第2節 水問題解決に向けた取組

1 水資源の利用における問題点

 第1節で見たように、人間が利用できる水資源は有限で偏在しているという問題がありますが、地球温暖化による水ストレスの増大や、人口増加、経済発展によるさらなる需要増が見込まれています。それでは、私たちは、水資源を無駄なく有効に使っているのでしょうか。

 開発途上国の無収水率(生産水量から販売水量を引いた量の生産水量に対する割合)は、平均で40%ともいわれており、アジア各国の主要都市の無収水率を見ると、漏水して無駄になっている水が多く、日本は無駄にしている水が非常に少ないことが分かります。平成20年度に行われた中国、ベトナムの水道事業の概況調査でも、上水の漏水が大きな問題と指摘されています。中国浙江省では、省内の水道事業で20~30%の漏水があると推定されており、同省の長興県の水道事業でも浄水量に対して給水量が36%も少なく漏水対策が大きな課題となっています。


アジア主要都市における無収水量の比率

 アジア各国における衛生設備の整備状況については、中国44%、インドネシア55%、フィリピン72%、ベトナム61%、カンボジア17%、インド33%、パキスタン59%、バングラデシュ39%、と、国によって異なるものの依然として十分な整備状況にはありません。下水を適切に浄化処理し、再度水資源として使えるようにすれば、水資源の大幅な有効活用も図れます。漏水の防止や公共水域に排水する際の適切な汚水処理によって、さらに水資源の有効活用を進めていく必要があります。

2 水問題解決に向けた国際的な目標や取組

(1)ミレニアム開発目標

 2000年9月ニューヨークで開催された国連ミレニアムサミットにおいて採択された国連ミレニアム宣言と、1990年代に開催された主要な国際会議やサミットで採択された国際開発目標を統合し、一つの枠組みとして「MDGs(ミレニアム開発目標)」がまとめられました。加えて、2002年にヨハネスブルグで開催された持続可能な開発に関する世界首脳会議における議論を経て、安全な水の確保と適切に水処理を行う衛生面の両方について、「2015年までに安全な飲料水及び基礎的衛生施設を継続的に利用できない人口の割合を半減する。」という数値目標が決められました(図4-2-2)。



安全な飲料水へのアクセス率

(2)総合的・統合的な水管理

 限られた水資源を有効に活用するため、地域の各国が協力したり、流域単位で調整したりする総合的・統合的な水管理が行われるようになってきています。2002年のヨハネスブルグ・サミットにおいて、「各国政府は、総合水資源管理(IWRM)計画を作成すること」と合意されており、水と衛生の問題を解決するための有効な方法として国際的に認識されています。平成21年3月には、各国の計画作成を促すため、ユネスコを中心に「河川流域における総合水資源管理(IWRM)のためのガイドライン」がまとめられました。

 欧州の例

 ヨーロッパでは、総合的水資源管理の方法として、EU水政策枠組み指令(EU Water Framework Directive)が導入されています。WFDは、適切な品質の飲料水や浴用水の供給による人の健康の保護、持続可能な水管理システムの構築、水域の生態系及びそれに関係する地域の生態系の保護、洪水及び渇水の影響の緩和等を統一的な水管理によって実現することを目標にしています。また、そのために、水に関連するさまざまな部門が統合的に取り組むことやさまざまな利害関係者を含む参加型アプローチとすること、河川流域管理計画は行政的な区域単位ではなく、河川の流域単位で策定することなどが特徴です。


欧州の河川流域管理計画の流域図


韓国・清渓川の復元


 韓国の首都、ソウルの中心部を流れる「清渓川」は、市民の記憶から少しずつ失われて行きました。清渓川は、ソウルの中心部を東西に横断する河川ですが、河川の汚染が進行し、伝染病の温床にもなっていました。1958年から1978年までの20年あまりにかけて覆蓋工事が行われ、その覆蓋上に総延長5.8km、幅16mの清渓高架路が建設されました。その下にある清渓川道路とあわせて1日約17万台の自動車が行き交う、ソウル市の動脈の役割を果たしていました。

