報道発表資料本文


【第3次酸性雨対策調査中間取りまとめの概要】

I.平成5年度から7年度の調査結果の概要

1 大気系調査

1.1 酸性雨モニタリング調査               [大気規制課]

国設大気測定所及び国設酸性雨測定所において降水を捕集し,そのpH,硫酸イオン濃度
等の測定を行った。測定個所数は平成5年度が29カ所,6年度が43カ所,7年度が46カ所
である。
平成5年度〜7年度における降水のpHは4.8〜4.9(各測定所の年平均値の全国平均)
と,第2次調査結果とほぼ同レベルであり,欧米と比べても同程度の酸性度であった。
(図1)
また,降水中の非海塩性硫酸イオン(硫酸イオンのうち,海中の塩分に由来するものを除
いたもの)や硝酸イオンなどの濃度及びその沈着量についても欧米のそれと同程度であっ
た。
長距離輸送の影響を見るために設置した6カ所の離島測定局(利尻,佐渡,隠岐,小笠
原,対馬,奄美)における測定結果によれば,降水中の非海塩性硫酸イオンの濃度は,小
笠原及び奄美では本土と比べて低く,日本海側の測定局(利尻,佐渡,隠岐,対馬)では
本土と同程度であった。また,日本海側の測定局においては,非海塩性硫酸イオンの濃度
が冬季に高くなる傾向が認められ,大陸からの影響が示唆された。(図2ー1〜図2ー
4)

1.2 酸性雨発生予測調査	                [大気規制課]

東アジア地域における酸性雨原因物質の移流,拡散を予測するためのシミュレーションモ
デルの開発を行い,モデルの予測精度の検討を行った。
その結果,硫黄系の酸性沈着量等の予測が可能であることが確認されたが,モデルの検証
のためのデータが不十分であることから,東アジア地域の各国と協力して発生源情報の整
備等を行うことにより,さらに予測精度の向上等を図る必要がある。

2 陸水系調査

2.1 陸水モニタリング調査                 [水質管理課]

人為的に影響の少ない全国の湖沼を対象に18湖沼の調査を行った。その結果,アルカリ
度の低い湖沼が3湖沼存在した。このうち桶沼(福島県)は土壌が火山性のため酸性化さ
れていると思われるが,今神御池(山形県)及び夜叉ヶ池(福井県)については,周辺に
湖沼の酸性化に影響を与える人為的要因が見あたらないことから,酸性雨による影響も否
定できない。

2.2 陸水生態系影響調査                  [水質管理課]

火山等の自然的要因で既に酸性化しているpH2〜6台の5湖沼において植物プランクト
ン等の水生生物等の生育状況のモニタリングを行い,pHとの関連性について整理し,酸
性化による陸水生態系への影響把握の手法について検討を実施した。
調査の結果,珪藻と湖水pHの関係は,欧米と同様にACB種(acidbiontic species)は
pH6以下より出現傾向が強く,湖沼酸性化モニタリングの良い指標となることが分かっ
た。また,ACB種+ACF種(acidophilic species)の割合が酸性化の指標として有効
で,50%以下であれば,それ程酸性化が進んでいないといえる。

2.3 陸水影響予測調査                  [水質管理課]

総合モニタリング調査の湖沼を対象に陸水の酸性化予測モデルにより,日本の湖沼の平均
的なアルカリ度よりやや大きい値を示す鎌北湖(埼玉県)について,実測データ,文献
データ等をもとに,現状の酸性雨が継続した場合に酸性化が始まる年数を予測した。
その結果,早い場合で概ね30年後との年数も得られたが,この年数は計算の前提となる
実測データ及び文献データにより異なることから,今後更に検討が必要である。

3 土壌・植生系調査

3.1 土壌・植生モニタリング調査              [土壌農薬課]

酸性雨が土壌生態系に与える影響を監視するため,全国に土壌・植生モニタリング調査定
点を設置して,その定点において土壌の理化学性,周辺植生状況(高木層の衰退状況,植
生概況)等の調査を行った。調査は全国22自治体,各自治体4定点で,計88定点を3
年ローリングシステムで実施した。
平成5年度〜平成7年度の調査においては,表層土壌はpH3.6〜6.9,次層土壌は
pH3.8〜6.5であった。
また,第1次,第2次調査から継続して調査を実施している定点における土壌理化学性に
ついては特段の経年変化は見られなかった。特に植生への影響が大きいと考えられる交換
性アルミニウムについても特段の変化は見られないものの,比較的高濃度であった地点も
あることを念頭に入れて引き続き注視していく必要がある。
植生については,88定点のうち,33定点で樹木の衰退の報告があり,その中には推定
原因が不明と報告された地点もあり,酸性雨又は大気汚染による影響も否定できないこと
から,今後の調査で衰退原因の究明を行っていくこととしている。

3.2 土壌影響予測調査                   [土壌農薬課]

3.2.1 土壌影響予測調査(室内実験)

酸性雨が我が国の土壌に与える影響を実験的に予測するため,我が国に分布する各種の非
農耕地土壌を選定し,ポットで人工的に酸性雨を降下させ,土壌及び流出液の理化学性の
分析を行った。調査土壌として,5自治体各4種,計20種の土壌を対象として実施し
た。
調査の結果としては,pH4.0の人工酸性雨を降らせた場合,脱イオン水の場合と比較
して,土壌のpHに有意な差は認められなかったが,pH3.5の場合は若干pHが低下
し,pH3.0の場合は明確に低下した。

