報道発表資料概要

2.平成16年度の調査結果について(概要)

 対象試料の分析は、各分析機関に対して推奨した方法(注1)により行った。
 参加申込機関は、地方公共団体及び民間の分析機関を併せて廃棄物試料(重金属類)が476機関、模擬ガス試料(臭気指数)が238機関、底質試料(フタル酸エステル等有機化合物:フタル酸ジエチルヘキシル)が126機関、土壌試料(ダイオキシン類及びコプラナーPCB)が182機関、模擬水質試料(フタル酸エステル等有機化合物:芳香族化合物)が122機関であり、このうち回答のあった機関は各々456機関、226機関、85機関、180機関、92機関であった(表1)。
 まず、重金属類(3項目)、臭気指数、フタル酸ジエチルヘキシル、ダイオキシン類(TEQ)(注2)及び芳香族化合物(3項目)の代表的なヒストグラムを図1〜5に示す。また、外れ値等を棄却(注3)後、基本的な統計量(平均値、室間精度(CV)(注4)、最小値、最大値等)を算出した(表2)。
 平成16年度は、昨年度に引き続き統計処理手法を導入した高度解析を模擬ガス試料(臭気指数)及び底質試料(フタル酸ジエチルヘキシル)について実施した。高度解析の結果は、「平成16年度環境測定分析統一精度管理調査結果」に記載している。
 なお、詳細な結果については、環境測定分析統一精度管理調査ホームページ(http://www.seidokanri.jp/)に掲載する。
 以下に、各試料についての結果概要を示す。

(1)廃棄物試料(重金属類)
 廃棄物試料としては、下水汚泥の焼却残渣を用いて調査した。
 外れ値等により棄却される回答は、カドミウムが6.1%、鉛が2.3%、砒素が1.5%であった。また、棄却後のCVはカドミウム12.4%、鉛19.9%、砒素32.8%であり、ヒストグラムが左右対象であるカドミウムは良好であったが、鉛及び砒素は低値側に尾を引くヒストグラムであり、カドミウムに比べて良くなかった。カドミウムの外れ値等が多かった原因については、測定時の共存物質の影響(特に、ICP発光分光分析法での波長の選択等が不適切のための共存物質の影響)等と考えられた。鉛、砒素のCVがカドミウムよりも大きな値となった原因については、鉛では試料の分解操作、砒素では予備還元操作の不適切、ロス等と考えられた。
 また、この試料では3回の分析依頼を実施したところ、室内精度CV(注4)はカドミウム2.2%、鉛3.9%、砒素3.8%と良好であった。
(2)模擬ガス試料(臭気指数)
 試料としては、酢酸エチルを含む窒素ベースのガスを調製し、缶に充てんして調査を実施した。
 外れ値等により棄却される回答は0.9%とほとんどなく、棄却後のCVは10.1%であり、ほぼ左右対称なヒストグラムを示しており、良好な結果が得られた。また、調製した酢酸エチル濃度2000ppmから閾値を0.87ppmとして算出した臭気指数は33.6であり、調査結果の平均値32.9とほぼ一致し、良好であった。なお、要因解析の結果では、パネルの経験、試料の希釈方法や当初希釈倍率の適正化等が重要と考えられた。
(3)底質試料(フタル酸エステル等有機化合物:フタル酸ジエチルヘキシル)
 昨年度に初めて底質試料中のフタル酸ジエチルヘキシルを対象とした調査を実施したが、乾燥した実際の底質試料にも関わらず多くの試料量を取り、クリーンアップ操作を省略する等があり、CVは40.2%と大きく、ヒストグラムはやっと山が確認できる程度となり、これまでの同項目における模擬水質試料と比較して良くない精度であった。
 今年度は追跡調査として、試料量を限定し、また必ずクリーンアップ操作を行うこととした。外れ値等により棄却される回答は2.4%、棄却後のCVは32.6%となり、昨年度の結果と比較して良くなり、これまで模擬水質試料の精度程度(例えば、11年度ではCV34.7%)となった。なお、要因解析の結果では、クリーンアップの方法、濃縮の方法、サロゲートの添加等の操作が重要と考えられた。
(4)土壌試料(ダイオキシン類及びコプラナーPCB)
 昨年度までの調査では抽出操作の方法により分析結果が違っていた可能性があり、今年度は抽出操作が明確となるように、推奨した方法(公定法)による抽出(16時間以上のトルエンによるソックスレー抽出)と他の抽出(高速溶媒抽出等)に分けて調査した。
 公定法による抽出による結果では、外れ値等により棄却される回答はダイオキシン類異性体、同族体、コプラナーPCB異性体及びTEQにおいてほとんどの項目では数%程度以下であり、棄却後のCVはダイオキシン類異性体、同族体、コプラナーPCB異性体及びTEQで10〜20%程度(昨年度は10〜30%程度)であり、ヒストグラムはほぼ左右対称な形状を示し、昨年度の土壌試料と比較して若干良い結果であった。公定法以外の抽出による回答は少なかったが、高速溶媒抽出では公定法による抽出よりも抽出効率が良いためか、全体的には大きな値となっていた。
 なお、外れ値等により棄却される回答では、抽出やクリーンアップの前処理操作によりも、GC/MS測定及び同定・計算操作を原因とするものが多かった。具体的には、機器の調整不足・不安定、ピークアサイン間違い、ピークの分割をしていない、あまりにも小さいピークから定量、共存物質の影響のあるピークで定量等であった。
(5)模擬水質試料(フタル酸エステル等有機化合物:芳香族化合物)
 外れ値等により棄却される回答は、ベンゾ(a)ピレンが5.7%、ベンゾフェノンが7.1%、4-ニトロトルエンが2.6%であった。また、棄却後のCVはベンゾ(a)ピレン14.6%、ベンゾフェノン13.8%、4-ニトロトルエンが33.1%であり、ベンゾ(a)ピレン及びベンゾフェノンはヒストグラムがほぼ左右対象となり良好であったが、4-ニトロトルエンは山がどこにあるかわらないようなヒストグラムであり良くなかった。4-ニトロトルエンの精度が良くなかった原因については、他の2項目よりも沸点が低く揮発しやすいこと、4-ニトロベンゼン-d5をサロゲートして使用する場合分析対象の4-ニトロトルエンと挙動が異なり回収率に差が現れる可能性があること等が考えられた。

