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第3回世界水フォーラム閣僚級国際会議分科会
「水質汚濁防止と生態系の保全」
 

鈴木俊一環境大臣演説
 


平成15年3月22日
 



第3回世界水フォーラム閣僚級国際会議
鈴木俊一環境大臣演説
〜水質汚濁防止と生態系の保全について〜


  1. 各国閣僚、国際機関の長の皆さま、また、第3回世界水フォーラムを代表して御参加いただいた皆さま、遠路はるばるようこそ日本においでいただきました。閣僚級国際会議のホスト国である日本の環境大臣として心より歓迎の意を表します。また、水質汚濁と生態系保全をテーマとする本分科会の議長をお引き受けいただいたスイス国のロッホ環境・森林・国土利用庁長官には深く感謝申し上げます。
     
  2. 議長、アジア大陸の東に位置する我が国は、アジアモンスーン地帯に属し、年平均降水量は1,700ミリメートルで、世界の平均の約2倍です。年間の生活用水使用量は170億立方メートルで、一人当たりでは日量約320リットルです。これまで水資源には比較的恵まれてきたといえましょう。
     
  3. 古来より我が国では、豊かな自然に恵まれた土地柄を「山紫水明の地」と称します。日本人がいかに清澄な水を生活の中に求め、尊んできたかを伺い知ることができます。八世紀から千年以上にわたり我が国の都であり続けたここ琵琶湖・淀川流域も、水の都であり、その中においてこそ日本の深い文化が育まれてきたと私は信じています。
     
  4. しかし、第二次世界大戦後の復興努力の過程で、我が国の河川と湖、特に大都市の河川とそれが流入する東京湾、大阪湾などの内湾は、急激な工業化、都市化に伴う多量の産業排水や未処理生活排水によって激甚な汚染に見舞われました。赤潮の発生によって漁業は大きな痛手を受けました。あまつさえ、水俣湾では有機水銀汚染によって多くの人々が犠牲になりました。”Minamata-disease”が世界の公害病の代名詞になったことは誠に残念です。
     
  5. こうした苦い経験を踏まえて、1960年代後半から70年代初頭にかけて、我が国では公害規制法令の抜本的な見直しを進め、環境省の前進である環境庁を設置し、世界で最も厳しい公害規制を実施しました。地方公共団体は公害規制の第一線に立って、工場・事業場への立入と排水の改善指導をしてきました。また、国と地方公共団体の連携・協力のもと水質監視を強化するとともに、生活排水処理施設の整備や河川等の浄化対策を進めてきました。
     
  6. その結果、健康被害を及ぼす有害物質の汚染については、全国のほぼすべての水域で環境基準を満足するまでに改善されました。しかし、湖沼や内海・内湾の富栄養化や都市内河川の汚濁の問題はさらなる改善努力を必要とする状況にあります。さらには、近年、水道水源保全や生態系保全のため、微量化学物質等への対応も求められています。
     
  7. また、水と関わりの深い生態系の保全と回復を図るために、自然保護と水環境保全の一体的な行政を推進することも残された重要な課題であり、環境保全上健全な水循環の確保・回復を図ることも今後の重要な課題と考えています。
     
  8. 議長、希少な淡水資源を守るためには、水質汚濁負荷を減らすことに加えて、生物多様性を確保する観点から森林、湿地、河川を結ぶ生態系を保全していくことが重要です。このような流域生態系は、優れた水質浄化や水源涵養などの機能を有し、淡水資源の基盤であるからです。逆に淡水資源は、流域生態系を構成する最も重要な要素であるといえます。このように、淡水資源の保護と生態系の保全は一体不可分の関係にあり、健全な水環境を形成するためにはエコシステム・アプローチと呼ばれる統合的な手法が必要となります。
     
  9. 我が国は国土の約7割を森林が占めており、主要な生態系である森林が水資源の保全などに大きな役割を果たしていることを踏まえ、数百年も前から伐採を規制するなどにより、森林を守る努力が重ねられてまいりました。今から約150年前には、急速な近代化に伴う木材需要の急激な増加に対応するために森林の伐採が進み、国土の約1割が荒廃地と化しましたが、保安林制度などにより森林の保全を図るとともに、荒廃地の復旧や植林を進め、今では荒廃地はほとんどなくなりました。世界の森林につきましては、熱帯地域を中心に依然として減少が続いており、森林火災、違法伐採等国際社会として緊急に取り組まなければならない状況となっておりますが、これらを克服し、持続可能な森林経営を推進することが、健全な水循環をする上で重要と考えております。
     
