報道発表資料本文
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(別紙1)
IUCNからの書簡に対する回答案について
1.推薦地の海域部分
知床半島周辺海域では、漁業活動がこれまで長い間営まれてきている。特に、羅臼側海域では、スケトウダラ、ホッケ等の多様な漁業が営まれている。
それぞれの漁業に関しては、漁業法を根拠として北海道知事が漁期その他の制限を設け、資源管理型漁業に努めている。また、既に漁業協同組合が自主的に厳しい制限を設けて漁業資源の管理を適正に実施している。
シロザケ、カラフトマス、カレイ類については、放流事業等の保護増殖活動が継続的に行われてきている。特に上記のサケマス類については、毎年、親魚の捕獲数、回帰数、稚魚の放流数についてモニタリングを行い、年度毎に孵化放流計画を策定し、適正な資 源管理及び系統群の保護を図ってきている。
スケトウダラをはじめとする主要魚種の資源量については、北海道が資源評価を行っており、海水温などによる年変動はあるものの資源量はおおむね安定しているとされているが、スケトウダラについてはオホーツク海全域で資源量が減少傾向にある。
スケトウダラについては、「海洋法に関する国際連合条約(国連海洋法条約)」の発効に伴い制定された「海洋生物資源の保存及び管理に関する法律」を根拠として、国が水産研究所等の調査をもとに資源状況を評価した上で漁獲量の上限(TAC)を設定し、資源管理を行っている。
また、スケトウダラ漁業に関しては、北海道海面漁業調整規則により、北海道知事の許可を受けなければできないこととされており、許可に際しては、隻数、漁船の規模、漁具の制限・期間については厳しい条件を附している。
さらに、漁業者自らが、産卵親魚保護のための禁漁区の設定、産卵期における禁漁期間の設定、漁具の制限等を既に行っている。また、スケトウダラの資源量の減少に対応し、1990年から2003年までに刺し網漁業の操業隻数を324隻から自主的に181隻まで減らし、資源保護を図ってきている。
上記のような取り組みを考慮の上、日本政府及び北海道等関係機関が連携して、以下の取り組みを行う。
推薦地内海域を世界自然遺産地域として保全するため、今後、同海域及びその周辺海域における持続的な水産資源利用による安定的な漁業の営みと海洋生物や海洋生態系の保全の両立を目標とする海域の多利用型統合的海域管理計画を策定する。
この管理計画においては、これまでの漁業関連のルールを基調として、主要な水産資源の維持の方策及び海洋生物・生態系の保全管理の措置並びにそれらのモニタリング手法、遊漁をはじめとする海洋レクリエーションのあり方等を明らかにする。
多利用型統合的海域管理計画の作成に当たっては、推薦地及びその周辺海域における海洋生物、漁業活動や遊漁の実態調査を実施し、専門家の助言を得て、漁業者をはじめ地域関係者の合意のもとに今後5年から10年程度を目処に作成する。
短期的には、2005年から漁業者・漁業団体と連携して、専門家の意見も聞きながら推薦地を含む沿岸海域において、スケトウダラ等主要魚種の産卵等に重要な海域の特定のための調査を実施するとともに、海洋生物、漁業活動などの詳細なモニタリング調査を実施する。
その調査結果を検証したうえ、水産資源及び海洋生物・生態系の保全管理の観点から、現在、漁業者・漁業団体が自主的に設定しているスケトウダラの資源管理のための禁漁区や禁漁期間を例として、推薦地内海域の漁業活動を管理する新たな取組みを検討し、知床世界自然遺産地域連絡会議で2008年までに明らかにする。
2.推薦地内の河川工作物
推薦地内の河川環境については、周辺の森林と合わせて一体的な森林生態系として保全することを第一に取り組んできたところであり、河川工作物については、住民の生命や財産の保全のため、必要な箇所に限って設置したものである。
推薦地内には、流域全体もしくは流域の大部分が含まれる河川が44河川あり、現在、河口部が滝となっていない河川などサケ・マスが遡上する可能性のある河川について、サケ・マスの遡上と産卵の有無等の状況を把握する補完的な調査を行っているところであり、この調査結果が2005年の春頃までには得られる予定である。今後、この調査結果を踏まえ、サケ・マスへの河川工作物による影響評価を実施する。
現在、推薦地内の44の河川のうち9河川のみに河川工作物が設置されているが、これらは住民の生命や財産を保全するため、一般的に地域の要請に基づいて設置しており、土砂流出や山腹の崩壊を防ぐことにより森林の生育基盤を保全する機能や、土砂災害を防止する機能を果たしている。従って、将来における対応は別として、これらの河川工作物によって住民の生命や財産を保全する必要性がある間は、これらの施設を撤去することは困難と考えている。
サケ・マスが遡上できるような魚道の設置については、既に一部の河川において設置されているほか、専門家の意見を聞きながら設置を検討している河川もあるが、通常は涸れ沢となっている部分に設置されている河川工作物など魚道設置が必ずしも必要でない場合もあることから、今後も専門家の助言を得つつ設置の必要性を調査し、必要とされたものについては、逐次魚道の設置等を行う用意がある。
