環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成27年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第2章 被災地の復興と持続可能な地域づくり>第1節 被災地の復興に向けた取組の進捗状況

第2章 被災地の復興と持続可能な地域づくり

 平成23年3月11日にマグニチュード9.0という日本周辺での観測史上最大の地震が発生し、それによって引き起こされた高い津波によって東北地方の太平洋沿岸を中心に広範かつ甚大な被害が生じました。また、震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故によって大量の放射性物質が環境中に放出され、今なお我が国にとって最大の環境問題となっています。

 東日本大震災の発生から4年が過ぎ、被災地では東日本大震災の被害を乗り越えるべく、様々な主体による生活再建に向けた懸命の努力が続けられています。中でも環境施策に関して、震災に伴って発生した災害廃棄物や津波堆積物については、被災地において仮設焼却炉を建設するなど最大限の処理を行うとともに、広域処理や積極的な再生利用が推し進められた結果、その処理はほぼ完了に至りました。一方、地域によっては、依然として高い放射線量が計測されているほか、被災地域は人口減少や風評被害等、社会的、経済的にも克服すべき課題を多く抱えています。国は、今後も引き続き、被災地の復興に向けた様々な取組を講じる前提として、被災地の人々の立場に立って考え、被災地の人々に寄り添い、親身になって説明、対応していきます。

 本章では、第1節で東日本大震災からの復興に向けた取組の最新の進捗状況を概観したのち、第2節では、復興に向けて環境だけでなく経済・社会的課題の解決に資する新たな地域づくりの取組や被災地域発の新たな活動・研究などの先進的な取組について紹介していきます。

第1節 被災地の復興に向けた取組の進捗状況

1 放射性物質汚染対処特措法に基づく取組の進捗状況

 東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故により、当該原子力発電所から放出された放射性物質由来の環境汚染が生じました。これに対応すべく、第177回国会において「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)が制定され、平成23年8月30日に公布、平成24年1月1日に全面施行されました。

 放射性物質汚染対処特措法は、[1]放射性物質に汚染された廃棄物の処理、及び[2]放射性物質に汚染された土壌等(草木、工作物等を含む)の除染等の措置等を据え、復興に向けた国・地方公共団体・関係者等の責務や協力体制等を定めています(図2-1-1)。以下では、放射性物質汚染対処特措法に基づく廃棄物処理、除染等の進捗状況について、それぞれ説明していきます。

図2-1-1 放射性物質汚染対処特措法の概要

(1)放射性物質に汚染された廃棄物の処理

 放射性物質汚染対処特措法では、安全に放射性物質に汚染された廃棄物の処理が行われるよう、遵守すべき処理基準を定めています(図2-1-2)。国が収集、運搬、保管及び処分を行う事故由来の放射性物質に汚染された廃棄物は「特定廃棄物」と呼ばれており、[1]環境大臣が、国がその地域内にある廃棄物の収集・運搬・保管及び処分を実施する必要があると指定した地域(以下「対策地域」という。)における「対策地域内廃棄物」、[2]対策地域内外にかかわらず、一定の濃度(事故由来放射性物質の濃度がセシウム134とセシウム137の合計で8,000ベクレル/kg)を超え、環境大臣が指定した「指定廃棄物」の二つで構成され、国が責任を持って処理を行うこととしています。

図2-1-2 放射性物質に汚染された廃棄物の処理基準

 以下では、国が放射性物質汚染対処特措法に基づいて処理を行っている福島県内の対策地域内廃棄物に関する取組及び福島県(対策地域外)を含む12都県における指定廃棄物に関する取組について、それぞれ進捗状況を紹介します。

ア 対策地域内廃棄物の処理

 平成27年3月末時点で、福島県の11市町村にまたがる地域が対策地域として定められています(図2-1-3)。平成24年6月に環境大臣が定めた「対策地域内廃棄物処理計画」について、平成25年9月の「福島県の災害廃棄物等の処理進捗状況についての総点検」を踏まえて、平成25年12月に一部改定を行いました。この改定によりこれまで把握できていなかった津波被災地域以外で発生する災害廃棄物の量を新たに加えるとともに、それまでの処理実績等を考慮し、災害廃棄物等発生量を精査したところ、11市町村合計で約80.2万トンの災害廃棄物等が存在すると推定し、処理計画の見直しを行いました。この量は、11市町村における平成20年度のごみ総排出量の合計の約13年分に相当します。

