報道発表資料本文

温泉事業者による表示の在り方について(案)


  1. はじめに

     本年7月以降、表示なく温泉に入浴剤を使用したり、井戸水や水道水を沸かしたものを温泉と称するなどの温泉をめぐる問題事例が発生したことを契機として、温泉事業者による利用者への情報提供について国民の関心が高まっている。
     このような状況を踏まえ、温泉事業者による表示の在り方など温泉に関する喫緊の課題等の検討を行うため、中央環境審議会自然環境部会に温泉小委員会が設置された。
     当小委員会は、平成16年11月15日付け環境大臣から中央環境審議会への「温泉事業者による表示の在り方等について」の諮問を受け、諮問事項に関する検討を行ってきた。



     
  2. 現行制度における温泉事業者による掲示について

     温泉法では、温泉の適正利用の観点から、「温泉を公共の浴用又は飲用に供する者は、施設内の見やすい場所に、環境省令で定めるところにより、温泉の成分、禁忌症及び入浴又は飲用上の注意を掲示しなければならない。」(法第14条第1項)とされており、掲示項目は温泉法施行規則第6条で、次のように書かれている。
     すなわち、[1]源泉名、[2]温泉の泉質、[3]源泉及び温泉を公共の浴用又は飲用に供する場所における温泉の温度、[4]温泉の成分、[5]温泉の成分の分析年月日、[6]登録分析機関の名称及び登録番号、[7]浴用又は飲用の禁忌症、及び[8]浴用又は飲用の方法及び注意を定めている。
     また、温泉法第14条第1項の規定による掲示をせず、又は虚偽の掲示をした者は、30万円以下の罰金に処される。(法第37条第2号)



     
  3. 事業者による情報提供の充実について

     温泉法に基づく既存掲示項目に加え、温泉成分に影響を与える項目を追加して掲示することを義務付け、温泉事業者による温泉利用者への情報提供を充実する必要があると考える。
     具体的には、温泉法施行規則第6条に定められている掲示項目に、次の4項目を加えることが適切と考える。



    (1)温泉に水を加えて利用する場合は、その旨、その理由及び水道水、井戸水等の別

     温泉に水を加えることは、源泉温度が高い場合や湯量の不足を補う際などに行われることが多いが、温泉に水を加えることにより、温泉の成分に変化をもたらすことから、掲示項目に追加する。
     加水を行っている場合は、その旨及びその理由を表示すべきである。また、加水する水が、水道水、井戸水又は沢水等に由来するものかの違いが、温泉の成分に影響する可能性があるため、これについても掲示する必要がある。なお、水には、湯、氷、雪も含まれる。



    (2)温泉に入浴剤を添加し、又は温泉を消毒して利用する場合は、添加した物質の名称又は実施した消毒方法及びその理由

     温泉に入浴剤を添加して利用する場合や、衛生管理を目的とした塩素系薬剤などの消毒剤の添加やオゾン殺菌などの消毒方法を実施する場合は、温泉成分に変化をもたらす可能性があることから掲示項目に追加する。
     その際、その物質の名称又は処理方法及びその理由を表示すべきである。
     対象とする物質の状態は、固体、液体又は気体の別を問わず、掲示対象に含めることが適当である。
     牛乳、酒、食塩など全部又はその大半が溶解し、利用者が何が添加されているのか一見して認識できないものは、掲示対象に含めるべきである。また、湯の花のように、自然に発生しているか、人為的に添加しているか分からないものについては、人為的に加える場合は温泉に溶解し成分に変化をもたらすことがあり、また利用者に誤解を与えるおそれがあることから、人為的に加える場合については、掲示対象に含める。なお、しょうぶ(葉)やゆず(果実)など、利用者が一見して何が人為的に添加されているか認識できるものについては、掲示の対象としないものとする。



    (3)温泉を加温して利用する場合は、その旨及びその理由

     源泉のゆう出温度が低い場合などは、温泉水を加温(保温を含む)して入浴に適した温度にして利用する場合がある。温泉水を加温して利用することは、温泉の成分のうち特に揮発性成分に変化をもたらすほか、鉄分やカルシウム分が沈殿する可能性もあることから掲示項目に追加する。
     加温を行っている場合は、その旨及びその理由を表示すべきである。



    (4)浴槽等の温泉利用施設で使用された温泉を再び浴槽等の温泉利用施設で使用する場合は、その旨及びろ過の実施の有無並びにその理由

     温泉に循環装置又は循環ろ過装置を使用することは、衛生管理上また温泉資源を保護する観点から有効である。一方、循環装置又は循環ろ過装置を使用して温泉水を循環させることは、温泉の成分のうち特に揮発性成分の失われる度合いが大きいこと、ろ過により、例えば鉄分などが装置に付着して温泉の成分に変化を与える可能性があることから、掲示項目に追加する。
     循環ろ過装置の使用は、殺菌剤の使用、加水及び加温と密接に関係していることから、その旨及びろ過の実施の有無並びその理由を表示すべきである。
     温泉利用施設は、浴槽、プール、足湯、打たせ湯などの別を問わないものとする。



    (5)制度改正に当たって留意すべき事項

     制度改正の施行に当たっては、以下の点に留意して行うべきこと。
    [1]上記で示した4項目については、その違反が温泉法第37条の罰則の適用につながるものであり、制度改正の施行に当たっては、温泉事業者等に対して適切な周知期間を設けて、制度内容の周知徹底を図るべきこと。
    [2]既存の温泉利用施設が掲示内容を変更するための、適切な猶予期間を設けるべきこと。
    [3]今回の追加項目は、利用の状況や時期によっては変動する可能性のある項目であるので、掲示を義務付けるに当たっては、行政機関が記入例などを示すことを通じて、温泉事業者にも、温泉利用者にも分かりやすいものにするよう努めること。
    [4]施行規則第6条第4号については、温泉分析書の該当部分「5.試料1kg中の成分、分量及び組成」について掲示することが適当であり、再度周知徹底する。同号の掲示は、温泉分析書をそのまま用いてもさしつかえないこととする。

     



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