  10. 私の故郷は日本の東北部の岩手県でありますが、この地域の沿岸部では牡蠣の養殖が盛んです。いま、牡蠣の養殖に携わる人々による河川上流域への植林活動が広まりつつあります。森を育てることが、濁水の発生を抑制し、適度に栄養を含んだ水が海に流入して、牡蠣の生育を促進すると期待されるからです。これも一つのエコシステム・アプローチでしょう。
     
  11. また、こうした運動は都市の地下水の涵養や河川水量の確保などの目的でも行われ始めており、次第に全国各地に広まりつつあります。これらも、健全な水循環を回復する上で有効な試みです。
     
  12. 生態系保全に向けた世界的な取組を推進するためには、湿地に関する国際的な枠組みと十分に連携し、これらを最大限に活用することが効果的です。例えば、我が国では、ラムサール条約履行の一環として、特にアジア地域における各国の湿地生態系の保全と「賢明な利用」について積極的な支援・協力を行っています。また、国内においては、これまでに13カ所の湿地をこの条約に基づく「国際的に重要な湿地」として登録しており、本フォーラム開催地ともなっている滋賀県の琵琶湖もその一つです。琵琶湖には固有の魚類が生息し、ハクチョウ類をはじめ多数の鳥類が渡来する重要な生態系を形成しているほか、近畿圏1400万人の生活を支える水瓶です。琵琶湖の生態系の保全と「賢明な利用」は、すなわち琵琶湖の有する水資源管理そのものに直結したテーマなのです。
     
  13. さらに、我が国では生態系を保全するだけでなく、劣化した生態系を再生するための事業も始まっています。例えばラムサール条約に基づく登録湿地である釧路湿原では、周辺地域の開発や水への汚濁負荷が増大し、乾燥化や植生変化が進み、一部で湿地の姿が失われつつありますが、湿原を直線的に流れる川を昔の蛇行する姿に戻したり、河畔林の整備を進めることによって、湿原を再生する試みが始まりました。釧路湿原が再生すれば、渡り鳥の生息域の拡大も期待できます。また、昨年秋には、「自然再生推進法」が制定されました。これは国と自治体そして地域のNPOや専門家など多様な主体が参加・連携して自然再生事業に取り組むことを推進しようとするもので、自然再生の動きが各地で一層促進されると期待しています。
     
  14. 議長、水環境や生態系の保全のためには、政府だけでなく、民間企業、NGO、市民などすべてのセクターによる取組が不可欠です。そのためには、まず一人ひとりが水や生態系の価値を認識し、草の根レベルからのガバナンスの強化に取り組み、自発的な行動につなげていくことが必要です。特に、次世代を担う子ども達への環境教育は極めて重要です。
     
  15. 我が国では水生生物を指標とした河川の水質調査がここ20年で盛んになってきており、2001年には小中学生を中心に約8万7千人が参加しました。この調査は、水と生物の両方を現場で体感しながら水質を把握できるので、水環境保全に関する優れた教育効果を備えています。日本政府はこのような市民レベルの水質調査を支援していきたいと考えていますし、他の国々にもノウハウを提供する用意があります。
     
  16. 議長、この第3回世界水フォーラム及び閣僚級国際会議に参集した我々がなすべきことは、これまでの水に関する様々な国際会議での議論の上に立って、「行動」の開始を約束することです。日本政府は今次会合の主催者として「水行動集」の作成を呼びかけましたが、我が国は「水質汚濁防止と生態系保全」というテーマの下に、16本の具体的な行動を進めていくことを約束いたします。
     
  17. この中には、水質汚濁防止と生態系保全の分野での途上国への支援、経験・知見を共有するための国際ネットワークの形成、そして、政策形成に貢献するための国際研究プロジェクトの推進などが含まれています。
     
  18. 本閣僚会議の基本理念である「オーナーシップとパートナーシップ」の考え方に基づき、これらのプロジェクトを実施することで国際社会の水問題への対応に貢献することを決意します。
     
  19. 本分科会に参集されたすべての閣僚と国際機関の長が、エコシステム・アプローチの普及に長年取り組んでこられたスイス国のロッホ議長の下で、率直な意見交換を行い、これを契機に各国及び国際機関が21世紀の水問題の解決に向けた貴重な第一歩を確かなものにできれば、ホスト国としてこれに勝る喜びはありません。
    ご静聴ありがとうございました。  

(了)





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