3.2.2 土壌影響予測調査(土壌影響予測モデル検討調査)

現状程度の酸性雨が長期的に降り続いた場合の土壌影響を予測するため,シミュレーショ
ンモデルを開発し,総合モニタリング調査地点(鎌北湖)においてモデルの検証を行っ
た。
その結果,土壌の酸性化は,風化による母岩からの陽イオンの供給,落葉からの陽イオン
の溶出,植物による根からの栄養分の取り込み等の要因に依存していることが判った。

4 総合影響調査

4.1 総合モニタリング調査
[大気規制課][水質管理課][土壌農薬課]

全国5湖沼とその周辺地域(土壌,植生)を含めた「酸性雨モニタリングフィールド」を
設定し,酸性雨の生態系への影響について総合的な評価を行うとともに,陸水,土壌影響
予測のモデル開発のために必要なデータを得ることを目的として,降水,陸水,土壌・植
生等について経年的な測定調査を実施した。
大気調査(降水関係)においては,各湖沼の降水pH年平均値の範囲はpH4.5〜
4.9の範囲にあり,全地点でpH5を下回ったが,経年的には横這いであった。
陸水調査の結果は湖水,流入河川及び湧水については,昭和63年度からの実測結果で
は,酸性雨によると思われる水質の顕著な変動は見られなかった。
土壌・植生調査の結果は,土壌理化学性においては,第2次調査と同様の傾向を示し,経
年的な変化は特に見られなかった。植生においては,5湖沼のうち,3湖沼の調査地点に
おいて引き続き樹木衰退の報告があった。

4.2 酸性雨及び酸化性大気汚染物質等による土壌・植生影響解明調査
[大気規制課] [土壌農薬課]

酸性雨及び酸化性大気汚染物質等による土壌・植生への影響解明を目的とし,樹木衰退が
指摘されている地域(奥日光地域)において,大気,土壌及び植生調査等を行った。
大気調査の結果によれば,植物に直接影響を与えるような降水は観測されなかったが,
pHの低い霧が観測されたほか,100ppb(1時間値)を超えるオゾン濃度が見られ
た。
植生については,台風害,凍害,縞枯れ等,複数の症状が広範囲に確認され,また,原因
が特定できない樹木の衰退も認められたが,枯死に至らしめる状況ではなかった。土壌の
pH,交換性アルミニウム等については,土壌・植生モニタリング調査の結果と比較し
て,特異な値は見られなかった。


II.今後の酸性雨対策の方向について
上記の結果を踏まえ,今後,以下の施策を推進していくことが重要である。

1 東アジア地域における酸性雨対策の推進
酸性雨問題は地球環境問題のひとつであり,その解決のためには,国内的な対策を進める
ことはもとより,関係国が協調してこれに取り組む必要がある。
このため,環境庁においては,東アジア地域における取組の第一歩として東アジア酸性雨
モニタリングネットワークの設立を提唱している。このネットワークは東アジア地域にお
ける酸性雨問題に対応するための科学的根拠を与えるものであり,その実現に向けて着実
に取組を進めていくことが必要である。
特に,このネットワークにおいては,酸性雨のモニタリングのみにとどまらず,今後,発
生源情報の整備,酸性雨の発生・沈着・影響を予測するシミュレーションモデルの開発等
を行うことが重要である。これらの結果を踏まえ,酸性雨原因物質の排出削減対策の実施
等東アジア地域における酸性雨対策の推進を図っていくことが必要である。

2 国内における酸性雨対策の推進
我が国においては欧米とほぼ同程度の酸性度を有する酸性雨が観測されており,また,そ
の生態系に与える影響についても未解明な部分が残されていることから,引き続き,次に
より,モニタリング体制の整備及び調査研究等を推進していく必要がある。

(1)大気系
○ 酸性雨(硫酸イオン,硝酸イオンの沈着量等)の地域特性,長期的傾向及び中長距離
輸送の実態を把握するためのモニタリング体制の整備並びにモニタリングの継続実施
○ 酸性雨の発生・沈着・影響に関する精度の高い予測モデルの開発及び手法の開発を含
めた発生源情報の整備

(2)陸水系
○ アルカリ度が低く,その原因が不明な湖沼におけるモニタリングの継続実施
○ 出現珪藻による湖沼のpH推定式の改良又は開発等によるモニタリング体制の確立
○ 陸水への影響予測モデルの精度向上
○ 我が国における代表的な湖沼の臨界負荷量の設定のための基礎的データの収集及び検
討

(3)土壌・植生系
○ 原因不明の樹木衰退が認められた地点等におけるモニタリングの継続実施
○ 土壌への影響予測モデルの精度向上
○ 我が国における土壌の臨界負荷量の設定のための基礎的データの収集及び検討

(4)総合影響
○ 大気,土壌,植生,陸水について総合的酸性化の進行状況のモニタリングを通じた長
期的な状況変化,陸水生態系への影響についての調査研究の実施
○ 大気汚染物質を含む総合的な調査実施等,酸性雨による土壌・森林生態系等への影響
の解明に向けた調査研究の充実

3 その他
以上のほか,関連機関との連携,測定結果の公表等の施策を進めることが必要である。

○ 地方公共団体,大学,民間等,関連する機関との役割分担の明確化及び連携の強化
○ 国民に対する情報の提供,知識の普及による省エネルギー,省資源等の酸性雨原因物
質排出量の低減に資する実践活動の一層の促進
○ 酸性雨モニタリング結果等の定期的取りまとめ及び公表





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