○世界自然遺産候補地である知床の現地評価調査はすばらしいものであり、詳細な調査と主要課題についての議論を行うことができた。小野寺局長並びに多くのスタッフに感謝したい。
○東京での現地評価調査の締めくくりにおいて、知床の現地評価に関する非公式意見を伝え、3~4週間以内にこれらの意見をIUCNから環境省あて書簡で送付する旨を伝えた。
○従って、IUCNはいくつかの追加意見を伝えるとともに、これらの点について日本政府からの回答を期待する。
(a)世界遺産としての地域の保護は、実行可能な最高レベルの法的保護を伴うものである。推薦地の場合、その重要性は陸域部分と海域部分の間の相互関係に由来している。
(b)推薦地の海域部分は沿岸から1kmしかなく、現時点では知床管理計画の中で、「普通地域」として区分されており、緩衝地帯である。「普通地域」は環境省による国立公園の規制の中では最低レベルの保護しかなされないものであるとIUCNは理解している。また、現在、推薦地内の全海域で漁労が行われていると理解している。
(c)現地評価調査に対する説明では、スケトウダラの漁獲量の減少について言及があった。このことは、スケトウダラが推薦地において主要な種の一つであるトドの主な餌資源の1つとなっていることから心配である。
(d)調査官は、漁業が推薦地周辺地域にとって極めて重要な産業であり、それが故に注意を要する問題であると言及した。漁業はこの地域でかなりの期間(長期間)にわたって行われてきた活動であると認識している。漁業の重要性については、現地評価調査時に知床で行った地元団体との意見交換会でも特に強調されていた。また、ホッキ貝やウニの採捕の制限・禁止やいくつかの漁法の禁止といった、漁業に関する管理計画における規定については漁業関係者との協議がなされていることを理解した。
(e)よく管理された海洋保護区(MPAs)の設置と漁業資源の保全の関連性を支持する事例が世界中で増加している。さらに、現在、海洋の生物多様性にとって重要な地域を保全し、その結果、漁業の持続可能性にも資する、代表的海洋保護区の設定に向けた多くの取組が世界中で進行中である。オーストラリアの世界遺産であるグレート・バリア・リーフ海洋保護区の事例は、代表的海洋保護区システムの計画に関する一例である。また、他にも多くの事例があり、第5回世界公園会議(WPC)で強調されていた。これらの事例から学んだことは、(a)明確なプライオリティの設定(b)最高の科学的根拠に基づく基本方針(c)漁業セクターとの協働ということが必要であること、そして(d)協議には時間を要することである。
・短期的には、推薦地内の海域部分の保護レベルを高めること。スケトウダラなど、推薦地内の主要な魚種の繁殖、産卵、生育場所は厳しく保護され、これらの地域内では当該魚種の漁労を行わないといったことを確実に目指すべきである。主要な種の生活史に関する分析と、漁獲禁止区域の特定は、できる限りの最高の科学的知識に基づくべきである。保護がすべての関係者によって合意され、実施されるためには、検討のプロセスに、漁業産業の参画を得る必要がある。
・長期的には、推薦地及びその周辺地域における代表的海洋保護区の設定に向け、オホーツク海及び根室海峡における主要な魚種の繁殖及び採餌のための生息地について調査すること。その際には、最高の科学的知識に基づくとともに世界の他地域における事例を利用できるであろう。