3.エコツーリズムに関する戦略の開発
(1)エコツーリズムの推進
今後、世界自然遺産に登録された場合、利用者の増加が予想されることから、過度な利用集中に伴う問題が生じないよう、推薦地の周辺地域も含め、利用の分散、利用者の適正な誘導を図り、知床の優れた自然環境の保全と人々に感銘を与える質の高い利用とを両立させていくことが必要であり、エコツーリズムは有効な手段の一つであると考えている。
このため、地元関係団体や関係行政機関を構成メンバーとする「知床エコツーリズム推進協議会」を2004年7月に設置し、知床におけるエコツーリズムのあり方について検討を開始した。同協議会において、自然環境への負荷低減と過剰利用の抑制、質の高い利用の提供を目指した知床におけるエコツーリズム戦略となる「知床エコツーリズム推進計画」を2005年中に策定する。
また、ガイド技術講習会や周辺地域の一次産業と連携したモデルツアーの実施などを通じて得られた成果をもとに、持続可能な利用の推進に関する具体的な指針となる知床型エコツーリズムのガイドラインや上記推進計画の実施計画(アクションプラン)を2007年3月を目処に策定する。
(2)利用の適正化
推薦地では、原生的な自然環境と豊富な野生生物によって形成される生態系の多様性を将来にわたり保全するため、観光等の利用は自然環境に支障を及ぼすことのないよう適正に行うことを基本方針としている。
推薦地の大半を占める知床国立公園では、上記基本方針を前提とした知床国立公園の望ましい保護と利用のあり方を検討するため、2001年11月から、学識経験者、地元関係団体等を構成メンバーとする検討会議を設置している。本検討会議では、知床国立公園を半島先端部地区、知床連山地区などいくつかの地区(ゾーン)に分け、それぞれの地域特性に応じた利用適正化のための基本計画づくりを進めており、2005年を目途に策定を図るほか、利用のコントロールのあり方や利用に際しての注意事項等利用の心得をまとめた「利用ルール」を2005年を目処に策定し、利用者への周知徹底を図る。
なお、各地区毎の基本計画については、逐次その具体化を進め、実施していくとともに、実施状況のモニタリングやその結果の解析・評価等により当該基本計画を見直し、その充実を図る。
また、知床連山地区の基本計画の策定にあたっては、登山道の管理のあり方も含めとりまとめを行う。
さらに、利用による自然環境保全上の悪影響が生じないよう、自然公園法に基づく利用調整地区や森林生態系保護地域等の制度により、必要に応じて利用者数の限定や立ち入り規制の徹底を行い、適切な保全を図っていく。
(3)その他
「知床エコツーリズム推進計画」の策定をはじめとする上記取組とも連携を取りながら、北海道が中心となって、推薦地及び道東地域の自然環境や歴史文化を活用したより広域な利用ルートを開発することにより、知床への過度の利用集中を防ぎ、他地域への利用分散を図っていく。
4.エゾシカの管理
知床半島における急激なエゾシカ個体数密度の高まりについては、これまでも個体群動態に関する調査研究やエゾシカによる植生の食害防止柵の試験設置などを進めてきた。しかしながら、知床半島に生息するエゾシカの密度は依然として非常に高く、一部地域では草本植物種や群落が激減するなど生態系や自然景観への悪影響が生じており、適切に対処することが必要となっている。
このため、知床世界自然遺産候補地管理計画に基づき設置された知床世界自然遺産候補地科学委員会のもとに、専門家、関係行政機関等を構成メンバーとする「エゾシカ・ワーキンググループ」を2004年7月に設置し、エゾシカを科学的に保護管理するための計画を2007年3月までに策定することとしている。
推薦地におけるエゾシカの保護管理に関する基本方針については、2005年3月を目処に検討する。検討に当たっては、推薦地におけるエゾシカの分布や悪影響の度合い、知床半島のうち推薦地に含まれない地域の土地利用状況等を十分考慮した上で、植生及び生態系の保全、エゾシカ個体群の健全性の確保等を実現するための管理目標を明確にすることとしており、推薦地周辺部も含めた総合的な計画の策定を目指す。
また、保護管理計画の運用にあたっては、モニタリングを実施し、その結果をフィードバックして所要の見直しを行う。
5.指標等の開発
推薦地の管理にあたっては、陸域と海域との生態系の連続性や健全性をモニタリングし、自然環境に影響を及ぼすような変化の兆候が認められた場合には、科学的な調査を実施して、原因の分析と環境回復に向けた対策を検討し、所要の措置を講じることとしている。
モニタリングのための指標や水準については、知床世界自然遺産候補地科学委員会の意見も聴取しつつ、登録後、速やかに開発し、管理計画に組み込んでいく。
なお、指標や水準は、以下のような項目について検討していく予定である。
[1]固有種であるシレトコスミレや、オオワシ、オジロワシ、シマフクロウ、トドなどの希少種、ヒグマなどの生育・生息状況
[2]エゾシカの個体群動態及びその変動による植生変化
[3]サケマス類の遡上・産卵状況
[4]スケトウダラなど主要魚種の資源量
[5]主要利用地点における利用者数 等
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