平成26年10月9日
自然環境

モニタリングサイト1000陸水域調査(湖沼・湿原)2009-2013年度とりまとめ報告書の公表について(お知らせ)

 環境省生物多様性センターでは、モニタリングサイト1000事業の一つとして実施している陸水域調査(湖沼・湿原)について、はじめての5年に1度のとりまとめを実施しました。湖沼では、動植物プランクトン調査、深底部に生息する甲殻類やミミズ類等の底生動物調査、ヨシを中心とした湖辺植生調査を実施しており、湿原では、湿原植生調査や地温や地下水位等の物理環境調査、定点撮影調査を実施しております。
 2009-2013年度調査の5年間のとりまとめから、陸水域生態系の長期的な変化をとらえるための基盤となるデータが収集できました。湖沼調査では、植物プランクトンの量を示す指標であるクロロフィルa量の調査において、全体的に透明度が低いほど、クロロフィルa量は高い値を示す傾向が認められ、両者には強い負の相関があることがわかりました。湿原調査の植生調査においては経年的な変化は認められませんでしたが、ほぼすべてのサイトにおいてシカの増加によると考えられる湿原環境の悪化がみられており、今後もシカによる湿原植生への影響を注意深く見ていく必要があります。
 生態系の長期的な変化をとらえるためには、モニタリングを実施するための体制を維持し続けることが重要であることから、今後はより効果的、効率的な調査方法や調査体制等について検討する必要があると考えられます。

1.モニタリングサイト1000陸水域調査

モニタリングサイト1000(重要生態系監視地域調査)はわが国を代表する様々な生態系の変化状況を把握し、生物多様性保全施策への活用に資することを目的とした調査で、全国約1,000箇所のモニタリングサイトにおいて、2003(平成15)年度から長期継続的に実施しています。

 陸水域調査は、湖沼及び湿原生態系を対象として2009(平成21)年度から調査を開始しました。調査は各分野の専門家により行われており、2013(平成25)年度までに湖沼生態系では計8サイト(図1)において、動植物プランクトン調査、底生動物調査、湖辺植生調査を実施し、湿原生態系では計4サイト(図2)において、植生調査、物理環境調査、定点撮影調査を実施しています。

2.とりまとめの方法

モニタリングサイト1000は5年に1度を節目として、生態系毎にそれまでの調査成果をとりまとめることとしています。陸水域調査では、2013(平成25)年度に調査開始5年目を迎えたことから、はじめてのとりまとめを実施しました。今回のとりまとめでは、過去5年間で得られたデータから各サイトにおける生物多様性の状況についてまとめ、長期的な変化をとらえるための基盤となる情報を整理しました。

3.とりまとめの結果

陸水域調査のとりまとめで明らかになった結果を以下に抜粋して示します。

 (1)湖沼生態系

湖沼生態系では、湖沼沖帯において、動植物プランクトン(図3)と深底部に生息する甲殻類やミミズ類等の底生動物(図4)、湖沼沿岸帯で、ヨシを中心とする湖辺植生を調査対象としてモニタリングを続けてきました。これまでに阿寒湖、伊豆沼、霞ヶ浦、木崎湖、琵琶湖、中海、宍道湖、池田湖の8サイトで調査を実施しました。

水域では植物プランクトンの量を示す指標となるクロロフィルaの濃度が環境指標として広く使われていることから、湖沼調査では、クロロフィルa量と透明度などの変化から、湖沼の富栄養化の進行をとらえることを目的の一つとしてきました。それらの変化を追うことで、湖沼生態系の基礎となる一次生産量の変化と富栄養化の状態を把握することができると考えられます。

調査の結果、クロロフィルa量は、平地に位置し複数の人口集中地区に近接する霞ヶ浦サイトでは数年にわたり高く、一方で周囲を山に囲まれ、周辺の人口が比較的少ないような阿寒湖サイトや琵琶湖(北湖)サイトでは低い傾向を示しました。また、全体的に透明度が低いほど、クロロフィルa量は高い値を示しており、両者には強い負の相関が認められることがわかりました。(図5)。

 (2)湿原生態系

湿原生態系では、これまでにサロベツ湿原、釧路湿原、八甲田山湿原、尾瀬ヶ原湿原の4サイトで調査を実施してきました。植生調査では、調査ライン上の植生の分布状況やその変化を調べていますが、いずれのサイトにおいてもこれまでの5年間で大きな変化はみられませんでした。

例えば釧路湿原サイトでは、高層湿原植生(図6)、低層湿原植生(図7)、湿地林(図8)の代表的な各植生型においてモニタリングを実施していますが、調査結果からは、年度による各方形区内の出現種数や優占種群の量に顕著な違いは認められませんでした。

一方で各サイトの現況をみると、湿原環境悪化の兆候が見られました。例えばサロベツ湿原サイトにおいては、湿原内でのササの分布拡大が認められました。ササの分布拡大は、湿地における乾燥化の進行に伴い起こるものであり、湿地環境に適応している植物種の減少等、湿原環境の悪化を示す兆候であると言えます。そのため、今後の動向を引き続きモニタリングしていく必要があります。

これとは別に、八甲田山湿原を除くサロベツ湿原、釧路湿原、尾瀬ヶ原湿原の各サイトにおいては、シカの増加によると考えられる湿原環境の悪化がみられました。具体的には、シカによる採食の痕跡やシカが泥浴びをする「ヌタ場」の拡大が認められており、今後もシカの増加による湿原植生への影響を注意深く見てゆく必要があります。

添付資料

連絡先
環境省自然環境局生物多様性センター
直通:0555-72-6033
センター長:中山 隆治
生態系監視科長:佐藤 直人
主任技術専門員:高久 宏佑