環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書>平成26年度 環境の状況  平成26年度 循環型社会の形成の状況  平成26年度 生物の多様性の状況>第1部 総合的な施策等に関する報告>第1章 環境・経済・社会の現状と、持続可能な地域づくりに向けて>第1節 社会経済の変化と課題

平成26年度 環境の状況
平成26年度 循環型社会の形成の状況
平成26年度 生物の多様性の状況
第1部 総合的な施策等に関する報告

第1章 環境・経済・社会の現状と、持続可能な地域づくりに向けて

 環境問題は、人類の生存や繁栄において緊急の課題です。地球温暖化、資源の枯渇、生物多様性の減少など、人類の生存基盤に関わる環境問題は悪化の一途をたどっています。こうした環境問題は、人間の生活や経済社会活動等により意識的又は無意識的に生じていることから、こうした人間の活動を規定する経済社会システムに環境配慮を織り込むことが重要です。

 他方、我が国では現在、人口減少や高齢化、グローバル化が急速に進む中で、社会保障費の増加や財政赤字の拡大、国際競争の激化や化石燃料の輸入増加に伴う貿易収支の悪化など、様々な経済・社会的課題が生じています。特に地方では、人口減少や高齢化、グローバル化による影響が深刻で、過疎化や地域経済の縮小等が懸念されています。こうした経済・社会的課題は、地方における環境問題とも密接に関係しています。例えば、人の自然に対する働き掛けが縮小することによって、里地里山の荒廃が進んでおり、それが鳥獣被害の増加を通じて、営農意欲の低下を招いています。また市街地の拡散は、自動車走行量の増大等を通じてCO2排出量を増加させて、地球温暖化を進行させるとともに、中心市街地の衰退等の経済・社会的課題の発生にもつながっています。

 このように環境、経済、社会の課題がそれぞれ深刻化する中で、経済社会システム等に環境配慮を織り込む上では、環境保全上の効果を最大限に発揮できるようにすることに加え、経済・社会的課題の解決にも資する効果を持たせるように政策を発想・構築することで、環境、経済、社会を統合的に向上させる視点が重要であり、特に環境、経済、社会の課題が密接に関係する地方においては、一層重要になると考えられます。

 本章では、まず我が国の地域における経済・社会的課題や変化について概観します。その後、こうした課題や変化と環境との関わりを明らかにします。さらに、こうした環境、経済、社会の課題を解決していくことを意識した、持続可能な国や地域の姿を示し、これを実現していく上で、環境問題を解決する取組が、地域経済や地域社会の課題解決にも資することを、第2章以降で紹介していくこととします。

第1節 社会経済の変化と課題

 地方自治体を対象にしたアンケート調査によれば、「現在直面している政策課題で、特に優先度の高いと考えられるもの」として、「少子化・高齢化の進行」や「人口減少や若者流出」、「中心市街地の衰退」などが多く回答されています。これらの課題の優先度には、人口規模によって差異が見られ、人口減少や若者の流出については、小規模な市町村ほど課題になっていることが分かります(図1-1-1)。

 本節では、こうした幾つかの課題について、その概況を見ていきます。

図1-1-1 地域が現在直面している政策課題で、特に優先度が高いと考えられるもの(複数回答可、人口規模別)

1 人口減少・高齢化の状況と東京一極集中

 我が国は、平成20年をピークに人口減少に転じました。出生数は昭和50年から減少傾向にあり、平成25年の合計特殊出生率は1.43となっています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、我が国の総人口は2060年(平成72年)に8,674万人まで、生産年齢人口(15~64歳)は4,418万人まで減少する一方で、65歳以上の高齢者人口は3,464万人へと増加し、総人口に占める割合は39.9%に上ることが予想されています。また、平成37年には、特に人口規模が大きい世代である「団塊の世代」が、後期高齢者である75歳以上を迎え、後期高齢者人口は2,179万人に上り、総人口に占める割合は18%になると予想されています。

