報道発表資料本文


(別紙)

平成7年度に実施した地球環境研究総合推進費の主要研究成果の例



○アジア太平洋地域における現地に適した対策技術の開発

1 中国における酸性雨対策技術の開発

−東アジアの酸性雨原因物質等の総合化モデルの開発と制御手法の実用化に関する研究−
 研究代表者:溝口次夫(佛教大学教授)
 研究期間 :平成6年度〜8年度(継続中)
 発表   :酸性雨分野 11月14日(木)午後
 概要   :
 開発途上国(主として中国)における酸性雨対策については、大きな割合を占めている中小の発生源において現地で実際に実施可能な対策技術を開発することが重要である。本研究は、低環境負荷の石炭燃料対策等による中小発生源対策技術について共同研究を行っている。具体的には中国重慶市をモデルとして、硫黄分の多い石炭に木屑等のバイオマス及び脱硫剤を混ぜ低環境負荷燃料とする(バイオブリケット)技術等について、中国に適した型に改善するため、地元の研究機関と共同研究を行っている。今後、現地の石炭及び現地で調達可能なバイオマスを合わせた技術の最適化、自立的に中国で技術が普及するための経済的条件等に関する研究を実施し、平成8年度は、小規模のブリケット製造実験を重慶市で実施する予定である。

2 砂漠化防止対策

−砂漠化防止対策適用効果の評価手法の開発に関する研究−
 研究代表者:福原道一(農水省農業環境技術研究所)
 研究期間 :平成7年度〜9年度(継続中)
 発表   :砂漠化分野 11月13日(水)午前
 概要   :
 砂漠化危険地域において砂漠化を防止し、砂漠化した土地を再生するための適正な土地管理計画策定のために、砂漠化防止対策の環境立地的、社会・経済的な適用効果を客観的に評価する手法を開発することを目的とする研究である。対象地域は、中国北部(内モンゴル自治区奈曼旗(ないまんき))、西オーストラリア州カルグールリーとしている。
 奈蔓旗においては、平成7年度には自然条件、社会経済条件、衛星データによる砂漠化進行状況の把握等の基礎調査が行われており、平成8年度には、放牧草地における草地改良試験、固砂植物の播種、砂丘固定技術等の植生回復試験を開始し、その適用効果の検討を行う。中国側(中国科学院、中国農業部)は、事業化へ結び付けることが可能な本課題のような基礎的研究に強く期待している。

○具体的な技術開発等が行われた

1 電気自動車(エコビークル)の開発評価

−地球温暖化対策技術の総合評価に関する研究−
 研究代表者:石谷 久(東京大学)
 研究期間 :平成6年度〜8年度(継続中)
 発表   :地球の温暖化 11月11日(月)午前
 概要   :
 本研究は、温室効果ガス排出構造をライフスタイル的視点から把握した上で多岐にわたる対策技術から効果の期待される重点技術を抽出し、温暖化対策を効率的に進めるために多様な面から評価を行っている。
 本研究のサブテーマにおいて、交通分野における重点対策として電気自動車(エコビークル)の開発及びその評価を行っている。エコビークルは、1)新しい発想のフレーム(バッテリーを車両のフレームに内蔵)、2)新しい駆動システム(モーターと駆動輪を一体化)等の新技術を電気自動車のために開発するものである。現在、試作車両レベルまで行われており、今後、その具体的な評価が行われる予定である。

