発援助大綱(ODA大綱)」
を閣議決定し、その中で環境の保全をODAの基本理念の一つとして挙げ、「環境と
開発の両立」をODAの原則の一つとして位置づけ、途上国の自助努力に対する支援
を通じて、地球規模での持続的な開発を目指している。


第8章 研究と組織的観測、技術開発

 気候変動及び地球温暖化に関しては、関連する地球の諸現象に関する調査研究、人
の活動が気候及び地球温暖化に及ぼす影響、気候変動及び地球温暖化が人の健康、生
態系等に及ぼす影響に関する調査研究及び気候変動及び地球温暖化を抑制するための
施策の立案に関する調査研究を実施することとし、これらは、気候変動に関する政府
間パネル(IPCC)、世界気候研究計画(WCRP)等の国際的な取組等への参加・
連携による共同研究等により推進されている。
 観測については分野、項目、地点、手法等多岐にわたるため、その方法等について
国際的な観測・監視計画との整合性を図るとともに、観測実施機関は相互にその成果
を交換している。
技術開発については「持続可能な開発」の推進のため、資源、エネルギーの効率的
利用、地球環境保全型の農業・物質生産、新エネルギー活用等の技術など、地球環境
の変化を緩和するための技術開発を推進している。


第9章 教育と普及啓発

 近年の二酸化炭素排出量を部門別に見ると、国民のライフスタイルに密接に関連す
る民生部門、運輸部門で一貫して増加しており、地球温暖化防止のためには、国民一
人ひとりが大量消費・大量廃棄型のライフスタイルを改め、省資源・省エネルギーや
リサイクルなどに取り組むとともに、新エネルギーや原子力などの非化石エネルギー
の利用について考えていくことが重要となっている。このため、家庭教育、学校教育、
社会教育等教育の場を通して、地球温暖化問題やその主要因とされているエネルギー
問題について学習する機会を提供する。また、マス・メディアによる広報、パンフレ
ットの配布、シンポジウムの開催等を通じ、普及啓発活動を進める。さらに、国民的
取組のリーダーあるいはアドバイザー的な役割が期待される環境NGO等に対する支
援を強化する。



(参考2)

           附属書[1]国の第2回通報提出状況
       (10月30日現在、提出済みと確認している国)

オーストリア、ベルギー、カナダ、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルラン
ド、オランダ、ニュー・ジーランド、ノルウェー、スウェーデン、スイス、グレー
ト・ブリテン及び北部アイルランド連合王国、アメリカ合衆国

(注)我が国は、通報の一部となる直近年(CO2については1995年)の温室効
果ガス排出量については、6月17日開催の地球環境保全に関する関係閣僚会議に報
告した後、6月27日付けで条約事務局に提出している。





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