 三大都市圏以外の地域(以下「地方圏」という。)と東京圏との人口移動の状況を見ると、15~24歳の若者を中心に、東京圏は、地方圏からの大幅な転入超過が続いています。また、25~29歳及び30歳代も、2000年代以降は、それまでの東京圏の転出超過から転入超過に転じています(図1-1-2)。政府の「東京在住者の今後の移住に関する意向調査」によると、東京在住者の4割が地方への移住を検討している又は今後検討したいと考えているものの、「地方へ移住する上での不安・懸念点」として、雇用先の有無や、日常生活・公共交通の利便性を挙げる人が多くなっています。このように、地方圏全体として見ると、出生率低下による「自然減少」だけでなく、若者の転出による「社会減少」及び高齢化が同時に生じており、結果的に、国全体で見たときよりも人口減少・高齢化が急速に進んでいると言うことができます。

図1-1-2 東京圏における年齢別転入・転出超過数の推移

2 都市のスプロール化と中心市街地の衰退

 我が国では戦後、人口増加等を背景に、急激な都市化が進展しました。その一方で、我が国の都市では、その都市構造の特徴として、低密度の市街地が郊外に薄く広がってゆく「市街地の拡散」が進みました。都市内部におけるビルや住宅、商店が立ち並んでいる都市的地域を表す「人口集中地区」(以下「DID」(Densely Inhabited District)という。)の人口密度は、特に地方圏において、直近に至るまで低下し続けています(図1-1-3)。市街地の拡散の度合いが大きくなっている都市は、道路の整備が進んでいる傾向にあります(図1-1-4)。

図1-1-3 DID人口密度の推移

図1-1-4 一人当たりの道路の長さ(改良済都市計画道路延長)とDID人口密度の関係(人口20万人以上の都市)

 こうした拡散型の市街地を有する都市は、集約型の都市に比べ、道路や上下水道などの社会インフラの建設・維持管理・更新費用、廃棄物処理施設の収集運搬費用等がより多く必要になるため、行政コスト増加の一因となっていると考えられます。さらに、今後、市街地が拡散したまま人口が減少していけば、インフラの維持管理費用などの一人当たりの行政コストは増加するおそれがあります。

 また、経済面では、市街地の拡散により、いわゆるロードサイド型店舗など郊外型店舗の売上比率が高くなる一方、中心市街地の売上げが低下し、中心市街地の衰退が進んでいます(図1-1-5)。

図1-1-5 DID人口密度と中心市街地の売上比率(都道府県別)

 さらに、社会面では、平成18年版環境白書でも取り上げたように、拡散型の市街地を有する都市においては自動車への依存度が高くなっています。しかし、高齢化の進行に伴い、自動車の運転が困難になる人々が増えているにもかかわらず(図1-1-6)、地方圏では、平成25年度に地域鉄道の74%、民間の乗合バス事業者の71%が赤字となっており、路線廃止が増加しています。この結果、高齢者の外出手段が更に限られ、いわゆる買い物弱者の増加等が社会問題化しています。これに加えて、自動車への依存度が高くなると、運動量が減少することにより健康にも影響を及ぼす可能性があります。自動車分担率が高い都市は、介護保険法に基づく重い介護の認定(要介護3以上)を受けた人の割合が高くなっています(図1-1-7)。

図1-1-6 高齢者の主な外出手段

図1-1-7 自動車分担率と重い介護を必要とする人々の割合の関係

3 経済構造の変化

(1)グローバル化と産業構造の変化

 人口減少に伴い、国内需要の減少が予想されるとともに、経済のグローバル化が進み、新興国との競争が激化する中で、特に国際競争力を有する我が国の製造業は、主に海外現地市場を獲得するため、又は人件費等の生産コストを下げるため、海外生産比率を高めています。さらに、内閣府の「日本経済2012-2013」では、近年海外生産移転が加速している要因として、リーマンショック後の円高の急速な進行や、新興国における技術水準の向上が挙げられています。内閣府「平成26年度企業行動に関するアンケート調査」によれば、製造業の海外現地生産比率について、平成26年度の実績見込みは22.9%を超え、平成31年度にはその見通しが26.2%に達しており、今後も製造業の海外移転は一層進むと考えられています(図1-1-8)。