2 アジア太平洋地域温暖化対策分析モデル(AIM)の開発

−アジア太平洋地域における温暖化対策分析モデル(AIM)の開発に関する
 途上国等共同研究−
 研究代表者:森田恒幸(環境庁国立環境研究所)
 研究期間 :平成6年度〜8年度(継続中)
 発表   :地球の温暖化(影響・対策) 11月11日(月)午後
 概要   :
 AIMモデルは、温室効果ガスの排出、気候変化、温暖化影響の全プロセスを統合した大規模なモデルであり、温室効果ガスの排出抑制のみならず温暖化影響を総合的に勘案して政策を評価することを目的として開発されている。これらのモデルは、国別の詳細なモデルが世界モデルにより相互に調整される仕組みになっており、各国の政策とアジア太平洋地域の協調政策、さらには地球的視点からの政策との関わりが体系的に分析できるため、この地域の共通の政策分析ツールとなることが期待される。
 これまで、中国、韓国、インド等アジア太平洋地域における主要国の温室効果ガス排出モデルの開発、水資源変化、植生変化、マラリアリスクなどの健康影響等の影響モデルを開発し、現在、農業影響モデル、食料需給モデルなど温暖化影響モデルの開発をすすめている。
 これらの研究は、米国、オランダ、オーストリア等の研究機関とも共同研究を進めており、平成9年3月に日本で開催されるIPCCの総合評価モデルワークショップにおいて、専門的な見地からの議論が予定されている。今後、国際的な温暖化政策評価モデルの代表的モデルのひとつとなることが期待されている。

3 ADEOS衛星「みどり」の衛星搭載大気センサーデータの解析技術の開発

−オゾン層破壊関連大気微量物質の衛星利用遠隔計測に関する研究−
 研究代表者:笹野泰弘(環境庁国立環境研究所)
 研究期間 :平成7年度〜9年度(継続中)
 発表   :オゾン層の破壊分野 11月12日(火)午後
 概要   :
 本研究は、人工衛星を用いた遠隔計測によるオゾンおよびオゾン層破壊関連物質の高精度の観測を目的として、太陽掩蔽法によるエアロゾル/極成層圏雲の導出手法の研究及び地上衛星間レーザー長光路吸収法によるオゾン等の観測研究を行うこととしている。
 特に、太陽掩蔽法によるエアロゾル/極成層圏雲の識別と、それらの粒径分布、表面積等の高次情報の高精度導出方法の開発は、今年8月に打ち上げられたADEOS衛星(「みどり」)に搭載されている改良型大気周縁赤外分光計(ILAS)等を用いた測定データの解析に適用されることが期待されている。さらに求められたデータを用いて、オゾン層破壊の実態解明に資する研究を行う予定である。

○地球変動がヒトの健康に及ぼす影響に関する研究

1 紫外線の増加に伴う影響

−紫外線の増加が人の健康に及ぼす影響に関する研究−
 研究代表者:渡辺 昌(厚生省国立がんセンター研究所)
 研究期間 :平成5年度〜7年度(平成7年度で終了)
 発表   :オゾン層の破壊分野 11月12日(火)午後
 概要   :
 本研究では、オゾン層の破壊に伴って増加が予想される紫外線による生体影響を予測することを目的とし、地域による紫外線照射量の違いによる皮膚病変、眼科的疾患、免疫能の違いを総合的に調査研究するとともに、その相違が紫外線の影響によることを科学的な裏付けをもって実証した。
 北海道、秋田県、長野県、茨城県、石川県、兵庫県、宮崎県、沖縄県などにおいて皮膚検診あるいは、眼科検診を行い、有病率の判定が可能な数を得た。特に皮膚癌は紫外線の照射量が大きい地域での有病率が高い傾向にあることが判明し、UV-Bの作用による遺伝子変異についても解析が進められた。同時に、ライフスタイルによって紫外線暴露量に差異があるらしいことが判明し、生体暴露指標を作成する基礎的データが整った。眼科疾患については、これまで紫外線影響が予想されていた白内障のほかに翼状片についても影響があることがわかり、国際的な比較調査に発展している。また、紫外線照射量の増加が免疫能の低下をきたすメカニズムについても解明がすすむとともに、ウイルスが活性化する可能性が発見され紫外線増加によりウイルスに感染しやすくなる可能性についてのメカニズムが明らかになってきた。