(注1)分析方法
[1]重金属類(カドミウム、鉛及び砒素)
 「底質調査方法」(昭和63年環境庁水質保全局水質管理課)及びJIS K 0102に定める方法(ただし、「底質調査方法」に規定している方法によって、あらかじめ分解し、分析対象項目を溶液化する)
[2]臭気指数
 「臭気指数及び臭気排出強度の算定の方法」(平成7年環境庁告示第63号)に定める方法
[3]フタル酸ジエチルヘキシル
 「外因性内分泌攪乱化学物質調査暫定マニュアル(水質、底質、水生生物)」(平成10年環境庁水質保全局水質管理課)に定める方法
[4]ダイオキシン類(ダイオキシン類及びコプラナーPCB)
 「ダイオキシン類による大気の汚染、水質の汚濁(水底の底質の汚染を含む。)及び土壌の汚染に係る環境基準について」(平成10年環境庁告示第68号)に定める方法
[5]芳香族化合物(ベンゾ(a)ピレン、ベンゾフェノン及び4-ニトロトルエン)
 「外因性内分泌攪乱化学物質調査暫定マニュアル(水質、底質、水生生物)」(平成10年環境庁水質保全局水質管理課)に定める方法(ただし、外因性内分泌攪乱化学物質調査暫定マニュアルに規定するガスクロマトグラフ質量分析法に替えて高速液体クロマトグラフ法により分析しても良い)

(注2)毒性当量(TEQ)
 ダイオキシン類等の量をダイオキシン類の中で最強の毒性を有する2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(2,3,7,8-TeCDD)の量に換算した量として表していることを示す記号。

(注3)外れ値等の棄却
 分析結果については、次のように外れ値を棄却した((イ)を除いた後、(ロ)を除き、あわせて「外れ値等」とした)。
(イ)「ND」、「○○以下」又は「0」で示されているもの
(ロ)Grubbsの方法(※)により、両側確率5%で棄却されるもの
※数値的な外れ値の検定方法であり、JIS K 8402及びISO 5725に規定されている一般的な方法である。

(注4)室間精度(CV)、室内精度(CV)
 室間精度は同一試料の測定において、異なる試験室おける測定値の精度をいう。一方、室内精度は同じ試験室における測定値の精度をいう。精度は、測定値のばらつきの程度であり、通常は標準偏差(SD)及び変動係数(相対標準偏差、CV)で表す。なお、過去の調査事例等を考慮し、室間精度(CV)が20%台までの場合は「良好な結果」であると考えられる。




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