第2節 生態系の危機

人間は、科学技術の進展等により、その扱い方を誤れば自身を取り巻く生態系を取り返しのつかないほどに改変してしまう力を手にしています。20世紀後半は、人口が倍増し、先進国を中心として1人当たりの生態系サービスの需要が爆発的に増えた時代でした。人間活動により消費される資源量を土地面積として分析・評価する、エコロジカル・フットプリントという概念がありますが、1980年代以来その値は地球の生物生産力(生産可能面積)を超過しているとされます(2003年時点で約25%超過)。この超過は、自然という資本をそれが再生される速度よりも速く消費することを意味するため、将来の生物生産力の減少につながります。2003年の日本のエコロジカル・フットプリント(1人当たり)は、世界平均の生物生産力(1人当たり)の2.5倍、EU加盟国(2006年時点加盟国)は2.7倍、アメリカに至っては5.4倍に達します。これは、世界中の人が日本、EU、アメリカの国民と同様の生活をすると、地球がそれぞれ2.5個、2.7個、5.4個必要となることを示します。

エコロジカル・フットプリント

現在約65億人とされる世界の人口は今後も増え続け、2050年には90億人を超えると推計されています(中位推計)。このまま人類が求める生態系サービスの量が増え続ければ、それは地球の生態系が供給し得る量を超えて、生態系そのものを破壊しかねない危険をはらんでいます。
ミレニアム生態系評価では、24の把握可能な生態系サービスの最近数十年間の供給傾向の評価も行われました。この評価では、増大する食料などの需要を満たすため生態系に改変をもたらした結果として、空気や水の浄化、災害からの保護など重要な15の機能について減少していることが分かりました。中でも海洋での漁獲量の低下は深刻で、多くの海域において近代的漁業が導入される以前と比較して、10分の1にまで落ち込んでいるとされています。

地球全体の生態系サービスの状態

ミレニアム生態系評価は、生態系サービスとその基盤である生物多様性に変化をもたらしている主な人為的影響を5つ挙げています。生息・生育場所の変化、侵略的外来生物、資源の過剰利用、汚染に並んで、気候変動は5つの主な影響の1つとされています。


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