図2-1-3 対策地域内廃棄物の処理状況(平成27年3月末時点)

 これまでに避難されている方々の円滑な帰還を積極的に推進する観点から、年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であることが確認された避難指示解除準備区域及び年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難の継続を求める居住制限区域において、帰還の妨げとなる廃棄物を速やかに撤去し、仮置場に搬入することを優先目標としてきました。地域住民の方々のご理解と地方自治体との緊密な連携によって仮置場を設置し、平成27年2月末までに、災害廃棄物等発生量のうち約54%に当たる43.0万トンの搬入が完了しています(図2-1-4)。

図2-1-4 対策地域内の災害廃棄物等の仮置場への搬入済量

 また、可能な限り最終処分量を減らすことを目的として、廃棄物のうち再生利用が可能なものについては、放射線量の測定を行い、処理業者が受け入れ可能と確認した物について、その種類や量を把握し、引渡しを行っているところです。

 今後は、対策地域の中でも5年間を経過してもなお、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある、現時点で年間積算線量が50ミリシーベルト超の帰還困難区域に分布している災害廃棄物等について、廃棄物処理に従事する作業者の安全確保等の点に鑑み、当該地域における線量低減の見通しを見極めつつ、処理方針について検討していくこととしています。

イ 指定廃棄物の処理

 平成26年12月末時点において、焼却灰や下水汚泥、農林業系副産物(稲わら、堆肥等)など計約15.7万トンが指定廃棄物として環境大臣による指定を受けています(表2-1-1)。

表2-1-1 指定廃棄物の数量(平成26年12月31日時点)

 指定廃棄物は、現在は各都県のごみ焼却施設や下水処理施設、農地等において、各施設等の管理者等が国のガイドラインに沿って、遮水シートなどで厳重に覆って飛散・流出を防ぐとともに、空間線量率を測定して周辺への影響がないことを確認するなどにより、適切に一時保管されています。

 こうした一時保管場所における保管は、国による処理体制が構築されるまでの間、やむを得ず一時的に負担をお願いしている措置です。保管の長期化に伴って、ごみ焼却施設等の運転に必要なスペースを圧迫したり、また、下水汚泥や農林業系副産物などは、腐敗や臭気発生のおそれがあるなど、様々な課題が顕在化しています。加えて、長期的には自然災害等のリスクも懸念されることから、可能な限り早期に処理を行う必要があります。このため、政府としては、指定廃棄物の処理について、放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針(平成23年11月11日閣議決定)における「当該指定廃棄物が排出された都道府県内において行う」との考え方に基づき、各都県内の既存の廃棄物処理施設をできる限り活用することを検討することとされています。

(ア)福島県内での処理

 福島県内の指定廃棄物及び対策地域内廃棄物については、10万ベクレル/kg以下のものは富岡町にある既存の管理型処分場(フクシマエコテッククリーンセンター)、10万ベクレル/kg超のものは中間貯蔵施設に搬入する計画です。既存の管理型処分場の活用については、平成25年12月に環境大臣及び復興大臣が福島県を訪れ、中間貯蔵施設の設置と併せて受入の要請を行いました。その後、国は地元の富岡町及び楢葉(ならは)町の当局や議会への説明を経て、楢葉町では平成26年4月、富岡町では平成26年6月に住民説明会を開催しました。今後も引き続き、既存の管理型処分場の活用について地元のご理解が得られるよう、取り組んでいきます。

 また、下水汚泥や農林業系廃棄物などの腐敗性を有する指定廃棄物については、保管が長期化すると、腐敗や臭気発生などのおそれがあることから、性状を安定させ、保管スペースを確保する観点から焼却などの減容化事業に取り組んでいます。