 それから約20年の歳月を経て、「清渓川」の復元を求める声が高まり、2003年、当時市長だった李明博大統領が、劣化が進んだ高速道路を撤去し、川沿いに樹木を植えるなど、親水空間の整備を進めました。

 現在では、ソウル市民の憩いの場となっているほか、観光都市ソウルの代表的な名所として多くの観光客を引きつけています。


復元した清渓川


3 日本における取組・対応策

(1)水インフラ対策

 ア 施設の老朽化対策

 わが国の水道施設及び下水道施設は、高度経済成長期に急速にストックが増加しました。その多くが老朽化する時期に入っており、これらに起因した事故発生や機能停止を未然に防ぎ、水資源を有効かつ適切に利用していくために、21世紀初頭から、ライフサイクルコストの最小化の観点を踏まえ、長寿命化対策を含めた計画的な水インフラの更新や再構築を行っていく必要があります。


下水管路の年度別整備延長(全国)

 イ 浄化槽の普及

 「水質汚濁防止法」では、工場や事業場からの排水及び地下への浸透等の規制のほかに、生活排水対策の実施を推進することも謳われています。

 国内の、主に中山間地域においては、人口減少及び高齢化の進展による人口密度の低下に伴い、特に人口5万人未満の市町村においては、汚水処理人口普及率が低くなっており、生活排水処理の問題が浮き彫りとなっています。このような中、普及が進んでいるのが浄化槽です。浄化槽は、人口が少ない地域でも効率的な汚水処理が可能であり、しかもコンパクトなため設置しやすいという利点があることから、中山間地域における生活排水対策の重要な手段として導入が進められています。このような技術を大規模な施設整備など多大な費用負担が困難な途上国に、知的所有権の保護を確保しつつ移転・普及させていくことは、目に見える日本の貢献の一つになると考えられます。


都市規模別浄化槽普及率

(2)水問題に取り組む組織やパートナーシップ及び施策

 ア 水問題に係るわが国組織、施策

 水問題はさまざまな分野の施策が関係するため、政府においては、水問題に関する関係省庁連絡会を内閣官房と1府12省庁で構成し、国内外の水に関する問題に対して、関係省庁が情報交換や意見交換を行い連携を図っています。

 イ 水戦略タスクフォース

 環境省では、平成22年1月に、大谷大臣政務官を座長とする「水環境戦略タスクフォース」を立ち上げました。ここでは、水環境保全の為の政策課題の洗い出しや、国内行政だけでなく、世界的な水問題解決に向けた国際貢献のあり方について議論されています。特に、国際貢献が急務であるとし、水不足が深刻化しているアジアやアフリカ地域での水質浄化や衛生対策などでの支援について議論が行われています。

 ウ アジア水環境パートナーシップ

 第3回世界水フォーラム(2003年)で環境省が提唱した取組として、東アジア地域11ヶ国のパートナーシップの下、当該地域における環境ガバナンス強化を目指し、情報データベースの構築、ステークスホルダーの情報共有化や人材育成・能力向上を一体的に行うことを通じて各国の政策展開に向けた支援を実施しています。わが国が提供しているWEPAデータベースは、「政策情報」「水環境保全技術」「NGO・CBOの活動情報」「情報源情報」の4つのデータベースから構成され、政策形成及び実施のための基礎背景情報を提供しています

 エ 日中水環境パートナーシップ

 水質汚濁問題が喫緊の課題となっている中国においては、平成19年4月「日中環境保護協力の一層の強化に関する共同声明」に署名、第一項目に水質汚濁防止について協力を実施することが謳われたほか、平成20年5月には、「農村地域等における分散型排水処理モデル事業協力実施に関する覚書」が締結され、分散する農村集落ごとの、コンパクトで地域実情に応じた排水処理の普及について取組を進めることとされました。そうした中で、日中協力によるセミナー・政策対話の実施、モデル事業による排水処理技術の実証調査、評価と効果分析、管理指針、普及方策等の検討など、中国政府による農村集落への普及促進が進められています。



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