図1-1-8 製造業の海外現地生産比率の推移と見通し

 また、所得水準の上昇に伴う必需財から選択的消費への消費の変化(家計消費支出のサービス化)や、産業の高度化(対事業所サービス業の増加等)等に伴い、多くの先進国と同様、我が国の産業構造も第三次産業、サービス産業へと移行しています(図1-1-9)。我が国における平成22年の国内総生産(以下「GDP」という。)に占める第三次産業の割合は75.4%に上り、就業人口に占める割合も66.5%と増加傾向にあります。

図1-1-9 家計消費の支出構造の変化

 しかし、近年地方圏では、製造業が地域内総生産(以下「GRP」という。)に占める割合が、三大都市圏(以下「大都市圏」という。)に比べて高くなっており、前述の海外移転が進んだ場合、その影響を大きく受ける可能性があります(図1-1-10)。平成14年と平成24年における国内の大規模な工場数の変化を見ると、都道府県によって増減数に差が見られ、減少数は地方圏よりも大都市圏の方が大きくなっています(図1-1-11)。しかし、特に企業城下町のように、特定の大企業の製造業の存在に地域経済が大きく依存している地域は、地方圏に多く見られ、こうした大規模な製造工場等の閉鎖等による雇用や税収へ影響が、非常に大きくなると考えられます。例えば、我が国の製造業の付加価値額がGDPに占める割合は、平成25年時点で18.4%ですが、これがGRPに占める割合が30%以上の市区町村のGRPが、地方圏、大都市圏それぞれのGRP合計額に占める割合は、大都市圏が19.0%、地方圏が25.2%となっており、地方圏の方が製造業に依存した地域が多いと言えます(図1-1-12)。

図1-1-10 三大都市圏と地方圏における産業構造の変化

図1-1-11 国内工場数の変化(従業員300人以上の事業所数、平成14年及び平成24年)

図1-1-12 製造業の規模が大きい市町村の割合と具体例

 また、農林水産業は、地方圏は大都市圏に比べてGRPに占める割合が高いものの、地方圏のGRPに占める割合が大きく減少しています。地方圏は、大都市圏に比べて土地の広さに比較優位があり、農林水産業はその優位性を生かせる産業の一つであり、地域経済の自立的な発展を牽引する上では、高付加価値化等により、安価な輸入品と差別化を図るなどの競争力の強化が課題の一つとなっています。

 このように、製造業や農林水産業が地方圏のGRPに占める割合は大都市圏よりも高いものの、地方圏のGRPの7割以上は第三次産業であるサービス産業となっています。サービス産業における非正規雇用者数の増大等に伴い、我が国の非正規労働者比率は昭和63年の18.3%から、平成23年には36.7%へと約2倍に増加しました。政府が設置した「経済の好循環実現検討専門チーム」が平成25年に公表した中間報告では、こうした非正規雇用の拡大と長期化は、景気変動等への対応の一環として、人件費における固定費の削減が企業経営の大きな課題となる中で進行しており、賃金の低下、雇用の不安定化による消費の減少、未婚率の上昇、教育訓練の機会の減少等に伴う人的資本蓄積の停滞、社会的な不公平感の高まりなど、様々な経済・社会的問題の要因の一つとなっていることが指摘されています。

 サービス産業の中でも、就業者に占める非正規労働者の割合が大きい業種ほど、1時間当たり(総実労働時間当たり)の付加価値額(労働生産性)が低い傾向が見られます(図1-1-13)。こうした労働集約的で、1時間当たりの付加価値額が平均値未満である産業が、サービス産業の付加価値額に占める割合は、大都市圏よりも地方圏の方が大きくなっています(図1-1-14)。さらに地方圏では、人口減少や市街地の拡散に伴う人口密度の低下が進んでおり、サービス産業の労働生産性が一層低下することが懸念されます。こうした非正規雇用の増加など、人件費削減を通じた労働生産性の向上は、賃金の減少や消費の減少などにより、経済の悪循環を引き起こす要因となるため、サービス産業の高付加価値化を通じて生産性を向上させ、適切な賃金水準が確保できるようにすることが課題と言えます。