2 地球温暖化に伴う影響

−地球温暖化による人類の生存環境と環境リスクに関する研究−
 研究代表者:安藤 満(環境庁国立環境研究所)
 研究期間 :平成5年度〜7年度(平成7年度で終了)
 発表   :地球の温暖化(影響・対策)分野 11月11日(月)午前
 概要   :
 本研究では、日本および中国における地球の温暖化による健康へのリスクを予測するため、夏の気温と救急患者発生の関係について検討したものである。東京では、平均気温が27℃、最高気温が32℃を超えると、熱射病患者の発生が指数関数的に急増し、その他内分泌系、免疫系の疾患も増加することが明らかになった。
 中国においても、閾値温度の違いはあるが、気温と熱射病患者の発生の間には指数関数的関係があり、地球の温暖化に伴う健康影響を予測する上で重要な知見が得られた。
 また、マラリアの発生について、媒介蚊を含めた感染サイクルを詳細に調査し、マラリアの発生と気温の上昇の間には密接な関係があることがわかり、温暖化によるマラリアの感染の拡大が予測されるとともに、その対策のための基礎的な知見が得られた。

○国際的な研究プロジェクトへの貢献

1 地球圏ー生物圏国際共同研究計画(IGBP)

−シベリア凍土地帯における温暖化フィードバックの評価に関する研究−
 研究代表者:井上 元(環境庁国立環境研究所)
 研究期間 :平成6年度〜8年度(継続中
 発表   :地球の温暖化(現象解明)分野 11月12日(火)午前
 概要   :
 本研究は、現在シベリアの自然が二酸化炭素やメタンの地球規模での変動に及ぼす影響を明らかにすること、シベリアにおいてはすでに気候変動が起こっているという指摘がありこれらを明らかにすることを目的としている。
 地球温暖化に対して北ユーラシア(シベリア)が重要なポイントであることは、従前から指摘されていたが、研究がほとんど行われていない空白地域でもあった。そこで、国際的な研究計画の一つである「地球圏ー生物圏国際共同研究計画(IGBP)」においては、国際的研究計画の一つとして「IGBPー北ユーラシア研究」を開始することとなった。本研究は、平成7年11月に日本で開催された「IGBPー北ユーラシア研究国際会議」において中心的役割を担い、国際的に高い評価を受けた。

−人工衛星を用いた東南アジア地域の地表面被覆分布図の作成に関する研究−
 研究代表者:安岡善文(環境庁国立環境研究所)
 研究期間 :平成6年度〜8年度(継続中)
 発表   :熱帯林の減少分野 11月15日(金)午後
 概要   :
 本研究では、1970年代、1980年代、1990年代の人工衛星データを用いて各年代の植生分布を中心とした土地被覆分布図を作成し、さらにこの間における東南アジア地域の植生分布を中心とした土地被覆状況の変化を定量的に評価することを目的としている。
 本研究は、IGBPプロジェクトとして実施されており、使用する人工衛星データは日米科学技術協力協定によりNASAから提供されている。
 平成7年度には、1990〜1993年のLANDSATからのデータ約200シーンを入手し、処理をおこなった。平成8年度には1980年代、平成9年度には1970年代のデータを入手し、1970〜1990年約20年間の分類図を作成することとしている。

2 人間的次元研究計画(IHDP)

−地球環境保全に関する土地利用・被覆変化研究−
 研究代表者:大坪国順(環境庁国立環境研究所)
 研究期間 :平成7年度〜9年度(継続中)
 発表   :人間・社会的側面からみた地球環境問題分野 11月14日(木)午前
 概要   :
 国際社会科学協議会(ISSC)は、1990年に地球環境変化の人間的側面研究計画(IHDP)を発足させ、アメリカにおいても米国地球変動研究計画が人間・社会的側面からみた地球環境問題研究の科学的優先課題を選定するなど、世界的に地球環境問題に対する社会科学的手法によるアプローチに関する研究の重要性が認識されてきた
 こういった背景のなか、本研究では、IHDPの重要な研究プロジェクトの一つである土地利用・土地被覆変化研究(LUCC)に対して、アジア太平洋地域における土地利用とその誘導因子に関する経緯データの整備とそれに基づいた土地利用変化の長期予測を目的とした研究を行っている。特に、中国、インドネシア、タイにおけるデータセットの整備に力を入れている。これらは、日本におけるIHDPの窓口である日本学術会議/LUCC小委員会とも連携をとって研究がすすめられている。




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