(イ)福島県外での処理

 福島県外の指定廃棄物については、関係5県(宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県)それぞれにおける市町村長会議の開催を通じて処理施設の安全性や候補地の選定手法等に関する共通理解を醸成するとともに、有識者会議を開催し、処理施設の安全性を適切に確保するための対策や候補地の選定手順等について、科学的・技術的な観点からの検討も実施し、平成25年10月に処理施設の候補地を各県で選定するためのベースとなる案を取りまとめました。

 その後、宮城県、栃木県、千葉県において各県の実情を反映した選定手法がそれぞれの市町村長会議において確定し、宮城県においては平成26年1月に、栃木県においては平成26年7月に詳細調査を実施する候補地を公表し、特に宮城県においては平成26年8月下旬に詳細調査を開始しました。引き続き、県や市町村との意見交換等を重視し、指定廃棄物の処理が進められるよう丁寧に取り組んでいきます。

図2-1-5 放射性物質の流れ

福島県(避難区域を除く)における災害廃棄物・津波堆積物の処理進捗の状況

 東日本大震災の発生以降、大量に発生した災害廃棄物等(災害廃棄物が13道県で約2,000万トン、津波堆積物が6県で約1,100万トン発生)の処理が課題となっていました。しかし、被災自治体や関係者の努力や広域処理等の取組により、岩手県・宮城県を含めた12道県において、平成26年3月末までにそれらの処理を完了しました。

 残る福島県(避難区域を除く)では、現在でも懸命な処理が続けられており、災害廃棄物の処理割合は約94%(39市町村のうち33市町村で完了)、津波堆積物についても約94%(5市町のうち1市町で完了)(平成27年1月末現在)に至っています。加えて、4市町から要請を受けて実施している国による災害廃棄物(可燃物)の代行処理についても、平成26年11月に相馬市の仮設焼却炉における処理を完了するなど、着実に進捗しています。今後も引き続き、きめ細かな進捗管理を継続しつつ、各市町村と連携して、可能な限り早期の処理完了を目指していきます。

福島県(避難区域を除く)における災害廃棄物・津波堆積物の処理進捗の状況
(2)放射性物質に汚染された土壌等(草木、工作物等を含む)の除染等の措置等

 放射性物質汚染対処特措法は、除染の対象として除染特別地域と汚染状況重点調査地域を定めています。除染特別地域は、警戒区域又は計画的避難区域の指定を受けたことがある地域で、国が除染計画を策定し、除染事業を進めます。他方、汚染状況重点調査地域は、地域の空間放射線量が毎時0.23マイクロシーベルト以上の地域がある市町村について、当該市町村の意見を聴いた上で指定を行い、指定された市町村が除染実施計画を定め、除染実施区域を決定します。

ア 除染特別地域(国直轄事業)

 除染特別地域に指定されている福島県内の全11市町村では、除染計画の策定が完了し、順次除染作業を進めています(図2-1-6)。平成26年3月末までに田村市、楢葉町、川内村、大熊町の全体及び常磐自動車道については除染計画に基づく面的除染が終了し、同年夏までに葛尾(かつらお)村、川俣町の宅地部分について計画に基づく除染が終了しました(表2-1-2)。面的除染を終了した市町村においては、住民の方々の安心のために除染の効果が維持されているか確認することなどを目的に、事後のモニタリングを実施して、除染のフォローアップにも取り組んでいるところです。こうした施策によって、平成26年4月に田村市、10月に川内村の一部の避難指示が解除されました。

 残る市町村については、全域又は一部地域において除染作業中、若しくは作業実施に向けて準備を進めており、いずれも平成28年度内の除染終了を目指しています。

図2-1-6 除染特別地域における進捗状況(平成27年3月現在)

表2-1-2 除染特別地域における国直轄除染の進捗状況

イ 汚染状況重点調査地域(市町村等が除染等の措置を行う地域)

 平成27年2月末時点で、8県99市町村が指定されており、うち94市町村が除染実施計画を策定し、それぞれ除染作業に取り組んでいます(図2-1-7)。

図2-1-7 汚染状況重点調査地域における進捗状況(平成26年12月末時点)