図1-1-13 非正規労働者比率と1時間当たり付加価値額の関係(産業別)

図1-1-14 サービス産業の付加価値額における各業種の割合

(2)経常収支の変化

 我が国の経常収支は、平成23年の東日本大震災以降に黒字幅が縮小しています(図1-1-15)。

図1-1-15 経常収支の推移

 その主な理由は、海外の債権等から生じる利子や配当金などの収支を示す所得収支の黒字幅は伸びているものの、輸出額がそれほど伸びない中で、原油価格の高騰、円安等の影響により、鉱物性燃料の輸入額が大きく増加したことで(平成26年の輸入額は約28兆円)、平成23年に貿易収支が赤字化し、その後赤字幅が拡大したことが挙げられます(図1-1-16図1-1-17)。こうしたエネルギー価格の上昇は、輸出価格と輸入価格の比率(輸出価格÷輸入価格)である交易条件の悪化を伴い、海外への所得流出の最大の要因となっています。特に、自動車利用率が高く、寒冷地も含まれる地方圏は、大都市圏に比べて家計に占めるエネルギー代金の支払額が多くなっており、地方圏を中心とした地域経済に与える影響は小さくないと考えられます(図1-1-18)。

図1-1-16 鉱物性燃料の輸入額の推移

図1-1-17 輸出額と輸入額の推移

図1-1-18 家計に占めるエネルギー代金の支払額

 このような経常収支の黒字幅の縮小は、平成26年度経済財政白書で述べられているとおり、我が国の構造的な課題を改めて浮き彫りにしている側面があります。

 前述の鉱物性燃料の輸入価格上昇による所得流出の拡大や交易条件の悪化は、エネルギー効率(実質GDP当たりの一次エネルギー消費量)などが関係します。我が国のエネルギー効率は1990年(平成2年)と比べて2割近く改善していますが、諸外国に比べるとそれほど大きな改善ではありません(図1-1-19)。他方で、仮にその効率改善がなかったとすれば、鉱物性燃料の輸入額は、現在より更に約6兆円増加し、家計を始め地方経済に少なからず影響を与えていたと考えられます。

図1-1-19 主要国におけるエネルギー効率改善の推移

 また、経常収支の黒字幅の縮小と「供給制約」が関係するとの指摘があります。長期的には、我が国の経常収支の黒字幅は縮小するとの見方があります。今後、我が国では、高齢化の進展に伴い貯蓄を取り崩す家計の割合が高まって貯蓄率が減少し、生産年齢人口が減少するとの指摘がありますが、このことで、投資資金や労働力の供給制約が顕在化し、所得収支の源泉となる海外への投資や、各地域の工場等からの輸出の数量が伸びにくくなると考えられます。既に近年の財輸出では、数量よりも価格、すなわち、より高付加価値な製品で稼ぐ傾向が見られます。

旅行収支の変化

 経常収支の構成項目のうち、国際貨物・旅客の運賃や著作権の使用料等の収支であるサービス収支は一貫して赤字となっていますが、このうち、日本の旅行者が海外で支出する金額と、海外から日本への旅行者が日本で支出する金額との差である「旅行収支」を見ると、日本人の海外旅行者数の伸び悩みや、外国人旅行客の増加に伴いその消費が拡大していることなどから、近年赤字幅が大幅に縮小してきています。平成24年に閣議決定された「観光立国推進基本計画」に示されているとおり、観光は産業の裾野が極めて広く、総合戦略産業と言い得るものですが、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によれば、観光目的の外国人旅行客の訪問先は、現時点では東京都、大阪府、京都府などの大都市圏が上位を占めています。同調査によれば、「期待以上だった活動」のうち、「自然・景勝地観光」等の地方圏ならではの活動が高い割合となっており、今後地方圏においても外国人旅行客の訪問が増加する可能性があると考えられます。

