報道発表資料本文

(別紙2)

IUCN(デビッド・シェパード)からの書簡(抄訳)


○世界自然遺産候補地である知床の現地評価調査はすばらしいものであり、詳細な調査と主要課題についての議論を行うことができた。小野寺局長並びに多くのスタッフに感謝したい。

○東京での現地評価調査の締めくくりにおいて、知床の現地評価に関する非公式意見を伝え、3~4週間以内にこれらの意見をIUCNから環境省あて書簡で送付する旨を伝えた。

○従って、IUCNはいくつかの追加意見を伝えるとともに、これらの点について日本政府からの回答を期待する。

  1.  推薦地の重要性が、生態系の生産性と推薦地が支える動植物に関連しているのは明らかである。これは北半球で最南端の海氷の存在を反映している。世界的に希少な海鳥の生息地としての推薦地の重要性、及びヒグマの生息密度の高さもまた明らかであり、推薦書でもよく説明されている。推薦地の根本的な重要性は陸域部分と海域部分の相互関係に基づくものであり、この相互関係は長期的な持続可能性にとって必須である。
     
  2.  推薦地の陸域部分の管理レベルは高い。特に環境省と林野庁の密接な協力関係が印象的であった。また、行政としれとこ100㎡運動などの主要関係者グループとの間にもすばらしい協力関係が認められた。

     しかしながら、海域部分については同等の保護体制がなく、推薦地に含まれる海域は限定的で、食糧を海域の資源に依存する陸棲動物の持続可能性を確保するために十分な生息地であるかというと決してそうではない。
     
  3.  この書簡では、特に「推薦地の海域部分と漁業」と「河川におけるダム建設」の2点につき取り上げたい。

  「推薦地の海域部分と漁業」
  1.  海域部分に関して、IUCNは以下の点を強調したい。

    (a)世界遺産としての地域の保護は、実行可能な最高レベルの法的保護を伴うものである。推薦地の場合、その重要性は陸域部分と海域部分の間の相互関係に由来している。

    (b)推薦地の海域部分は沿岸から1kmしかなく、現時点では知床管理計画の中で、「普通地域」として区分されており、緩衝地帯である。「普通地域」は環境省による国立公園の規制の中では最低レベルの保護しかなされないものであるとIUCNは理解している。また、現在、推薦地内の全海域で漁労が行われていると理解している。

    (c)現地評価調査に対する説明では、スケトウダラの漁獲量の減少について言及があった。このことは、スケトウダラが推薦地において主要な種の一つであるトドの主な餌資源の1つとなっていることから心配である。

    (d)調査官は、漁業が推薦地周辺地域にとって極めて重要な産業であり、それが故に注意を要する問題であると言及した。漁業はこの地域でかなりの期間(長期間)にわたって行われてきた活動であると認識している。漁業の重要性については、現地評価調査時に知床で行った地元団体との意見交換会でも特に強調されていた。また、ホッキ貝やウニの採捕の制限・禁止やいくつかの漁法の禁止といった、漁業に関する管理計画における規定については漁業関係者との協議がなされていることを理解した。

    (e)よく管理された海洋保護区(MPAs)の設置と漁業資源の保全の関連性を支持する事例が世界中で増加している。さらに、現在、海洋の生物多様性にとって重要な地域を保全し、その結果、漁業の持続可能性にも資する、代表的海洋保護区の設定に向けた多くの取組が世界中で進行中である。オーストラリアの世界遺産であるグレート・バリア・リーフ海洋保護区の事例は、代表的海洋保護区システムの計画に関する一例である。また、他にも多くの事例があり、第5回世界公園会議(WPC)で強調されていた。これらの事例から学んだことは、(a)明確なプライオリティの設定(b)最高の科学的根拠に基づく基本方針(c)漁業セクターとの協働ということが必要であること、そして(d)協議には時間を要することである。

  1.  現地評価調査以降、IUCNはこの地域に関して、漁業や海洋保全の様々な専門家の意見を聴いている。最初の意見としては、本地域での保護の促進を図る必要があり、以下の点を含むべきである。  

    ・短期的には、推薦地内の海域部分の保護レベルを高めること。スケトウダラなど、推薦地内の主要な魚種の繁殖、産卵、生育場所は厳しく保護され、これらの地域内では当該魚種の漁労を行わないといったことを確実に目指すべきである。主要な種の生活史に関する分析と、漁獲禁止区域の特定は、できる限りの最高の科学的知識に基づくべきである。保護がすべての関係者によって合意され、実施されるためには、検討のプロセスに、漁業産業の参画を得る必要がある。

    ・長期的には、推薦地及びその周辺地域における代表的海洋保護区の設定に向け、オホーツク海及び根室海峡における主要な魚種の繁殖及び採餌のための生息地について調査すること。その際には、最高の科学的知識に基づくとともに世界の他地域における事例を利用できるであろう。


  「河川工作物について」

○IUCN最終評価報告書の準備にあたり、これらの点に対する返答を期待している。





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