第2部 環境政策の基本方針
第1節 基本的考え方
これまで人類は、環境から種々の恵沢を享受する一方で、環境に様々な影響を与えながら生活を営んできた。環境は、生態系が微妙な均衡を保つことにより成り立っており、人類の存続の基盤である。この限りある環境は、ひとり人類のみならずすべての生命を育む母胎であるとともに、人類は、この生存の基盤としての環境を将来の世代と共有している。
しかしながら、近年における人口増加や人類の活動の拡大・高度化に伴う資源採取及び不用物の排出の増大等は環境の持つ復元能力を超え、公害や自然破壊をはじめとする環境問題が生じた。これは、従来の農耕文明から、産業革命以降の工業文明へと進み、さらには、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式が定着し、人間活動が飛躍的に拡大した結果に他ならない。今日の人間の活動による環境への負荷の集積は、地域の環境にとどまらず、人類の生存基盤として一体不可分である地球環境に取り返しのつかない影響を及ぼすおそれが生じてきており、次の世代への影響も懸念されるまでになっている。
環境の持つ特性やその価値の全貌については、いまだ人類のうかがい知れない多くの部分が存在するが、地球環境が損なわれつつあるとの懸念や環境保全のための予防的方策をとる必要があるとの認識は国際的に共通のものとなり、世界各国は、持続可能な開発を進めていく必要性を認識する点で一致している。これまで地球環境に大きな負荷を与えてきた我が国をはじめとする先進国としては、現代の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済活動や生活様式の在り方を問い直し、生産と消費のパターンを持続可能なものに変えていく必要がある。さらに、先進国が互いに協調を図りつつ、グローバルパートナーシップの下、途上国の実情に即した支援を積極的に行うなど、国際的取組を進めることが必要である。我が国では、物質的な豊かさのみの追求が環境の危機を招いているとの認識が深まり、あらゆる主体が、環境を保全するために必要な行動をとろうとの機運の高まりが見られる。経済社会システムや生活様式の変革には痛みも伴うものであるが、あらゆる者が、公平な役割分担の下に、環境と経済の統合に向けた変革に取り組んでいかなければならない。
我々は、健全で恵み豊かな環境が人間の健康で文化的な生活に不可欠であることにかんがみ、環境の恵沢を現在及び将来の世代が享受できるようにしていかなければならない。同時に、人類共有の生存基盤である有限な地球環境は、将来にわたってこれを維持していかなければならない。その際には、自然の摂理と共に生きた先人の知恵も受け継ぎつつ、現代の文明のあり方を問い直し、生産と消費のパターンを持続可能なものに変えていくことが肝要である。