旅行収支の推移

4 財政赤字の悪化

 我が国は、国と地方を合わせて、約1,300兆円という巨額の公債残高を抱えており(平成27年3月時点)、リーマンショック後の平成21年~25年の5年間で、国債残高は約200兆円増加しました。財務省の調査によれば、平成2年度末~26年度末にかけての公債残高増加額(約603兆円)のうち、高齢化の進行等に伴う社会保障関係費の増加(約210兆円)、地方財政の悪化に伴う財源不足の補填(てん)(地方交付税交付金等、約78兆円)、税収の減少の補填(てん)(約146兆円)の三つが、増加要因の約7割を占めるに至っています。

 最大の債務増加要因となっている社会保障について、平成24年度の給付費108.6兆円のうち、高齢者の健康に関わる「高齢者医療給付費」及び「老人福祉サービス給付費」は合計で約21兆円と、全体の約2割を占めており、年々増加しています。我が国は、世界で最も平均寿命が長い国の一つであり、こうした寿命の伸長により、健康で幸せに暮らせる時間が増えたとすれば、世界に誇るべき国の豊かさを表していると言えます。しかし、厚生労働省の調査によれば、我が国の平均寿命と健康寿命の差は10年前後存在しています。健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」であり、平均寿命との差は、日常生活に制限のある「不健康な期間」と言え、これが拡大すれば、ますます社会保障関係費の増加が懸念されます(図1-1-20)。

図1-1-20 平均寿命と健康寿命の差(平成25年度)

 地方の長期債務残高は、平成15年度末に約198兆円に達し、その後200兆円前後を横ばいで推移しています。しかし、地方交付税交付金の財源不足が継続しており、平成21年度以降は、財源不足の4割を、地方自治体自身が発行する臨時財政対策債(以下「臨財債」という。)で補填(てん)しています。その発行額は年々増加しており、平成25年度には2.6兆円に上っています。臨財債は、同地方自治体に将来交付される地方交付金から償還されますが、地方交付税の財源不足が今後も継続した場合、実質的に地方の長期債務残高は増加しているとも言えます。地方財政を地域別に見ると、人口規模により財政力の格差があることが分かります(図1-1-21)。この財政力指数とは、各地方自治体が合理的水準で行政事務を遂行するために必要な経費を、収入で割ったものであり、人口規模が小さいほど、財政力が脆(ぜい)弱であることが分かります。従来はこうした財政力が脆(ぜい)弱な地域においても、地方交付税交付金等による財政調整機能及び財源保障機能により、住民は一定水準の行政サービスを得られてきましたが、元来財政力が脆(ぜい)弱な小規模市町村においては、人口減少や高齢化による税収減により、財政運営の厳しさが一層増し、行政サービスの低下などが懸念されます。

図1-1-21 財政力指数と人口規模の関係

5 頻発する自然災害

 近年、短時間強雨や土砂災害頻度の増加、巨大地震の発生の切迫など、自然災害への懸念が高まっています。例えば土砂災害は、平成6年~15年に平均840件だった土砂災害発生数が、平成16年~25年には平均1,180件に増加しています(図1-1-22)。また、政府の地震調査委員会が平成27年1月現在、南海トラフでのマグニチュード8~9クラスの地震や、南関東地域直下でのプレート沈み込みに伴うマグニチュード7程度の地震が、今後30年以内に発生する確率は共に70%程度であると評価しています。

図1-1-22 豪雨と土砂災害の発生数の推移

 こうした自然災害が生じた場合、国と地方自治体が協力しながら復旧に当たっていきますが、一次的な災害応急対策(避難指示、人命救済等)を実施するのは、市区町村などの基礎自治体になります。また、それぞれの地域の特性に応じた防災対策を講じることや、災害時にも地域の住民生活に不可欠な通常業務を継続することも、各地方自治体に求められています。しかし、地方自治体における業務継続計画の策定率は、近年伸びているものの、平成25年8月時点で都道府県が60%、市町村が13%と低水準にとどまっています。

 他方、東日本大震災を受けて、行政が全ての被災者を迅速に支援することが難しいことや、行政自身が被災して機能が麻痺(ひ)するような事態が生じ得ることが明らかになったことから、地域コミュニティによる自助・共助を効果的に活用することが必要になっています。平成26年版防災白書によれば、地域の防災の要となる消防団員数は減少が続いている一方で、町内会・自治会などを中心とした、住民による自発的な防災組織である「自主防災組織」は増加しており、地域コミュニティの役割が重視されるようになっています。