 子供の生活環境を含む公共施設等については、福島県内、県外共に約8割以上進捗しており、予定した除染が終了に近づいています。その他、住宅、農地・牧草地、道路の除染についても、福島県内、県外共に約7割以上が発注されており、着実な除染の進捗が見られます(表2-1-3)。

表2-1-3 汚染状況重点調査地域における除染の進捗状況

 なお、福島県外の58市町村のうち、約8割の市町村は、除染等の措置の進捗について、完了(18市町村)又はおおむね完了(27市町村)としています。

常磐自動車道の除染

 常磐自動車道は、平成25年6月をもって除染作業を終了し、供用に向けた工事が進められてきたところ、平成26年2月には広野インターチェンジ(以下「IC」という。)~常磐富岡IC間が再開通、平成26年12月には山元IC~相馬IC間、南相馬IC~浪江IC間が開通、平成27年3月には浪江IC~常磐富岡IC間が再開通し、全線が開通しました。

常磐自動車道の再開通セレモニー

 浪江IC~常磐富岡IC間は、最も線量が高く、除染前に最大35.9マイクロシーベルト/hありましたが、平成27年1月27日時点で平均1.1マイクロシーベルト/h、最大でも4.8マイクロシーベルト/hとなり、「除染方針」(平成24年8月31日公表)の目標の空間線量率を大きく下回っていることを確認しました。これは国による除染作業に加え、東日本高速道路株式会社が実施した路盤の工事舗装による遮蔽(へい)効果等によるものです。なお、同IC間での一体的施工により約9,000m3の除去土壌等の発生が削減できたと試算されました。平成26年12月に開通した浪江IC~南相馬IC間では約5,000m3の除去土壌の発生が削減できたと試算されていることから、合計で約14,000m3が削減できたことになります。

除染とインフラ復旧・整備工事の一体的施工

除染の成果を広く知っていただくために

 平成26年11月19日、福島県浪江町・川俣町・飯舘(いいたて)村から、除染後の水田で収穫された新米が届きました。これらのお米は、営農再開に向けた作付け試験で収穫されたもので、米の全量全袋検査の結果、食品衛生法の定める基準値(100ベクレル/kg)を大きく下回りました。当日は、望月環境大臣が浪江町の馬場町長などをお迎えし、同町で4年ぶりに収穫されたお米の安全性や美味しさを一緒にPRしました。なお、浪江町のお米は、昨年度に引き続いて提供された川俣町と飯舘村の作付け試験米とともに、環境省が入る中央合同庁舎第5号館の職員食堂で提供されました。

浪江町の方々と米の安全性とおいしさをPR

 また国では、除染情報プラザや除染情報サイト等を活用して積極的に除染や放射線について情報発信を行い、除染等への理解の醸成に努めています。加えて、我が国の除染活動に対する国際社会の関心は非常に高く、米国や仏国等との二国間の枠組みや、国際原子力機関(IAEA)等の国際機関との連携・協力を通じ、除染に関する様々な経験・知見を共有しています。

除染情報サイト
(3)中間貯蔵施設の整備に向けた取組

 福島県内で発生した除染に伴う土壌や廃棄物等の中間貯蔵施設の整備については、中間貯蔵施設の設置候補地におけるボーリング調査の実施や、学識経験者からなる検討会での議論等を踏まえて、平成25年12月に福島県並びに楢葉町、富岡町、大熊町及び双葉町に対して、中間貯蔵施設の設置等の案を提示して受入れの要請を行いました。この案について、平成26年2月に福島県知事より、中間貯蔵施設については大熊町及び双葉町に集約することなどの見直しの申入れを受け、この申入れについて、国として慎重に検討し、3月に計画面積を変えることなく、中間貯蔵施設を大熊町及び双葉町に集約するなどの回答を行いました。

 その後、5月から住民説明会(全16回(福島県内10回、県外6回))を開催し、そこで頂いた意見を踏まえた政府の取組を福島県・大熊町・双葉町に提示しました。9月1日に福島県知事より中間貯蔵施設の建設受入れを容認する旨、及び大熊町長並びに双葉町長より地権者への説明を了承する旨の意向をそれぞれ得たほか、同時に県外最終処分の法制化等、施設への搬入の開始に当たって確認が必要な5項目が示されました。

 地権者説明会(全12回(福島県内9回、県外3回))については、9月から10月にかけて開催し、説明会終了後、連絡先を把握できた方に順次連絡を取り、個別訪問等を含めた丁寧な説明を行うとともに、地権者の皆様の御理解の下での物件調査等に着手しました。

 5項目への取組のうち、11月には、県外最終処分の法制化に対応する日本環境安全事業株式会社法(平成15年法律第44号)の一部の改正を行いました。この改正では、日本環境安全事業株式会社は社名を「中間貯蔵・環境安全事業株式会社」に変更し、有害物質の処分等に実績を持ち、その知見と経験と生かして国と一体となって事業を支援する組織として、最終処分までの間、国等の委託を受けて中間貯蔵に係る事業等を行うこととなりました。また同改正において、国は中間貯蔵施設に関する国の責務を規定し、「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」ことを明文化しました。

 中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送については、関係機関からなる輸送連絡調整会議を開催し、市町村等からの意見も踏まえて、平成26年11月に輸送基本計画を、平成27年1月に輸送実施計画を取りまとめ、本格的な搬入に向けて、安全かつ確実に輸送を実施できることを確認するため、概ね1年程度パイロット輸送を行うこととしました。さらに、2月3日には中間貯蔵施設敷地内の保管場工事に着手しました。

 極めて自由度が高い中間貯蔵施設等に係る交付金等については、他の復興施策ともあいまって、中間貯蔵施設の整備等による影響を緩和するため、中間貯蔵施設候補地の敷地内外の住民が生活再建を進めていくとともに、大熊・双葉両町を始めとする地域や県が主体的にしっかりと地域振興に取り組むことができるよう必要な措置を講ずるための基盤を整えることなどを目的として、平成26年度補正予算及び平成27年度本予算に計上しました(同補正予算については本年2月3日に成立)。

 また、平成26年12月に大熊町から、平成27年1月に双葉町から建設の受入れ表明を受け、2月8日に環境・復興両大臣が福島県知事と面会し、搬入開始に当たって確認が必要な5項目に係る取組状況等を説明しました。2月25日、福島県並びに大熊町及び双葉町から搬入の受入れについて国に伝達があり、福島県、大熊町及び双葉町並びに環境省の間で安全協定を締結しました。同日に、大熊町及び双葉町から搬入開始を3月12日以降にすること等について申入れがありました。

 この申入れを重く受け止め、3月13日、大熊町の仮置場から中間貯蔵施設内の保管場にパイロット輸送による搬入を開始し、3月25日には、双葉町の仮置場から搬入を開始しました。

 これらの取組と並行して、環境省として連絡先を把握している全ての地権者に連絡を取り、順次個別訪問や物件調査等を進めるとともに、連絡先が不明の地権者についても戸籍簿等による調査を進めてきました。今後も、地権者を始めとした地元の方々への丁寧な説明を尽くし、その御理解を得ながら、安全に万全を期して中間貯蔵施設の整備や施設への除去土壌等の搬入を進めていきます。

図2-1-8 中間貯蔵施設の配置図(案)

2 原子力災害からの復興に向けた取組

(1)福島県における健康管理・健康不安対策

 東京電力福島第一原子力発電所の事故により環境中に放出された放射性物質は広範囲に拡散しました。福島県民の皆様の中長期的な健康管理を可能とするため、国は、福島県が平成23年度に創設した「福島県民健康管理基金」に交付金を拠出するなど、県を財政的、技術的に支援しています(図2-1-9)。

図2-1-9 国による福島県の取組への支援(概要)

ア 県民健康調査事業―福島県民一人一人の健康状態の把握と健康の維持・増進のために

 福島県では、東京電力福島第一原子力発電所事故による放射性物質の拡散や住民の避難等を踏まえ、県民の被ばく線量の評価を行うとともに、健康状態を把握し、疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ることを目的として、平成23年6月から県民健康調査等を行っています(図2-1-10)。