6 低い幸福度、地域コミュニティの衰退

 我が国は平成26年度現在、世界で第3位のGDPを有する経済大国ですが、こうした国単位の経済的豊かさは、必ずしも国民生活の満足度の向上につながっていません(図1-1-23)。その理由は個人により様々ですが、その一つとして、経済的な要因が考えられます。厚生労働省の「平成25年国民生活基礎調査」によると、「生活が苦しい」と回答する世帯は59.9%と増加傾向にあり、世帯別では高齢者世帯が54.3%である一方、母子世帯は84.8%に上っています。

図1-1-23 一人当たりの実質GDPと生活満足度の推移

 我が国では、低所得者層が拡大しており、相対的貧困率(以下「貧困率」という。)が昭和63年の13.2%から、平成24年には16.1%へと上昇しており、約6人に1人が貧困線以下となっています。これは経済協力開発機構(OECD)加盟国のうち、米国に次ぐ貧困率の高さとなっています。こうした低所得者層の拡大は、世界上位の一人当たりのGDPを有するにもかかわらず、生活が苦しいと感じる割合が高まっている理由の一つとなっている可能性があります。

 一方、生活の満足度を考える上で、こうした経済的な側面に加え、生活の質を重視する傾向が高まっていることも重要な要素です。内閣府の「平成26年度国民生活に関する世論調査」によれば、今後の生活において、「まだまだ物質的な面で生活を豊かにすることに重きをおきたい」を選んだ割合が31%であるのに対し、「物質的にはある程度豊かになったので、これからは心の豊かさやゆとりのある生活をすることに重きをおきたい」を選んだ割合は63%へと上昇傾向にあります。例えば、現代の30歳代が「心の豊かさ」を選ぶ割合は、1980年(昭和55年)の30歳代と比べ15%以上増加しています。世代別で見ると、こうした「心の豊かさ」を重視する割合は、高齢になるほど高い一方で、内閣府の「平成25年若者の意識に関する調査」(13~29歳までを調査対象)によれば、現在の生活に満足している最大の理由として、「精神的な充実による(82.6%)」が「経済的豊かさによる(5.7%)」を大幅に上回っており、若者世代においても、精神的豊かさを重視する人が多いと考えられます。

 こうした心の豊かさを高める「生活の質」を含めて、「幸福度」を測ろうとする動きが、国際機関を中心にみられます。例えばOECDでは、「Better Life Index」という指標を作成し、OECD加盟国等36か国に対して順位付けを行っており、2014年(平成26年)に我が国は20位に位置付けられています。具体的に見ると、我が国はワークライフバランスや生活満足度、健康で低い評価となっています(表1-1-1)。

表1-1-1 OECDの幸福度指標「Better Life Index 2014」における日本の順位

 また、OECDの幸福度指標の一つに「コミュニティ」が挙げられているように、何か困ったときに頼りになる存在の有無は、生活の質を高める要素の一つと言えます。具体的には、まず家族・親戚や友人が、身近な存在として考えられますが、私的なつながりよりも範囲が広く、行政よりも身近な存在である「地域コミュニティ」も重要な存在です。自治会や町内会などの地縁に基づいた地域コミュニティは、住民同士の互助関係を構築し、冠婚葬祭や福祉など、個人や家庭が直面する課題の解決に貢献するほか、地域環境・自然環境の美化・保全、伝統文化の維持、子供の教育、地域全体の課題に対する意見調整など、様々な機能を果たしており、公的支援では担いきれない問題を解決する機能があります。

 こうした地縁型の地域コミュニティは、高齢化や自営業者の減少に伴うコミュニティの担い手の減少、商店街など中心市街地の衰退、職場・住居・余暇活動の空間が分離された都市構造、人口の流動化など様々な要因により、衰退していると言われています(図1-1-24)。

図1-1-24 町内会、自治会への参加頻度の変化