 具体的には、[1]福島県の全県民を対象とした個々人の行動記録と線量率マップから外部被ばく線量を推計する基本調査、[2]「甲状腺検査」、「健康診査」、「こころの健康度・生活習慣に関する調査」、「妊産婦に関する調査」の四つからなる詳細調査を実施しています。また、県民一人一人が自らの健康に関する様々な調査や検査結果をまとめて記録・保存できるよう、県民健康管理ファイルの配布も行っています。

図2-1-10 県民健康調査等の概要(経過と結果)

イ リスクコミュニケーション活動―放射線に係る健康不安の軽減・解消のために

 今後、避難指示の解除等により住民の方々の帰還の本格化が見込まれる中、放射線による健康不安が十分に解消されたとは言えず、福島県及び近隣県の住民を対象として放射線による健康不安を軽減・解消することが課題となっています。国は、放射線による健康不安を抱える福島県及び近隣県の住民への対応として、正確な情報発信、住民の不安等に対応できる人材の育成などのリスクコミュニケーション活動を推進しています(図2-1-11)。また、帰還を選択した住民へ個人線量計を配布し、個人の被ばく線量の情報を提示するとともに、住民がその測定結果について専門家の丁寧な説明を受けられるような取組も行っています。

図2-1-11 リスクコミュニケーション活動の概要

(2)健康管理・健康不安対策の在り方に関する専門的な検討

 国は、福島県及び福島近隣県における事故後の健康管理の現状や課題等を把握し、今後の健康管理の在り方を医学的及び科学的な見地から検討するため、「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(以下「専門家会議」という。)を開催しました。計14回の専門家会議の議論を経て、専門家会議は、被ばく線量把握・評価、事故による放射線の影響を踏まえた健康管理に関する施策の在り方等に関し、平成26年12月22日に中間取りまとめを行いました。

 中間取りまとめにおいては、基本的な考え方として、国際的に採用されているLNTモデルを前提として、発がんを中心に被ばく線量に基づいた住民の健康リスクが検討されました。その結果、国連科学委員会(UNSCEAR)による「原発事故に伴う追加被ばくによる健康影響が自然のばらつきを超えて観察されることは予想されない」、「最も高い被ばく線量を受けた小児の集団においては、甲状腺がんのリスクが増加する可能性が理論的にはあり得る」という評価に同意するとしています。また、今後に向けて、従来から取り組まれているがん予防に関する保健活動や、全国がん登録等を活用した、がん等の罹(り)患動向のモニタリングが重要とし、福島県の県民健康調査「甲状腺検査」は充実が必要と提言しました。また、福島近隣県における甲状腺がんの不安を抱えた住民については、健康相談やリスクコミュニケーション事業によって丁寧な説明を行うことが重要としています。そのほか、原発事故による避難や不安等に伴う心身の影響については、各省庁が各々の取組を推進することが重要としています。環境省としては、この中間取りまとめを踏まえた「当面の施策の方向性」をパブリックコメントを経て平成27年2月27日に公表し、健康管理・健康不安対策を進めています。

(3)放射線モニタリングの実施

 環境中に放出された放射性物質について、そのモニタリングも確実かつきめ細かに実施する必要があります。国では、原子力災害対策本部の下に設置されたモニタリング調整会議において、総合モニタリング計画(平成23年8月2日モニタリング調整会議決定、平成26年4月1日改定)を策定しています。原子力規制委員会が総合調整機能を担い、関係府省、地方公共団体、原子力事業者等が連携して、放射線量及び放射性物質の分布状況の把握のほか、周辺住民の被ばく線量及び今後予想される被ばく線量の推定などを目的として、モニタリングを実施しています。放射線モニタリングの結果が得られた都度に、その内容について評価・解析を実施し、毎週一元的にホームページで公表しています(図2-1-12)。

図2-1-12 放射線モニタリング情報を提供するウェブサイト

 平成26年4月には、海域モニタリングの強化や住民の帰還に向けたモニタリングの実施を主旨とした計画の改定を行いました。時間の経過に伴い、モニタリング結果に大きな変動はなくなってきていますが、今後も必要なデータの収集に努め、国内外に分かりやすく情報提供します。